センパイ2

ジャム

文字の大きさ
上 下
10 / 30

41、いつもの練習風景

しおりを挟む

41、いつもの練習風景

関東大会が近くなり、レギュラーの練習メニューは試合形式のものばかりになった。 
二年(補欠)対レギュラー。 
ゴンゾーさん(監督)は選手を煽るために、下克上を押している。 
絶対有り得ないのに、一年にだってチャンスあるからな。 
なんて言う。 

アホらし。 
そこまでうぬぼれちゃいねーぞ。 

初めは二年対レギュラーでやった試合も、次は、混合紅白戦。 
二・三年がベンチへ戻って来て、ビブスを交換する。 
オレ達一年はタオルとポカリを廻したり、スコアをつける。 
そこで、ゴンゾーさんがオレの名前を呼んだ。 
一瞬、オレはワタヌキ(付き合ってる相手)を見つめ、アイツもオレを見た。 
「モリヤ、お前、あっちで旗。」 

なんだよ!審判かよっ 

オレのがっかりな顔を見てワタヌキが噴出してた。 
オレは一度、朝練をさぼってから、ゴンゾーさんに名前を覚えられて、何かあると呼びつけられるようになってしまっている。 

試合は25分ハーフ。 
ピッチに陣を広げると、選手は笛を待った。 
オレは赤側のラインに並んで、ワタヌキを見てた。 

サッカー程柔軟性のいるスポーツは無いんじゃないだろうか。 
どんなに練習を重ねたって、試合は同じように運ばれる事は無い。 
右から上げようが、左を使おうが、相手の11人次第で、何もかもが変わってしまう。 
練習と同じ戦術が試合で使えるかと言ったら、使えないだろう。 

つまりは感だ。 
感を養う。 
世界を見る。 
状況を把握する。 
一瞬の判断力。 
サッカーは球をキープするだけじゃ勝てないゲームだ。 

ワタヌキのいる白組がゴール前に駆け込んでくる。
オレの目の前でワタヌキが舌打ちした。 
球はゴールラインを割ってコーナーから。 
すると、ワタヌキがオレの方へ走ってくる。 
オレは、足元のポカリを取って、差し出してやった。 
ワタヌキは何も言わずにそれを受け取って、口をつける。 
向こうでは、球拾いの一年がコーナーに、拾った球をセットしている。 
それに誰も近づかず、ワタヌキが蹴るのか、皆がこっちを見て待っているようだった。 
「好きか?」 
ポカリを受け取ろうと手を伸ばして、訊かれたセリフに顔を上げる。 
「え、ポカリ?」 
「バカだろ(お前)」 

うわ~怖い、マジツッコミ。 

ポカリを受け取っても、ワタヌキは袖で口元を拭ってまだそこにいる。 
「皆さんお待ちのようデスガ」 
「オレの事、好きだろ?」 
!!やばい、一瞬で耳まで赤くなった気がする。 
「・・好きだよ」 
答えないとここにずっといられそうで、だけど目を見ないで答えた。 

ああ~恥ずかしいっ皆がこっち見てるっ聞こえてないと思うけど。 

満足したのか、ワタヌキは頷きもしないで、走って行く。 
アイツ最近、オレにこういう意地悪して楽しんでる気がする。 

試合再開。 
ワタヌキのコーナーキックは誰にも触られずに、ダイレクトにゴールへ突き刺さった。 

ヨシ!! 

白が先制。 
選手がゆっくり走りながら元のポジションへと戻っていく。 
その中で、オレの方へアキタさん(ワタヌキの親友)が走って来た。 
「モリヤ~オマエ露骨にガッツポーズ取るな、後でファックの刑~」 
オレの前でスピードを落とし、怖い事を淡々と言って通り過ぎていく。 
「ファッッ!?」 
叫びそうになって自分で口を塞いだ。 
だがそのすぐ背後にはワタヌキ。 
「聞こえてんだよ、テメ。バックから刈るぞマジで」 
「それ一発レッドだから。じゃ、お前(ファックの刑)執行人に決定。オレ裁くヒト。お前ヤるヒトね」 
二人はクスクスと笑いながら走り去って行く。 

・・・・絶対、カラカワレテイル。 
オレで遊んでるだけなんだよ。このヒト達は! 

もう一度言っておこう。 
もうすぐ関東大会。 
部の雰囲気は緊張気味。 

あの二人だけを除いて。
しおりを挟む

処理中です...