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咲希の涙と明彦の不安
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ある夜、ふと目が覚めた。
時計を見ると、午前二時を回っている。
私は喉が渇いて、キッチンへと足を運んだ。
コップに水を注ぎ、一口。
その時――リビングの隅で、明彦がじっと座っているのが見えた。
「……どうしたの? 寝ないの?」
「うん……なんか、胸の奥がざわざわして。変だよね。僕、もう“死んでる”のに」
溜め息からぽつりと落ちたような言葉。
私は、ソファに腰掛け、隣に来るように促した。
「ねえ、明彦、成仏って……怖い?」
「……うん。もし成仏したら、全部忘れちゃうんじゃないかって……咲希の事も。そう思うと、凄く、怖いんだ」
心臓が、一際大きく鼓動を上げた。
気づかないふりをしていた。
でも、本当はずっとわかってた。
この日々には、終わりがくる。
いつか必ず。
「……ずるいよ」
私の眼からぽろりと涙が溢れた。
驚いた明彦が慌てて顔をのぞきこむ。
「さ、咲希?」
「私だって、忘れたくないよ。明彦のこと、どんどん好きになってくのに、どうしてそんな結末しかないの……」
震える声。こらえきれなかった涙。
明彦は何も言わず、ただ隣で、私を見つめていた。
そのままソファで眠ってしまっていた私は、夜が明ける少し前、肌寒くて目を覚ました。
涙がまだ瞼に残っていて、クッションが少し湿っている。
隣に気配はない。幽霊のくせに、気を遣って消えたりするところが妙に人間くさい。
私はそっと毛布をたたみ、リビングの隅に目を向ける。
明彦が壁にもたれたまま目を閉じている。
「起きてるんでしょ?」
声をかけると、明彦はゆっくりと目を開けた。
「……ごめん。僕、何も言えなくて」
「ううん、謝らないで。私こそ、泣いちゃったりしてさ、恥ずかしい」
カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでくる。
しばらくの沈黙。
その静けさが、私を冷静にさせた。
言わなくちゃ。言えるうちに。
じゃないと、絶対に後悔する。
そう、思えた。
「……私ね、明彦のこと……好きだと思う」
明彦がゆっくりとこちらを見る。
驚いた顔。でも、どこか優しくて、苦しそうな顔。
「……ありがとう。こんな僕を、そんな風に思ってくれて」
「違うの。お礼を言うのは私の方。ずっとひとりだったから、あなたが居てくれて、嬉しかったんだよ」
明彦は、なにかを言いかけて、唇を結んだ。
その反応が優しさであることは、痛いほど分かった。
同時に、私のこの想いが、受け止めきれないだろうことも、痛いほど感じていた。
時計を見ると、午前二時を回っている。
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「うん……なんか、胸の奥がざわざわして。変だよね。僕、もう“死んでる”のに」
溜め息からぽつりと落ちたような言葉。
私は、ソファに腰掛け、隣に来るように促した。
「ねえ、明彦、成仏って……怖い?」
「……うん。もし成仏したら、全部忘れちゃうんじゃないかって……咲希の事も。そう思うと、凄く、怖いんだ」
心臓が、一際大きく鼓動を上げた。
気づかないふりをしていた。
でも、本当はずっとわかってた。
この日々には、終わりがくる。
いつか必ず。
「……ずるいよ」
私の眼からぽろりと涙が溢れた。
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「さ、咲希?」
「私だって、忘れたくないよ。明彦のこと、どんどん好きになってくのに、どうしてそんな結末しかないの……」
震える声。こらえきれなかった涙。
明彦は何も言わず、ただ隣で、私を見つめていた。
そのままソファで眠ってしまっていた私は、夜が明ける少し前、肌寒くて目を覚ました。
涙がまだ瞼に残っていて、クッションが少し湿っている。
隣に気配はない。幽霊のくせに、気を遣って消えたりするところが妙に人間くさい。
私はそっと毛布をたたみ、リビングの隅に目を向ける。
明彦が壁にもたれたまま目を閉じている。
「起きてるんでしょ?」
声をかけると、明彦はゆっくりと目を開けた。
「……ごめん。僕、何も言えなくて」
「ううん、謝らないで。私こそ、泣いちゃったりしてさ、恥ずかしい」
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しばらくの沈黙。
その静けさが、私を冷静にさせた。
言わなくちゃ。言えるうちに。
じゃないと、絶対に後悔する。
そう、思えた。
「……私ね、明彦のこと……好きだと思う」
明彦がゆっくりとこちらを見る。
驚いた顔。でも、どこか優しくて、苦しそうな顔。
「……ありがとう。こんな僕を、そんな風に思ってくれて」
「違うの。お礼を言うのは私の方。ずっとひとりだったから、あなたが居てくれて、嬉しかったんだよ」
明彦は、なにかを言いかけて、唇を結んだ。
その反応が優しさであることは、痛いほど分かった。
同時に、私のこの想いが、受け止めきれないだろうことも、痛いほど感じていた。
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