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第三十六話
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一気に100レベルを超えた二人は、自身の体力も増えているため、そのまま走って禁断の地をかけ上がっていく。
このダンジョンは地下五十層まであるが、転移魔法陣などはなく、戻る際も徒歩であるところが嫌われていた。
「ユイナ、全速力で行くよ!」
「任せて!」
弓聖は身のこなしのよさが特徴であったため、ユイナの敏捷性はヤマトを上回っており、一緒に走っていても先行してしまうだけの速力だった。
「ヤマト、さっきの戦いは楽させてもらったから帰り道は私がしっかり働くね」
ふわりとほほ笑んだその言葉のとおり、先行したユイナは次々とモンスターを矢で撃ち抜いていく。一瞬たりとも足を止めることなく、走りながらの弓術は後ろから追いかけているヤマトが惚れ惚れするものであった。
「あいっかわらずユイナの弓使いはすごいねえ」
ユイナの武器――弓聖の弓は魔力によって矢を自動で生み出す効果を持っているので矢切れになるということはない。
それゆえに、先行していけていた。
「ボスになったら、俺も参加するからね」
彼女に頼もしさを感じたヤマトは後ろをついていくように走る。すっかり手持ち無沙汰になってしまったが、十層ごとに現れるボスの時には参戦しようと考えていた。
「りょうっかい!」
その言葉は先行するユイナの耳に届いており、元気よく返事を返すが、次々と矢を放つ手は止めていなかった。
通常よりもすごい勢いでマラソンのように出口へ向かって走りながら、二人は行く先を塞ぐモンスターを次々と倒していく。
途中ユイナに疲労が見えたところでヤマトと交代するようなことはあったが、上位開放してレベルアップした彼らにとって出てくるモンスターたちは雑魚同然だった。
ボスを含めて問題なくあっという間に倒すことができ、驚くほど速いペースで地上まで出てくることができた。
禁断の地の入り口まで来たところで、ふとヤマトは足を止める。影に隠れるようにして入口の方をじっと見つめた。
「あー、やっぱりいるね」
ヤマトは入り口の外に衛兵がいることに気づいていた。エクリプスは既にどこかへ帰還したのか、姿は見えない。
「……どうしようか?」
ユイナもそれに気づいて、どうしたものかと困ったように首をひねっていた。
「……ははっ、なんかレベルが一気に上がったのにこんなことで悩むなんて笑えてくるね」
ヤマトは自分たちの状況に思わず笑ってしまっていた。
「だねー、なんかこういう小さいことって意外と大事だよねえ」
困ったように笑うユイナはやれやれという風に小さなため息を吐く。
ちょっとした近所づきあいなどから面倒ごとに発展することもあるため、この入り口を強行突破するのだけは避けたかった。
「入る時にやったやつは使えないかなぁ?」
エクリプスを呼んで、暴れさせて注意を引くというものだったがユイナの提案にヤマトの表情は冴えない。
「うーん、ここから呼んだら音が聞こえるかもしれないっていうのと、どこに現れるかがちょっと読めないんだよねえ」
同じ方法を使うことは、自分たちがいる位置から考えると少々難しいとヤマトは判断していた。
「――じゃあさぁ……一気に吹き飛ばすってのはどうかな?」
「一気に、かあ……それがシンプルでいいかもね」
いたずらっ子のように笑ったユイナの考えている案はなかなか強引なものだったが、ヤマトも代案があるわけではないため、賛同することにする。
「それじゃ、俺がやろうか」
「任せた!」
心得たように笑いあった二人。まずヤマトが外にいる衛兵に気づかれないギリギリの場所まで移動していく。
そこで、彼は魔法を唱えた。
「“ウインド……プレッシャー”!」
風魔法のクラス3の魔法――しかしヤマトが使うことでその威力も強くなっている。洞窟の中からまるで台風でも来たかのような風が一気に巻き起こる。
「うおおおおおおおおお! な、なんだ!」
「ぐ、ぐああああ! と、飛ばされる!」
突如洞窟方面から吹き抜けた強力な風。背を向けていた二人は風の勢いにおされて、入り口前から押し出されてしまう。
「ユイナいくよ!」
「うん!」
その隙をついて手を取り合った二人は洞窟を飛び出した。その姿は突風で体勢を崩していた衛兵の目に触れることはなく、素早く街へと繋がる道へと逃げ込むことができた。
そして、二人はそのまま足を止めずに街へと向かっていく。少しでも時間が惜しいと考えていたからだ。
二人が禁断の地に籠っている間にも時間は経過しており、いくら時間の経過が外と中とは違うと言っても、街に近寄るモンスターを撃退するだけの戦力があの街にどれだけあるかもわからない。
せっかく知り合った二人の冒険者や情報を教えてくれた街の人。彼女らとの別れを迎えたくない――そう思っている。
「はあはあ、やっと戻ってこれたー!」
「ふうふう、なんだかんだずっと走ったのは疲れたね」
洞窟の中では疲労を感じる隙すら危険であるため、気を張っていたが、街に到着したことで安堵感から思わずその場に座り込んでしまう。
「……あれ? あんたたち?」
「あれ、お二人ともそんな場所で何をしているんですか……?」
座っているヤマトたちのもとへ声をかけてきたのはキャティとラパンの二人だった。二人とも驚いた表情でヤマトたちを見ている。
「キャティとラパンがここにいるってことは……まだ街は無事ってことかな?」
息の整ったヤマトは立ち上がって二人に質問する。ヤマトたちが二人に別れを告げて、街に戻って来るまで時間にすれば一日経っていなかったが、それでも穏やかな二人の顔を見てヤマトは安心していた。
「えっと、そんなにすぐにはモンスターも動かないと思いますけど……それにしてもお二人ともずいぶんお疲れみたいですが、どちらに行っていたんですか?」
「そうだそうだ、急にいなくなったからびっくりしたんだよ!」
心から二人が心配してくれていることが伝わってきて、ヤマトとユイナは自然と笑顔になっていた。
「二人とも、いい人たちだね!」
ぱぁっと笑顔を見せながらユイナは思わずそんな言葉が口をついてでた。出会ったばかりの自分たちをこんなに気にかけてくれるなんて嬉しいという気持ちの表れだろう。
だがキャティとラパンにしてみれば、どこでそう思ったのかわからないため、顔を見合わせると困惑していた。
「さて、それよりも今回の一件の解決のめどがたったから、もう少し二人から話を聞きたいんだけどいいかな? ……今度はお酒はなしでね」
ヤマトは自信のある表情でにっこりと笑うと二人を逃がさないぞと見ていた。
ヤマト:剣聖LV180、大魔導士LV173
ユイナ:弓聖LV176、聖女LV161
エクリプス:馬LV15
このダンジョンは地下五十層まであるが、転移魔法陣などはなく、戻る際も徒歩であるところが嫌われていた。
「ユイナ、全速力で行くよ!」
「任せて!」
弓聖は身のこなしのよさが特徴であったため、ユイナの敏捷性はヤマトを上回っており、一緒に走っていても先行してしまうだけの速力だった。
「ヤマト、さっきの戦いは楽させてもらったから帰り道は私がしっかり働くね」
ふわりとほほ笑んだその言葉のとおり、先行したユイナは次々とモンスターを矢で撃ち抜いていく。一瞬たりとも足を止めることなく、走りながらの弓術は後ろから追いかけているヤマトが惚れ惚れするものであった。
「あいっかわらずユイナの弓使いはすごいねえ」
ユイナの武器――弓聖の弓は魔力によって矢を自動で生み出す効果を持っているので矢切れになるということはない。
それゆえに、先行していけていた。
「ボスになったら、俺も参加するからね」
彼女に頼もしさを感じたヤマトは後ろをついていくように走る。すっかり手持ち無沙汰になってしまったが、十層ごとに現れるボスの時には参戦しようと考えていた。
「りょうっかい!」
その言葉は先行するユイナの耳に届いており、元気よく返事を返すが、次々と矢を放つ手は止めていなかった。
通常よりもすごい勢いでマラソンのように出口へ向かって走りながら、二人は行く先を塞ぐモンスターを次々と倒していく。
途中ユイナに疲労が見えたところでヤマトと交代するようなことはあったが、上位開放してレベルアップした彼らにとって出てくるモンスターたちは雑魚同然だった。
ボスを含めて問題なくあっという間に倒すことができ、驚くほど速いペースで地上まで出てくることができた。
禁断の地の入り口まで来たところで、ふとヤマトは足を止める。影に隠れるようにして入口の方をじっと見つめた。
「あー、やっぱりいるね」
ヤマトは入り口の外に衛兵がいることに気づいていた。エクリプスは既にどこかへ帰還したのか、姿は見えない。
「……どうしようか?」
ユイナもそれに気づいて、どうしたものかと困ったように首をひねっていた。
「……ははっ、なんかレベルが一気に上がったのにこんなことで悩むなんて笑えてくるね」
ヤマトは自分たちの状況に思わず笑ってしまっていた。
「だねー、なんかこういう小さいことって意外と大事だよねえ」
困ったように笑うユイナはやれやれという風に小さなため息を吐く。
ちょっとした近所づきあいなどから面倒ごとに発展することもあるため、この入り口を強行突破するのだけは避けたかった。
「入る時にやったやつは使えないかなぁ?」
エクリプスを呼んで、暴れさせて注意を引くというものだったがユイナの提案にヤマトの表情は冴えない。
「うーん、ここから呼んだら音が聞こえるかもしれないっていうのと、どこに現れるかがちょっと読めないんだよねえ」
同じ方法を使うことは、自分たちがいる位置から考えると少々難しいとヤマトは判断していた。
「――じゃあさぁ……一気に吹き飛ばすってのはどうかな?」
「一気に、かあ……それがシンプルでいいかもね」
いたずらっ子のように笑ったユイナの考えている案はなかなか強引なものだったが、ヤマトも代案があるわけではないため、賛同することにする。
「それじゃ、俺がやろうか」
「任せた!」
心得たように笑いあった二人。まずヤマトが外にいる衛兵に気づかれないギリギリの場所まで移動していく。
そこで、彼は魔法を唱えた。
「“ウインド……プレッシャー”!」
風魔法のクラス3の魔法――しかしヤマトが使うことでその威力も強くなっている。洞窟の中からまるで台風でも来たかのような風が一気に巻き起こる。
「うおおおおおおおおお! な、なんだ!」
「ぐ、ぐああああ! と、飛ばされる!」
突如洞窟方面から吹き抜けた強力な風。背を向けていた二人は風の勢いにおされて、入り口前から押し出されてしまう。
「ユイナいくよ!」
「うん!」
その隙をついて手を取り合った二人は洞窟を飛び出した。その姿は突風で体勢を崩していた衛兵の目に触れることはなく、素早く街へと繋がる道へと逃げ込むことができた。
そして、二人はそのまま足を止めずに街へと向かっていく。少しでも時間が惜しいと考えていたからだ。
二人が禁断の地に籠っている間にも時間は経過しており、いくら時間の経過が外と中とは違うと言っても、街に近寄るモンスターを撃退するだけの戦力があの街にどれだけあるかもわからない。
せっかく知り合った二人の冒険者や情報を教えてくれた街の人。彼女らとの別れを迎えたくない――そう思っている。
「はあはあ、やっと戻ってこれたー!」
「ふうふう、なんだかんだずっと走ったのは疲れたね」
洞窟の中では疲労を感じる隙すら危険であるため、気を張っていたが、街に到着したことで安堵感から思わずその場に座り込んでしまう。
「……あれ? あんたたち?」
「あれ、お二人ともそんな場所で何をしているんですか……?」
座っているヤマトたちのもとへ声をかけてきたのはキャティとラパンの二人だった。二人とも驚いた表情でヤマトたちを見ている。
「キャティとラパンがここにいるってことは……まだ街は無事ってことかな?」
息の整ったヤマトは立ち上がって二人に質問する。ヤマトたちが二人に別れを告げて、街に戻って来るまで時間にすれば一日経っていなかったが、それでも穏やかな二人の顔を見てヤマトは安心していた。
「えっと、そんなにすぐにはモンスターも動かないと思いますけど……それにしてもお二人ともずいぶんお疲れみたいですが、どちらに行っていたんですか?」
「そうだそうだ、急にいなくなったからびっくりしたんだよ!」
心から二人が心配してくれていることが伝わってきて、ヤマトとユイナは自然と笑顔になっていた。
「二人とも、いい人たちだね!」
ぱぁっと笑顔を見せながらユイナは思わずそんな言葉が口をついてでた。出会ったばかりの自分たちをこんなに気にかけてくれるなんて嬉しいという気持ちの表れだろう。
だがキャティとラパンにしてみれば、どこでそう思ったのかわからないため、顔を見合わせると困惑していた。
「さて、それよりも今回の一件の解決のめどがたったから、もう少し二人から話を聞きたいんだけどいいかな? ……今度はお酒はなしでね」
ヤマトは自信のある表情でにっこりと笑うと二人を逃がさないぞと見ていた。
ヤマト:剣聖LV180、大魔導士LV173
ユイナ:弓聖LV176、聖女LV161
エクリプス:馬LV15
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