彼女と僕のありふれた。でも、かけがえのない恋の話

烏兎 阿寿

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ねぇ、口ずさんでよ

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 家に帰ってからも、昴君は小説に打ち込んだ。メモ帳を眺めては書き直ししてるのか、ボールペンが素早く動く。
 「これからは健康管理にも気を付けるよ。これも仕事の内だから。」
 長いこと病に伏せった事を懲りたのか、夕飯の席では小説を作るのを休んで、ゆっくりと夕食をとる。箸でご飯を取り食べる仕草も、以前よりも格段に健康的になっていた。
 昴君が良くなったことを、理圭さんや木山院長に報告しよう。そう決めた。
 「小説の完成楽しみにしてるからね。納得いくまで書くんだよ?期間は気にしなくていいからね。」
 私はまた明日から仕事へ行くけれども、昴君にプレッシャーにならないように、緩やかに仕事へと回復して欲しいなと配慮した。
 「おう。また倒れないように、ちゃんと自己管理するから心配なく。」
 倒れたことから、昴君自身の健康を気遣い始めたのが嬉かった。

 翌日、県立病院で仕事をする。
 昴君に進展があったので、理圭さんと木山院長に忘れずに報告する。
 面会室を借りて、理圭さんと木山院長を前に、私は昴君が小説を書けるまでに回復した事を報告する。
 「実はですね…、昴君は再び小説を書けるまでに回復いたしました!今は執筆中です!」「この度はご助力頂きありがとう御座いました!」
 想定よりも早い回復に、理圭さんも木山院長も驚いていた。
 「良かったじゃない!さすがは夏海先生の愛の力!」
 理圭さんが茶化すけれども、彼女も一ファンとして、煌先生の回復を喜んでいる様だった。
 「早い回復だったね。結局、アイディア枯渇…や、プレッシャーだったんだろうか?」
 「まあ、何はともあれ、昴君が回復したようで一件落着だね。」
 木山院長も、事の進展が順調なようでホッと安心したようだ。
 「私達も、煌先生の新作楽しみにしてるからね!」
 「僕も煌先生の新作に興味があるから、読ませてくれると嬉しいな。」
 二人とも夏海を期待の眼差しで見つめてくる。
 昴君が書いてるのが恋愛小説だって、絶対に解ってて二人とも聞いてるなと。夏海の照れる顔でバレてしまった。

 昴君は小説を作ってゆく。
 それは、数日間に渡った。
 その期間も、私は粛々と院内での仕事に勤める。
 昴君のために、減らしてしまっていた担当患者さんの数を、段々と元に戻していった。
 帰宅すると何時も昴君は作業机に齧りついていて、無我夢中で執筆している。
 ふと、机の横の壁に目をやると、コルクボードに私の写真が幾つも貼られていた。昴君とデートしたり部屋で過ごしたりしたときに撮っていた写真だった。
 こんなのよく撮ってたね?!みたいな、恥ずかしい写真もあったけれども、どの写真も私の瑞々しい一瞬を捉えた写真で眩しかった。
 私の写真を眺めながら、昴君は恋愛小説を執筆しているのだ。
 私との恋愛を小説にする素敵な恋人がいる。奇跡みたいな出来事に、私の鼓動が早くなる。
 「お帰り、夏海。」
 作業机から私の方へと向き直して昴君は、いつも可愛い笑顔を向けてくる。
 嗚呼、私の愛しい恋人よ。
 私は昴君に駆け寄って、彼の頭をクシャクシャに撫で回した。
 そんな愛おしい日々が幾日も続いた。

 六月半ばの日曜日。
 遂に昴君が書き上げる。
 恋愛小説が完成したのだ。
 昴君は何度もノートパソコンの画面とにらめっこして、小説の推敲をしていた。
 「…これで、完成かな。」
 後は、書面の見映え等を調整してテキストデータを整える。
 棚にあるプリンターにA4用紙をセットして、小説を印刷するようだ。枚数が多すぎて紙束になっている。余程の長編小説なのだろう。
 久々の小説を書き上げた昴君は、気持ちよくプリントアウト!と、エンターキーを押した。
 無駄な動きもなくプリンターが動いても、昴君の小説を印刷するのには時間がかかった。
 それくらいの厚みが、私との恋愛小説なのだ。
 まだ見ちゃダメ。と、昴君は印刷された原稿を見せてくれない。揃うまで待ってて。と。
 昴君は印刷された原稿を原稿を手際よく纏めていく。
 印刷が終わったところで、昴君は原稿の紙束をホッチキスで止めた。
 「もう、いいよ。」
 昴君の声から、歓喜が滲んでいる。
 私が待望した、昴君渾身の傑作が出来上がった。
 でも、昴君は勿体ぶって言う。

 「夏海、俺が書いた恋愛小説を…。」
 「夏海の唇で口ずさんでよ。」
 「…音読して、俺に聴かせて欲しい。」

 「わかった。」
 昴君から原稿の紙束を手渡された私は、待ちに待った私達の物語を口ずさみ始める。
 昴君の書いた私達の恋愛小説は、優しい言葉で綴られていて。
 声に出して読むとそれは、唄のような響きがあった。
 

 タイトル
 【彼女と僕のありふれた。でも、かけがえのない恋の話】


 私は、私達の恋愛物語を口ずさんだ。
 恥ずかしいほど正直に書かれた、昴の恋愛小説。むず痒いけれども、愛おしい。
 昴君は最後まで、ウットリと聴きつづけてくれた。
 昴君が書いた私達の恋愛小説は、優しい優しい唄だった。
 「夏海が口ずさんだこの話。俺は生涯忘れないから。」
 「…って、言っても、俺達結婚してずっと一緒に居ような。」
 「俺と夏海に、サヨナラなんて無いから。」
 ………?
 「ねぇ、昴君。それってプロポーズ…?」
 「うん。プロポーズ。」
 柔らかな午後の陽射しに、私溶けてゆきそう。
 気づいたときには、私は昴君に抱きついていた。昴君も、私をきつく抱き締めていた。
 
 *******

 感極まったあの日から後日、昴君は重大なことを伝える。
 「…小説が完成したのはいいけれども、実は、この小説を出版してくれる出版社が決まってない。」
 「正確に言うと、決めかねている。」
 詳しく話を聞くと、何社か出してくれそうな候補の出版社があるとの事。
 しかし問題は、煌理仁は候補の出版社から本を出したことが無い。というのだ。
 「いや…誘いはあったし名刺も何枚も貰ってるんだよ。でも、今まではジャンルが合わなかったから…。」
 昴君は、またもや緑のプラスチック籠を出して、奥底から名刺フォルダーを取り出す。名刺を抜き出して、検討している出版社各社の名刺を私に見せてくれた。
 どれも聞いたことがある・知っている出版社だ。何故ならどれも、女の子や女性向けの本を出してる編集部の名刺だったから。
 「女性向けの仕事も依頼あったんだ…。」
 「まあ………、ほら、夏海の先輩女性も俺のファンって言ってたし、ほら。」
 「格好いい男書けるからか。」
 そういえば、理圭先輩が推しキャラが居るって言ってた。
 「んー、それと可愛い女の子も書けるしね。」
 「今までは乗り気じゃなかったけど。今回の恋愛小説は、夏海みたいな子に読んで欲しいなって。」
 「んで。どの出版社の編集部がいいかい?」
 昴君はテーブルの上に名刺を並べて、私に選ぶように促す。
 どの出版社の編集部も魅力的で、縁がある昴君が羨ましいくらいだった。私がファンレターを送ったことがある小説家の先生がよく書いてるレーベル編集部のもあった。
 迷いに迷った末に、思い入れのあるレーベルの編集部の名刺を選んだ。あの、見習い魔女のシリーズが出ているレーベルだ。
 「見習い魔女シリーズを出してるレーベルにお願いして欲しいな。」
 私と分かち合った思い出の本。それと一緒に並んでいて欲しい。
 「それはピッタリだ。是非とも。」
 昴君は私の提案に満面の笑みで応えてくれた。
 まだ、連絡すらしていないのに、見習い魔女のシリーズ本と私達の恋愛小説が全国の書店に並んでいる光景が浮かぶ。
 「皆に読んで欲しいな。昴君と私の話。」

 早速、昴君は出版社に連絡する。
 銀星灯出版社の文芸シラノ編集部へと。
 名刺を渡してくれた編集部の方が出てくれた。彼は中矢文人さん。煌理仁に名刺を渡してた事を覚えていてくれたようで、すんなりと話を聞いてくれた。
 「おお。煌理仁先生も、恋愛小説に興味が出てきましたか!ラブコメじゃないんですね!」
 「ラブコメじゃないですね~。まあ、嫁が出来て新境地に来たといいますか…。」
 「新婚になるんですか!おめでとう御座います。」
 昴君と中矢さんは、身の上話を交えながら、恋愛小説について打ち合わせを進めている。
 電話しながらでも、昴君はノートパソコンを開いて、原稿データを手際よく送る。
 双方が原稿データを確認しながら、打ち合わせは更に細かな点にまで進んでゆく。
 多少の手直しが必要なようだが、ほぼ初稿のままで本を出してくれるようだ。
 「ちゃんとターゲットを考えて書いて下さってるので、キャッチコピーも表紙絵の感じも、浮かんでくるので素晴らしいですね。」
 昴君は電話を聞きながら、私に向かって親指を立てて、グッドサインを送ってくれた。
 「表紙絵に関してはですね………。ちょっと、私の方で決めさせてください。」
 中矢さんはそういって、昴君も承諾。打ち合わせは一旦終った。
 「中矢さんが決めてくれるんだから、俺達はのんびり待とう。」
 上機嫌で昴君は、作業机の前で伸びをした。

 夕食を食べていると、昴君のスマートフォンが鳴る。画面には中矢編集と書かれている。
 「はい、もしもし。」
 昴君が応答する。
 「煌先生、今晩は。表紙絵イラストレーター決まったので、そのイラストレーターと煌先生に直接打ち合わせして欲しくてですね。」
 「………?直接って、なんですか?」
 「同郷同士のコラボレーションで決まったので、編集部満場一致の決定です。」「人気イラストレーターと煌先生が同郷だったんですよ!イラストレーターがですね、【日元Chaco】先生になります。」
 日元Chaco先生。私でも知ってる。女子高生に人気の若手イラストレーターだ。
 「昴君良かったね!あの、日元Chaco先生だよ!」
 弾む私に対して、昴君は神妙な面持ちだった。
 「わかりました。ちゃんと対面で打ち合わせしてきます。」
 「煌先生流石です!日元Chaco先生がですね、既に打ち合わせ場所を決めているんですが…。」
 場所は、【商店街の二階にある、あの喫茶店】だった。

 
 
 「…ここの喫茶店、人気あるんだね。…当然か。」
 日元Chaco先生との打ち合わせの当日、私達は商店街の喫茶店で待ち合わせ時刻よりも早く着き、座席に座って日元Chaco先生を待っていた。
 昴君は中矢さんと共に修正し直した原稿を持参して、念入りに見直している。
 「…日元Chaco先生なら、俺達の恋愛小説を、素敵に描いてくれるよ。」
 昴君の声は明るい。なのに、私の方を見ない。
 「…そだよね。日元Chaco先生だもの。」
 私は昴君よりも緊張してしまっているのではなかろうか。
 入店のベルが鳴る。店員さんの案内の声。
 日元Chaco先生は、暗めの店内の中を現れた。
 やっぱりそうだ、秋羅ちゃんだった。
 日元Chaco先生は、秋羅ちゃんなのだ。
 「………煌先生、お久しぶり。」
 「…てか、本名、瀬戸昴っていうんだ。へぇ。」
 秋羅ちゃんはドシリと向いの座席に座り、何が面白おかしいのか、私達をジロジロと舐めまわすように眺めている。
 私は今日始めて秋羅ちゃんのペンネームを知った。秋羅ちゃんが日元Chaco先生であることを始めて知った。
 でも、この喫茶店は、秋羅ちゃんが専門学生の頃に、私と秋羅ちゃんと二人で来た喫茶店でもあったから。そうじゃないかな、って解った。
 秋羅ちゃんが専門学生の頃…。嫌な汗が吹き出て仕方がなかった。私は震えた。
 「私が専門学生だった時に、煌先生が私に、あの決断を迫らせた事を、ハッキリさせたい。」
 「いいだろう。そうしようか。」
 猛虎の様な威嚇を放つ秋羅ちゃんを前に、昴君は微動だにしなかった。
 秋羅ちゃんは言い放つ。
 「私が専門学生の頃に掴んでいた大きなチャンス…、海外での活躍のチャンスを、専門学校の先生だったアンタは踏みにじった。」
 「…そうだね。」
 昴君は淡々と受け止める。
 「その仕返しなのか、君は俺の筆を折ってくれたね。」
 ーーー?どういう事?
 ………それって、秋羅ちゃんが昴君を描けなくなるくらいに追い詰めたって事?
 私の顔から血の気がなくなる。
 「………ねぇ、秋羅ちゃん、ウソだよね…?」
 秋羅ちゃんは一切悪びれていない。
 「嘘じゃないね、ホント。」
 「煌先生の作品のイラスト担当してた人達に、煌先生のライバル作家さん高額で紹介しまくったもん。」「後、煌先生贔屓の出版社編集さんには、新しい作家さん紹介したりーーー………。」
 秋羅ちゃんは、昴君を追い詰めた手口を滑らかに喋って抑えない。
 「秋羅ちゃんっ………!もう止めて!!」
 私は泣きじゃくりながら叫んだ。
 私の好きな人が私の好きな人を傷つけている。そんな状況に耐えられなかった。心臓が張り裂けそうだった。
 秋羅ちゃんも昴君も沈黙する。
 でも、昴君は。
 「やったらやり返す。実にお前らしいな。分からず屋なのも。」
 「俺を追い詰めたかったら、追い詰めろよ。」
 「…今なら、恋人が居る今なら。お前の気持ちも解るから。」
 途端に秋羅ちゃんの顔が苦痛で歪む。
 秋羅ちゃんは思い出してるのだ。
 専門学校に通っていたあの頃、酷く荒れたあの時を。
 強気だった秋羅ちゃんの瞳から、透明な涙が溢れた。
 「………んな事、解ってんだよ!諦めるしかなかったの解ってんだよ!!」
 秋羅ちゃんは自分のスマートフォンをテーブルに投げる。投げられたスマートフォンはテーブルの上を滑って私にぶつかった。
 スマートフォンの画面には、誰かのブログが表示されている。ブログの写真には、賢そうな日本人男性と綺麗なブロンドの白人女性の結婚式の写真が沢山載っていた。
 「………これ、もしかして、秋羅ちゃんが言ってた…元彼?」
 やはりといった顔で、昴君が覗き込む。
 「…コイツは和気錦。俺の元生徒。で、秋羅の元彼。」
 見ると和気は、写真でケーキカットの時とか色々とおどけている。
 「和気はね、出来る子なんだけど、野心家でね。彼女だった秋羅を、アメリカに連れて行こうとしたんだ。」「和気が勤務してる制作会社に、イラストレーターが不足してたし、和気自身は家事が出来ないし。」
 秋羅ちゃんは元彼の話を静かに聞いている。
 「…ハッキリ言おう。和気は秋羅を踏み台にするつもりだった。」「本人から聞いてたんだ…。さすがに俺は君に言えなかった。」
 秋羅ちゃんは落胆する。
 秋羅ちゃんが専門学生の時に荒れた原因はコイツだったのか。
 昴君も重たい表情で場が氷ついている。
 「…煌先生…。いや、昴君。ありがとう。あの時に止めてくれて。」
 「こんなヤツ、ちっともイイ男じゃないや。絵は描けるけど。」
 そう言って、秋羅ちゃんはスマートフォンに最近来たという、和気の連絡先を目の前で削除した。
 「………都合いい女扱いも大概にしろよな。」
 「で、昴君。何描けばいいの?さっさと注文入れてよね?」
 いつもの気が強い秋羅ちゃんに戻って、私達はホッとした。
 「あーあ。アイツのせいで、日本最高って感じのを描きたくなったわ。」
 「そっか。海外行かなくても、良いところ沢山、日本にあるよね。」
 どこかにイイ男いたら、今度秋羅ちゃんに紹介してみようかな?私は弱々しくも笑顔で頷いた。
 「…気にしなくても、夏海の妹として、最高の絵を描くからさ。」
 「その分、イラスト料は高くはなるけどね♪」
 「うん。」
 私の好きな人と好きな人が、協力して作ってくれる最高の作品。私は楽しみで仕方がなかった。
 
 「………、やっぱり、絵は姉ちゃんが描きなよ。」
 「夫婦で作った作品の方が、売れそうじゃん。絵は教えるからさ。」

 秋羅ちゃんの独断で、中矢さんに連絡が入る。
 結果、イラストは私が描く事に決まった。



 六月末。私は実家の秋羅ちゃんの部屋でパソコンと格闘する。
 ペンタブという、ペン型マウスを持って頑張って描いてみるものの、女子高生がノートの隅っこに描いたような可愛いラクガキみたいな絵しか描けない。
 「私のイメージだと、昴君の恋愛小説はもっと、こう…極彩色のハイレベルな絵が載ってる筈で…。」
 イラストの理想と現実が違いすぎて、私は、またもや涙目になる。
 「昴君、これ、ちゃんとオッケー出るのかな…。」
 昴君は呑気に、母から差し出された饅頭を頂いている。
 「別に、小説はシンプルな絵でも、味のある絵でも、雰囲気出てればそれで構わんと思うよ。」
 「そーよ。姉ちゃん高望みしなくても。その絵で充分可愛いのに。」
 味のある絵でも…って。作品作りとなると、二人とも容赦がない。
 昴君と私の恋愛小説なんだから、妥協はしたくないし…!
 私は、あの見習い魔女の文庫本を鞄から取り出した。
 シンプルで絵本みたいな暖かい表紙絵。
 表紙絵を見ながら参考に、パソコン上で絵を描く。
 拙いながらも、私が画くイメージと近いイラストを描けてゆけている。
 「あっ!?発色は良くしといて!…それだけ気を付ければ、修正無いと思うから。」
 つくづく、秋羅ちゃんは職人だなあ………。
 昴君も頷いていて、職人だなあ………。
 発色には気を付けて、紺碧の夜空にキラキラとした星の光をいれてゆく。
 
 恋人達が手を繋いで、星空を見上げている。
 ありふれているけれども、私達の特別な絵。

 「姉ちゃんのユルさが出てて、可愛いーね。」
 「そうかな?へへ。」
 「んじゃ、中矢さんにデータ確認して貰うね。」
 中矢さんへの送信は秋羅ちゃんに任せて、私は一息ついた。
 一仕事終えた私に、冷たい麦茶を差し出してくれる昴君。
 「お疲れ様、夏海先生。」
 「先生だなんて…、頂きます。」
 冷えた麦茶が喉を潤す。自分で描いた、自分達の絵を眺めていると、更に美味しかった。

 夏海さんが描いた、そのままで。
 と言う事で、中矢さんからは修正指示はなかった。

 *******

 七月下旬。夏休み真っ盛り。
 【彼女と僕のありふれた。でも、かけがえのない恋の話】は、書店に並ぶ。
 昴君が文を書いて、私が絵を描いた恋愛小説。
 それを、皆が買いに来てくれている。
 「…可愛い!」
 女子高生が、一目惚れして買って行ってくれた。
 私達の恋愛が、誰かに繋がるといいな。
 

 幸せ連鎖が起こらないかな。なんて、願って。

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