昨日の自分にサヨナラ

林 業

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時戻り

11,その涙に惹かれて(睡眠)

フリザードは何時も王城の北側にある掃除用具室の中でお菓子を食べていた。
おやつ以外の時間で食べたら、見つかった時に怒られる。

かと言って食べないと落ち着かない。
フリザードは現在では、クリスタの平均よりも背は高く、筋肉もしっかりとついている。
だが当時は六歳ほどの柔らかい体を持つ幼い子供。
掃除道具の隙間を練って、奥で食べていた。
ゴミはゴミを回収するときか、自分でゴミ捨て場に持っていく。
クロードとか遊ぶ。という言い訳でついでに捨てれるからだ。
その日は夜に起きてしまった。

お腹が空いて隠し持っていたおやつを片手にそちらへと向かう。

おばけが出てきそうな薄暗い廊下を、魔術で光を照らしつつ歩いていく。

ドアを開けて、そして一度閉める。
疑問符が浮かび、間違っていないとドアを見てから恐る恐る中に入る。

やはり見間違いではない。
豪華そうな家具類に、代わりに本来あるはずの掃除器具がない。

何だこれと不思議に眺めていれば、どすんと音がする。
ソファーの上に先程までいなかった少年が一人。

誰だ。お前。

そう叫ぶ。

聞いているのか。
聞こえているのか!
此処お城だ。怪しいやつは出ていけ。

だが彼は虚ろな瞳で、充血した綺麗な赤い瞳とでこちらを見る。
腫れぼったく、頬には涙の痕跡。

どうしたんだろうと心配になり、しかし騙されるなと魔術をいつでも発動できるよう待機する。

使用人達が言っていたが、今の王の選抜に不満を持つものがいるそうだ。
だから命を狙う輩も少なくない。

だが彼はお腹を押さえる。

びくびくと怯える姿にお腹が鳴ったのだと気づく。

音が、空気が振動しないことに今更ながら気づく。

(いいか。そのお菓子一つだって、民がくれたお金で買っているんだ。あまり食べすぎてはいけない理由の一つだ。そのお菓子一つでその日一日を暮らせるものだっているのだからな)
母の言葉を思い出して、何故かクッキーを恐る恐る差し出す。

彼は一瞬不振そうに顔を歪めるが、それでも受け取り、頭を下げると口に運ぶ。
無感情に、されども涙を流しながらも頬張る姿に、

(綺麗)

と胸が高鳴る。

フリザードは加虐趣味はないし、普通に恋愛したい派だが。
何故か彼の涙が美しく写った。


食べ終わったクッキーに気づいたのかしょんぼりと肩を落とす姿にもう一枚と渡す。

もっと食べていたいという気持ち。
彼が受け取り、そして半分にして渡してくる。
素直に受け取り、二人で分けたいと近くの椅子に招く。

朝起きたら、母に頼んで彼の王城の侵入を許してもらおう。
それから、
そんなことを考えながら幸せだとも思える時間を過ごした。


翌朝には何故か、自室で寝ており、使用人に起こされた。
手を握ったはずなのに、その感触はなく、誰もいない。

(あれは、夢?)
隙を見てその部屋に行けば、あるのは掃除器具だけ。

(あれは、夢なのか?)

一目惚れだったのにと、思わず泣いたのを覚えている。
不振に思った使用人からその連絡が母へ行き、母に泣きすがった。

忙しいのに時間を作ってくれた母は事情を全部話して、泣きじゃくる自分の頭を撫でてくれた。
弟も全部わかっていないだろうに心配そうに頭を撫でてくれる。


(じゃあ、同じ時刻や夜、曜日や、日付に行ってみたら?)
と、諦めかけた自分に告げた母。
その手があったか!
とか
何を言っているんだろう。
とかよりも、夢と思わないのかという母の発言に驚いた。

(検証は大事だからねぇ)
と珍しく母の昔の口調だったのを思い出す。

母はお菓子を持たせてくれて、送り出してくれた。



彼があの部屋で、いた。
思わず抱きしめてしまった。


夢じゃなかった。と。

お菓子を食べて、外に出ようとか思いつかず、その場で寝て覚めたらベッドの上にいた。


母いわく目を離したらすでにいた。とのことだった。
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