昨日の自分にサヨナラ

林 業

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時戻り

4,無の世界(幸福)

彼に膝の上に載せられる。
寄りかかって胸の音を聞くが何も聞こえない。

楽しそうに体に触れて擦ってくる。
怪我を労ってくれているのだと気づいたのは最近のこと。

好意を寄せられているのは十歳ぐらいの頃に薄々気づいてそこから考えるようになった。

顔立ちはよくわからないが、それでも優しさが、心意気が、手助けになっていないとわかると落ち込むその姿が。
助けなければと思うようになった。

だから知識を付けた。


記憶力がいいのは幸いした。
祖父との暮らしで身についたものだ。

あの人たちと暮らしていいことは、なかった気がする。


いや。自立心が芽生えたか。

あの人たちには一度も親らしいことはしてもらっていない。
ご飯も。洗濯も。掃除も。
親だからやって当たり前とは思わないが、それらの必要性を、やり方を教えてくれたのは祖父母だっただけだ。


まだ早い。
復讐するのはまだ早い。


アヤトが犬の図鑑を眺めながら唸る。
「真っ黒い個体もかっこいいと思う。漆黒の闇。堕天使。白だったエンジェルかな。アンジェリカ。とか。ルシフェルとかルシファーもいいなぁ」
最近、中二病という病気が発生し始めている気がする。
まだ軽症のうちに止めるべきか悩む。

高校入って仲良くなったという友人の影響か。
それ自体は別にいいのだが。


大人になったとき頭抱えそうだと考える。


アヤトは眼鏡を置いてふうと目を覆う。

「アヤはいいな。眼鏡無くて」
いいだろー。と胸を張る。
「レーシックとかで良くなんないかなぁ」
手術代はと悩む。
「そこなんだよなぁ。アヤの手足も治したいし。世知辛い」
眼鏡と別の本を手に取り、開く。


自分とアヤトはアルビノであり、視力は弱い。
祖父母から買ってもらった眼鏡を使うこともあるがアヤは壊されるからと度があっていないので使っていない。

アヤトは数年前に買い替えてもらった。
ただし叔父夫婦に誕生日プレゼントとして。
両親にはお願いしたが殴られたので、二人で頭を下げて叔父夫婦にお願いした。

両親は買ってもらったことに全く気づいていない様子であった。

とはいえ何時度が合わなくなるか不安でもある。


アヤはいらないと断った。
黒板を見ることもないし、歩いて移動ぐらいならばさほど見えなくても問題はないからだ。

ちなみに両親ともにお酒が入るとアヤを殴ってくる。
正しくは成績が低いほうのアヤを。

彼らの中では「弟であるアヤ」は躾をして当たり前の出来損ないらしい。

アヤがいなければアヤトに愚痴をこぼす。

どちらであっても辛い。
だからできる限り図書館で勉強をして時間を潰す。



「それにしても」

ちらりと本の山を見る。

「今度は何に手を出してんだ?」
ちらりと本を眺める。
今は動植物について。
獣医学から生態学まで。
この図書館にある本全て。である。

ネット環境もあるこの図書館ではわからなければ調べられるから助かる。

電子書籍版もあるので手元に無くとも呼び出せる。
ありがたい図書館である。


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