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第四章 守護鳥の夢
永遠の孤独
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オゼ
アオチだけがまだ話について来れていない。
「どういう意味だ?」
今、俺が言っても良いんだろうか。オオミに助けを求める。
「オゼさん、しっかりして下さい。あなたが、今を生きている人なんですから」
それもそうだ。
俺以外いないじゃないか――俺を説得するのは。
「オゼ……?」
不安気なアオチが可哀想だ。
「冷静に聞いてくれよ。お前、俺なんだよ」
最初、アオチは笑った。だが、誰も笑っていないどころか悲痛な顔で自分を見つめていることに気づいて、急に怯えた表情になった。
駄目だ、俺にはこれ以上説明ができない。俺だってわかった時には混乱した。
「……俺が代わりに説明してやろうか? こんな事を本人に話すのは初めてで上手くできるかわからないが」
回収人が俺の肩に手を置いて優しく言った。死んだ父さんみたいな温かくて、大きな手。
涙も拭かずその顔を見上げ、答えた。
「お願い……できるか?」
「おい、ちょっとは泣き顔を隠せよ。子どもみたいじゃないか」
回収人が笑う。
「アオチ、お前だけが気がついてなかったんだ。お前はオゼの心の中のもう一人のオゼだよ。おっと、最後まで話させてくれ。お前はちゃんとオゼの中で生きている。死人じゃない。それに、オゼが多重人格とか、そんなんでもない。一人の人間が複数の顔を持つなんて当たり前だろ? お前、いつでも、どこでも、誰にでも、何があっても、人が変わらないやつを一度でも見たことがあるか? あるとしてもそれは勘違いだ。お前、そいつの何を知ってる。二十四時間毎日一緒にいるのか? 心の中が見えるのか? そうだよ、人は何人もの自分を心に持っているのが普通なんだ。オゼはお前になりたい時にお前になる。お前と一緒に居たい時はお前と一緒に居る。そうやって自分を作っている」
アオチは黙って下を向いたままだ。どうしよう、近づこうか。肩を抱いても良いだろうか。
――許して欲しい。お前みたいな良いやつが、俺なんかの中に住んでいること。
近づきたいけど、怖くて近づけない、自分なのに――。
ふと、俺の横をオオミが走り抜けて、アオチに飛びついた。
「アオチさん、泣きたいんでしょ。泣いてください。あなたはオゼさんが一番強かった時の残像なんです。かっこいいアオチさん、僕の心配をしてくれるアオチさん、僕のために怒ってくれるアオチさん、僕はオゼさんよりアオチさんが好きです」
何てこと言うんだよ。普段の俺なら怒っていたかも知れない。
でも今は無理だ。オオミの言う通りなんだ。
アオチが顔を少しだけ上げた。その表情を確認したいのに、こんな時に限って、赤い星雲が邪魔をして見えない。
俺が動けばいいだけなのに、身体が何かに掴まれているように動かない。そう、例えば大きな鳥の爪で抑えられているように。
「アオチは大丈夫だよ」
そう言って肩を押してくれたのは、やっぱり回収人だった。
半歩ずつアオチに近づく。確認したかったその顔は、小学生の頃の生命の塊だった時の俺のものだ。
監視鳥も欲しがるほどに生きていた頃の俺。
おばさんもマモルも憧れる、馬鹿みたく正しかった頃の俺だ。
ずっと心に持っていた。今でも俺を助けてくれる。
やっと手が届く距離まで来て、その肩をオオミごと抱いた。
誰も怒っていない。良かった。俺は俺に会えた――。
「うらやましい」
そう聞こえて、二人の頭に埋めていた顔を上げた。
無言ちゃんが俺たちをじっと見ていた。
「無言ちゃんの方はどういう経緯で――」
話し出だそうとした無言ちゃんをローヌが手で制した。
「それは僕から話すよ。無言ちゃんにとっては辛いことだし、僕にとっては罪だから」
アオチだけがまだ話について来れていない。
「どういう意味だ?」
今、俺が言っても良いんだろうか。オオミに助けを求める。
「オゼさん、しっかりして下さい。あなたが、今を生きている人なんですから」
それもそうだ。
俺以外いないじゃないか――俺を説得するのは。
「オゼ……?」
不安気なアオチが可哀想だ。
「冷静に聞いてくれよ。お前、俺なんだよ」
最初、アオチは笑った。だが、誰も笑っていないどころか悲痛な顔で自分を見つめていることに気づいて、急に怯えた表情になった。
駄目だ、俺にはこれ以上説明ができない。俺だってわかった時には混乱した。
「……俺が代わりに説明してやろうか? こんな事を本人に話すのは初めてで上手くできるかわからないが」
回収人が俺の肩に手を置いて優しく言った。死んだ父さんみたいな温かくて、大きな手。
涙も拭かずその顔を見上げ、答えた。
「お願い……できるか?」
「おい、ちょっとは泣き顔を隠せよ。子どもみたいじゃないか」
回収人が笑う。
「アオチ、お前だけが気がついてなかったんだ。お前はオゼの心の中のもう一人のオゼだよ。おっと、最後まで話させてくれ。お前はちゃんとオゼの中で生きている。死人じゃない。それに、オゼが多重人格とか、そんなんでもない。一人の人間が複数の顔を持つなんて当たり前だろ? お前、いつでも、どこでも、誰にでも、何があっても、人が変わらないやつを一度でも見たことがあるか? あるとしてもそれは勘違いだ。お前、そいつの何を知ってる。二十四時間毎日一緒にいるのか? 心の中が見えるのか? そうだよ、人は何人もの自分を心に持っているのが普通なんだ。オゼはお前になりたい時にお前になる。お前と一緒に居たい時はお前と一緒に居る。そうやって自分を作っている」
アオチは黙って下を向いたままだ。どうしよう、近づこうか。肩を抱いても良いだろうか。
――許して欲しい。お前みたいな良いやつが、俺なんかの中に住んでいること。
近づきたいけど、怖くて近づけない、自分なのに――。
ふと、俺の横をオオミが走り抜けて、アオチに飛びついた。
「アオチさん、泣きたいんでしょ。泣いてください。あなたはオゼさんが一番強かった時の残像なんです。かっこいいアオチさん、僕の心配をしてくれるアオチさん、僕のために怒ってくれるアオチさん、僕はオゼさんよりアオチさんが好きです」
何てこと言うんだよ。普段の俺なら怒っていたかも知れない。
でも今は無理だ。オオミの言う通りなんだ。
アオチが顔を少しだけ上げた。その表情を確認したいのに、こんな時に限って、赤い星雲が邪魔をして見えない。
俺が動けばいいだけなのに、身体が何かに掴まれているように動かない。そう、例えば大きな鳥の爪で抑えられているように。
「アオチは大丈夫だよ」
そう言って肩を押してくれたのは、やっぱり回収人だった。
半歩ずつアオチに近づく。確認したかったその顔は、小学生の頃の生命の塊だった時の俺のものだ。
監視鳥も欲しがるほどに生きていた頃の俺。
おばさんもマモルも憧れる、馬鹿みたく正しかった頃の俺だ。
ずっと心に持っていた。今でも俺を助けてくれる。
やっと手が届く距離まで来て、その肩をオオミごと抱いた。
誰も怒っていない。良かった。俺は俺に会えた――。
「うらやましい」
そう聞こえて、二人の頭に埋めていた顔を上げた。
無言ちゃんが俺たちをじっと見ていた。
「無言ちゃんの方はどういう経緯で――」
話し出だそうとした無言ちゃんをローヌが手で制した。
「それは僕から話すよ。無言ちゃんにとっては辛いことだし、僕にとっては罪だから」
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