傲慢な戦士:偽

ヘイ

文字の大きさ
30 / 88

第28話

しおりを挟む
「君には日没と共に山本君とアスタゴに上陸してもらう」
 事務連絡の様に冷淡な声が少しばかり広い部屋に響いた。
『あの、間磯が死んだというのは本当なのでしょうか?』
「残念だがね……。だが、そのおかげで戦力は分散されている。君と山本君の力で道を切り開くのだ」
 無線機に向けて岩松は指示を出す。
 岩松の予想通り、タイタンの数はリーゼの数を上回るが、それも問題はない。何より、マルテアとグランツ帝国の支援もある。
「アスタゴの東海岸から攻撃を仕掛ける。マルテアとグランツ帝国の応援もある」
 上陸前に合流し、突破できるだけの戦力で突っ込めと言うことだ。
「指令は以上だ」
 岩松は返答を聞かずに通信を切った。自分に歯向かうわけがないという自信があったからだろう。
 通信が終わったのを見計ったかの様に、扉が叩かれた。
「入ってきたまえ」
 三度のノックの音を聞いて、岩松が告げると、扉がギイと音を立てて開かれた。
「坂平君」
 入ってきたのは軍服を着た男性、坂平だった。
「残念ながら間磯君は死んでしまった様だ」
 椅子から立ち上がり岩松は坂平の隣に立つ。
「それを指示したのは、岩松大将ですよね……」
 こうなることは分かっていたはずだ。単独で間磯をアスタゴ合衆国に送り込み、西方からの攻撃を警戒させる。
「私は指令としての判断をした。死んだのは彼に、生き残るだけの実力がなかったからだ」
 非情な男だ。
 冷酷な男だ。
「さて、そこで君には次の兵士を選んでもらいたい」
「私が、ですか……?」
 坂平は顔を青ざめさせる。
 怖いのだ。ガチガチに体が震えるのを坂平は感じている。もし、ここで彼が選択をして子供の命を散らしてしまうことが。
「ああ、だが阿賀野君は駄目だ。私は美空か川中君がいいと思うが……」
 君はどう思うね。
 岩松は笑みを浮かべながら尋ねた。
「わ、私、は……」
「ははっ、そう固くならんでいい。気軽に考えるんだ、坂平君」
 どうせ自分の命をかけるわけでもなし。何より、国の役に立つことができるのだから。
「四島では、駄目でしょうか……」
 坂平の考えつく、最大の戦力。しかし、その考えを岩松は否定した。
「まだ早い。四島君にはもっと攻め込んでから行ってもらったほうがいい」
 結局の所、岩松は美空か川中に戦争に行ってもらいたいと考えているのだ。
「考えて、おきます」
 そう言って坂平は退室した。
 その背中を岩松は見送った。
「……ああ、二人とも送るということも出来るか」
 パイロットが誰か一人死んでしまったとしても、もう一人送ることで、すぐに代わりを用意できる。
 とは言え、リーゼを破壊された場合においては陽の国から送る必要があるが。
「ふむ、坂平君が一人選ぶだろうから、私がもう一人選んでおこう」
 再び考えてみるが、ここで美空を消費するには勿体ない。愛することはないが道具としてはそれなりに有用である。能力として四島には劣るが、飯島と同程度の力を持つ。さらには岩松に従順である点も評価は高い。
 今、ここで死んでも構わない人物。
 となれば。
「ふむ。……彼女だな」
 ただ、坂平が美空を選ばないという保証はない。尤も、その時は言いくるめれば良いだけだ。
 




 屋上で二人の男が話していた。
 一人はタバコを取り出して、もう一人は缶コーヒーを飲みながら。
「どうしたら良いんだろうな……」
 タバコを口から離して、空を見ながら坂平は尋ねた。
「俺が次に行く奴を選ばなければならないんだ」
 その事に多大な責任を感じる。戦争の勝敗に関わる事か、それとも子供を死なせてしまうかもしれないと言うことか。
 そのどちらもなのかもしれない。一人が背負うには重すぎるもの。
「誰を行かせたら良いんだろうな……」
 きっと、誰を選んでも後悔する。
 松野が死んだ事も、間磯が死んだ事も、守る事ができなかったと言う責任として、坂平は自らの背に重たくのしかかっている様な気がして仕方がない。
「阿賀野じゃダメなのか?」
 話を聞いていた佐藤が質問をすれば、坂平はふるふると首を横に振った。
「そうか」
 なら、自分にも無理だ。
 諦めた様な顔をして佐藤は溜息を吐いた。
「……岩松か川中を勧められたよ」
「自分の孫娘を、ね……。あの人なら普通にやるよな」
 血縁関係のものを戦争に行かせるなど正気の沙汰ではない。
「誰が行けば良いんだ」
 選べない。と言うよりは、選びたくない。自分のせいで誰かを死なせると言う事に耐えられそうにない。
「誰が行っても、結局は同じだ」
 坂平が唇を悔しげに噛みしめて、そう吐いた。
「誰を送っても死ぬ」
 アスタゴ合衆国、ヴォーリァ連邦、ノースタリア連合王国、フィンセス。どの国も陽の国以上の軍事力を誇る。
「早く、白旗をあげれば良いんだ……。そしたら一番平和な終わり方をする」
 始まる前から分かっていたはずだ。グランツ帝国とマルテアの協力があったとしても勝つことはできない事くらい。
「こんな無意味な戦いがあるかよ」
 苦々しい現実。受け入れられない理不尽な世界。こんな世の中に希望などあるものか。
「お前が辛いなら俺が代わってやろうか?」
 佐藤がそう提案するが、坂平はそれを断った。
「……いや、俺の役目だ。俺がやらなきゃいけないんだ」
 どれだけ辛くとも、絶えなければならない。間磯も松野も死にたくないと思い死んでいったに違いない。だから、自分の役目を放棄して、逃げて良い理由などあるわけがない。
 坂平はタバコを口に咥える。
「決めたよ」
「誰にするんだ?」
 佐藤は坂平の言葉を聞いて、尋ねた。
「川中が良いと思う。岩松は実力もある。まだ取っておくべきだろ」
 坂平の考えは奇しくも岩松の思考と同じであった。川中には実力がある。岩松には敵わないが、それなりのものだ。
「お前はそれで後悔しないか?」
 佐藤はわかり切っているはずなのに態と、その質問をした。
「後悔?」
 そんなもの。
「戦争が始まってから、ずっとし続けてるに決まってる。今回、俺が選んだから、俺のせいで誰かが死ぬんだ。俺が何も力を持っていないから、そうなるんだ」
「…………」
「この戦争が終わったら、俺はーー」
 その言葉の続きは坂平の口から出ることはなかった。
「終わったら?」
「……どこか遠くに行くよ」
 そうやって答えを誤魔化す。
 佐藤には坂平が何を言いたいかは分かっていた。だから、それ以上の追求をしなかった。佐藤は缶コーヒーの中身を飲み切って、先に屋上を出て行く。
 澄み渡る空の下、一人の軍人が屋上に立っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

処理中です...