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第十一話
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三体はユーゴに魔力をもらってひとしきりその場でピョンピョン跳ね回ると、ぺこりと頭を下げてそれぞれに森の奥へと散っていった。
「まさか魔物に助けられることになるとは思わなかったが、大豊作だったな。森自体かなりの広さだから、まだまだたくさん素材が眠ってそうだ」
そう独り言をつぶやくユーゴの頬は自然と緩み、笑顔になっていた。
この森を居住地として選んだ理由は素材や魔物などに魅力がなく、人がなるべく寄りつかない場所だったためである。
しかし、予想以上に様々な素材が見つかるため、この森が秘める可能性にワクワクしていた。
その後ユーゴは自分の小屋に戻ると、生命の実を粉末状にして素材として使えるように加工していく。
翌日になって、ユーゴは朝から薬の調合を行っていく。
ミリエルの店に納品したのと同じポーションを三十五個作成する。
納品予定個数は三十個。残りの五個には更に手を加えていく。
「まずは一つ目、鍋にあけてここにパラパラっと生命の粉を入れて……」
一度作成したポーションに手を加える者は今となってはユーゴ以外にはいないと思われる。
それくらいにいまでは通常行わない工程だった。
「ここで溢れないように火を調整しつつ、魔力をチョロチョロと投入」
それから沸騰しない程度に、かつ冷めない程度に、更に濃すぎない魔力を一定量注ぎ込む。
これを魔力が全体に均一に馴染むまで続けるが、細かい魔力調整が必要であり、少しずつ魔力をいれるため、ユーゴといえどもかなりの時間がかかることとなる。
五本ともに加工を加え終える頃には、既に日が傾いていた。
「ふう、触媒があればもっと楽なんだけどな……」
久々の細かい作業にユーゴは一息つく。
様々な触媒を使うことで、魔力を多めに投入しても滑らかに浸透していったり、細かい魔力調整がいらなかったりと良いことづくしである。
しかし、それらは過去に全て使い切ってしまったため、手元にはなかった。
「まあ、でも五本もできたら上々だろ。万が一の場面に出くわしたとしても、これがあればなんとかなるはずだ」
そんな場面には出くわさないほうがいいと思いつつも、念のための準備をしておくにこしたことはないとユーゴは考えていた。
「それにしても、もうこんな時間か……」
窓から外を見て時間経過に気づく。今から街に行っても開いている店も少ないので、ユーゴは家にとどまることにする。
「さて、そうはいってもまだ寝るにはかなり時間があるな」
適当に取り出した食べ物を口にしながら、今夜はどうしたものかと考える。
「そういえば……」
ユーゴは何かを思い出して、指先に魔法で火をともす。
「普通に魔法は使える。恐らく魔力量も昔のままだ」
そう言いながら自分の魔力について分析を始めるユーゴ。
賢者としての生を送っていた時のユーゴは生まれつき魔力量が多く、魔力に困ったことはほとんどない。
しかし、唯一魔力の枯渇によって困ったことがあった。
「――魔王との戦い……」
その時のユーゴは勇者と呼ばれる青年とともに、仲間と共に、魔王との戦いに参加した。
魔王軍は強力で、賢者ユーゴが数々の魔法を使い戦っていく。
そして、魔王を追い詰めるその時には、ユーゴの中にある魔力はそのほとんどが失われ――最後に……。
「あんな思いはもうしたくないもんだな……」
思い出すだけで背筋がぞくっとするほどの恐怖が襲う。
ユーゴが初めて味わった魔力の枯渇――その時の彼の絶望感は強かった。
「なら、どうすればいいか?」
その問いに対する答えは自分の中で既に出ていた。
賢者としての知識では魔力を増やす方法は知らない。もちろん鍛冶師にもそんな知識はない。
「地球の、それもアニメに漫画や小説の知識がこんなところで役にたつとはな」
学生時代にユーゴは多くの漫画や小説を読み、アニメもたくさん見ていた。
その中でいくつかの作品の主人公が魔力量を増やすためにやっていたことがある。
「――ギリギリまで魔力を消費する」
それが魔力量の増減をあげる方法である。知識といっても、あくまで創作物からの情報であるため、その信憑性には疑問が残る。
しかし、ユーゴはある確信を持っていた。
「賢者の頃の俺の最大魔力量を100とすると、今はそれよりも少し多くなっている」
あくまで感覚ではあったが、それでも魔力量が多くなっているのを感じていた。理由として考えられるのは魔王との戦いでの魔力の枯渇。
「それ以外に思い当たる理由がない。学生時代には魔力なんてなかったし、鍛冶師としても魔力なんてほとんど使わなかったからな」
つまり、今の魔力を使い切れば最大値をあげることができる。それがユーゴの予想だった。
「まあ、やってみてダメならそれはそれでいいさ。まずはどうやって魔力を消費するかを考えないと……」
ユーゴは指先の火を消すと、小屋の外へ出て空に向かって風の魔法を放つ。
一点に力が凝縮された風は目にもとまらぬ速さで雲を貫き、更に空高く向かって飛んでいく。
「こんなんじゃダメだな。よし、それなら」
地面に布を敷いて、そこに座ってあぐらをかく。
深呼吸をして、目を瞑り集中する。体中に魔力がいきわたったのを確認してから、魔力を身体全体から徐々に放出していく。
単発の魔法を撃って消費するには時間がかかりすぎる。
かといって、強力な魔法を使ってしまっては森に大きな被害が出てしまう。
また、魔法に気づいた誰かが森にやってくるかもしれない。
ならばと、直接魔力を放出する方法をとることにした。
一度に多量にではなく、先ほどのポーション加工時と同じように徐々に魔力を放出。そして、徐々に放出量を増やしていく。
元々ユーゴの魔力量は膨大であるため、森中を魔力で覆うことになる。
ただただ魔力を垂れ流すだけではなく、ユーゴには考えがあった。
(この魔力で森を覆って結界を作ろう)
楽しそうに跳ね回っていたあの三匹の魔物を思い出しながらそう心の中で考えたユーゴは、魔力の放出を続けていく。
「まさか魔物に助けられることになるとは思わなかったが、大豊作だったな。森自体かなりの広さだから、まだまだたくさん素材が眠ってそうだ」
そう独り言をつぶやくユーゴの頬は自然と緩み、笑顔になっていた。
この森を居住地として選んだ理由は素材や魔物などに魅力がなく、人がなるべく寄りつかない場所だったためである。
しかし、予想以上に様々な素材が見つかるため、この森が秘める可能性にワクワクしていた。
その後ユーゴは自分の小屋に戻ると、生命の実を粉末状にして素材として使えるように加工していく。
翌日になって、ユーゴは朝から薬の調合を行っていく。
ミリエルの店に納品したのと同じポーションを三十五個作成する。
納品予定個数は三十個。残りの五個には更に手を加えていく。
「まずは一つ目、鍋にあけてここにパラパラっと生命の粉を入れて……」
一度作成したポーションに手を加える者は今となってはユーゴ以外にはいないと思われる。
それくらいにいまでは通常行わない工程だった。
「ここで溢れないように火を調整しつつ、魔力をチョロチョロと投入」
それから沸騰しない程度に、かつ冷めない程度に、更に濃すぎない魔力を一定量注ぎ込む。
これを魔力が全体に均一に馴染むまで続けるが、細かい魔力調整が必要であり、少しずつ魔力をいれるため、ユーゴといえどもかなりの時間がかかることとなる。
五本ともに加工を加え終える頃には、既に日が傾いていた。
「ふう、触媒があればもっと楽なんだけどな……」
久々の細かい作業にユーゴは一息つく。
様々な触媒を使うことで、魔力を多めに投入しても滑らかに浸透していったり、細かい魔力調整がいらなかったりと良いことづくしである。
しかし、それらは過去に全て使い切ってしまったため、手元にはなかった。
「まあ、でも五本もできたら上々だろ。万が一の場面に出くわしたとしても、これがあればなんとかなるはずだ」
そんな場面には出くわさないほうがいいと思いつつも、念のための準備をしておくにこしたことはないとユーゴは考えていた。
「それにしても、もうこんな時間か……」
窓から外を見て時間経過に気づく。今から街に行っても開いている店も少ないので、ユーゴは家にとどまることにする。
「さて、そうはいってもまだ寝るにはかなり時間があるな」
適当に取り出した食べ物を口にしながら、今夜はどうしたものかと考える。
「そういえば……」
ユーゴは何かを思い出して、指先に魔法で火をともす。
「普通に魔法は使える。恐らく魔力量も昔のままだ」
そう言いながら自分の魔力について分析を始めるユーゴ。
賢者としての生を送っていた時のユーゴは生まれつき魔力量が多く、魔力に困ったことはほとんどない。
しかし、唯一魔力の枯渇によって困ったことがあった。
「――魔王との戦い……」
その時のユーゴは勇者と呼ばれる青年とともに、仲間と共に、魔王との戦いに参加した。
魔王軍は強力で、賢者ユーゴが数々の魔法を使い戦っていく。
そして、魔王を追い詰めるその時には、ユーゴの中にある魔力はそのほとんどが失われ――最後に……。
「あんな思いはもうしたくないもんだな……」
思い出すだけで背筋がぞくっとするほどの恐怖が襲う。
ユーゴが初めて味わった魔力の枯渇――その時の彼の絶望感は強かった。
「なら、どうすればいいか?」
その問いに対する答えは自分の中で既に出ていた。
賢者としての知識では魔力を増やす方法は知らない。もちろん鍛冶師にもそんな知識はない。
「地球の、それもアニメに漫画や小説の知識がこんなところで役にたつとはな」
学生時代にユーゴは多くの漫画や小説を読み、アニメもたくさん見ていた。
その中でいくつかの作品の主人公が魔力量を増やすためにやっていたことがある。
「――ギリギリまで魔力を消費する」
それが魔力量の増減をあげる方法である。知識といっても、あくまで創作物からの情報であるため、その信憑性には疑問が残る。
しかし、ユーゴはある確信を持っていた。
「賢者の頃の俺の最大魔力量を100とすると、今はそれよりも少し多くなっている」
あくまで感覚ではあったが、それでも魔力量が多くなっているのを感じていた。理由として考えられるのは魔王との戦いでの魔力の枯渇。
「それ以外に思い当たる理由がない。学生時代には魔力なんてなかったし、鍛冶師としても魔力なんてほとんど使わなかったからな」
つまり、今の魔力を使い切れば最大値をあげることができる。それがユーゴの予想だった。
「まあ、やってみてダメならそれはそれでいいさ。まずはどうやって魔力を消費するかを考えないと……」
ユーゴは指先の火を消すと、小屋の外へ出て空に向かって風の魔法を放つ。
一点に力が凝縮された風は目にもとまらぬ速さで雲を貫き、更に空高く向かって飛んでいく。
「こんなんじゃダメだな。よし、それなら」
地面に布を敷いて、そこに座ってあぐらをかく。
深呼吸をして、目を瞑り集中する。体中に魔力がいきわたったのを確認してから、魔力を身体全体から徐々に放出していく。
単発の魔法を撃って消費するには時間がかかりすぎる。
かといって、強力な魔法を使ってしまっては森に大きな被害が出てしまう。
また、魔法に気づいた誰かが森にやってくるかもしれない。
ならばと、直接魔力を放出する方法をとることにした。
一度に多量にではなく、先ほどのポーション加工時と同じように徐々に魔力を放出。そして、徐々に放出量を増やしていく。
元々ユーゴの魔力量は膨大であるため、森中を魔力で覆うことになる。
ただただ魔力を垂れ流すだけではなく、ユーゴには考えがあった。
(この魔力で森を覆って結界を作ろう)
楽しそうに跳ね回っていたあの三匹の魔物を思い出しながらそう心の中で考えたユーゴは、魔力の放出を続けていく。
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