絶望の終わり

雪紫

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本の感想を読み終わり、順番に風呂に入る。大抵最初に入るのはダリルだ。
さきほどまで楽しく談笑出来ていたダリルだが、風呂から出たらもうベッドだと実感し、先のことを思い悩んだ。

デューイに拒否されたら、どうなってしまうんだろうとダリルは考える。デューイの気持ちがただの同情で、ダリルに好意を抱いてなかったら……汚れた身体に触れたくないと思われていたら。

(怖い……)

だが、デューイが無理してまでダリルと一緒にいることは望んでなかった。自分が枷になることは避けたい。
初めはデューイに好きだと言われ、それに応えたいと思った。それが、好きという感情だと思っていた。ダリルは交際から3ヶ月で、好きの意味を知る。目が合うととくとく鼓動が速まり、キスをすると心の内から暖かくなる、抱きしめられると自分はこの上なく幸せだと感じた。
自分はこれ以上を望むなんて、欲深い人間なんだろうか。もっと、触れたい、触れられたいと望んでしまった。

湯船に浸かりながら、重いため息をつく。逆上せそうになったダリルは十分温まった身体で風呂を出た。
ダリルが出ると交代にデューイが入り、ダリルの緊張は高まる。なんて切り出そうか、どう言おうか、そう考える間は時間が早く過ぎ去り、あっという間にデューイは風呂を終えていた。

テーブルに座っていたダリルは重い腰を上げベッドへと向かった。

今日は、最後までしたい、ダリルはそう思いながらデューイに顔を近づける。デューイはそんなダリルの腰を抱き寄せて唇を何度も重ね合わせた。ダリルは控えめに舌を出し、自分から深いキスを強請った。

「……どうした?今日はやけに積極的だな」

言葉に驚きを乗せつつも、デューイは嬉しそうに目を細めてダリルに問う。

「その……あのね」
「うん」
「僕……、デューイさんと、その……最後まで、したい」

言ってしまった。俯いてデューイの言葉を待つ。緊張のあまり、手が微かに震えている。

「無理すんなよ。ダリルはそんなことなんざしなくていい」

“そんなこと”と言われ、ダリルの心臓がズキンと痛んだ。デューイはいつも触れたくないのに、無理して僕と触れ合っていたんだろうか、とダリルは考える。デューイに、無理させてまで一緒に居たくない、なんて思っていたけど、それ以上に離れたくない、と強く感じた。

「……ぼく、いやだ。き、嫌いにならないで……」

子どもが親に縋るように泣きつく。12歳で家族を失い、拠り所の無かったダリル。今のデューイの傍は、ダリルにとって唯一の居場所と言ってもいい。

「だっ、ダリル?嫌うわけねえだろ?どうした?」

戸惑った声を上げたデューイの大きい手のひらが、小さな背中を摩る。

「なんかあるなら言ってみな?嫌わねえから、絶対」
「デューイさんが、……デューイさんが無理して僕と一緒に居るのは……、やだ、けど離れるのもやだ……」
「なんだ?何がどうして俺らが離れる事になるんだ?」

ダリルはデューイの胸板に顔を寄せながら、見上げる。目が合うと、デューイはにこりとほくそ笑み、「ゆっくりでいいから、話してみろよ」とダリルの茶髪を優しく撫でた。

「夜、デューイさんと、キスとか、その……いろいろするけど、デューイさんが、無理してやってくれてるって。でも、僕が欲しがるから、デューイさん優しいから……」
「俺が無理してダリルに触れてるって?」

ダリルはこくんと頷いた。

「で、お前と最後までしないのは、俺がダリルを好きじゃねえから……って結論に至ったのか?」
「……そんな、感じ……」
「そうか、俺が不安にさせてたんだな」

ぎゅうっと、抱かれる腕に力が入るのが分かる。

「怖がられるんじゃないかって、……お前に、ダリルに酷いことをしたヤツらと一緒になるんじゃねえかって……、手を出すのが怖かった」
「僕が……、嫌いでも、汚いからでも……ないの?」
「そんなわけ、ある訳ねえだろ」
「よかった……」

緊張で強ばった身体から力が抜けるのがわかった。嫌われたわけじゃなかった、僕が汚いから触れたくないという訳でもなかった、とダリルは一先ず安堵する。
休む暇もなく、身体をまるで性欲の吐き溜めのように使われた忌々しい記憶。誰にされたのか顔なんて覚えている訳でもないが、その人達とデューイが同じなるわけが無い。

「俺らは互いに考えすぎてたんだな」

ダリルの額に軽くキスを落とされる。
デューイは過去を気にして手を出さず、ダリルは手を出してこないことを過去や自分のせいだと思い込んだ。

「うん、そうみたい」

ダリルははにかんだ笑みを浮かべて、デューイに甘えるように擦り寄った。




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