勇者断って、気ままに生きる

石埼申

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23話 訓練

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その日の夕食は、とても豪勢なものになった。ナデシコは言うまでもないが、他の連中もナデシコ並みにガッついていた。新之介は久しぶりの人間の食事に涙を流していた。ナデシコが悪ノリで切った食材は絶対に余るだろうと思っていたが、全て俺達の胃袋に納まった。

(しかし、すごい料理の腕だな。地球なら間違いなくミシュラン★★★だろう。修練生の飯をずっと作っていたのも頷ける)

「いや~、最高だったぜ~! もうアタイは思い残すことはねえ!」そう言って、ナデシコは新之介のベッドへ行き、横になった。

「食べてすぐ寝ると、尻尾が生えるぞ! それに、新之介さんのベッドじゃないか!」

「尻尾が生える? 結構結構! アタイは気にしないぜ。ぐ~ぐ~……」

「困った奴だな、まったく」

「叩き起こしましょうか?」
アカリが袖を捲る。

「大将、アカリ様。某は気にいたしませぬ。寝せて上げていただませぬか?」

「新之介さんがそれでいいなら」
俺とアカリは困った顔で笑った。

食事の片付けを新之介とお春が始めると、みんな手伝いに台所へ行った。俺も手伝いたかったが、そんなことはさせられないと、お春に固く断られた。ガイアは、デカいから邪魔ということで断られ、凹んでいた。

「ま、まあ、元気出せよ。お前は十分活躍したんだ。その分休めってことさ」

「主様……」
ガイアは目をウルウルさせた。

「キッチンは広めに作るのが良いと言うことが分かりました! 村へ帰ったら設計を見直してみようと思います!」

「そ、そうか? よ、よろしく頼む」

「お任せーー」
ガイアは急に視線をそらし、俺を庇う素振りを見せた。

「何者だ? どこから入ってきた?」
ガイアの視線の先に着物を着た女が立っていた。

(お~? いいところのお姫さんか?)

これぞ大和撫子と言った風貌だった。

「私は紅桜にございます」

「…………え?」

俺は一瞬何を言っているのか理解できなかった。

「サトウ様、ガイア様、いつも姉がお世話になっております」
紅桜と名乗る女は丁寧にお辞儀をした。

「こ、これは、ご丁寧に」
ガイアも空かさず会釈をした。

(疑わねえのかい! っていうか、お前。受け入れが早すぎんだろ!)

「ちょっとまって、紅桜だって? 死んだのでは?」

「ええ、そうなのですが。今は姉の肉体を借りております」

「そういえば、さっきナデシコが体に取り込んでいたな……」

「そうなんです。私も驚いたのですが、どうやら姉が寝ている間はこうして私も出てくることができるようです」

俺は黙って紅桜の手を握り、じーっと見つめた。

「あ、あの~。サトウ様……」
紅桜は戸惑っている。

「ずっと! ずっと、そのままのあなたでいて下さい! ずーっと、ずーっと!」

「え? あの~、姉が寝ている間しか……」

「いえ! ずーっとそのままでお願いします!」

「え~と、その。アハハ……」
紅桜は返答に困って、冷や汗をかいていた。

「主様、お気持ちは分かりますが、紅桜さんが困っております」

「あ~。やっぱしダメか」

「姉がどう思われているのか、なんとなく分かりました。困った姉です、ホホホホホ」
紅桜はタジタジだった。

どうやら片付けが終わったようで、ゾロゾロと台所からアカリたちが戻って来た。

「丁度良かった。みんな聞いてくれ。こちら紅桜さんだ」

『…………えー!』

俺は皆に事情を話して聞かせた。

「皆さん、姉がいつもお世話になっております。今後は私共々よろしくお願いいたします。新之介もまたよろしくお願いしますね」

「紅桜様、勿論でございます!」

「紅桜さんは良くできた方ね。本当にナデシコの妹なの?」
アカリがユキにこっそり聞いた。

「きっと、何かの間違いですわ」

「そうよね」

その会話を聞いて紅桜は困ったように笑っていた。

「さ~、皆さん。お茶が入りました」
お春が気を利かせて茶を入れてくれた。

俺達は茶を啜り、今後のことについて話した。

「俺達としては料理人を探す目的は達成できたわけだが、このままこの国を去れば、新之介さんとお春さんはスッキリしないと思う。そこで、鬼の王を片付けてから村に戻ろうと思うがどうだろうか?」

「ご主人様がそうしたいのなら、ついていくだけよ」
アエルがお猪口の酒を飲み干して言った。

(こいつだけ飲んでるな……どっから持ってきた?)

「では、私が今から行って片付けて来ますわ」
ユキが立ち上がった。

「ユキ、手柄を一人占めする気? あんたはさっき頭撫でてもらったでしょ! このアカリお姉様に譲りなさい!」

「ちょっとお待ち頂きたい! 大将、どうか某に打たせては頂けませぬか?」
新之介がひざまずいた。

「サトウ様、私からもお願いいたします」
紅桜も立ち上がり頭を下げた。

「うーん。アカリ、ユキ、今回は新之介さんの気持ちを汲んでやろうじゃないか。新之介さんが雪辱を果たせるよう俺達はサポートしよう」

アカリもユキも納得したようで静かに椅子に座った。

「他のみんなもそれでいいか?」

「勿論です」
ガイアが茶を啜りながら言った。

「よし、決まりだな。では、具体的な作戦だが……」

「それならば、案が御座います」
ガイアが手を上げた。

「よし、任せる」

(面倒なことはガイアに任せよう。こいつなら心配ない)

「では!」
ガイアはすっと立ち上がった。

「まず、アエル。お前は鬼の王の現状を偵察してくれ。我らは皆、魔力を持たないから、気づかれることはないだろうが、メルモだった頃、一番魔力量が少なかったお前が適任だ」

「分かったわ。任せて」
アエルは余裕たっぷりに、酒をグイッとやった。

「ユキ、お前は私と新之介殿の訓練の相手をする。お前ならば手加減もできるだろうから適任だ」

「いいわ」

「ちょっと待って、面白そうだから私も訓練にーー」

「ダメだ」

「ちょっとガイア、私だけのけ者?」

「お前が相手じゃ訓練にならない。下手をすれば新之介殿が灰になる。いくら不死身に近いとは言え、お前の超高熱と戦うのは難しい。対峙できるのはユキくらいなものだ。お前は大人しく主様の護衛をしていろ」

「ご主人様の? いいじゃない! 流石ガイア。分かってるわね!」

「チッ!」
一瞬、ユキの闇が見えた。

「なあ、ガイア。なかなかいい作戦だと思うが、新之介さんは強靭な肉体を得たんだ。訓練なんているのか?」

「必要です。新之介殿はどう思いますか?」

「ガイア様の言うとおりでござる。先程、お春と買出しに出たのでござるが、想像を超える身体機能を制御できなかったでござるよ」

「主様に分かりやすい例えで言うなら、新之介殿はこれまで壊れかけの軽トラックに乗っていたのに、F1マシンに乗り換えることになったわけです。同じ質で操縦するには訓練が必要なのです」

「ふ~ん。なるほどね」

「某も実は、病に侵された肉体では試すことさえできなかった技がいくつもあるでござるよ」

「よし、じゃあ早速明日から訓練だな」

話が一区切りついた所で、俺達は『竹風』に戻ることにした。流石に新之介の家には全員が寝るベッドはなかったからだ。紅桜が現れたおかげで、ナデシコを運ぶ手間がなかった。

次の朝、新之介とお春が朝食をわざわざ竹風に持って来てくれた。昨日と同様、俺達はお春の料理に舌鼓を打った。これから毎日こんな食事ができると思うと顔がほころんだ。

食後の茶を飲みながら、ふと目をやるとナデシコが首を傾げていた。

「おっかし~な。あたいは確かに新太郎の家で寝たはずなんだが……なんで竹風にいんだ? うーん。全く思い出せねえ……」

「あら……可哀想に。多分認知機能の衰えね」
ユキが、深刻そうに言った。

「な、まさか! 止めてくれユキ姉、あたいはまだピチピチだって!」

「だといいけどね……人間は稀に、若くしてそういう病にかかる場合もあるそうよ。最初はそんなふうに些細な記憶の欠落に気づくところから始まるのよ。でも、徐々に自分が何者かも分からなくなるの。仕舞には……」

「や、止めてくれ~! そんな話聞きたくねえ~!」
ナデシコは真っ青になって走って行った。

「全く、あなたも意地悪ね」
アエルが呆れたように言った。

「何のことかしら? 私はただ心配してあげただけよ」
ユキはスマして茶を啜った。ガイアとアエルはヤレヤレと首を振った。

食事が済むとアエルは鬼の王、ジャン・ロズピネロの偵察に出て行った。俺と新之介、ナデシコはガイアの結界で無人島に運んでもらっていた。もちろんユキも来ている。お春さんとアカリは食事処を閉店するため別行動をしていた。

「では、始めるか。ユキはご主人様を頼む。新之介殿とナデシコ殿は準備を。先ずは私を相手に訓練をしてもらう」

「よっしゃー! 新太郎、いっちょやってやるぞ! てめえもケツの穴締めて気張れよ!」

「承知したでござる!」
ナデシコは刀の姿になり、新之介はナデシコを鞘から抜いた。

「私は大地そのもの。首を落とされようと死ぬことはない。一切遠慮はいらない。全力で来て下さい」
ガイアは腕を組んだまま、余裕たっぷりに言った。

「承知いたしたでござる。では、いざ!」
新之介はゆっくりとガイアの方へ歩き始めた。

「あれ? ズッパーンって飛び込むと思ったけど」

「私もそう思いましたわ」
ユキの結界の中で俺とユキは高みの見物を決め込んでいた。

意外な新之介の出方にガイアが先制を仕掛けた。

「ずいぶんと余裕だな。では、こちらから行くぞ!」

大地から岩でできた針が次々に生え、新之介を襲った。驚いたことに新之介は相変わらずゆっくりと歩いていた。岩が新之介の身体を貫くと、その一瞬だけ新之介の姿が陽炎のように揺ぐのだが、新之介は何事もなかったように歩き続けた。

「どうなってんの、あれ?」

「岩が接触する一瞬だけ、避けていますね。ただ、避ける距離が異常ですわ。数センチでしょうか。ギリギリで躱して、それ以上は無駄な動きを抑えているようです」

「なんでそんな危ない避け方をするんだ?」

「実は動いているときの方が隙が出来るのです。新之介さんは避ける動作から次の運動準備が整うまで恐ろしく速いのです。意図的にそのようにしているのでしょう」

「そ、そうなんだ」

(俺にはさっぱりわからんが、新之介がスゴイのは分かった)

「コレならどうだ!」

ガイアが手を上げると、地面から変な生き物がうじゃうじゃ湧いてきた。ヒヒの化け物という例えが一番しっくり来た。その動きは信じられない程に俊敏で既に俺は目で追えなかった。ヒヒの化け物は次々に新之介に襲いかかるが新之介の体に触れることなく飛び散り、砂に還っていった。

「いつ斬ってるんだ? まったく見えん!」

無数のヒヒ共でも新之介の歩みを止めることができなかった。

新之介がガイアから数歩の所で、ナデシコを鞘に戻してしまった。

「なんで刀をしまったんだ?」

「終わったからですわ」

「終わった? 何が?」

「あれを」

ガイアに目をやると上半身が地面に転がっていた。

「なるほど。私と新之介殿では、戦闘技術において大きな差が有るようですね」
ガイアの上半身は地面に溶け込むと、つっ立ったままの下半身から生え、もとに戻った。

「ですが、ここからは力で押させて貰いますよ」
新之介を囲むように何人ものガイアが生えてきた。

「行きます!」
そう言ってガイアは新之介に襲いかかった。

『カキーン!』

ガイアの身体がナデシコの刃を弾いたようだ。一瞬だけ新之介の眉毛がピクリと動いた。数人のガイアが次々と襲いかかった。新之介はガイアのパンチやケリを躱すが、ガイアの腕や足から鋭い金属の針が生え、新之介を襲った。これまでとは違い、ナデシコを持ってしてもガイアの出す針を叩き切ることは難そうだった。

『カカキカキカカキキキ~ンキキキーン!!!』

激しい金属音が鳴り響いた。最早、俺には何が起こっているのか分からなかった。時々ユキの結界にガイアの折れた針が弾丸のように飛んできて衝撃音がおれの耳を劈いた。

「そこまでよ」
ユキが、手を上げた。同時に新之介から四方八方に衝撃波の輪が走った。すべてのガイアが真っ二つになって地面に消えた。

「す、すんげ~な……」
俺は新之介の強さに驚いた。

「ガイア相手に、本当に大したものですわ。ここまで追いすがるなんて」

「追いすがる? 新之介の勝ちだろ?」

「そうですね~。勝負ならば新之介さんの勝ちですが、殺し合いならガイアには勝てませんわ。あれを」

俺は改めて新之介を見ると体中鉄の折れた針が刺さっていて傷だらけだった。本人が平気そうにしているので気づかなかったが、血だらけだった。一方ガイアは無傷で地面から湧いてきた。

「少しは新しい体に慣れましたか?」

「ガイア様がこれ程お強いとは。某もまだまだでござるな」

「大丈夫か、新之介さん?」

「大将、なんともございませぬ。この通りにござる」

新之介の傷はもう跡形もなく消えていた。

(バンパイアの超回復ってやつか?)

「新太郎! よくやったぞ! あたいをここまで使いこなした奴は、お前が初めてだ!」

「いえ、まだまだでござる。ナデシコ様の力をまだ引き出せていないでござるよ」

「新太郎! そりゃ本当かよ、おい!」

「ええ、某が病に侵された生身の人間だった時は、一分の無駄もない動きができておりました。しかし、今は鬼をも超える怪力、スピード、反射能力を得ましたが、それらに振り回されております。ガイア様との立ち合いでそれがよく分かったでござる」

「流石、新太郎だぜ! もう自分の課題を見つけやがった!」

ナデシコは新之介にヘッドロックをかけて、はしゃいでいた。

(あれはあいつなりの愛情表現なんだろうな)

「……主様、新之介殿を配下に迎い入れておいて正解でしたね。敵に回られると厄介な才能です。彼は、まだまだ強くなりますよ」

「そうか、腕を上げたらアカリとも戦わせてみたいな」

「それは無理ですわ、御主人様」

「なんで?」

「ゴリラお姉様は理不尽の化身なのです」

「そうだな。あれに勝てる者は無いでしょう」

「そうなの?」

「火属性と光属性の組み合わせがそもそもヤバいのです。自然界に本来存在しません。これは主様が作り出してしまったイレギュラーと言えるでしょう。仮にアカリが火属性だけで戦ったとしても私は勝てる気がしません。おそらくアカリは核融合の原理で自身の温度を無限に高めることが出来るので、この世の物質など全て溶かされてしまうでしょう。なんとかなりそうなのはユキくらいなものです」

「私も無理ですわ。ゴリラお姉様は理不尽なのです」

「へ~……ああ、そう」

(アカリってそんなに危ない娘だったのね……あまり怒らせないようにしよう……)

噂をすればなんとやらでアカリとお春が空から降りてきた。無論、お春は空を飛べないのでアカリが運んで来たのだろうが。

「みんな~! お春さんがお昼ご飯作ってくれたよ~!」
アカリが大きな包を『ドシン!』と下ろした。

「ご苦労さま、店じまいの方は済んだんですか?」

「はい、店を買い取りたいと言う方がおりましたので、そのまま空け渡してまいりました。気に入っていた食器や調理器具はアカリ様がこうして運んで下さいましたので」

「そうか。それは良かった。アカリもご苦労様」
アカリが物欲しそうに見てるので頭を撫でてやった。

(メルモって、なんか犬みたいだな……)

俺達は一度飯にして、続きは午後にすることにした。



































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