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第6章
疾風の如く
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時は遡り、ユウキとリグルの試合が始まる数分前、アンナは、エリーナと別れた後、アナスタス領土と、シュタット領土間に配置されているテレポート内を走るように移動していた。
エリーナが移動用に設置した魔法はテレポートといっても、その魔法陣内に入れば次の魔法陣に瞬間的に移動出来るような類のものではなく、魔法陣と魔法陣間の距離を400分の1まで短縮してくれるというものだった。
その為、アンナはこうして休む間もなく、疾風の如くテレポート内を駆けていた。
本来5000㎞近く離れている大陸間を、常人がエリーナのテレポートを使用してかかる時間は30分を優に超えるが、アンナは超人的な速さで8分足らずでシュタット領土の首都ダンダレイト、フィオナ城の城門前に設置されたテレポートまで辿り着いた。
アンナは乱れた呼吸を整えてすぐにディアナに向け、思念の伝達を試みる。
《ディアナ! ディアナ!! お願い、応えて!!》
思念の伝達は直径10㎞圏内でないと伝わらない為、祈るようにアンナは思念を送ったが、ディアナの応答がない。
(そんな! 一分一秒を争うというのに、ディアナ達は近くにいないの? 目の前の門番に問い合わせても、私の素性確認や書類の申請で時間が失われてしまう……! エリーナや、ワクール、ルーメリアにいるみんなが危ないの! お願い、返事をして、ディアナ!!)
アンナは焦るように門番に話をつけながら、思念でディアナを呼び続けた。
2人のうち1人の門番がアンナの話を聞いて、城内に確認の連絡をしに行こうとした時にそれは起きた。
《…………ル……さま…………!!
ルナさま……!! ルナ様!! 聞こえますか?》
アンナを呼ぶディアナの思念の声が突然感知できるようになり、アンナはハッとした表情に変わる。
《ディアナ!! ディアナ聞こえる?》
《ルナ様、聞こえます! 突然、この地まで訪れてどうされたのですか!? 緊急の用ですか?》
《もう、どこにいたのよ!? 大変なのよ!》
《申し訳ありません! フィオナ様の修行で外のダンジョンを回っていたのです。今、街の入り口に入った時に思念の伝達が入ったので、急いで折り返し連絡したのです……。ルナ様自ら赴くなんて、何があったのですか?》
ディアナの肩に手を置き、アンナとディアナの思念の伝達を同時に聞いていたフィオナとフレイヤが緊張した表情で立っていた。
《私とエリーナが外出中に、ルーメリアが何者かに襲撃を受けたの! 城は半壊、首都も7割近くが火の海になっていたわ!!》
「!!!!?」
ディアナ、フィオナ、フレイヤが驚きの表情に変わる。
《お願い! ルーメリアのみんなを助けて!!
私はこれから、ユウキやアリシア達を呼びに行くから、ディアナ達は先にエリーナ達を助けに行ってほしいの!!》
アンナのその思念を聞いて、フィオナがディアナを介して思念を送った。
《ルナマリア待って! ユウキお兄ちゃん達は私が呼びに行くわ!! ルナマリアは故郷の事が気になるでしょうし、こっちに移動してきた時に体力を使ったでしょう? それに、カレント領土行きのテレポート用の魔法陣はここからの方が近いわ! 私に任せて! 出来るだけ早くみんなを連れてくるから!!》
《……確かに出来るだけ早くアナスタス領土に戻りたいけど……。だけど、フィオナはこのメンバー内で一番足が遅いでしょう? ディアナの方が……》
アンナが少し渋ったように話す。
それを聞いていたフレイヤがディアナを介して思念を送る。
《ルナマリア様、フィオナ様はこの2年半の修行でディアナ以上の移動速度を出すスキルを身につけられたのです! その点に関しては問題ありません》
フィオナは再度頼むように思念を送る。
《それに、カレント領土に着いた際に私ならディアナより、もっと遠くまで思念を送れるわ!
だから、お願いルナマリア! 私を信じて!!》
少しの間、瞳を閉じて考えた後、目を見開いてアンナが応えた。
《わかったわ、フィオナ! 貴方に任せる!
出来るだけ早くユウキ達を連れてきて!!》
アンナの思念聞いて、ディアナ、フィオナ、フレイヤは3人目を合わせて頷いた。
すぐにルナマリアはアナスタス領土に引き返し、
ディアナとフレイヤはアンナがアナスタス領土に引き返したテレポート用の魔法陣に向け移動した。
フィオナは冷や汗を流しながら考えていた。
三ヶ国同盟を成し、世界に公表した後にも関わらず、一国に戦争を仕掛けてくるという事は三ヶ国全てを敵に回す行為。それを躊躇なく仕掛けてくるという事はそれだけの力を持った相手である事。
1人、ユウキ達のいるカレント領土に向けテレポート用の魔法陣に乗ったフィオナは、異空間内に消えながら呟いた。
「嵐が来るわ、ユウキお兄ちゃん……」
◇ ◇ ◇
フィオナがアンナの報を受け、カレント領土行きのテレポートで移動を開始した頃、ユウキとリグルは闘技場での最後の攻防に移ろうとしていた。
ユウキは、おもむろに木剣を逆手に持ち、深呼吸を始めた。するとユウキを中心に闘気の渦が発生し、実際にユウキに吸い寄せられるように風を起こし始めた。
「何をする気だ!?」
初めて見るスキルの型に警戒心を高めるリグル。
ユウキの行動を見て、アレンが立ち上がって話した。
「あの馬鹿! あれを使う気か!!」
アレンとリリス以外の皆がアレンの焦りようを見て驚いた。
すぐにリリスが口を開く。
「ユウキさんも絶技を使うみたいね……」
アレンが苦虫を噛み潰したような顔で応えた。
「しかし、あれは修行で一度も成功していない……! しかもリスクが高すぎる!!」
「どのような絶技なの、アレン?」
アリシアが尋ねる。
「……個人が持てる闘気量を超えて極限まで高め放つ事が出来る一撃必殺のユウキ特有のスキルだ!
発動する際に一瞬で全身の闘気を刀身に移す必要がある為、針の穴を通すような闘気コントロールが求められる。
成功すれば恐らく、奥義系のスキルの数十倍にも攻撃力が跳ね上がるが、大きな欠点がある」
「大きな欠点?」
「闘気を高めきるのに時間がかかり過ぎる事と、闘気を高めている間、その場を微動だに出来ないんだ……。更に、闘気を解放して放つ絶技はユウキの前方一直線上にしか放つ事が出来ない!
技の性質を理解しているものならば、ユウキが絶技の準備に入った段階で攻撃を加えて絶技の使用を中断させるか、最悪、絶技発動前に落ち着いて、ユウキの前方直線上から、横にズレれば済む話だ。
もしこれから、奇跡が起きてユウキが絶技発動のコントロールを身につけたとしても、リグルさんに技の特性を見抜かれた時点でジ・エンドだ」
アレンがリグルには聞こえない程度の声量で話す。
リグルが選択したのは様子を見る事だった。
(スキルの性質がわからない以上無闇に攻撃を仕掛けては駄目だ……。もし、ユウキ君の絶技がカウンタータイプのスキルの場合、私の黄金闘気の防御力を上回る可能性がある)
リグルがユウキに攻撃を仕掛けない事に気づいたアレンが呟く。
「リグルさんが、慎重なタイプでとりあえず助かったな……。問題は一度も成功した事がない技が成功するかどうかだ……」
「ユウキさんなら、成功するわ……!!
今までだって、どんなに困難な状況でも、どうにかしてきたもの!」
アリスがユウキを見つめて話す。
ユウキを中心に渦巻く風と闘気が止む。
ユウキが低く構えて呟いた。
「刹光剣!!」
ユウキがスキル名を呟いた瞬間、光と風が爆発したようにユウキを中心に広がり、リグルの視界からユウキが消える。
「なっ!!?」
リグルが防御する暇もなく、ユウキの逆手持ちからの水平切りがリグルにヒットし、ユウキがリグルの後方に通過する。
両者、背を向けあって、しばらく動かない。
少しして、ユウキが辛そうな顔をして、膝をつく。
「はぁ……! はぁ……!!」
リグルはユウキを振り返り、ユウキの絶技が自身の黄金闘気の防御力を上回らなかった事に安堵する。
「失敗だ……! ユウキはマズイぞ!!
絶技使用の反動で激しい疲労に襲われている。しかも、リグルさんに絶技の特性が今のでバレた!! 2回目はもうないぞ!!」
アレンが焦るように話す。
すぐにリグルが遠距離から木剣を振り上げる。
先刻よりも強力な黄金色の闘気スキルがユウキを襲う。
「うわぁ!!」
後方に吹き飛び、倒れるユウキ。
リグルはミアが止める間も与えず、振り下ろしを行い、闘気の雨を降らせる。
深刻なダメージと疲労により、反応が遅れたユウキは、闘気スキルで頭上に大きな盾を作り、ギリギリでリグルの攻撃を防ぐ。しかし、連続で闘飛剣を放っていたリグルの攻撃は防ぐ事が出来ずに更に後方に吹き飛ばされてしまった。
そこでようやく、ミアが一旦試合を止める。
「リグルさん! 一旦ストップ!! ユウキのダウンだ!!」
ミアが友愛の加護を使用し、ひも状に自身の身体を変化させ、暴走するリグルを拘束する。
「くっ……!!」
ミアの言葉に我に返り、なんとか黄金闘気をコントールしようと試みるリグル。
ユウキはフラフラになりながら、ゆっくり立ち上がり、リグルを見つめた。
意識が朦朧としながら、ユウキはリグルの姿が、かつて幼き頃、アンナを虐めていた年上の子供達の姿にダブって見えていた。
ユウキは時間がゆっくり流れるような感覚の中、自身の背後で両の手を目に当てて泣くアンナの姿に気づく。
前の方を向き直り、アンナを虐めたであろう子供達に向かって、呟いた。
「あいつを泣かしてんじゃねーよ!!」
ユウキがこれまで見せた事のないような怒りの表情でリグルを睨みつけた瞬間、ユウキから目に見えない波動が広がるのを観客席のアレン達と、リグルとミアは感じた。
ドクンっ!!
「!!!!!!!!?」
女神級の力を感じて、驚愕の表情を浮かべるアレン達と、リグル、ミア。
寒気を感じたリグルは、ミアの拘束を強引に解いて、焦るように黄金闘気を最大まで高めた闘飛剣をユウキに向かって放った。
「おお!!」
「リグルさん!!」
ミアが弾き飛ばされる。
ユウキに極大の闘飛剣が近づき、絶体絶命と思われた瞬間、ユウキは、左手を横に振っただけで、闘飛剣をかき消す。
「ばっ……! 馬鹿な……!!」
身体を震わせながら、呟くリグル。
同様に驚くアレン達。アレンが口を開く。
「あれを、素手でかき消した!!」
すぐに振り下ろしで闘気の雨を降らせるリグル。
ユウキは歩くように残像を残しながら、全ての闘気を完全に躱しきる。
リグルが驚いて、次の遠距離攻撃に移ろうとした時、リグルの目の前まで一瞬でユウキが移動する。
焦るようにリグルが目にも止まらぬ速度で水平切りを行うが、ユウキは屈んで躱して、水平に木剣を振った。
「ぐはっ!!」
ユウキの攻撃はリグルの黄金闘気を簡単に破壊し、リグルを後方へ吹き飛ばす。
ユウキは吹き飛んでいるリグルの後方に一瞬で移動し、切り上げる。
リグルが天高く舞い上がると同時にユウキが木剣を逆手で持ち、絶技の構えに入った。すぐにユウキを中心に闘気の渦が発生し、実際にユウキに吸い寄せられるように風を起こし始めた。
変化はそれだけで止まらず、会場中の観客からユウキに向けて光の塊が吸い寄せられ始める。
アレン達だけでなく、いつも冷静なリリスも驚き呟く。
「他人の闘気や魔力だけでなく、エネルギーそのものを吸い込んでいる……!!」
少しして、ユウキを中心に渦巻く風と闘気が止み、ユウキが低く構えた。
ユウキとリグルの間に光の道が出来る。
「刹光剣!!」
ユウキが呟くと同時に光と風が爆発したようにユウキを中心に広がり、アレンですら目に捉えられない速度でリグルの後方に移動した。
すぐにリグルを中心に帯状の光が円形に広がり、リグルが声にもならない叫び声を上げる。
眩い光が止むとリグルが闘技場まで落下し、次いでユウキが着地した。
「…………!!!!?」
全ての観客が、何が起こったか解らず、静まり返る中、エルザとアレッサが叫ぶ。
「あなた……!!」
「お父さんっ!!」
すぐにリグルの元にミアが駆けつけ、状態を確認する。
「リグルさん……! リグルさん……!!
大丈夫ですか!?」
リグルが微かに目を開け、血反吐を吐く。
それを見て慌てたように、リグルを抱きかかえるミア。
「リグルさんっ!!」
「だ……、大丈夫だミアちゃん……。
ユウキ君が……、急所だけは避けてくれた……。
だが……、肋が何本かと……、内臓をいくらかやられたみたいだ……。もう身体が動かないようだ…………。
早く、救急隊を頼む…………」
リグルが微かに目を開けたまま応えた。
リグルの言葉を聞いて、ミアが頷き、上空に炎の光弾を放つ。
それを確認した運営側からアナウンスが入る。
「しっ……! 試合終了~~~~!! 勝者、 成瀬ユウキ!!」
間髪入れずに歓声があがる。
ドォオオオ!!
ミアが友愛の加護を解いて、すぐに叫んだ。
「救急隊、早く来て! かなり重症だ!!」
ミアの指示に従うように急いで担架にリグルを乗せ始める救急隊。
ミアがユウキに視界を移すと、ユウキの闘気がふっと消え、その場に倒れるユウキ。
「ユウキ!!」
叫ぶと同時にユウキに駆け寄るミア。
「ユウキっ! ユウキ!! 大丈夫かい?」
ゆっくりミアの方を見て口を開くユウキ。
「……おれ……、ダウンしたのか……?
また……、負けたのか…………?」
「覚えてないのかい!? ……試合は終わったよ……。リグルさんの闘飛剣を受けてユウキがダウンした後、ユウキが凄い力を発揮してリグルさんを倒したんだ! ……ユウキ、君の勝ちだ!」
ミアがユウキの上半身を起こして、担架で運ばれているリグルの方を見せた。
ユウキはリグルの状態を見て、慌てるように、ボロボロの身体で立ち上がる。
「ユウキ!?」
止めようとするミア。
「リグルさん!!」
ユウキは闘技場内の全ての人間に聞こえるような大きさで叫んだ。
「止めてくれ!」
リグルが担架を運んでいた救急隊の足を止める。
「リグルさん! おれ……、貴方にちゃんと勝ててない……!」
ユウキが辛そうな顔で叫ぶ。
リグルが担架から身体を寝かしたまま、真剣な表情でユウキを見て尋ねた。
「……どういうことだね…………?」
一度、顔を下に逸らして、少し考えた後、瞳を閉じて、ユウキは叫んだ。
「俺……、約2年半前、この地に来たばかりの頃に誓ったんです。
加護の力や、不思議な力に甘えずに、誰の力にも頼らずに強くなるって……!
それなのに……、それなのに、また意識を失っている間に不思議な力に助けられてしまった……!
俺は……、貴方を今日、倒すと、偉そうな事を口にしながら、自分の誓いも守れないような男なんです……!!
だから…………」
リグルが上半身を無理に起こそうとする。
慌てて救急隊員が止めようとするが、リグルが左手でそれを制止した。
リグルがユウキを見つめ直して話した。
「ユウキ君……。それは間違いだ!」
ユウキが下を向いたまま、瞳を開ける。
「君は自分の誓い通り、加護の力は使わなかった!
そして、先読みの力も使っていない!
君が先ほど、私達に見せてくれた力は、君自身の中に眠っていた力なんだよ。
……私はね、ユウキ君。人の力の本質を見抜く力には長けているつもりだ……。
自分に甘えようと偽物の力を使おうとする者に私は一度も負けた事がないんだ……。
だから……、私が君に真剣に挑んで敗れたという事は……、先ほど君が見せた力が君自身に宿る本物の力であるという事なのだよ!」
リグルが諭すように話した。
「……でも、やっぱり、ここまで成長出来たのも俺を想ってくれている人の力があったからなんです……」
ユウキが再び瞳を閉じる。
「それは、王の剣であるアレンや、友愛の加護を授かっている者、皆変わらない。私だって友愛の加護は使用出来なくとも、その恩恵は受けている。
それでも……、それでもだ、ユウキ君。
どんなに加護や不思議な力がその身に宿ろうとも、血反吐を吐くような修行の身体への負荷や、心への負荷は、他の者達となんら変わりはしないのだ……。
私や、この国の騎士達は、ここ数年、誰にも負けない努力をしてきたつもりでいた。
しかし、この2年以上、君を見てきた者達の見解は違う!
君は、愛する者達にその答えを返す為、人が1日で逃げ出したいと思う程の訓練を1日も欠かす事なくやり遂げた!!
辛かっただろう……。
苦しかっただろう……。
逃げ出したかった筈だ……。
……それでも、君は逃げなかった……!!
ユウキ君……、私は誇らしい!
本気の私をあそこまで圧倒する力を、日々の研鑽で引き出した君が!!
そして……、君のように素晴らしい男と……、ここまで戦えた自分が!!
だからお願いだユウキ君……、
君もそんな自分を心から誇ってほしい……!!」
リグルはユウキがこれまで出会った誰よりも真っ直ぐな瞳で話し終えた。
いつの間にか顔を上げていたユウキの顔には、大粒の涙がポロポロと流れていた。
すぐに会場中から、万雷の拍手が両者に送られる。
これまで辛く長い日々を乗り越えてきた2人に、
誇り高き2人に。
ユウキは深く頭を下げて、リグルに向けて叫ぶ。
「リグルさん! ありがとうございました!!」
ユウキは知っていた。
リグルが自分の為に、超えるべき大きな壁としてユウキに出会う以前よりも、より多くの研鑽を積んでいた事を。
ユウキは知っていた。
リグルがこの2年半の間、自身のその時のレベルに合わせた試合相手を日々、用意してくれていた事を。そして、それ以外にも修行に対する多くの手助けをしてくれていた事を。
ユウキは知っていた。
リグルに感謝を伝えるには、多くを語る必要がない事を。
会場の拍手は止まない。
観客席のエルザが涙を流しながら、アレッサの手を握って語りかけた。
「どう? アレッサ。お父さんは凄いでしょう?」
涙を流しながら、エルザの方を振り返り、笑みを浮かべて、アレッサが応える。
「うん! お父さんが、世界で一番カッコいい!」
会場の拍手は止まなかった。
エリーナが移動用に設置した魔法はテレポートといっても、その魔法陣内に入れば次の魔法陣に瞬間的に移動出来るような類のものではなく、魔法陣と魔法陣間の距離を400分の1まで短縮してくれるというものだった。
その為、アンナはこうして休む間もなく、疾風の如くテレポート内を駆けていた。
本来5000㎞近く離れている大陸間を、常人がエリーナのテレポートを使用してかかる時間は30分を優に超えるが、アンナは超人的な速さで8分足らずでシュタット領土の首都ダンダレイト、フィオナ城の城門前に設置されたテレポートまで辿り着いた。
アンナは乱れた呼吸を整えてすぐにディアナに向け、思念の伝達を試みる。
《ディアナ! ディアナ!! お願い、応えて!!》
思念の伝達は直径10㎞圏内でないと伝わらない為、祈るようにアンナは思念を送ったが、ディアナの応答がない。
(そんな! 一分一秒を争うというのに、ディアナ達は近くにいないの? 目の前の門番に問い合わせても、私の素性確認や書類の申請で時間が失われてしまう……! エリーナや、ワクール、ルーメリアにいるみんなが危ないの! お願い、返事をして、ディアナ!!)
アンナは焦るように門番に話をつけながら、思念でディアナを呼び続けた。
2人のうち1人の門番がアンナの話を聞いて、城内に確認の連絡をしに行こうとした時にそれは起きた。
《…………ル……さま…………!!
ルナさま……!! ルナ様!! 聞こえますか?》
アンナを呼ぶディアナの思念の声が突然感知できるようになり、アンナはハッとした表情に変わる。
《ディアナ!! ディアナ聞こえる?》
《ルナ様、聞こえます! 突然、この地まで訪れてどうされたのですか!? 緊急の用ですか?》
《もう、どこにいたのよ!? 大変なのよ!》
《申し訳ありません! フィオナ様の修行で外のダンジョンを回っていたのです。今、街の入り口に入った時に思念の伝達が入ったので、急いで折り返し連絡したのです……。ルナ様自ら赴くなんて、何があったのですか?》
ディアナの肩に手を置き、アンナとディアナの思念の伝達を同時に聞いていたフィオナとフレイヤが緊張した表情で立っていた。
《私とエリーナが外出中に、ルーメリアが何者かに襲撃を受けたの! 城は半壊、首都も7割近くが火の海になっていたわ!!》
「!!!!?」
ディアナ、フィオナ、フレイヤが驚きの表情に変わる。
《お願い! ルーメリアのみんなを助けて!!
私はこれから、ユウキやアリシア達を呼びに行くから、ディアナ達は先にエリーナ達を助けに行ってほしいの!!》
アンナのその思念を聞いて、フィオナがディアナを介して思念を送った。
《ルナマリア待って! ユウキお兄ちゃん達は私が呼びに行くわ!! ルナマリアは故郷の事が気になるでしょうし、こっちに移動してきた時に体力を使ったでしょう? それに、カレント領土行きのテレポート用の魔法陣はここからの方が近いわ! 私に任せて! 出来るだけ早くみんなを連れてくるから!!》
《……確かに出来るだけ早くアナスタス領土に戻りたいけど……。だけど、フィオナはこのメンバー内で一番足が遅いでしょう? ディアナの方が……》
アンナが少し渋ったように話す。
それを聞いていたフレイヤがディアナを介して思念を送る。
《ルナマリア様、フィオナ様はこの2年半の修行でディアナ以上の移動速度を出すスキルを身につけられたのです! その点に関しては問題ありません》
フィオナは再度頼むように思念を送る。
《それに、カレント領土に着いた際に私ならディアナより、もっと遠くまで思念を送れるわ!
だから、お願いルナマリア! 私を信じて!!》
少しの間、瞳を閉じて考えた後、目を見開いてアンナが応えた。
《わかったわ、フィオナ! 貴方に任せる!
出来るだけ早くユウキ達を連れてきて!!》
アンナの思念聞いて、ディアナ、フィオナ、フレイヤは3人目を合わせて頷いた。
すぐにルナマリアはアナスタス領土に引き返し、
ディアナとフレイヤはアンナがアナスタス領土に引き返したテレポート用の魔法陣に向け移動した。
フィオナは冷や汗を流しながら考えていた。
三ヶ国同盟を成し、世界に公表した後にも関わらず、一国に戦争を仕掛けてくるという事は三ヶ国全てを敵に回す行為。それを躊躇なく仕掛けてくるという事はそれだけの力を持った相手である事。
1人、ユウキ達のいるカレント領土に向けテレポート用の魔法陣に乗ったフィオナは、異空間内に消えながら呟いた。
「嵐が来るわ、ユウキお兄ちゃん……」
◇ ◇ ◇
フィオナがアンナの報を受け、カレント領土行きのテレポートで移動を開始した頃、ユウキとリグルは闘技場での最後の攻防に移ろうとしていた。
ユウキは、おもむろに木剣を逆手に持ち、深呼吸を始めた。するとユウキを中心に闘気の渦が発生し、実際にユウキに吸い寄せられるように風を起こし始めた。
「何をする気だ!?」
初めて見るスキルの型に警戒心を高めるリグル。
ユウキの行動を見て、アレンが立ち上がって話した。
「あの馬鹿! あれを使う気か!!」
アレンとリリス以外の皆がアレンの焦りようを見て驚いた。
すぐにリリスが口を開く。
「ユウキさんも絶技を使うみたいね……」
アレンが苦虫を噛み潰したような顔で応えた。
「しかし、あれは修行で一度も成功していない……! しかもリスクが高すぎる!!」
「どのような絶技なの、アレン?」
アリシアが尋ねる。
「……個人が持てる闘気量を超えて極限まで高め放つ事が出来る一撃必殺のユウキ特有のスキルだ!
発動する際に一瞬で全身の闘気を刀身に移す必要がある為、針の穴を通すような闘気コントロールが求められる。
成功すれば恐らく、奥義系のスキルの数十倍にも攻撃力が跳ね上がるが、大きな欠点がある」
「大きな欠点?」
「闘気を高めきるのに時間がかかり過ぎる事と、闘気を高めている間、その場を微動だに出来ないんだ……。更に、闘気を解放して放つ絶技はユウキの前方一直線上にしか放つ事が出来ない!
技の性質を理解しているものならば、ユウキが絶技の準備に入った段階で攻撃を加えて絶技の使用を中断させるか、最悪、絶技発動前に落ち着いて、ユウキの前方直線上から、横にズレれば済む話だ。
もしこれから、奇跡が起きてユウキが絶技発動のコントロールを身につけたとしても、リグルさんに技の特性を見抜かれた時点でジ・エンドだ」
アレンがリグルには聞こえない程度の声量で話す。
リグルが選択したのは様子を見る事だった。
(スキルの性質がわからない以上無闇に攻撃を仕掛けては駄目だ……。もし、ユウキ君の絶技がカウンタータイプのスキルの場合、私の黄金闘気の防御力を上回る可能性がある)
リグルがユウキに攻撃を仕掛けない事に気づいたアレンが呟く。
「リグルさんが、慎重なタイプでとりあえず助かったな……。問題は一度も成功した事がない技が成功するかどうかだ……」
「ユウキさんなら、成功するわ……!!
今までだって、どんなに困難な状況でも、どうにかしてきたもの!」
アリスがユウキを見つめて話す。
ユウキを中心に渦巻く風と闘気が止む。
ユウキが低く構えて呟いた。
「刹光剣!!」
ユウキがスキル名を呟いた瞬間、光と風が爆発したようにユウキを中心に広がり、リグルの視界からユウキが消える。
「なっ!!?」
リグルが防御する暇もなく、ユウキの逆手持ちからの水平切りがリグルにヒットし、ユウキがリグルの後方に通過する。
両者、背を向けあって、しばらく動かない。
少しして、ユウキが辛そうな顔をして、膝をつく。
「はぁ……! はぁ……!!」
リグルはユウキを振り返り、ユウキの絶技が自身の黄金闘気の防御力を上回らなかった事に安堵する。
「失敗だ……! ユウキはマズイぞ!!
絶技使用の反動で激しい疲労に襲われている。しかも、リグルさんに絶技の特性が今のでバレた!! 2回目はもうないぞ!!」
アレンが焦るように話す。
すぐにリグルが遠距離から木剣を振り上げる。
先刻よりも強力な黄金色の闘気スキルがユウキを襲う。
「うわぁ!!」
後方に吹き飛び、倒れるユウキ。
リグルはミアが止める間も与えず、振り下ろしを行い、闘気の雨を降らせる。
深刻なダメージと疲労により、反応が遅れたユウキは、闘気スキルで頭上に大きな盾を作り、ギリギリでリグルの攻撃を防ぐ。しかし、連続で闘飛剣を放っていたリグルの攻撃は防ぐ事が出来ずに更に後方に吹き飛ばされてしまった。
そこでようやく、ミアが一旦試合を止める。
「リグルさん! 一旦ストップ!! ユウキのダウンだ!!」
ミアが友愛の加護を使用し、ひも状に自身の身体を変化させ、暴走するリグルを拘束する。
「くっ……!!」
ミアの言葉に我に返り、なんとか黄金闘気をコントールしようと試みるリグル。
ユウキはフラフラになりながら、ゆっくり立ち上がり、リグルを見つめた。
意識が朦朧としながら、ユウキはリグルの姿が、かつて幼き頃、アンナを虐めていた年上の子供達の姿にダブって見えていた。
ユウキは時間がゆっくり流れるような感覚の中、自身の背後で両の手を目に当てて泣くアンナの姿に気づく。
前の方を向き直り、アンナを虐めたであろう子供達に向かって、呟いた。
「あいつを泣かしてんじゃねーよ!!」
ユウキがこれまで見せた事のないような怒りの表情でリグルを睨みつけた瞬間、ユウキから目に見えない波動が広がるのを観客席のアレン達と、リグルとミアは感じた。
ドクンっ!!
「!!!!!!!!?」
女神級の力を感じて、驚愕の表情を浮かべるアレン達と、リグル、ミア。
寒気を感じたリグルは、ミアの拘束を強引に解いて、焦るように黄金闘気を最大まで高めた闘飛剣をユウキに向かって放った。
「おお!!」
「リグルさん!!」
ミアが弾き飛ばされる。
ユウキに極大の闘飛剣が近づき、絶体絶命と思われた瞬間、ユウキは、左手を横に振っただけで、闘飛剣をかき消す。
「ばっ……! 馬鹿な……!!」
身体を震わせながら、呟くリグル。
同様に驚くアレン達。アレンが口を開く。
「あれを、素手でかき消した!!」
すぐに振り下ろしで闘気の雨を降らせるリグル。
ユウキは歩くように残像を残しながら、全ての闘気を完全に躱しきる。
リグルが驚いて、次の遠距離攻撃に移ろうとした時、リグルの目の前まで一瞬でユウキが移動する。
焦るようにリグルが目にも止まらぬ速度で水平切りを行うが、ユウキは屈んで躱して、水平に木剣を振った。
「ぐはっ!!」
ユウキの攻撃はリグルの黄金闘気を簡単に破壊し、リグルを後方へ吹き飛ばす。
ユウキは吹き飛んでいるリグルの後方に一瞬で移動し、切り上げる。
リグルが天高く舞い上がると同時にユウキが木剣を逆手で持ち、絶技の構えに入った。すぐにユウキを中心に闘気の渦が発生し、実際にユウキに吸い寄せられるように風を起こし始めた。
変化はそれだけで止まらず、会場中の観客からユウキに向けて光の塊が吸い寄せられ始める。
アレン達だけでなく、いつも冷静なリリスも驚き呟く。
「他人の闘気や魔力だけでなく、エネルギーそのものを吸い込んでいる……!!」
少しして、ユウキを中心に渦巻く風と闘気が止み、ユウキが低く構えた。
ユウキとリグルの間に光の道が出来る。
「刹光剣!!」
ユウキが呟くと同時に光と風が爆発したようにユウキを中心に広がり、アレンですら目に捉えられない速度でリグルの後方に移動した。
すぐにリグルを中心に帯状の光が円形に広がり、リグルが声にもならない叫び声を上げる。
眩い光が止むとリグルが闘技場まで落下し、次いでユウキが着地した。
「…………!!!!?」
全ての観客が、何が起こったか解らず、静まり返る中、エルザとアレッサが叫ぶ。
「あなた……!!」
「お父さんっ!!」
すぐにリグルの元にミアが駆けつけ、状態を確認する。
「リグルさん……! リグルさん……!!
大丈夫ですか!?」
リグルが微かに目を開け、血反吐を吐く。
それを見て慌てたように、リグルを抱きかかえるミア。
「リグルさんっ!!」
「だ……、大丈夫だミアちゃん……。
ユウキ君が……、急所だけは避けてくれた……。
だが……、肋が何本かと……、内臓をいくらかやられたみたいだ……。もう身体が動かないようだ…………。
早く、救急隊を頼む…………」
リグルが微かに目を開けたまま応えた。
リグルの言葉を聞いて、ミアが頷き、上空に炎の光弾を放つ。
それを確認した運営側からアナウンスが入る。
「しっ……! 試合終了~~~~!! 勝者、 成瀬ユウキ!!」
間髪入れずに歓声があがる。
ドォオオオ!!
ミアが友愛の加護を解いて、すぐに叫んだ。
「救急隊、早く来て! かなり重症だ!!」
ミアの指示に従うように急いで担架にリグルを乗せ始める救急隊。
ミアがユウキに視界を移すと、ユウキの闘気がふっと消え、その場に倒れるユウキ。
「ユウキ!!」
叫ぶと同時にユウキに駆け寄るミア。
「ユウキっ! ユウキ!! 大丈夫かい?」
ゆっくりミアの方を見て口を開くユウキ。
「……おれ……、ダウンしたのか……?
また……、負けたのか…………?」
「覚えてないのかい!? ……試合は終わったよ……。リグルさんの闘飛剣を受けてユウキがダウンした後、ユウキが凄い力を発揮してリグルさんを倒したんだ! ……ユウキ、君の勝ちだ!」
ミアがユウキの上半身を起こして、担架で運ばれているリグルの方を見せた。
ユウキはリグルの状態を見て、慌てるように、ボロボロの身体で立ち上がる。
「ユウキ!?」
止めようとするミア。
「リグルさん!!」
ユウキは闘技場内の全ての人間に聞こえるような大きさで叫んだ。
「止めてくれ!」
リグルが担架を運んでいた救急隊の足を止める。
「リグルさん! おれ……、貴方にちゃんと勝ててない……!」
ユウキが辛そうな顔で叫ぶ。
リグルが担架から身体を寝かしたまま、真剣な表情でユウキを見て尋ねた。
「……どういうことだね…………?」
一度、顔を下に逸らして、少し考えた後、瞳を閉じて、ユウキは叫んだ。
「俺……、約2年半前、この地に来たばかりの頃に誓ったんです。
加護の力や、不思議な力に甘えずに、誰の力にも頼らずに強くなるって……!
それなのに……、それなのに、また意識を失っている間に不思議な力に助けられてしまった……!
俺は……、貴方を今日、倒すと、偉そうな事を口にしながら、自分の誓いも守れないような男なんです……!!
だから…………」
リグルが上半身を無理に起こそうとする。
慌てて救急隊員が止めようとするが、リグルが左手でそれを制止した。
リグルがユウキを見つめ直して話した。
「ユウキ君……。それは間違いだ!」
ユウキが下を向いたまま、瞳を開ける。
「君は自分の誓い通り、加護の力は使わなかった!
そして、先読みの力も使っていない!
君が先ほど、私達に見せてくれた力は、君自身の中に眠っていた力なんだよ。
……私はね、ユウキ君。人の力の本質を見抜く力には長けているつもりだ……。
自分に甘えようと偽物の力を使おうとする者に私は一度も負けた事がないんだ……。
だから……、私が君に真剣に挑んで敗れたという事は……、先ほど君が見せた力が君自身に宿る本物の力であるという事なのだよ!」
リグルが諭すように話した。
「……でも、やっぱり、ここまで成長出来たのも俺を想ってくれている人の力があったからなんです……」
ユウキが再び瞳を閉じる。
「それは、王の剣であるアレンや、友愛の加護を授かっている者、皆変わらない。私だって友愛の加護は使用出来なくとも、その恩恵は受けている。
それでも……、それでもだ、ユウキ君。
どんなに加護や不思議な力がその身に宿ろうとも、血反吐を吐くような修行の身体への負荷や、心への負荷は、他の者達となんら変わりはしないのだ……。
私や、この国の騎士達は、ここ数年、誰にも負けない努力をしてきたつもりでいた。
しかし、この2年以上、君を見てきた者達の見解は違う!
君は、愛する者達にその答えを返す為、人が1日で逃げ出したいと思う程の訓練を1日も欠かす事なくやり遂げた!!
辛かっただろう……。
苦しかっただろう……。
逃げ出したかった筈だ……。
……それでも、君は逃げなかった……!!
ユウキ君……、私は誇らしい!
本気の私をあそこまで圧倒する力を、日々の研鑽で引き出した君が!!
そして……、君のように素晴らしい男と……、ここまで戦えた自分が!!
だからお願いだユウキ君……、
君もそんな自分を心から誇ってほしい……!!」
リグルはユウキがこれまで出会った誰よりも真っ直ぐな瞳で話し終えた。
いつの間にか顔を上げていたユウキの顔には、大粒の涙がポロポロと流れていた。
すぐに会場中から、万雷の拍手が両者に送られる。
これまで辛く長い日々を乗り越えてきた2人に、
誇り高き2人に。
ユウキは深く頭を下げて、リグルに向けて叫ぶ。
「リグルさん! ありがとうございました!!」
ユウキは知っていた。
リグルが自分の為に、超えるべき大きな壁としてユウキに出会う以前よりも、より多くの研鑽を積んでいた事を。
ユウキは知っていた。
リグルがこの2年半の間、自身のその時のレベルに合わせた試合相手を日々、用意してくれていた事を。そして、それ以外にも修行に対する多くの手助けをしてくれていた事を。
ユウキは知っていた。
リグルに感謝を伝えるには、多くを語る必要がない事を。
会場の拍手は止まない。
観客席のエルザが涙を流しながら、アレッサの手を握って語りかけた。
「どう? アレッサ。お父さんは凄いでしょう?」
涙を流しながら、エルザの方を振り返り、笑みを浮かべて、アレッサが応える。
「うん! お父さんが、世界で一番カッコいい!」
会場の拍手は止まなかった。
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