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27 蠢きの森の異変
しおりを挟む「おい!ノックこの野郎!言葉には気をつけろよ!ギルマス怒らせたら命が幾つあっても足りんぞ!」
前を歩く二人は森へ入った途端言い争いを始めると、鼻息の荒いゴードンはノックの肩を殴った。
「ウォ~ン。殴るなよ。悪かったよ。俺も死んだかと思ったよ……」
「ギルマス?」
ゼンジは、新しいワードが出て来たので聞き返した。
「「っ!?」」
ゴードンとノックは、ビクッと跳ねて振り返った。
「そのギルマスってギルドマスターの事か?ギルドマスターって何なんだ?」
ゴードンは声が裏返った。
「ビビらせるなよ!!ギルマスが居るのかと思っただろ~が!!……おほん!知らないのか?ギルマスってのはな、冒険者ギルドをまとめるギルドの長だ。デカい街には必ず一人いる。功績を認められたり、偉業を成し遂げた奴がなれるんだが、当然強い!そして滅多な事が無い限り表には出てこない」
「だったらロックジョーさんはどうして、ラムドールの村に来てたんだ?」
「それはギルマスが言ってただろ?客として来たって。あのギルマスは、かなりの酒好きで有名だ。そしてラムドールには、ちょっと名の知れた名酒があるんだが、残念ながら今は酒どころじゃない」
「だから機嫌が悪かったんだな?」
「ウォ~ン!今日は良い方だ!名酒が飲める可能性が出てきたからな。だからゼンジ!俺たちの身の安全の為にも必ず成功させてくれよ!」
ゼンジはポーラと目を合わせ、後ろを歩くリッキーに同情した。
「リッキー。お前も大変だな」
「もう慣れましたよ。いつもの事なんで」
でも、それが楽しいんですよと付け足すと、舌を出して笑った。
~~~
「おらっ!!っとこいつで最後だな。しかしやはり森の様子がおかしい。虫どもが少な過ぎる」
ゴードンは、軽自動車サイズのダンゴムシに、トンボの羽が付いたモンスターの群れを蹴散らした。
「ウォ~ン!少なくて良い!キモい!こいつらは何のために生きてるのかも分からない!」
「ノック!少しは働け!」
「ウォ~ン!ウォ~ン!虫はキモい!」
「確かに気持ち悪いな。小さけりゃそこまで無いんだが、こうもでかいと鳥肌が止まらないよ」
ゼンジは身震いをして腕を摩った。
「そんなこと言って甘やかさないでくれ!ノック!何もしなければ襲われて食われるぞ!早く慣れろ!」
ゴードンは、舌打ちをして剣を背中の鞘に仕舞うと、腰に下げている、なたのようなナイフを取り出し、邪魔な蔦や枝を斬りながら歩き始めた。
「ポーラは平気そうだな」
「私は大丈夫です。虫は嫌いじゃないですよ」
ポーラは微笑むと、ゴードンの後をついて行った。
それを見たゼンジはボソリと呟いた。
「エルフは虫とも話せるのかな?」
「二時の方向から八体向かって来ます!動きは遅いので、おそらく角芋虫です!」
リッキーのスキル〈気配察知〉は、生物の気配を探知して場所を特定するスキルである。生物のいる方向、距離、数、そしてレベルが上がれば、強さ、種類、などが分かるようになる。
「お!何か出て来たぞ!」
乗用車サイズの芋虫が、木の影からノソノソ現れた。緑を基調とし、シマウマのように黒のラインが入っている。しかし頭部は赤。そこから名前の通り、先の尖った立派な角が生えてはいるが、後頭部から後ろに向かっている。
「デカッ!しかも何だよ長いあの角は!後ろに生えてるぞ!」
ゼンジは角の向きに疑問を抱いたが、リッキーがその謎を解いてくれた。
「あれはレッドイーターに襲われないためですよ」
「なる程な!空から襲われない為なのか」
「ウォ~ン!ツノイモムシだ!あいつはオオノミの次に嫌いだ!」
「つべこべ言わずに行くぞ!」
「イモい!イモいから嫌だ!」
ノックは、持っている斧を地面に刺してその場に座り込んだ。
「おいおいおい!!ノックこの野郎!早々に戦闘放棄してんじゃねぇ!ちったぁ加勢しやがれ!」
「ゴ、ゴードン!すまん!生理的に無理!イモ過ぎて、ち、力が入らないんだ!ウォ~ン!分かるだろ」
「毎度毎度座り込んで!成長しねぇなぁ!そこで座って待ってろ!」
「イモいには、ツッコまないんだな……」
ゼンジは苦笑した。
イモい、を見事にスルーしたゴードンは、颯爽と駆け出し片手剣のロングソードを鞘から抜いた。
「スラッシュ」
鮮やか。この一言に尽きる。
ゴードンが放った一撃は、斬られた角芋虫自身も分からないほど、洗練された見事な技である。
次の角芋虫へと走り出すゴードンを、たった今斬られた角芋虫が追いかけようと振り向くと、その反動で赤い頭がズルリとずれ落ちた。
「あの技カッコいいよな!自分にも出来ないかな?」
「出来ると思います。剣を振り続ければ、誰でも剣術を覚える事が出来るので。ただし職業によっては、10年かかる方もいるらしいですよ」
「じゅ、10年!?暇つぶしのつもりでやらないと泣くに泣けないな!」
「皆さん気をつけて!!急速に近付く気配が一つあります!」
後ろのリッキーが声を荒げた。
「方位を教えてくれ!!」
前を見たままゼンジが叫んだ。
「10時、いや12時。早すぎて分かりません!」
ゼンジは大楯を構え、軽く左を向いた。
「分かりました!上です!」
「何っ!」
ゼンジは慌てて上空を仰いだ。刹那、大きな影が急降下して来た。それと同時に、ゼンジの顔に木の枝が当たり、ロックが解除される音を耳にした。
「痛っ!」
直後、太腿に携帯していた拳銃を取り出し上空に構えた。
「バレット……」
それは殺気を撒き散らし飛来する、レッドイーターだった。しかし急降下の先は、先程ゴードンが斬り落とした角芋虫の頭であり、両足で掴むとゼンジを睨みつけた。
「ゼンジ!」
ポーラが声を上げると、レッドイーターは再び空へ舞い戻った。
「ビッッッックリしたぁ~!!!本当に赤いのを狙うんだな!」
「ビックリしたではないのじゃ!こっちがビックリじゃ!何故ハッポウせんのじゃ!一瞬の判断ミスが命取りになるのじゃ!」
『ポーラの言う通りだぞゼンジ!』
ゼンジはその言葉を飲み込むと、頭が無くなった角芋虫を見た。
「だけど今のは、明らかに芋虫の頭を狙ってたぞ」
「今回はそうかもしれんが、油断はするなって事じゃ!」
『そうだよ!実力に見合わない力を持つ者が、陥り易い事なんだ。油断は禁物だよ』
「……確かに……そうだな。強くなった気でいたよ。ポーラ、メロン、ありがとな!肝に銘じるよ」
『ん?ん?ゼンジどうした!?熱でもあるの?頭でも打った?義務が発動してるのか?素直過ぎる!雨でも止むんじゃないの?」
「本当じゃ!変じゃ!偽物のゼンジじゃ!」
「喧嘩売ってんのか!俺がまるで頑固な奴みたいな言い方して!」
「そうであろう?」
『そうだよね?人の話聞かないし』
「お前らそこに直れ!その曲がった根性、自衛隊方式で真っ直ぐに正してやる!まずは喋り方!」
「冗談ですよ。ねぇメロンちゃん」
『そうだよ!ムキになるなんて認めてるようなもんだよ』
「お前ら連携完璧か!作戦会議の時に、悪口の打ち合わせもしたのか?大体なぁ……」
「お~い!こっちに来てくれ!」
ゴードンは、八匹の角芋虫を既に倒していた。
「ゴードンさんが何か見つけたみたいですね!行きましょう!」
『ゼンジ~置いてくよ~』
「完全におちょくってるだろ!」
ゼンジはポーラの後を追いかけた。
ゴードンは全員集まると、木の付け根を顎で指した。
「これを見ろ。トマトビートルの角だ!やっぱり喰われてる!リッキー気を付けろよ!そろそろブラックヴァンパイアが出てくるぞ!」
「もう捉えてます。11時の方向です!逃げましょう!」
「ウォ~ン!どうしたリッキー、やばそうか?」
「兄さん!やばいなんてもんじゃ無いよ!最悪の状況だよ!十匹以上いる!」
「!?」
「一箇所に集まって動いてないんだ!ギルドマスターも無理するなって言ってたよ!逃げましょう!」
リッキーは顔を引き攣らせノックに懇願するが、ゴードンが待ったをかけた。
「だがその反応がブラックヴァンパイアとは限らない。違うか?実際に目で見て確認してからでも遅くはないだろう。周囲の警戒を怠るな!前進する!」
「ちょっと待ってくれ!この赤い角はトマトビートルの角で間違いないんだな?」
ゼンジはゴードンに確認した。
「ああそうだ。赤いだろ?トマトビートルは全身赤いからな」
「そんな事言ってるんじゃない!この角の大きさから考えると、芋虫と同じサイズじゃないか?」
「角芋虫より小さいが、角を合わせると大体そんなもんだ。でも大丈夫だ。こいつは大人しいからな」
「そうじゃない!ブラックヴァンパイアはこいつを喰うんだよな?だったらこいつよりデカいのか?」
「そりゃそうだ!ワイバーンに寄生するくらいだからな」
「そりゃそうだ。じゃないだろ!ヒルは小さいからバレずに寄生するもんだろ?デカかったらバレバレじゃないか!そんなヒルいるか?」
「ウォーン、それもギルマスが言ってただろ!珍しいヒルだって。ゼンジはビビって話聞いてなかったのか?」
「お前が言うな!!!」
「ゼンジの言う通り、その辺の情報は聞きませんでしたね。大きさとか強さとか。私はてっきり弱いと思っていたのですが、実際はどうなのですか?」
ゼンジが聞きたかった事をポーラが代弁してくれた。
「大きさは、角芋虫、二匹分だ」
「しかしマンティコアに比べたら弱い。俺たち三人だと苦戦するが、勝てるな」
ノックに続きゴードンが答えた。
「微妙だな。デカいのが十匹以上となると、この人数だと囲まれるんじゃないか?」
「それはない。動きが鈍いから大丈夫だ。いざとなれば余裕で逃げれるさ」
「そうか……それなら確認だけでも出来そうだな。行ってみるか」
「ウォ~ン!ゼンジがいれば問題ない!」
「おだてるなよ。油断は禁物だ。気を引き締めて行こう!」
ノックの言葉に気を良くしたゼンジは、足取り軽く前進を始めた。
ゴードンの説明を聞き、作戦続行を決断したゼンジだった。
しかしこの判断が既に慢心だった事に、ゼンジはまだ気付いてはいなかった。
(女神様、こちら自衛官、
ポーラは自分の事を、頑固者の分からず屋だと思っていたのですね?結構ショックです。どうぞ)
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