月夜のフクロウ

弓屋 晶都

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ある所に、つやつやした毛並みの綺麗な黒猫がいました。
猫は大きくて立派なお家で皆に可愛がられ、それはそれは大切に育てられていました。

月の綺麗な夜でした。
猫は、いつものように三階の窓辺で月をながめていました。
この窓辺は猫の特等席です。
ぽかぽかの日がさす午後も、皆の寝静まった深夜も、猫はこの場所で外をみていました。

月光が一瞬遮られて、猫は視線を上げました。
羽音一つ立てずに、一羽のフクロウが窓辺の木の枝に止まっていました。
猫は、こんなに大きな鳥を見るのは初めてでした。
ゆっくりと翼を広げて羽づくろいをするその姿は、月の光を浴びて神々しく輝いています。
猫は、フクロウから目が離せませんでした。

「何を見ている?」
視線に気付いたフクロウが話しかけてきました。
「お外を見てるの」
本当はもっと気のきいた事を言いたかったのですが、突然の出来事に慌てた猫にはこれが精一杯でした。
「楽しいか?」
「もちろんよ。だってお外では色んな事が起こるもの」
「ふむ……。それなら君も出てきたらどうだ」
猫はびっくりしました。こんな事を言われたのは初めてだったのです。
「だめよ。お外は危ないから出ちゃいけないって言われてるのよ」
「そうか。それは残念だな」
フクロウは静かに飛び立ちました。
「また来てくれる?」
「気が向いたらな」
フクロウのそっけない返事だけが、冷たい空から返ってきました。
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