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家に戻る

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 ドラッグストアでトイレットペーパーを買ってきた。
 二人で住むようになってから消費量が多くなったのだ。一人で住んでいたときよりも軽く三倍以上は使っている。
 そりゃそうだ。オシッコのたびに使っているんだから。

「帰ってきたぞー」
「お帰りー」

 オレの体のワカナさんが出迎えてくれた。もうこの体にも見慣れてきたな。
 家に入るってほどなくすると「ピンポーン」とチャイムの音。
 ドアを開けると見知らぬ初老の男性。

「やっと見つけた。もう逃げられんぞ」
「えっ、何? ちょっと何するんですか」
「パパ!?」

 オレの体のワカナさんが初老の男性に向かって叫んだ。
 ワカナさんのお父さんだったのか。

「お前にパパと呼ばれる筋合いはない!」

 そりゃそうだ、赤の他人からパパ呼ばわりされたりしたら。

「さぁ、帰るぞ」

 腕を掴まれ引っ張られる。

「ちょっと待ってください。その……荷物とかいろいろ準備があるので」
「む、まぁ、そうだな。出ていく準備をしなさい」

 どうやら、ワカナさんのお父さんはドラッグストアを出ていくオレの姿を見て跡をつけてきたらしい。
 お父さんは休みの日は家出したワカナさんを探して歩いているとのこと。

「とりあえず、いったんワタシの家に行って頂戴。そうしないとパパがいつまでも居座っちゃうし」
「うーん、仕方ないなぁ」

 ワカナさんとの密談のうえ、一旦ワカナさんの体には家に戻ってもらうことにした。
 その時はすぐに戻ってこられるかと思っていたが、事態はそんなに簡単ではなかった。
 ワカナさんの家に行くと部屋に閉じ込められ、お母さんの監視のもと外へ出ることはできなかった。
 スマホも取り上げられ、ワカナさんへ連絡を取ることもできない。

「転校が決まったぞ」

 お父さんからの知らせは全寮制の女子高へ転校する話だった。
 厳しいことで有名で、入ったが最後卒業するまで社会へ出ることがないと言われている。
 そんな学校へオレが入ることになってしまったのだ。
 なんとか逃げ出さないと。
 しかし、いい方法が見つからないまま転校の日が来て、オレは社会から隔離されてしまった。


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