自衛官×変身ヒーロー×呪われた姫=スキル制約

鹿

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1 プロローグ

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異世界……それは地球とは違う別の場所。

そこには、魔法やスキルと呼ばれる人外の力が存在し、レベルという水準により、強さが左右される。

また、生まれた時から決められている、職業というものがあり、それにより能力の違いが顕著に現れる。

そして人間以外にも、獣の出立ちをした獣人、半人半魚である魚人、エルフ、ドワーフ等、亜人と呼ばれる存在も生息している。

更に動物は、モンスターもしくは魔物と呼ばれ、地球のそれとは見た目も能力も大きく異なる。

この物語は、そんな異世界に転移した若者の、数奇な物語である……


「緊急速報です。
本日未明、地球に向かって接近していた大型の隕石に対して、米軍がミサイルを発射しました。

アメリカ政府の発表によると、この攻撃により、大型の隕石は軌道を変え、地球への衝突は回避されたとのことです。

なお、ミサイルの弾着により、複数の小型の隕石が地球に向かっていますが、これらは地上に到達する前に大気圏で消滅します。

この影響で、明日の午後8時頃、全国各地で流星群が見られるもようです。

次のニュースです。サウナシュランで第一位に輝いた。らか……」


~翌日~

19時15分

護衛艦から岸壁に伸びる舷梯を、慣れた足取りで一人の青年が上陸した。

「ん~。久々の地面だ」

【自分の名前は、鏡 善士(かがみ ぜんじ)
22歳、独身。
職業、海上自衛官。階級、3等海曹である。
自分は自衛官である事に誇りを持っている。

身長175センチ。筋肉質!…な方。

長所は誠実、それと自衛隊で培った忍耐力。
短所は、人の話を聞かない。

趣味はゲーム。特にRPG。いわゆるロールプレイングゲームである。冒険主体のゲームを好んでやっている。
自分で言うのも何だが、ごく普通の若者である。

今、巷ではちょっとしたイベントが起きている。
巨大な隕石が、地球に衝突コースで接近していたのだ。

しかし、米軍の活躍により、隕石の軌道を逸らす事に成功した。

それに伴い、自分の所属する艦艇の警戒配備が解かれ、久々の自由時間である。

これでようやく、新作のゲームを買いに行ける。
ネットで買う方が早くて便利だが、自分はやはり店頭に並んでいる物を見ながら買うのがやめられない。

数時間後には、一生に一度見れるかどうかの流星群が降り注ぐが、自分は新作ゲームの方が大事なのである】


19時30分

ゼンジの足取りは軽く、町の繁華街にいつもの半分の時間で着いた。

流石に普段と比べたら、ガランとしていて人気がない。みんな花火を見るように、広場や高台に集まっているのだろう。

今日はスイスイ進むと心を踊らせながら歩いていたところ、男達の怒鳴り声が聞こえ足を止めた。

「人にぶつかっといて何だその態度は!?」

「シカトですか~?慰謝料払えよ」

静かな街に響く怒鳴り声に、自ずと視線を向けていた。
コンビニの前で、四人の男に囲まれ、うつむいている一人の少女が見えた。

男達は、いかにもという格好で、十人に聞いたら十人が、ワザとぶつかったんだろうと言いそうな風貌をしている。

一方少女はフードを被り、足首まである真っ黒なロングスカートを履いていた。夏なのに暑くないのか心配になる。顔はフードであまり良く見えないが、恐らく十代後半だろう。

(自衛官的には揉め事はまずいんだけど…まぁ手を出さなければ良いんだ。相手が先に手を出せば正当防衛になるかな?)

ゼンジが思慮していると、怯える少女と目が合った。

(助けを求めてる。見て見ぬ振りは出来ないよな)

助けようと思い、少女へ一歩踏み出した。

「来ないで!」

しかし予想外の言葉を受け、呆気に取られ二の足を踏んだ。

「早く逃げて!」

少女は助けを求める事もなく、ゼンジを遠ざけようとしていた。
その健気な対応に、ゼンジは心を動かされた。

「何やってるんだ!」

そう言いながら近付いて行くと、力士のような体格の男がゼンジを一瞥して金髪に言った。

「あいつ邪魔だな。追い払え」

「はい」

金髪は、小さく返事をしてゼンジに向き直った。

(あの太マッチョがリーダーだな。あいつを何とかすれば…)

視線を戻すと、金髪がズボンのポケットから、バタフライナイフを取り出した。
そして、カチャカチャと音を立て、ナイフをチラつかせながら、威嚇し始めた。

「何だお前?怪我してぇのか?」

(何だあれ?何時代のヤンキーだよ。大体この御時世、いきなりナイフ出すとか頭おかしいんじゃないのか?)

ゼンジは、武器になるものは無いか周囲を探すと、コンビニ入り口の傘立てに数本の傘を視認した。
おもむろにその傘を取り正面に構えた。

「舐めてんのか?殺すぞ!」

金髪が怒鳴り声と共に走り出した。
ゼンジは傘を上段に構えようと振りかぶった。
しかし、足元にあったA賞と書いてある紙屑を踏んでしまい、滑って体勢が崩れた。

「しまった!」

ナイフで刺されるのを覚悟したその時である。

「そこまでだ!」

コンビニの自動ドアが開き、中からビニール袋を被った男が、ゼンジと金髪の間に現れた。

「へ?」

ゼンジは素っ頓狂な声を出していた。

「「「「は?」」」」

男達も呆気に取られている。

「え?」

勿論少女も。
この場にいる全員の時が止まった…

注目を浴びるビニール仮面は、二箇所空いた穴から『ギロリ』と音がするかのような鋭い眼光でゼンジを睨みつけた。

その目には、とんでもない気迫が溢れていた。
変態だが、ただ者じゃないだろう。

ビニール仮面は周囲を見渡し、力士のような男にロックオン。

(一目であいつがリーダーだと認識するなんて。なかなかやるな)

「悪は許さん!」

(そのセリフを言えるとは。なかなかやるな…)

何とも恥ずかしいセリフと共に、力士のような男との距離を一瞬で詰めた。

力士のような男は、躊躇する事なく掌底を繰り出すが、ビニール仮面はそれを難なくかわし、カウンターを顎に入れ一撃で沈めた。そのまま2人目の男に回し蹴りを放ち、遠心力の乗った踵をこめかみに当て、あっさり倒した。

(強い!)

そして3人目の男に対峙して腰を深く落とした。
正拳突きの構えをとったところで、隙だらけの背後から金髪がナイフを振り上げ、ビニール仮面に襲い掛かった。

しかしビニール仮面はそれに気付かず、3人目の鳩尾に正拳突きを決めた。

「危ない!」

ビニール仮面の背後で、ナイフが地面に落た。

ゼンジは持っていた傘を、金髪のナイフ目掛けて振り下ろしていた。

「これは正当防衛が成立するよな?」

金髪は大慌てで倒れた仲間を起こし、覚えてろと捨て台詞を吐き、何度も転びながら逃げて行った。

「あ~、やっぱりあの台詞をいうんだ…」

ゼンジは呆れて肩を窄めた。

「ダサい…」

少女は小さく呟いた。

「ビニールしか無かったんだから仕方ないだろ!」

勘違いをしたビニール仮面は突然怒鳴り出した。
それを聞いた少女は慌てて答えた。

「い、いや、あの、さっきの捨て台詞がダサいって言ったんですけど…何かすみません」

「あ~ね…はは…怪我してない?」

照れを隠すように、ビニール袋を摘み、外そうとした。

(恥ずかしいなら、そのまま被っとけば良いのに)

ゼンジの心の声が聞こえたのか、再びビニール袋を被り直した。

すると少女は、思い出したかのようにゼンジたちに噛み付いた。

「助けに来なくて良かったのに。早く何処か行って」

(ツンデレか?しかし、このツンデレにやられる奴なんているのか?)

少女の顔は、フードが邪魔してハッキリとは分からないが、割と整った顔立ちをしている。
美人と言うより、可愛い感じだ。
しかしどこか暗い印象を持ってしまう。
服装のせいだろうか。
そう思って見直すと、スカートは上着と繋がっていた。
パーカーとロングスカートに見えていたのは、フードつきのロングコートだった。

(探偵か?)

「私は呪われてるんです…魔女なんです。私に関わると良くない事が起こるんです。だから早く離れて下さい」

「「へ?」」

予想の上をいく言葉だった。現代の日本で、呪いとか魔女を本気で信じる人がいるのだろうか?
いや、ビニール袋を被る変態がいるのだから、魔女ぐらいるのかもしれない。

「助けていただいて、ありがとうございました」

黒の魔女がそう言って深くお辞儀をした。
そしてキョロキョロ何かを探している。

(ホウキだ!飛ぶ気だ!)

ゼンジはホウキに跨がり飛んで行くんじゃないかと思い、ホウキの代わりに、持っていた傘を渡した。

「どうぞ!!」

ワクワクして見ていたが、黒の魔女はキョトンとした後、傘立てに傘をさした。

「だよね」

ゼンジは恥ずかしくなり頭を掻きながら、ビニール仮面に目をやった。
するとビニール仮面は、目を大きく見開き、空を仰いでいる。

「こりゃ詰んだわ」

ゼンジは、不思議に思い視線を上げた。
そこには、真っ赤な炎の線を引きながら、目前に迫る巨大な何かが目に飛び込んで来た。

「隕石?」

そう言った途端に、視界が真っ白になった。
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