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「長官、宇宙船からの通信ですでにご存じだとは思いますが……」

ランバードは、歩きながらこれから最低でも30年は労働をさせる奴隷について説明を始めた。

「今回潜入した星の生命体は我々程ではありませんが、そこそこの知能があり、根気よく教えれば、奴隷としての仕事を覚えてくれると期待できます。また帰還中、宇宙船の中で生命体の身体を調べたところ、我々に感染するようなウィルスは持っていませんでした」

ランバードの説明に満足そうに頷きながら長官が言った。

「それは安心だな。して、その生命体自体の健康状態はどうなんだ? せっかくランバードが長い時間をかけて、奴隷にできそうな個体を確保したのに、すぐに死んでしまってはかなわんからな」

長官の言葉に他の隊員達もウンウンと頷いている。
確かに、莫大な費用と労力をかけて捕まえた奴隷が、到着して3日で死んでしまったのでは割に合わない。

「ご心配には及びません。生命体の健康状態を調べた時に、体内に無数の病原を発見しましたが、簡単なレーザー治療ですべて完治させておきました。また、筋力が極端に弱っていたのでそれも修復済です。これから始まる過酷な肉体労働にも充分耐えられるでしょう。……おっと、見えてきました。あの川辺で横になっているのがそうです」

ランバードの目線の先を追う長官と隊員達。
横たわる生命体を見た瞬間、彼らは顔を歪ませおののいた。

「な、なんて大きいんだ! それに見た目の醜悪さといったら……まるでバケモノのようじゃないか……! なになに……手足が計4本、目が2つに鼻と口があって、耳の位置は低い。造りは我々と共通するものがあるが……毛もないし皺だらけだし美しさの欠片もない醜さだ……まぁ、それでも温厚な性質というのなら文句は言うまいて。しかしランバード、あんなに大きな生物を拘束も無しに寝かせておいて、本当に大丈夫なのか? 暴れたりしないのかね?」

「大丈夫です。いや、実は私も最初に見た時には驚きました。しかし彼らは……特に奴は図体だけで、性格はとても温厚です。潜入捜査として正体を隠し、5年間一緒に暮らしましたが調教も難しくありませんでした。もはや私の言いなりです。ただ、知能はあまり高くありません。私は奴の言葉を理解できますが、奴はこちらの言葉を理解できません。ボディランゲージと長年連れ添った勘で、なんとか意思疎通ができるいったところでしょうか」

「それでは、奴を起こします」

ランバードの一言に緊張が走る。

ランバードは麻酔でよく眠っている、長官曰くバケモノに迷う事なく近づいた。
長官と隊員達は、自分達よりずっと大きなバケモノに腰が引けて、少し離れた場所から見守っている。

「おーい、ランバード! 本当に大丈夫かー? 応援部隊を呼ぼうかー?」

オロオロする長官に一礼し、「必要ありません」とだけ告げると、ランバードは、いきなり大声を張り上げた。

「いつまで寝ている! さっさと起きろ!」

バケモノはその怒声に小さく呻くものの、まだスヤスヤと眠っている。

「まったくオマエは毎回毎回! とっとと起きて長官達にご挨拶しないか!」

ランバードは更に怒鳴ると、彼の10倍はあろう巨大バケモノの顔に、思いっきりパンチを入れた。

ヒィィッ!!!

叫んだのは、その様子を見ていた長官達だった。
そんな事をして大丈夫なのか?
暴れだしたりしないのか?
そう言いたげに口をパクパクさせているのだが、ランバードの蛮行は容赦なく続く。

「早く起きろ! このウスノロめ! グズグズするな!」

ワザと耳元で大声を出し、頭部を容赦なく殴りつけるというバイオレンス。
それでも中々目を覚まさない事に怒ったランバードは、あろうことかバケモノの顔を両手で押さえつけ、その鼻先を何度も足で蹴った。

長官達は青ざめていた。
いくらなんでもやりすぎだ。
あんなに大きなバケモノが暴れだしたら手に負えない。
ランバードは仕事熱心で、優しく真面目な青年だったはず。
それがあんなにも乱暴者になってしまった。
異星での潜入任務が彼を変えてしまったのだろうか?





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