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鎮る人

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前言撤回。
やっぱり怖い。

とはいえ、黒と白の光ではなく、怪我をした人型のカミ
様。

苦い薬を飲まされる。
元気になるからと言われるが苦いから嫌だとハライ様にしがみつく。
「口移しで飲ませてみるか。子よ」
ヤマカミ様の提案に、背後にいる人の笑顔が怖い。
「じょ、冗談だ。こらえ」
しがみつかれている姿は満更でもない様子のハライ様を見上げる。
「こらえ。なんだか、怒ってないか?」
ヤマカミ様は心配そうに声をかける。
「ハライ様がまさか、此処まで僕に興味がないと思わなかったので怒るというよりは哀しいです」
残念そうな、悲しそうなこらえ・・・は告げる。
「それに、なんというかせっかくお嫁さんになるかもしれないお方なのに、なんだかやる気がないというか、お世話しなきゃいけないのかぁ。みたいな感じで、ちょっと人間舐めてますか?簡単に死にますよ?元々やる気がでないときは、出るまで時間がかかる子ですが」
ちらりとハライ様を見る。
視線を即座に反らして、見下ろす様子に、自分のせいだと肩を落とす。
きっと自分が薬を嫌がるからだ。
ならと、ヤマカミ様を見る。

「は、らいさま。がんば、る。にがにが」
「な、名前ぇえ。嬉しぃい」

騒がしい二人に頑張って飲めば、嬉しそうに笑ってくれる。




こらえ・・・と人の生活について話をする。
だが十分もしないうちに厳しい彼に音を上げる。
モリヒトは難しかったのか、早々に眠ってしまっている。

彼は一度溜息を零すと隣に座る。
「よいですか?」
よしよしと頭を撫でてくる姿に、恥ずかしさよりも懐かしさが芽生える。

「今後あなたが人を拾わないと約束できますか?」
「できない」
同じような人を見かけたら拾ってしまうだろう。
「お嫁さんが同じような見捨てられた存在で、食べ物を食べず弱っていく姿を見て、すぐに対処できますか?」
むしろ父たちに頼りっきりな今、それに対する返答はできない。
「死んだとき、貴方は悲しまずに済みますか?」

父の友人たちの嫁が死なないのは天命もあるが、それだけ神々の力の手助けをさり気なくしてもらって寿命が伸びているのだ。
力の強弱や長く生きた知恵は嫁を活かすのにも使える。
そしてその嫁に穢れを浄化してもらう。

それが神々が嫁をもらう理由。
それは分かっている。
正直、自分に必要のない理由だとしても。

独りぼっちが嫌だから嫁がほしいと願う。
だけどすぐ死ぬのは嫌だ。


「今回は貴方に手を貸せました。ですが貴方は、我が子として僕らより長く生きなければなりません。次同じことが起こったとき、僕らが力を貸せるとは限らないのですよ」
「らーちゃんが長生きしてほしいのは父様のためでしょ?」
知ってるんだからと彼を見る。
「そうですよ。そして僕のためです。育てた我が子の死を見るなど絶対に嫌ですから。長生きして僕らの死を看取ってほしいのです」
「らーちゃんたちの死」
「親は子より先に死ぬ。そして子は親より長く生きることが何より嬉しいのですよ。先に死んで、貴方が行き着く先を少しでも、優しい場所にするのが親の役目ですからね」
「らーちゃんって天国とか地獄って信じるタイプなんだ」
「天国地獄というよりは、死んで再び生まれ変わったとき、相手のことを想うなら同じよう場所に居ると思っているだけですかね。そこが神の世か、人の世かは知りませんが、生まれ変わってきてくるならば、僕は貴方をまた守るでしょう」
「僕が父様やらーちゃんを守るとは思わないの?」
意外そうな顔をすると微笑まれる。
「それは楽しみですね。ね。山神様」
「我が嫁を守るのは己の役目だ」
山神が背後から頭を掴んできたかと思うと乱暴に頭を撫でられる。
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