勇者断って、気ままに生きる

石埼申

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34話 子どもたちの誤解

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「そんなことは言い訳よ。奴隷の子たちは引き渡してもらうわ。あなた達はさっさと消えて、不愉快よ」
アエルはウンザリしたように言った。

モリモリは悔しそうに何か言いたげだったが、フォックスは静かに制止した。

フォックスとモリモリは子どもたちを下ろすと、馬車に乗り、ハルズスタの街を出ていった。

「えーと。怖がらなくてもいいよ。俺は冒険者のサトウだ」
子どもたちに向き直り、俺は明るい声で語りかけた。

子どもたちは一層怯えた目で俺を見た。

(あれ? なんで?)

「おほん! この中に帰る場所がある子はいるか?」

子どもたちは黙ったまま、他の子の反応を見ていた。

「ウ~ン。警戒されてるな。じゃあ、一度、全員を俺の村へ連れて行くが、後でも構わない。帰る場所がある子は言ってくれ、ちゃんと帰してやる」

俺の言葉を聞いて、子どもたちは首を傾げた。

「なんだなんだ~! この小汚えガキどもは!?」

ナデシコが串焼きの入った袋を片手に、食いながら新之介と歩いてきた。

俺はナデシコの袋を取り上げた。

「おい、何すんだよ! それはアタイのだろうが!」

子どもたちは串焼きを見て、目の色が変わった。

「良かったな~、みんな! このお姉さんがくれるってさ!」

「ふざけんじゃねえ!  それはアタイの――」

「帰ったらアイスクリームを食わせてやるから黙れ」

「なっ……おら! ガキども~! 腹いっぱい食え!」

(やっぱりか! どうやら、こいつもアイス中毒になっていたようだな)

子どもたちは、無我夢中で串焼きに食いついた。

「大将、この子どもたちは奴隷でござるか?」

「ああ、さっき買い取ったんだよ。村人候補だ」

「な、なるほどでござる」

「アエル、用事はすんだ。村に帰ろう!」

「かしこまりました!」

俺達はもちろんの事、山積みの家具と食料、奴隷の子どもたち、全てを包む結界が展開され、結界は一瞬で空に舞い上がった。

その光景に旅人たちは驚いて、いつまでも空を見上げていた。

「と、とんでる~」

「怖いよ~」

寡黙だった子どもたちのつぶやきが聞こえてくる。

「ひーふーみーよ。……全部で8人か」

俺が数えてるとナデシコが鼻をつまんで寄ってきた。

「しっかし、くせーな。なんとかなんえのかよ」

「帰ったら風呂に入れる」

「風呂が汚れんだろ。アタイらも入るんだぞ!」

「お前はいちいちうるさいんだよ! ガイアに村人用の大浴場を作ってもらったから、いちいち騒ぐなよ」

「まったく、物好きだね~。アタイには理解できないね」

「あら、そこがいいんじゃない?」

アエルが肩に寄りかかってくる。

「村が見えてきたでござるな」

「残念。もう少しゆっくり飛ばせば良かったわ」

アエルは名残惜しそうに俺から離れると村に結界を下ろした。

「御主人様~!」

すかさずアカリのおっぱいアタックが飛んできたが俺はスルリとかわした。

(一度、あれで命を落としているからな。だが、同じ手は食わん)

「ぶふぇ~!」

振り向くとユキのおっぱいアタックが飛んできていた。

俺の意識は闇に落ちた。

意識が戻ると泣きべそをかいたアカリが回復系の魔法を俺にかけていて、隣りにいるユキも泣きべそをかいている。

その背後でアエルがドン引きしていた。

(デ、デジャブだ)

俺は、前回と同じことをユキに言った。

スキンシップは結構だが、手加減するようにと。

「主様、お目覚めになられましたか?」

「なんとかな。三途の川が見えたよ。それで城の方はどうだ?」

「家具、食材の搬入は終わっています。それより、あの子どもたちはいかがするおつもりですか?」
ガイアが子どもたちに目を向けた。

子どもたちは不安そうにこちらを見ていた。

「村の共同浴場は使えるか?」

「ええ。湯をはればすぐにでも」

「アカリ、ユキ。悪いが共同浴場に湯を頼めるか? 子どもたちを風呂に入れたい」

「お任せください」

「すぐに準備しますわ」

アカリとユキはそう言ってすぐに飛んで行った。

「ガイア、悪いがお春さんに頼んで、子どもたちの分の食事も作って――」

「既に手配しました」

(Mr.パーフェクトだな)

俺は子どもたちに近づいた。

(なんか異様に怯えてるな)

「え~。君たちには、今から風呂に入ってもらいます。その後は――」

「わ、私達を食べるの?」

「は?」

「私達をお風呂に入れた後、食べるのね?」

「こ、怖いよ~!」

「助けて~! あ~んわ~ん!」

「お、おい! 俺を何だと思ってるんだ! 共食いなんかするわけ無いだろ!」

「だって空とんだし……」

「ござるの人、こ~んな大きなベッドを片手で持ってた……」

「こんな山に街があるなんて変よ……」

「これは魔王城なんだ……きっと」

(そうか。普通の人から見ればそりゃ恐ろしいよな。 俺の感覚が既に狂っていたんだ。この子たちの反応はいたって普通のリアクションなんだ)

「ハハハ……賢い子どもたちだ! バレてしまったか……」

子どもたちは刮目した。

「そうだ。私は人間ではない!」

子どもたちはガクリと膝をついた。

俺はガイアに耳打ちをして、アカリを呼びにやった。

「もうダメだ……食べられちゃう」

子どもたちは頭を抱えた

「私の正体は……神様だ」

「え?」

「……」

子どもたちは一斉に固まってしまった。

「嘘じゃないぞ。その証拠に、お前たちには特別に天使を見せてやろう。参れ、我がしもべよ~!」

俺がそう叫ぶと、光の精霊の姿になったアカリが空からゆっくりと降りてきた。

その美しさに子どもたちは目を奪われていた。

中には、祈りを捧げる子もいた。

「ごしゅ、我が主様。お呼びでしょうか?」

「わああ~キレイ」

「天使様だ!」

「天使様~!」

「本当に神様なんだ!」

子どもたちの目には既に疑いの曇りは無かった。

「いいですか、子どもたちよ。神様の言う事をよく聞くのですよ」

『はーい!』

俺とガイアは目を合わせて笑った。

「では、さようなら。人の子らよ」

アカリは天に登って行った。

「ってわけだ。俺の言う事ちゃんと聞けるか?」

『はーい!』

「よしよし。では、風呂の前にお前たちを性別で分けないとな。男の子はこっち。女の子はそっちだ」

俺が指示を出すと男が2人、女が6人に分かれた。

そこへアカリ、ユキ、アエルが戻ってきた。

「先ずは名前を知りたい。簡単に自己紹介をしてもらおうか。君から」

「ぼ、僕はジムです。9歳です」

ジムは大人しそうなソバカスが特徴的な子だった。

「俺は、ギル。9歳」

ギルは少し生意気そうな子供だった。

「私は、サエリ。二十歳です」

やはりエルフなのだろう。見た目より年齢が高い。

「あたしは、ペルです。5歳」

ペルは犬耳の亜人だった。

「私は、ロザリア。14歳。その……人間と魔族の子です」

周りの子どもたちがその言葉を聞いて距離を取った。

ロザリアは少し悲しそうにうつむいた。

赤い目のロザリアはおそらくは吸血鬼系の血を引いてるのかも知れない。

「気にすることはない。ウチにも魔族がいる。でも心配は無い。今は私に仕えているのだから」

「流石、神様だ! スゲ~!」

ギルが無邪気に笑った。

「私はミナ。13歳」

ミナは黒髪で、おそらく黎明国の出身ではないかと思った。

「フィネロ、5歳です」

「フェリエ、6歳です。フィネロは妹です」

フェリエはいつもフィネロを庇うように側にいた。

(いいお姉さんだ)

「よ~し、じゃあ、男は俺について来い。女は、このお姉さんたちに入浴のマナーを教えてもらって」

『はーい』

「俺はあっちがいい」

「やめなよ」

ギルが女子についていこうとするのをジムが止めていた。

(マセガキめ)

「いいかい、ギルくん。悪いことは考えないように。ここで悪さをすると君は女の子になってしまいますよ」

「そ、そんなの嫌だ!」

ギルは股間を手で押さえた。

「くれぐれもギルちゃんにならないように気をつけることだ」

「わ、分かりました!」

「素直でよろしい」

俺とガイアは風呂に来るとまず脱衣所の使い方を教えた。

「え~。ここで服を脱ぎます。脱いだ服はかごに入れます。君たちの服は~」

「お持ちしたでござる。妻が即席で仕立てました」
タイミングよく新之介が服を持ってきてくれた。

「お~。流石お春さんだ。風呂から出たらこれに着替えるように。今着てる服は捨ててしまおう。何か質問は?」

ジムが手を上げた。

「何でしょう、ジムくん」

「ぼ、僕、おしっこが出そうです!」

俺は慌てて、脱衣所のトイレにジムを連れていきトイレの使い方を教えた。

ジムは用事が済むとスッキリした顔で戻ってきた。

「おほん。質問がなければ、服を脱いで」

『はーい』

俺も服を脱いで、ジムとギルを洗い場へ連れて行った。

「では、ここで身体をきれいに洗います」

「なんだ……神様なのに普通だな」

ギルは俺のムスコを見て言った。

「過ぎたるは及ばざるが如しだ。さあ、いいから頭を洗うぞ」

俺は薬液を手にとって頭を洗って見せた。

そこへガイアも裸で入ってきた。

ガイアのイチモツを見て、ギルとジムは目を皿にして、固まっていた。

「主様、私もご一緒させていただきます」

ギルとジムはガイアと目が合うと慌てて会釈をした。

(何なんだ? この世界ではそういう風習があるのか?)

頭を洗った後は身体の洗い方を教えた。

背中だけは俺が洗ってやった。

二人とも痩せこけていて、身体の所々にアザがあった。

「よし、これでキレイになった。風呂に入っていいぞ!」

ギルとジムは嬉しそうに笑うと風呂に飛び込んだ。

「ブブー!  はいダメ~!  風呂では静かにするように。わかりましたか?」

『ごめんなさーい』

「分かればよろしい!」

俺とガイアは顔を合わせて笑い、湯に使った。

「泳ぐのもダメ?」

「ダメ~」

「ちぇっ」

ギルは残念そうに大人しくしていた。

脱衣所で着替え、ロビーへ行くと、女の子達はまだ入浴中のようだった。

「ちょっと、厨房へ行ってくる。少しだけ子どもたちを頼めるか?」

「お任せください」

俺はガイアにそう告げて、ナデシコとの約束を果たしに厨房へ向かった。

ナッツ類を潰して油分を取り出し、ミルクと砂糖と混ぜるだけの簡単なお仕事。

お春に気づかれないようにこっそり仕込んで、浴場に戻った。

ギルとジムは大人しく長椅子に座っていた。

「こんな大きなお風呂初めて見たよ」

「俺だって。流石、神様の村だな」

「お前たちの親はもういないのか?」

「……僕はお父さんに売られちゃったから。帰ってもまた売られちゃうと思う」

ジムは悲しそうに言った。

俺は耳を疑った。

(そんな事があるのか?   いや、俺がいた世界を基準にしちゃいけないな。日本だって時代を遡れば、普通にあったことだ)

「俺の村はもう残ってないよ。魔物に襲われてみんな死んじゃった」

聞けば襲われて壊滅した村に盗賊が金目の物を漁りにやって来て、ギルは捕まってしまったらしい。

(まだ十年も生きてない子供が俺の想像出来ない程の傷を抱えて生きているのか……)

「お待たせしました、御主人様」

アカリ達が女の子達を引き連れて脱衣所を出てきた。

女の子達は、即席の服ではなく、それなりの服を着ていた。

子どもに戻ったメルモレディースの為に買い占めた服があったので、多分それを着せたのだろう。

(みんな、いいところのお嬢さん達みたいだ)

「では、参りましょう。新之介殿とお春さんが食事の準備をしてくれています」

ガイアの案内で俺達は城の食堂へ向かった。

「ああ、いい匂い」

フェリエが呟いた。

「本当だ」

妹のフィネロが答えた。

「本当に食事を与えてもらえるのですか?」

ロザリアが疑念のこもった表情で訪ねてきた。

「信じるものは食べられま~す」

俺の答えに表情が明るくなった。

(おや? これはカレーの匂いじゃん。お春さん、早速作ったのか?)

食堂に着くと既にテーブルにはカレーが準備されていた。

「まあ、みんなキレイになったわね。お腹が空いたでしょう? さあさあ、テーブルについて」

お春の言葉に子どもたちはテーブルに座った。

俺は亜人のペルとフィネロを椅子に乗っけてやった。

「ありがと神様」

「どういたしまして」

「ありがとございます」

「よしよし」

俺は二人の頭を撫でると、嬉しそうに笑っていた。

メルモレディースとナデシコが席につくと、俺は新之介に目配せをした。

「では御唱和を。いただきます!」

『いただきます!』

「どれどれ、お春さんのカレーはどんなものかな?」

俺は一口食べて驚いた。

「う、美味い! 流石、お春さん。レシピに自分の改良を加えたな」

子どもたちを見ると無我夢中で食べていた。

「こんなおいひいもの食べたことがないよ~!」
ジムが叫んでいた。

「に、人間の食べ物がこんなに美味しいなんて!」
エルフのサエリが言った。

「いいえ、きっと神様の食べ物に違いないわ!」
ロザリアが興奮気味に言った。

「ご、ご飯、美味しい」
ミナも感激していた。

「もっと食べたいよー!」
ギルが皿を舐めていった。

「残念だが今日はおかわりは無しだ。お前たちは何日も食事をしてないみたいだから、急に食いすぎるのは良くない」

「そうだぜ、ガキども! 残りはアタイが全部食ってやるから心配すんな! あっ、痛て!」

ナデシコが意地悪いことを言ってユキにどつかれていた。

「あなたも今日は一皿だけですわよ。死にたくなければね!」

ユキは目を青光りさせてナデシコを脅した。

「しょ、しょんな~」

いつになくナデシコがショボクレていた。

(いいぞ、ユキ。そいつを黙らせてくれてありがとう!)

俺は子どもたちに向き直った。

「その代わり、明日からは好きなだけ食べていいぞ!」

俺の言葉に全員の顔が明るくなった。

「分かったよ。俺、我慢するよ」

「偉いぞギル。みんなもいいな?」

『はーい』

「じゃあ、良い子にはデザートをやろう。俺が作ったアイスクリームだ!」

「いよっ! 待ってました~、コノヤロー!」

ナデシコが狂ったように叫んだ。

それはいいが、メルモレディースはもちろん、真面目なガイアや新之介まで異常な喜びようだった。

子どもたちはその様子を見て首を傾げた。

俺はお春に指示を出し、運ばせた。

「大将様、いつの間に作ったのですか!? 是非、工程を見たかったのに!!」
お春が悔しそうに言ったが、笑って誤魔化した。

「さあ、みんな食べてみてくれ!」

子どもたちは不思議そうな顔をしていたが、恐る恐る口にした。

次の瞬間。

やはりそれは起きた。

全員が床に倒れ、のたうち回る。

「ゔっ、ゔっ、ゔまい~!」

「ほわ~、天国でぢゅ~」

「神の愛の救いリーム……」

「ア~」

「ぴよぴよ~」

「ふわふわ~」

「恐ろしき神の……」

(うめき声で称賛されるこの料理は一体何なんだ!?)

こうして見ると地獄絵図でしか無い。

(どれ、俺も天に逝くか。うっ、うまい~。宇宙へ吸い込まれていく~。どこまでも、どこまでも~)

俺は床に倒れた。

「ハッ!」

気がつくとちゃんと椅子に座って、完食していた。

「ごちそうさまでした!」

『ごちそうさまでした!』






































    
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