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プラネタリウムは密室(仮)ですか?

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――という訳なのですが。何が起こったのかわかるでしょうか?」

尼寺は促されるままに椅子に座り、プラネタリウム番組の終了から退出するまでのことを話してくれた。

「なるほど、全貌はわかった。でもまず初めに、投映中に寝落ちしたらダメだろ」

これは先輩として言っておかないと。

「すみませんでした。つい緊張の糸が緩んでしまって」

「だめだよニージちゃん。眠るにしても有事のときに対応できるように浅い眠りを会得しなきゃ!」

素直に謝る尼寺に対し余計なことを教える家名。お前も寝てるのかよ。

「精進します。今度そのコツを教えてください」

「素直かよ。投映中寝ていると公言した家名は後でシメるとして、もう少し詳しく話を聞こうか。まず入場者は28人で確実なのか?」

え? わたし? 冗談ですよ! と狼狽える家名をよそに、尼寺は一考した後答える。

「はい。総観覧者28人でした。観覧券もしっかり28枚回収しました。完全数です」

頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる家名。

「えっと、完全数ってなんですか?」

聞き慣れない言葉だからな。少し説明してやる。

「自身を除く約数の和に等しくなる自然数のことだ。28の自分以外の約数は1,2,4,7,14。それらを全て足すと28になる。よくこんなの瞬時にわかったな」

「大学は数学科でしたから。それにさっきの回の客さんは、おひとり様が1組と4組、カップルが1組、親子連れが2組7名、団体が1組14名でしたから。ちょうど完全数だなと投映中に気が付きました」

「しかし退場した客を数えてみると27人しかいなかったと」

「はい。お客さんが全員退出してから扉を閉めると習いましたので、そこはしっかり数えていました」

「俺は客が全員いなくなったのに扉を閉めない尼寺を不審に思い様子を見にいった。プラネタリウムの中には隠れそうな場所はないから、見渡せば客がいるかどうかはすぐにわかる」

尼寺の記憶力を信じるなら投映開始から終了までに観覧客が一人消失したと。そんなことが果たして実際に起きるものなのか。

「先の投映中何か気になること、気になる客はいなかったか?」

「えっと……」

無表情に少し躊躇いが滲む。

「なんだ。なんでも言ってみろ」

「はい、いびきと寝言が大きなお客様がいました。黒いコートを羽織った男性で、寝言で『ごめんなさい』『許してくれ』なんて言っていました」

プラネタリウムで眠る客は多い。言い淀んだ割にはこの件には関わりのない情報のようだ。まあ初めてプラネタリウムの担当になった尼寺には変わったできごとだったんだろうが。
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