イケニエ

たまこ

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「あ……いないや……昨日の雨…強かったからなぁ、みんなどこかに行っちゃったんだ……」

麻衣ちゃんはガッカリして、その場にしゃがみこみました。

「猫が1匹もいない……どうしよう……これじゃ儀式が……」

麻衣ちゃんは泣きそうになりました。時間がないのにどうしたらいいのだろうとベソをかいていると、


ミ……ミィ……ミィ……


かすかですが猫の鳴き声が聞こえてきました。

麻衣ちゃんは、パッと花が咲いたような笑顔になりキョロキョロと辺りを探します。


どこ? どこ?


麻衣ちゃんは汚れるのも気にせず地面に手を着き、這いつくばって探していると、生い茂る雑草の根元の薄暗い所に、キジトラ模様の小さな子猫がずぶ濡れでガタガタと震えているのを見つけました。
 
「いた! 良かった! これで儀式ができる!」

麻衣ちゃんは、震える子猫をそっと掴みました。

「冷た! 体が冷えてて氷みたい!……あれ?」

おかしいなぁと子猫に違和感を感じます。

なにかが変だと、掴んだ子猫をグルグルまわし眺めていると違和感の原因がわかりました。

おなかを掴まれた子猫は身体の自由を奪われて、弱々しく頭をふったり、前足をジタバタさせたりしてるけど、後ろ足はだらんとのびたままピクリとも動きません。

手でつついてみても、なんの反応もないのです。
 
少し考えて麻衣ちゃんは、子猫を地面においてみました。

子猫は苦しそうにミィミィ鳴きながら、前足だけを懸命に動かしています。

後ろ足は力なくのびたままズルズルと引きずって、頑張っているようですがあまり前には進みません。

「おまえ…もしかして後ろ足が動かないの? だからミーちゃんに置いてかれちゃったの?」

麻衣ちゃんは知りませんでしたが、野良猫の……いえ、野生動物の世界ならよくある事なのです。

生まれた子供が弱くて生き残れないと判断したら、親はその子供を見捨てます。

おそらくこの子猫も後ろ足が動かない事で、雨の中連れて行けず置いていかれたのでしょう。





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