愛鳩屋烏

林 業

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社会人

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今日は休みとカラスを起こしに向かう。
カラスはタナカが休みの日はのんびりと起きるので夜遅くに帰ってベッドにダイブした日は特に寝室から出てこない。

ノックをして、返事がするのでゆっくりと顔を出せば、スーツ姿の男性が立っている。

思わずドアを閉めて恐る恐る覗き込めばやはりいる。
ぴしりとシワないスーツに身を固め、髪の毛もしっかりとオールバック。
自分もスーツで出勤するがここまででは無い。
誰だ。と考えてカラスだと思い直す。
そういえば今日でかけると言っていたのを今更ながら思い出す。
「なんかかっこいい人がいる」
ネクタイを締めながらカラスが自分を見る。
「おはよう。惚れ直した?」
「惚れ直した。今からベッドに行きたいぐらい」
うんと素直に口にすればカラスは申し訳なさげ。
「残念。これから仕事でお昼までお出かけです」
「今日は俺一人か。どうしようかな」
何して過ごそうかと今更ながら考える。
最近はカラスが色々と提案してくれていたから、暇なし。ではあった。

「何だったら夜まで出かけとくけど?一人の時間いるでしょ」
「いや。早く帰ってきてほしい」
「そう?じゃあ、おみやげ買って帰るよ。お寿司とかでいい?」
「なんでもいい」
「じゃあ、適当に買って来るよ」
近くにあった鞄を手に取り、カラスを見送るために玄関へと急ぐ。
「あ。家にいるなら一応姪っ子と甥っ子の顔知ってると思うけど、来たら俺の許可いらないから入れてあげて。相手しなくとも勝手にリビングで過ごす子らだから。オオカミさんの部屋には入るなって言ってあるから避難してていい」
「いいけど、よく来るんだ」
そういえばよく預かっていたと言っていた気がする。
最近忙しくて記憶力の低下が著しいと溜め息。
「というか避難場所?ほら。可愛いから、良い人も、変なのも呼んじゃうんだよね。此処家までの通学路途中だからやばいと思ったらすぐ来いって避難場所にしてあるんだよ。下手に誰もいない家に帰ったり住所特定されるよりマシだからね」
「あぁ。可愛いもんな」
確かにカラスですら色々と困っていると聞く。
あの子達は、一人では対処も難しい年頃で色々と大変だろう。
「避難時にお友達も連れてくることあるけどそこはまぁ許容内で」
「わかった」
「万が一のために合鍵渡してあるけど、とりあえずチャイム鳴らさせてる」
「心配するほど今日なんかあるのか?」
「いや。オオカミさんを一人家に残すときに限って家に来そうな気がするからさ。オオカミさんが休みの日はできる限り家にはいるようにしたんだけど。今日は虫の知らせ的なのもあったしここ最近平和だったしな」
今日は仕事だからなぁと行きたくなさそうに溜め息を吐く。
「取材があって、向こうの不備で今日リモートは無理って言われたんだよ。一昨日に。延期できないらしいし」
何処にあったのか革靴を履いて、カバンを受け取るカラス。
「大変だな。気をつけていってらっしゃい」
「ありがとう。行ってきます」
カラスが笑顔を向けて、見送る。
折角だからお昼か晩御飯あたりに作って食べようかとタナカは考える。
カラスの好きなものと考えてから、知らないことを知る。
そして料理の腕前を思い出す。


「チャーハンと肉焼くぐらいしかできないんだよな」
どうしようかと携帯でレシピを眺める。
最悪冷凍で間に合わせようと心に決める。
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