精霊の神子は海人族を愛でる

林 業

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無理矢理乗せられた馬車の中。
その場で話せと訴えたがメロパールを出されては従うしかない。
しかもあの魚と、人扱いしない物言いに、少しカチンと来てしまったがさすがに人数差があると諦めた。
口汚く罵るにも情報が足りない。


何処かへと向かう馬車の中。
豪華な司祭服を来た二人の男。
神に仕えるという割りには老年の男の腹は膨らんでいて、茄子に手足が生えているような気がする。
年若い男は正反対にガリガリに痩せてモヤシ体型。
どちらの男の頭を見るが帽子で隠れて見えない。
剥げているかは把握できない。
挑発の一部に使うには情報が足りないと諦める。

精霊は馬車の中にはいない。
「貴様、神子の癖に、職務を放棄して逃げやがって」
「さすがに崖から落ちて死んだのかと思いました」
ガリガリに痩せた男は偉そうに、でっぷりと太った男は柔らかく告げる。
逆じゃないかと思うが、しかし何処かしっくりしているのは馴染み深い相手なのだろう。

「どうやら記憶を失っているらしいな。アクアマリン」
自分はそんな名前なのかと考える。
今回は窓は空かないので逃げ出すのは不可能だ。
今回?そんな疑問が浮かび、しかし二人からの責めの説教で消えていく。
「せっかく貴様は精霊のお姿が見えて、他のものと契約を結ばせることができるんだ。そんな誉れある職を持っている癖に、海を見たいなどとほざいて逃げやがって」
そんな理由だったのかと悩む。
ただそれは単なる言い訳に過ぎないとも感じてとれる。

記憶がないとはいえ自分のことだ。

その誉れある仕事が嫌になったか疑問に思ったのだろう。
だから人族にはない海を見たいと申し出たのもあるだろう。
異種族の何を見たいと思ったかまではさすがに理解に苦しむ。

むしろ運命の相手メロパールを探して付き合いたいと思った。
そういう運命と思うのもロマンチックかとにやけそうになるのを引き締める。
「海ぐらい見たっていいじゃないですか」
「貴様は教会から出ることは許さん。それで、異種族に少しでも関わって穢れて、精霊が寄り付かなくなったらどうする?」
「そうです。ただでさえ、異種族には精霊の愛し子が住むとうそぶく輩がいるんです。彼らは精霊を奴隷として扱っているんですから見えるはずがないのです」
彼らは時に敬い、時に恐れて、精霊を大切にしている。
奴隷として扱っているのは貴様らだ。

そう咄嗟に口から出そうになって耐える。
彼らといると何処かに消えたはずの記憶の断片が勝手に口から出てきそうになる。

とりあえず彼らの言い分だけは聞いて自分について少しでも情報を仕入れいたいと考えて反論はしない。
とはいえいつまで持つかとも考える。

色々と口が軽く色々と話をしてくれる。
自分はアクアマリン。
二十過ぎ。メロパールよりは年下。
思わずガッツポーズしそうになるのを耐える。
これで少しでも長く一緒に居られる。
家族はいないらしい。
神子とわかってすぐ教会に金で売られたらしい。
どこまで本当か悩ましいが、真実を知る方法はない。

色々と話しているうちに国境に近づいてきたらしい。
来た時は海沿いの断崖絶壁だったような気がして、別ルートだと思い直す。
「ともかくだ。貴様と住んでいるだろうあの魚は殺しておく」
一瞬、意識が飛びそうになり言葉の意味が理解できない。
だが理解できた瞬間、ざわりと血が沸騰しそうなほど怒りが沸き上がる。
「それに好いたところで人族と異種族はどうせ寿命の差があるんです。生かしたところ寂しいだけですよ。これだから卑しい種族は神より授かった寿命より長く生きて困ります」

卑しいのはどっちだと口にする。
なんだと睨む姿に太った男の胸ぐらを掴む。

「私の、私のメロパールは世界一可愛い」
ひたすら彼らにメロパールの素敵な部位を叫ぶ。
世界に必要なんだと訴える。
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