黒き眠り姫を起こすのは

面蛸とおる

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黒き眠り姫を起こすのは (健気受け)

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 その扉を、ゆっくりと開いて。

「どうですか? これが私が咲かせた桜です……」と言いながら、飛び込むような勢いで、その中に入って行くと。
「おいおい、そう焦らなくても……。もっとゆっくりでも……って、なんだこれは!?こんな美しい花など、見たこともない」と、

 ランゼルトは驚いた声で大きく言い放ちながら、淡いピンク色に染まる美しい桜の木の下へ。無邪気な子供のような歩みで、一目散にかけて行くので……。

「良かった、あの子達と一緒に、頑張った甲斐がありました」と、

アキツシマはとても喜んだ顔を見せながら、穏やかな声でそう答えてから……。

 ──桜の木の枝に隠れていたメンダコのようで、メンダコとは違う、自身とよく似た黒い髪の毛のような模様がある、青い眼の『アキダコ達』を手招きするので。

「お前たちも、手伝ったのか? いやはや本当に、お前たちも良い子で、可愛いな」

「当然です!! アキダコちゃん達は、私の眷属なんですもの。小さくて愛らしい見た目ですが、何でもできちゃいますよ。嗚呼でも、戦う方向は無理ですが……」

「いや、そこは別に求めてはいない。こんな可愛いらしい見た目の生き物が、襲ってきたら……。人間によっては、トラウマになるから」

「ですよね、確実になると思います……ってそんな事よりも。こちらにお座りくださいませランゼルト様、貴方様の為にご用意したお酒とお食事が。役目を果たしたアキダコちゃん達に、全部食べられちゃいますよ」と、アキツシマは『早くしないと、無くなっちゃいますよ』という感じのニュアンスで言いながら、ランゼルトを市松模様の敷物が敷かれて居る場所へ、座らせてから……。

 ──煌びやかな装飾で彩られた重箱の蓋をとって、その中身を彼に見せると。

「……これって、もしかして? 僕が食べてみたいって、言ってたやつじゃないか」

 箱の中身を見たランゼルトはそう嬉しげに言いながら、箱の中に入っている卵焼きと、漬物と、おにぎりを、まじまじと見つめて、嬉しげに目を細めるので……。

「はい、そうですよ。ランゼルト様が、いつかは食べてみたい。おにぎりと卵焼きとはどういう味なのか……。嗚呼でも、漬物も気になる……と、仰っていたので。今回頑張って、作らせて頂きました!! ですが、その……お口に合えば良いのですが」

 アキツシマは少し不安気にそう答えながらも、箱の中からおにぎりと、卵焼きと、漬物を取り出して、重箱の側に置いてある小皿へ、綺麗に盛り付けてから……。
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