80 / 113
第4話 緑の丘 : 私をいつも励ましてくれる、緑の丘と、クジラのバンダナ。
4.小さな背(4/4)
しおりを挟む
私達は、急な坂を並んでゆっくり歩いた。
一番上まで登りきると、頂上は驚くほどに狭かった。
「ラズ、疲れてないか?」
「うん。大丈夫……」
疲れていないことはないけれど、なんだか気持ちのいい達成感があった。
ザアッとそこらじゅうの木々を揺らしてひときわ強い風が吹く。
汗ばんだ体に、涼しい風が心地良い。
その風に乗って、黒くて丸い風船のような物が、私の頭上を通り過ぎた。
「え!?」
慌てて視線で行方を追うと、そこには浮海へと向かって飛ぶ子クジラの姿だった。
……一瞬、スカイのバンダナが飛んでいったのかと思った……。
「まだ残ってたのがいたんだな」
スカイが、風に乗って……というより風に翻弄されつつ飛んで行く子クジラの後姿を見つめながら呟いた。
「毎年、暑くなってくる頃には子クジラ達は皆あの浮海へ帰るんだ」
「ふーん……」
じゃあ、クロマルも、元気なら今頃あの海で泳いでたんだ……。
「ラズ」
名前を呼ばれて隣を見ると、ラベンダー色の瞳が真っ直ぐにこちらを見つめていた。
ああ、そっか。背の高さが同じくらいだから、真っ直ぐに目が合うんだ……。
じっと、思いつめたような必死さで見つめられて、スカイから目が離せない。
「スカイ君……どうか……した?」
「いいか、ラズ、よく聞けよ」
「う、うん……」
何だろう。怒られるのかなぁ……。
そうだよね。私、またスカイ君にいっぱい迷惑かけちゃって……。
ああ、そうだ。
まだ私、スカイ君にごめんなさいって言ってない……。
「その、だ。こないだは、その……」
スカイが何かを言いかける。
と、とにかくここは先に謝っちゃおう!!
「ごめんなさい!!」
ぶんっと思いっきり頭を下げる。
「は?」
スカイの、とても間の抜けた声が聞こえた。
あれ?
ちらり、と姿勢はそのままに顔だけ上げて見ると、
スカイはぽかんと口を開けていた。
「ぶふっ」
堪えきれず噴出す。
「な、な、なんでスカイ君そんな顔なの?」
なんだろう。いつも眉間にしわを寄せているような、そんなしかめっ面の男の子が、もうほんとに心の底からきょとんとした顔で、目も口も丸くして、なんでそんなおかしな顔が出来ちゃうんだろう。
笑っても笑っても、その瞬間の表情が脳裏から消えなくて、そのままその場に座り込んで笑い転げる。
いや……ちょっと……も、も、もうダメだ……。
息が続かなくなって涙が出てきた。
謝った直後に大笑いじゃ誠意もあったもんじゃないな、とは思うのだけれども。
「なっ! なんで笑うんだよ!!!!!!」
スカイの叫びが、なんとも哀れに響いた。
やっと、笑いが収まってきた頃、私に合わせてか、隣に座り込んだスカイが、背中を向けたまま話し始めた。
「まあ、あれだ。それだけ笑えるならよかったよ」
その声にはどことなくげんなりとした響きも含まれていたが、それは気付かなかったことにしておこう。
「あのな、ラズ、これからは、俺が傍にいるからな」
「うん」
デュナお姉ちゃんも、フローラおばさんもいてくれる。
私は決して一人ぼっちじゃないって、ちゃんと分かったよ。
「ずっと、ずっと傍にいるからな」
「……うん?」
「お前より先になんて、ぜっっっったい死なないからな」
ああ。そういう事か。
「クロマルも居るからな」
言われて、その頭のバンダナを見る。
スカイが、ゆっくりこちらを振り返る。
その顔は、やはり怒ったようなしかめ面で、その頬はやはり真っ赤だった。
「だから、もう泣くなよ」
「う、うん……」
そのバンダナが、仮にクロマルの代わりだとしても、
それがどう繋がったらそういう結論になるのかは分からなかったけれど、スカイがスカイなりに私の事を考えて起こしてくれた行動だという事だけは、痛いほどに伝わった。
じっと、青い髪の向こうから、吊り上がったラベンダーの瞳に射竦められて、ふと思う。
「……じゃあ、スカイ君も、すぐ怒るのやめてくれる?」
「え」
ラベンダーの瞳が、動揺するように揺れる。
「お、怒ってない、ぞ?」
そうは言われても、そう見えないのだから困る。
「じゃあえーと……。急に大声出さないで、あと、恐い顔しないでくれると、嬉しいかも……」
そうすれば、きっと怒っているように見えることもないだろう。
実際、スカイの発言だけを見れば、確かに怒っているわけではないようだし……。
「恐い顔……?」
「うん、その、眉間のシワとか」
スカイが、言われてはじめて気づいたとばかりに、眉間に触れる。
「分かった。努力する」
素直に頷いたスカイを見て、何だか急に微笑ましい気持ちになった。
「ありがと、スカイ君」
笑いかけると、途端にスカイも嬉しそうな笑顔になる。
普段はツリ目の癖に、どうして笑顔はこうも人懐っこく見えるんだろう。
可愛いなぁ。
ああ、そっか。
スカイ君は、可愛い男の子なんだ。
真っ直ぐで、いつでも一生懸命で、時々恐いけど、本当は優しいスカイ君。
なんとなく、スカイ君を虐めたがるデュナお姉ちゃんの気持ちが分かったような気がした。
一番上まで登りきると、頂上は驚くほどに狭かった。
「ラズ、疲れてないか?」
「うん。大丈夫……」
疲れていないことはないけれど、なんだか気持ちのいい達成感があった。
ザアッとそこらじゅうの木々を揺らしてひときわ強い風が吹く。
汗ばんだ体に、涼しい風が心地良い。
その風に乗って、黒くて丸い風船のような物が、私の頭上を通り過ぎた。
「え!?」
慌てて視線で行方を追うと、そこには浮海へと向かって飛ぶ子クジラの姿だった。
……一瞬、スカイのバンダナが飛んでいったのかと思った……。
「まだ残ってたのがいたんだな」
スカイが、風に乗って……というより風に翻弄されつつ飛んで行く子クジラの後姿を見つめながら呟いた。
「毎年、暑くなってくる頃には子クジラ達は皆あの浮海へ帰るんだ」
「ふーん……」
じゃあ、クロマルも、元気なら今頃あの海で泳いでたんだ……。
「ラズ」
名前を呼ばれて隣を見ると、ラベンダー色の瞳が真っ直ぐにこちらを見つめていた。
ああ、そっか。背の高さが同じくらいだから、真っ直ぐに目が合うんだ……。
じっと、思いつめたような必死さで見つめられて、スカイから目が離せない。
「スカイ君……どうか……した?」
「いいか、ラズ、よく聞けよ」
「う、うん……」
何だろう。怒られるのかなぁ……。
そうだよね。私、またスカイ君にいっぱい迷惑かけちゃって……。
ああ、そうだ。
まだ私、スカイ君にごめんなさいって言ってない……。
「その、だ。こないだは、その……」
スカイが何かを言いかける。
と、とにかくここは先に謝っちゃおう!!
「ごめんなさい!!」
ぶんっと思いっきり頭を下げる。
「は?」
スカイの、とても間の抜けた声が聞こえた。
あれ?
ちらり、と姿勢はそのままに顔だけ上げて見ると、
スカイはぽかんと口を開けていた。
「ぶふっ」
堪えきれず噴出す。
「な、な、なんでスカイ君そんな顔なの?」
なんだろう。いつも眉間にしわを寄せているような、そんなしかめっ面の男の子が、もうほんとに心の底からきょとんとした顔で、目も口も丸くして、なんでそんなおかしな顔が出来ちゃうんだろう。
笑っても笑っても、その瞬間の表情が脳裏から消えなくて、そのままその場に座り込んで笑い転げる。
いや……ちょっと……も、も、もうダメだ……。
息が続かなくなって涙が出てきた。
謝った直後に大笑いじゃ誠意もあったもんじゃないな、とは思うのだけれども。
「なっ! なんで笑うんだよ!!!!!!」
スカイの叫びが、なんとも哀れに響いた。
やっと、笑いが収まってきた頃、私に合わせてか、隣に座り込んだスカイが、背中を向けたまま話し始めた。
「まあ、あれだ。それだけ笑えるならよかったよ」
その声にはどことなくげんなりとした響きも含まれていたが、それは気付かなかったことにしておこう。
「あのな、ラズ、これからは、俺が傍にいるからな」
「うん」
デュナお姉ちゃんも、フローラおばさんもいてくれる。
私は決して一人ぼっちじゃないって、ちゃんと分かったよ。
「ずっと、ずっと傍にいるからな」
「……うん?」
「お前より先になんて、ぜっっっったい死なないからな」
ああ。そういう事か。
「クロマルも居るからな」
言われて、その頭のバンダナを見る。
スカイが、ゆっくりこちらを振り返る。
その顔は、やはり怒ったようなしかめ面で、その頬はやはり真っ赤だった。
「だから、もう泣くなよ」
「う、うん……」
そのバンダナが、仮にクロマルの代わりだとしても、
それがどう繋がったらそういう結論になるのかは分からなかったけれど、スカイがスカイなりに私の事を考えて起こしてくれた行動だという事だけは、痛いほどに伝わった。
じっと、青い髪の向こうから、吊り上がったラベンダーの瞳に射竦められて、ふと思う。
「……じゃあ、スカイ君も、すぐ怒るのやめてくれる?」
「え」
ラベンダーの瞳が、動揺するように揺れる。
「お、怒ってない、ぞ?」
そうは言われても、そう見えないのだから困る。
「じゃあえーと……。急に大声出さないで、あと、恐い顔しないでくれると、嬉しいかも……」
そうすれば、きっと怒っているように見えることもないだろう。
実際、スカイの発言だけを見れば、確かに怒っているわけではないようだし……。
「恐い顔……?」
「うん、その、眉間のシワとか」
スカイが、言われてはじめて気づいたとばかりに、眉間に触れる。
「分かった。努力する」
素直に頷いたスカイを見て、何だか急に微笑ましい気持ちになった。
「ありがと、スカイ君」
笑いかけると、途端にスカイも嬉しそうな笑顔になる。
普段はツリ目の癖に、どうして笑顔はこうも人懐っこく見えるんだろう。
可愛いなぁ。
ああ、そっか。
スカイ君は、可愛い男の子なんだ。
真っ直ぐで、いつでも一生懸命で、時々恐いけど、本当は優しいスカイ君。
なんとなく、スカイ君を虐めたがるデュナお姉ちゃんの気持ちが分かったような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
きみのもとにかえる
アリス
児童書・童話
雨のふらない日がつづき、水もなく動けなくなったカエルの「ぼく」は、女の子のきららとそのお母さんに助けられる。実は「ぼく」は、どんな願いも三つだけかなえる不思議な“ホシニカエル”。
お母さんは欲望から二つの願いを使い、最後の願いはきららの「お母さんがしあわせになりますように」。その願いがかなったとき、家族に本当の幸せが訪れる――。
「一部生成AIを用いて制作支援を受けました」
モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!
少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い……
「昔話をしてあげるわ――」
フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?
☆…☆…☆
※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
【完結】落ちこぼれと森の魔女。
たまこ
児童書・童話
魔力が高い家系に生まれたのに、全く魔力を持たず『落ちこぼれ』と呼ばれるルーシーは、とっても厳しいけれど世話好きな魔女、師匠と暮らすこととなる。
たまにやって来てはルーシーをからかうピーターや、甘えん坊で気まぐれな黒猫ヴァンと過ごす、温かくて優しいルーシーの毎日。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
うちゅうじんのかこちゃん
濃子
絵本
「かこちゃんは あきらめない」
発達ゆっくりさんのかこちゃんを、友達に笑われたお姉ちゃん
かこちゃんは変じゃないんだよ、かこちゃんはこんないいこなんだよ
ねーねと同じ みんないいこ
オバケの謎解きスタンプラリー
綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます!
――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。
小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。
結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。
だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。
知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。
苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。
いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。
「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」
結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか?
そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか?
思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる