鳥に追われる

白木

文字の大きさ
80 / 94
第四章 守護鳥の夢

永遠の孤独

しおりを挟む
オゼ


 アオチだけがまだ話について来れていない。

「どういう意味だ?」

 今、俺が言っても良いんだろうか。オオミに助けを求める。

「オゼさん、しっかりして下さい。あなたが、今を生きている人なんですから」

 それもそうだ。

 俺以外いないじゃないか――俺を説得するのは。

「オゼ……?」

 不安気なアオチが可哀想だ。

「冷静に聞いてくれよ。お前、俺なんだよ」


 最初、アオチは笑った。だが、誰も笑っていないどころか悲痛な顔で自分を見つめていることに気づいて、急に怯えた表情になった。

 駄目だ、俺にはこれ以上説明ができない。俺だってわかった時には混乱した。

「……俺が代わりに説明してやろうか? こんな事を本人に話すのは初めてで上手くできるかわからないが」

 回収人が俺の肩に手を置いて優しく言った。死んだ父さんみたいな温かくて、大きな手。

 涙も拭かずその顔を見上げ、答えた。

「お願い……できるか?」

「おい、ちょっとは泣き顔を隠せよ。子どもみたいじゃないか」

 回収人が笑う。

「アオチ、お前だけが気がついてなかったんだ。お前はオゼの心の中のもう一人のオゼだよ。おっと、最後まで話させてくれ。お前はちゃんとオゼの中で生きている。死人じゃない。それに、オゼが多重人格とか、そんなんでもない。一人の人間が複数の顔を持つなんて当たり前だろ? お前、いつでも、どこでも、誰にでも、何があっても、人が変わらないやつを一度でも見たことがあるか? あるとしてもそれは勘違いだ。お前、そいつの何を知ってる。二十四時間毎日一緒にいるのか? 心の中が見えるのか? そうだよ、人は何人もの自分を心に持っているのが普通なんだ。オゼはお前になりたい時にお前になる。お前と一緒に居たい時はお前と一緒に居る。そうやって自分を作っている」

 アオチは黙って下を向いたままだ。どうしよう、近づこうか。肩を抱いても良いだろうか。

 ――許して欲しい。お前みたいな良いやつが、俺なんかの中に住んでいること。

 近づきたいけど、怖くて近づけない、自分なのに――。

 ふと、俺の横をオオミが走り抜けて、アオチに飛びついた。

「アオチさん、泣きたいんでしょ。泣いてください。あなたはオゼさんが一番強かった時の残像なんです。かっこいいアオチさん、僕の心配をしてくれるアオチさん、僕のために怒ってくれるアオチさん、僕はオゼさんよりアオチさんが好きです」

 何てこと言うんだよ。普段の俺なら怒っていたかも知れない。

 でも今は無理だ。オオミの言う通りなんだ。

 アオチが顔を少しだけ上げた。その表情を確認したいのに、こんな時に限って、赤い星雲が邪魔をして見えない。

 俺が動けばいいだけなのに、身体が何かに掴まれているように動かない。そう、例えば大きな鳥の爪で抑えられているように。

「アオチは大丈夫だよ」

 そう言って肩を押してくれたのは、やっぱり回収人だった。

 半歩ずつアオチに近づく。確認したかったその顔は、小学生の頃の生命の塊だった時の俺のものだ。

 監視鳥も欲しがるほどに生きていた頃の俺。

 おばさんもマモルも憧れる、馬鹿みたく正しかった頃の俺だ。

 ずっと心に持っていた。今でも俺を助けてくれる。

 やっと手が届く距離まで来て、その肩をオオミごと抱いた。

 誰も怒っていない。良かった。俺は俺に会えた――。


「うらやましい」

 そう聞こえて、二人の頭に埋めていた顔を上げた。

 無言ちゃんが俺たちをじっと見ていた。

「無言ちゃんの方はどういう経緯で――」

 話し出だそうとした無言ちゃんをローヌが手で制した。

「それは僕から話すよ。無言ちゃんにとっては辛いことだし、僕にとっては罪だから」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...