【完結】ふわこい【全十話】

たかつき

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もう一度、あなたの名前を

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 ◇◇◇

 ◇◇

 ◇

 季節が変わり、春がまた巡ってきた。
 私は今日から高校三年生である。
 新しい制服に袖を通し、いつもの帰り道を歩いていた。
 だけど心の奥には、変わらずひとつの思いがある。

 ――あの日の声。あの日の笑顔。
 「必ず、また会いに行く」という約束。

 信じていた。でも、不安もあった。
 夢だったのかもしれない、という現実の重み。

 彼に出会ったのは、丁度一年前くらい。
 高校二年生になったばかりの頃だった。
 
 夜の公園で幽霊と遭遇して、怖くて逃げ出して、そしたら幽霊が家まで着いてきて、話してみたらそんなに悪い奴じゃなくて、一緒にいるうちに仲良くなって、好きになって。

 たった半年、でも凄く幸せで充実した半年だったなぁ。
 幽霊と同居生活で、その人に恋しちゃったなんて、誰に話しても信じないだろうなぁ。

 彼はきっと何処かで生きている。
 それは間違いない。
 彼の事は今でも好き。
 それも本当。

 でも、彼が私との記憶をもって戻れたかは、分からない。
 覚えていてくれたなら嬉しいけど、忘れてしまっていたとしてもうらみはしない。

 あれが夢なら、良い夢だった。
 そんな想いが胸を占めていたとき。

「……中島、咲希さん……だよね?」

 背後から、柔らかく、でも確かな声が届いた。
 聞き間違えるはずがない――あの声。

 私は息を呑んで、ゆっくりと振り返った。
 少し痩せていて、でも優しい眼だけはあの日のまま、まっすぐ私を見つめていた。

「やっと、会えた……遅くなって、ごめん」

 久しぶりの明彦なのに、涙で顔が見えない。

「……ほんとに……? 本田 明彦……?」

 彼は「ふふっ」と微笑み、頷いた。

「全部、思い出した。君と過ごした日々も、僕が誰かも。夢の中で見ていた景色は……全部、君のそばだった」

 伝えたい事が多すぎて、言葉には出来なかった。
 ただ、駆け寄って――夢じゃないことを確かめるように、手を伸ばした。

 触れた手は、温かかった。

「おかえり、明彦」
「ただいま、咲希」

 それは、奇跡のような再会。
 幽霊だった彼が、生きて戻ってきたという現実の中で。

 今度は、ちゃんと同じ時間を生きていける。
 ふわふわと浮かぶような恋は、現実のなかで、ゆっくりと歩き始めた――。

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