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最終章

開かれた未来 ★

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 アンナがユウキ達の目の前から消えると同時に拘束用補助魔法ブラッディ・チェインの効果が消え、ユウキ達は全員、その場に膝をついた。

 辺りが静寂に包まれた後、ユウキが地面を両腕で叩いて叫んだ。
「アンナぁああーー!!」

 フィオナとディアナの嗚咽おえつだけが天界に響く。
 アリシアとアレン、下界のアンジェラ、リリス、クシャナ、ワクール、ミア、アイラ、そして、ミトとユウナ、多くの仲間達は絶望の表情を浮かべていた。

 暫く泣いていたフィオナが、涙を拭いて、ユウキの元に歩み寄る。
「ユウキお兄ちゃん!
時守りの力ときもりのちからで過去に飛ぼう!!
エレイオスを倒した直後に飛べば、ルナマリアの暴走は止められる筈だよ!」

 それを聞いたユウキは、顔を伏せたまま応えた。
「……思念体の封印はどうするんだ?
アレは、ルナが極光の力きょっこうのちからとソフィアのペンダントを使ってギリギリ奇跡的に封印出来たんだ。
その証拠にアンナは次元の歪みに呑み込まれた」

「分かってるよ! だからちゃんと考えて、過去に飛ぶの!! 
だってルナマリアの事、諦められないでしょう!?」
 フィオナが涙を浮かべたまま叫んだ。

「当たり前だ……! このまま諦められるか!! 
…………でも……、無いんだ……。
アンナが目の前から消えた時点で、時守りの力ときもりのちからでなんとかならないかって考えたけど……、いい解決策が浮かばないんだよ…………」
 ユウキが頭を抱えて応えた。

「……きっとある! ルナマリアを助け出せる方法!! 
私達が今まで経験してきた事を全て思い出して、答えを出すの!!」
 フィオナがユウキを見つめて話した。

「…………フィオナ、エレイオスはこの世から消えた。
終焉の巫女しゅうえんのみこの呪いが消えるように、時守りの力ときもりのちからも時期に失われる筈だ。
力が消えるまで、どのくらいだ?」
 ユウキが顔を上げて尋ねる。

「多分……、あと1時間くらい……。
……そうだ! 思念体の封印の際に、エレイオスの力も吸収したから、時守りの力ときもりのちからもパワーアップして、何十年前でも戻れるの!
半年くらい戻って、私とアリシアが封印の技術を磨けば、対応出来るかも!」
 フィオナがユウキを見つめて話した。

 間髪入れずにレナが応える。
《フィオナ、それは駄目です!
戻るならエレイオスを倒した後!!
正直に言うと、エレイオスを倒せた今回のパターンは、何億分の1の確率で奇跡的に成功した未来の一つなのです。
ユウキも言っていたでしょう?
封印についても、奇跡的だったと。あれは正しい見解なのです。
だから半年前まで戻ってやり直した場合、今度は全滅する可能性の方が高い!!》

「そ、そんな……」
 フィオナが顔を伏せる。

 アリシア、アレン、ディアナもユウキとフィオナの周りに集まり、意見を出し合うがいい解決策が浮かばず、時間だけが過ぎていく。

「……そう言えば、フィオナ。
貴方、さっき時守りの力ときもりのちからは、パワーアップして何十年前まで戻れると言っていたけど、貴方の力は、記憶を目標とする時間軸に飛ばして、時を戻す力でしょう?
自分と、もう1人の対象者の時を戻す場合、2人が存在する時間軸にしか飛べないんじゃないの?」
 アリシアが不思議そうに尋ねた。

「あー、え~と、ちゃんと説明するなら、今回のパワーアップで、時を戻す対象者が存在しない時間軸なら実際に身体ごと飛べるようになったの!
まあ、対象者が存在しない時間軸に飛ぶ場合は、私か、私が選んだ人、1人しか飛べないけどね」
 フィオナがアリシアを見つめて応えた。

「でも、それって、片道しか飛べないから、何十年も前に飛ぶと、その人は自分の生きた時間軸に帰って来られなくなるんでしょう?」
 アリシアがフィオナに尋ねた。

「うん……、だから、対象者が生きた時間軸にしか飛ばないよ。
何十年年も前に飛べるようになっても意味ないわね……」
 フィオナがため息を吐いて応えた。

 その時、ユウキの胸元が輝き出す。

「ユウキ! 胸元が!!」
 ディアナが指差して呟くと、ユウキは胸元からエレノアの花を出した。

 エレノアの花の香りが漂う。
 その瞬間、ユウキの頭の中に、幼い頃の記憶の全てがフラッシュバックのように蘇った。
「……………………!!!?
そうか……!! そうだったのか……!!」

「ユウキお兄ちゃん? どうしたの?」
 フィオナが、ユウキの顔を覗き込むようにして尋ねる。

「思い出したんだ!! 俺の大切な記憶を!!
7歳の頃、ルナと初めて出逢った時も、
10歳の時、交通事故で死にかけて、黒髪の女性に助けられた時も、
この花と全く同じ香りがしていた!!」
 ユウキがフィオナを見つめて応えた。

「どう言う事だ、ユウキ?」
 アレンが尋ねると間髪入れずにユウキが応えた。
「ルナは元の世界セインツにいる!! 全てが繋がった!!
ルナを助けられる!!」
 ユウキが笑顔で応えたのを見て、ディアナがユウキに掴みかかって尋ねる。
「本当か、ユウキ!? 本当にルナ様を助けれるのか!!!?」

「ああ!! その為にフィオナ! 俺を過去に飛ばしてくれ!!」
 ユウキの顔を見たフィオナが不安そうに尋ねる。
「一体……、どの時間軸に飛ぶの?」

「1990年、7月7日!! 場所はソフィア城の空き部屋だ!!」
 ユウキが笑顔で応える。

「駄目!! その時間軸はまだ、ユウキお兄ちゃん、異世界ルインに来ていないでしょう? 記憶だけじゃなく、身体ごと飛ぶ事になるのよ!!」
 フィオナが慌てて叫んだ。

「大丈夫、フィオナ……!! 
ルナを助けたら、必ず帰ってくる!!」
 ユウキの力強い瞳を見て、暫く考えたフィオナは顔を上げて話した。
「どこで、どれだけ待てばいい……?」

 ユウキはフィオナの瞳を真っ直ぐ見つめて応えた。
「7年後の7月7日……、3人の約束の場所に……、ルナと2人で帰ってくる!!」

 フィオナは涙を浮かべて頷いた。


   ◇ ◇ ◇


「うっ……!」
 ある一室で目を覚ましたユウキは、すぐに周りを見渡す。
「ここは……!!」
 ユウキは、自分のいる部屋が、異世界ルインに来たばかりの頃にエリーナから与えられたルナマリア城の客室だと気づいた。
 更に、目立つ位置に用意された日付け入りの時計と、顔を覆えるフード付きマント、アルテラの小瓶を見つけてユウキは、ため息を吐いた。
「俺がここに来る事も、分かってた訳か……。
すぐに、ここがどこで、どの時間軸なのか、そして、俺の役割が何なのか悟らせる為、用意していたんだな……。
……ああ、分かったよソフィアさん。
アンタの思惑通り、俺の役割を演じてやる!」
 ユウキは、すぐにアルテラの小瓶を飲み干して姿を変え、用意されていたフード付きマントを着て、フードで顔を覆い、玉座の間に向かった。
 ユウキのいた客室から玉座の間までは殆ど距離がなく、すぐ扉の前まで辿り着いたユウキは、扉に手をかける前に辺りを見渡した。
(近衛兵がいない……! これもソフィアさんの俺への配慮か……)
 ユウキは扉を開き、無言で玉座に歩み寄る。
 玉座にはアンナによく似た赤毛の美女が座っていて、その隣にベルヴェルクによく似た男が立っていた。
 2人の顔がよく見える位置まで歩み寄ったユウキは、膝をついて頭を下げた。

 ユウキは分かっていた。
 余計な挨拶や、言葉はいらない。
 赤毛の美女、ソフィアの次の言葉を待てばいいだけだということを。

 ソフィアが微笑んで口を開く。
「やっと逢えましたね……。
貴方がここに来るのを待っていました。
早く、私の娘を助けてと言いたいところですが、その前に貴方の名前を聞きましょう」

 ユウキは顔を伏せたまま微笑み、ゆっくり顔を上げて応えた。
「……ノエル!! 俺の名前はノエル・アストラルドです!!」


   ◇ ◇ ◇


 思い出の橋の中央で、アンナは、胸元からエレノアの花を取り出した。
 アンナは涙を浮かべ、ユウキとフィオナを思いながら、エレノアの花を握りしめた。
「逢いたい……。

やっぱり逢いたいよ……。

2人が大好きだった……。

2人といる時が、1番幸せだった……。

ユウキ……、フィオナ……。

貴方達の声が聞きたいよ……。

身体に触れたいよ……。

……抱きしめて欲しいよ…………」
 アンナは大粒の涙を流して、その場に座り込んだ。
 アンナの泣き声が虚しく響く。
 アンナは思い出していた。

 子供の頃、いじめっ子から自分をユウキが助けてくれた事。

 10歳の頃、自分の記憶を失くしたユウキを慰めた事。
 
 家族としてユウキと過ごして日々。

 17歳になり、異世界ルインの記憶が戻り、次元の狭間に呑まれる際、ユウキが手を差し伸べて、一緒に異世界ルインに来てくれた事。

 異世界ルインでの冒険の日々。

 辛い事、苦しい事、楽しい事、その日々の中で、ユウキは常に自分に微笑みかけてくれていた事を思い出していた。

 最後に、元の世界セインツで初めてこの場所で出逢った事を思い出して、アンナは呟いた。
「……お願いユウキ……、もう一度、あの時の言葉を私にかけて……」
 
 静寂が流れ、アンナは顔を伏せる。
 次の瞬間、アンナはあの日と同じ、懐かしい声を聞いた。

「泣かないで……、もう大丈夫だから」

 アンナは顔を上げてゆっくり後ろを振り返る。



 涙で霞んだアンナの視界に、ユウキの微笑む顔が入った。
 アンナは大粒の涙をポロポロ零して両手で顔を押さえた。
「どうして……?
もう……、二度と逢えないと思ってたのに……」

 ユウキが走り出し、アンナを強く抱きしめた。
「迎えに来たよ……。
帰ろう……、俺達の大切な人が待つ世界へ」

 アンナはユウキの胸に顔を埋めて、大声で泣いた。
 ユウキは優しくアンナの髪を撫でて慰める。

 アンナが暫く泣いた後、落ち着きを取り戻したアンナが、顔を上げて尋ねる。
「どうやってここに……?
どうして此処だとわかったの?」

「全ては……、これが教えてくれたんだ」
 ユウキは微笑みながら、胸元から光り輝くエレノアの花を取り出して応えた。

「え、エレノアの花!?」
 アンナが驚いて尋ねる。

「ああ……。
アンナの持っているエレノアの花も輝いているだろう?
エレノアの花は魔力だけじゃなく想いにも反応する。
アンナが俺を想ってくれたから、時間や場所を超えて、俺の持つエレノアの花まで想いが届いたんだ。
そして、思い出したんだ。
俺が10歳の頃、事故現場で命を助けてくれた黒髪の女性の事を……!!
アンナ、お前だろう? 幼い頃の俺を助けてくれたのは」
 ユウキが微笑んで尋ねると、アンナは涙を流しながら静かに頷いて応えた。

「あとは、封印の儀の際に、エレイオスの力を吸収して、パワーアップしたフィオナの時守りの力ときもりのちからで、アンナが7歳の頃に飛んで、ノエルを演じたんだ」
 ユウキがアンナを見つめたまま話した。

「それじゃあ、やっぱりノエルは……!!」
 
「ああ……、アルテラの小瓶を飲んで変装した俺だったんだよ。
ナスターシャは雰囲気だけで、無意識に俺だと気づいてたんだろうな。
……あとは、幼い頃のアンナと一緒に、ソフィアさんの異世界時空転送魔法でこの世界に来たって事さ」

「ユウキは3年前にこの世界に来てたのね……。
次元の狭間の中で、私を守りながら、この世界に来た……」

「ああ……、3年間、君がこの場所に来るのを待ってた」

 ユウキの言葉を聞いたアンナは、ようやく笑顔に変わり、強くユウキを抱きしめる。

 暫くして、アンナが顔を上げて尋ねた。
「あっ、でもどうやって異世界ルインに帰るの? この世界には異世界時空転送魔法を使える程の魔素なんて無いわ……!!」

 それを聞いたユウキは微笑んで応えた。
「大丈夫……!
もう1人の君が、帰りの分の魔素をソフィアさんから受け取っているから」


   ◇ ◇ ◇


「お父さ~ん、お母さ~ん、早く、早く~!」
 赤毛の男の子が夜道を駆けながら、時折、振り返って両親を呼ぶ。

「カナタ、走らないで! 足元に気をつけないと転ぶわよ」
 赤毛の美女アンナが、自分の息子に話しかけた。


 あれから7年が経ち、アンナは30歳になった。
 勿論、終焉の巫女しゅうえんのみこの呪いでアンナは死んでいない。
 つまり、異世界ルインで待つ、残りの2人の巫女も、死んでいないという事になる。

「殆ど、赤毛に戻ったな……」
 アンナの隣を歩きながら、ユウキがアンナに話しかけた。

「まだ、毛先が少し黒いんだけどね……。
ユウキと再開してすぐに極光の巫女きょっこうのみことしての力は、何故か自然と使えなくなったわね……。
それから、ここまでの赤毛に戻るまでに7年かかったわ」
 アンナがユウキを見つめて応えた。

「赤毛に戻るのは嫌じゃなかったのか?」
 ユウキが尋ねると、アンナは微笑んで即答する。
「全然! だって、大好きなお母様と同じ髪色だし、何よりユウキが、この髪色を好きだって言ってくれたからね!」

 そこには、子供の頃、赤毛の事で虐められて泣いていたアンナの面影は、全く無くなっていた。
 ユウキはアンナの笑顔を見て、満足そうに微笑むと、アンナの手を握って歩き出した。

 2人の姿を見た息子のカナタが顔を膨らませて口を開く。
「あー!! また、お父さんがお母さんにくっついてる!!」

 それを聞いたユウキが、ニヤリと笑って応える。
「おー、おー、カナタがまたヤキモチを妬いてるぞーー!!」

「っ!! お父さんなんか、僕が倒してやる!!」
 顔を真っ赤にしてカナタが、ユウキに襲いかかる。

「おー、やってみろや! 暗黒神すら退けた俺に敵うならな!!」
 ユウキがワクワクした表情で話した。

「もう、2人とも、早く目的地まで行くわよ! 間に合わなくなるわ!!」
 アンナがため息を吐いて、話した。



 ある巨木の前に立ったユウキ達は、その巨木を見上げた。

「お母さん、ここ?」
 カナタがアンナに尋ねる。

「うん、ここの上に登るの」
 アンナが微笑んで応える。

「でも、すっごく高いよ。僕、登れないよ……」
 カナタが心配そうに話した。

「お父さんなら、あそこの枝までひとっ飛びだから大丈夫!
さあ、お父さんの背に掴まって!」
 アンナがカナタに応えると、カナタは明らかに嫌そうな目でユウキを見つめた。
「なんだ、カナタ?
父さんの背に掴まりたくないんなら、お母さんのオッパイに掴まってもいいんだぞ? 乳離れ、遅かったしな」

「誰が、お母さんに掴まるって言った!!
お父さんのそういう所が嫌いなんだよ!!」
 カナタが怒りながら応えた。

「もう、2人ともいい加減にして! 
私は先に登るわよ」
 アンナが2人を叱った後、数メートル上の枝までジャンプした。

 ユウキが微笑んで屈み、カナタに背中を差し出す。
「んっ……」
 ユウキが顔で、と促すと、カナタはぶつぶつ言いながらユウキの背中に身を預けた。
 ユウキがアンナの待つ枝までジャンプし、着地する。
 ユウキは、ゆっくりカナタを足場の安定した場所に下ろすと、カナタに見えるように指を指して話した。
「ほら、カナタ。
あそこに来る人達を待つんだ。
そこから、楽しい場所に連れてってやるぞ!」

 ユウキが指差した場所をカナタが見つめると、そこはユウキとアンナが出逢った思い出の橋の上だった。

 ユウキ達が暫く木の上で待っていると、2人の若い男女が、橋の上を通りかかる。
 2人の若い男女に気づいたカナタが叫んだ。
「あ、あれ……、あの2人、お父さんと、お母さんに、そっくりだ!!」

 それを聞いたユウキとアンナは、橋の上で会話を続ける17歳の自分達を見守った。

 暫くして、橋の上の2人の間に閃光が走り、時間が圧縮する事を感じたアンナは、17歳のユウキに向けて思念を送った。

《ありがとう……、ユウキ。
これまで私を守ってくれて……。

これから先も、貴方に沢山の迷惑をかけると思うけど、まだまだ未熟な私をお願いね……。
今から掴む、私の手を、いつまでも……、いつまでも離さないで……。

愛してるわ……。これまでも、これから先も、ずっと……、ずっと…………》

 17歳のユウキは、何かを感じ取ったかのように周りをキョロキョロ見渡していたが、次の瞬間、次元の狭間がアンナを呑み込み始めた事に気づき、手を伸ばして、アンナの手を掴んだ。
 2人が次元の狭間に呑み込まれたのを見たカナタが、驚いた表情でユウキに尋ねる。
「お父さん! 僕達もあの中に行くの?」

「その通りだ、カナタ」
 ユウキが微笑んで応える。

「面白そう~!!
そ、それなら早く木から降りて行こう!
なんかあの光の玉、今にも消えそうだよ!」
 カナタが慌てたように話したが、アンナが橋の方を指差して応えた。
「あの人達が、白い光の中に消えたら、私達も行こうか」

「えっ!?」
 カナタが橋の方を振り返ると、ミトとユウナが丁度、光の中に消える所だった。

「よし、降りるぞ」
 ユウキはそう言うと、カナタを抱っこし、下まで飛び降りる。
 アンナも続いて飛び降り、3人は次元の狭間に向かって駆け出した。

「ユウキ、再確認だけど、私達が飛ぶ時間軸は決戦から7年後なのよね?」
 アンナがユウキに尋ねる。

「ああ! 
ソフィアさんが幼い頃のアンナの中に、帰りの分の異世界時空転送魔法を込めてたけど、その中には、17歳になった俺達の分と、ミトおじさん、ユウナおばさんの分、そして、今の俺達の分を込めてもらった。
その時、時間指定もしてもらったから問題ない」
 ユウキが微笑んで応えた。

「お父さん、これから、どこに行くの?」
 カナタがユウキの顔を見つめて尋ねた。

 ユウキは次元の狭間の奥を見つめながら、応えた。
「……父さん達が守りぬいた世界……。
大切な人達が待つ世界さ」


 ユウキとアンナ、カナタが、光の中に吸い込まれるように消えると、光の玉は消失し、辺りには、満月の優しい光だけが残った。
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