でもずっと傍にいれば君が僕のことを好きになってくれる日も来るかもしれない。

ぽい

文字の大きさ
1 / 1

幸せになりたいだけ、だよ

しおりを挟む
好きな人と結ばれた手前、どうしてこんなことを思うのか。彼女に好意を持ち始めた頃の俺は、ただ毎日何かある度に幸せで、浮いた気持ちを抑えられず過ごしていたというのに。
木漏れ日の差し込む旧校舎。その中で一番大きな教室、美術室は、絵の具のツンとした匂いがする。馴染みがあって心地よく、少しだけ気持ちが落ち着いた。俺は誰もいないそこを見渡すと、そのまま突っ切るように一番奥のいつもの席に腰掛けた。
ふう、とため息を着く。顧問も部員も来るのが疎らな美術部。みんな部活に対してゆったりとしているのでホームルームが終わってすぐ駆けつけるのは俺くらいだった。
地味なリュックからノートとペン入れを取り出すと心の奥からじゅくじゅく血が滲むような感じがした。痛い痛い、彼女に気持ちを伝えてからずっと、ずっと痛い。
「林谷くん~~~。」
名前を呼ばれる。大好きな、大好きな彼女の声だった。心臓がばくんと揺れる。サラサラの茶色のセミロング。彼女が隣の席に座った。自然に上がった睫毛は、大きな目の可愛らしさを強調させる。にっこりとさせた薄い唇が綺麗。笑っているのだ。彼女は。
「どうしたの、海原さんが美術室になんて。」
「う~~ん。」
一秒だけ、間を開けて。
「会いに来たの、林谷くんに。」
「部活は?吹奏楽って平日休みないんじゃなかったっけ。」
僕がそう言うと髪を指に絡ませて目を伏せた。直ぐにパッと笑顔に戻る。隠してるつもりなんだろうけど、それは面倒くさいことを聞かれた時の彼女の癖。今年同じクラスになる前から観察していたから、僕にはよく分かる。
「ちょっと、お腹痛くて。」
そっか、と僕の声が空気の乾いた空間に消えた。絵を描こうとしてた途中なので、ペンを持ち適当に思いついたものをサラサラ描く。
「なにこれ、いぬ?」
「これは、海原さんに似てるいぬ。」
「なにそれ~。」
彼女がけらけらと笑う。僕がねこやうさぎなどを描くと、「本当に」嬉しそうだった。適当な会話を続けていると、ふと彼女がまた睫毛を伏せる。チラりと視線を移すと、うっすらと潤みの滲んだ目が揺れていた。

「ねえ、キスしよっか。」

身体の芯が熱くなった。
何度彼女と唇を重ねても、その柔らかさにはなれない。欲情して止まらなくなって、どんどん激しくなってしまう。どこからが香る、澄んだ花のような女の子の匂いが堪らなくて、本当に本当に気持ちがいい。何度しても、気持ちがいいと思ってしまう。
━━━━━━━━彼女は、彼女は、本当は泣いているのに。

気持ちよかったね、と彼女は笑った。そのまま僕の手をしばらく握った後、また最後に微笑んで、そのまま美術室から姿を消した。部活に戻ったのだろう。

俺は知っている。彼女が僕といる時、どうしてずっと、ずっと笑っているのかを。それが素直に好意と呼ばれる感情から来ているものでは無いことを。
二人で歩いて帰る時も、お弁当を食べる時も、キスをする時も。彼女は、いつも笑っていた。苦しそうに。弧を描くそれはいつも小刻みに震えていて、小さな白い手は冷えきっていることも、知っていた。知っているのだ、俺は。

彼女は男性恐怖症だ。小さな頃に強姦にあったことがあるらしいと、保護者達が噂してるのを聞いたことがある。
それを知っているのに、彼女は男に触れるのが怖くて怖くて仕方をないのに、僕はキスをしていた。克服したいという彼女の気持ちに漬け込んで、本当は辛いのが分かっているのに、身体を触っていた。


明日も、俺はきっとやめられない。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?

無色
恋愛
 子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。  身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

処理中です...