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第1章 古代の魔法使い

出発にあたり

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「ま~ったく、男気ってもんがなっちゃいねぇ!」

 そう言うクラウドは朝からロデリックの家に来ている。ミルトアの街へ出発するに当たって、日程の確認と準備の打ち合わせであるが朝からクラウドの口から出てくるセリフは全て恨み節である。

「悪かったと言っとるだろう。」

 いい加減にしろとばかりにロデリックが返す。

「大体人にものを頼みに来た人間が、頼み事をしたやつのピンチに居なくなるとはどういう了見なんだろうね~。」


 終わらない愚痴についにため息を吐き出したロデリック。
「ふ~・・

 分かった分かった。今回の件は売り言葉に買い言葉のようなもの。

 クラウドもつい言ってしまっただけで本気でなかったとタニアには言っておく。それで良かろう。」

 そう言いながらクラウドに木のコップを出した。中には水が入っている。

「・・・。」

 まだ何か納得がいかない様子でコップをあおるクラウド。

「それと、ミルトアに向かうにあたって何か力になれることはあるか?」

「それなら大丈夫だよ。用意はもう出来てるし。」

「?

 何が出来てるだ。まだ荷物さえまとめてないだろう?」

「荷物なんか大体いつもこいつに入れてあるよ。」

 そう言ってクラウドは右手を上げた。

「何?」

 何があるのかとロデリックが見るが、荷物の類いはどこにもない。
 不思議そうにしていると

「どこをみてんの?

 こいつだって、こいつ。」

 そう言いいながら右手首についている腕輪を左手の指でつついた。

「・・・っ!

 まさかマジックポーチ?

 いや、まさかな・・だが、・・」

 ロデリックが何かに気づいたように呟くがそんなはずは無いと考え直す。
 マジックポーチ、それは冒険者ならずとも誰もが欲する魔導具で見た目の容量以上の物を入れる事が出来る。

 冒険者なら魔物の素材、冒険用のアイテム、商人ならば品物の輸送や貴重品の管理等。
 その他にも国やギルドなど言い出したらキリが無いほどに需要がある魔導具なのである。
 しかし、入手は困難を極めるの一言であり、魔法が衰退したこの世界においては遺跡などで遺物として発見されたものが僅かに使われているだけである。

 冒険者だったロデリックもその事を知っていたからこそ、すぐに信用出来なかったのだ。しかもポーチ型ですらない。見た事はおろか、聞いた事も無い。ロデリックの反応も当然と言えた。

 しかし当の本人は平然と答える。

「今はマジックポーチって呼ぶのかい?

 これはアイテムリングって言うんだけど。

 沢山入って便利だよ。」

「なっ!本当にアイテム収納の魔導具なのか!?

 しかし、鞄タイプやポーチタイプは聞いたことがあるが、アイテムリングなど聞いた事もない!

 一体どうやってアイテムを入れるのだ?」

「そうなのかい?

 逆に俺は鞄やポーチのやつは持ってないな。

 これは入れたいアイテムを触って合言葉を言うのさ。

 見てなよ。

 イン!」

そう言うと手に持っていた木のコップが一瞬で消えた。

「なっ、いきなり消えたぞ!」

 驚くロデリックにクラウドはアイテムリングを近づける。指で二回叩くとアイテムリングのすぐ上に半透明の板が出た。

「おおっ、何だこれは?」

「何が入ってるかの一覧さ。リストボードって言うんだ。

 ほらここに木のコップとあるだろう?

 ここを触ると・・・」

 そう言うとクラウドはリストボードにある木のコップと書いている箇所を触る。するとまたまた一瞬でクラウドの手に木のコップが出てきた。

「なんだとっ!

 ・・これは便利だな!」

「良ければ村長さんにもあげようか?」

「な、何っ?

 まだ持っているのか・・・」

 そう言うロデリックの顔が固まる。

 話の流れでクラウドを見ようとしたが顔が動かない。

 その視線はクラウドの出したリストボードに釘付けであった。

「・・・何だこれは・・

 ・・・話を聞かせて貰うぞクラウド!

 こんなものを持つやつが一般人なわけが無い!

 以前から気にはなっていたが・・

 お前一体何者だ?」



 そこに表示されていたのは・・・


『アイテムリング ×760』

『クリーチャーカード×156』

『ハイポーション×686』

『フルポーション×95』

『霊薬エリクサー×780』

『エーテルポーション×884』

『ハイエーテルポーション×960』

『万能霊液エルダーポーション×254』
 ・
 ・
 ・
 元冒険者のロデリックが聞いたことすら無いアイテムの数々。

 元々ロデリックには違和感があった。ある日気づけば村にいたこの男に。

 居るのに気づいた数日後、村を食いものにしていた憎らしい村役人が改心した。

 森に入る許可を与えた途端、森で猟師が獲ってくる獲物の数が増えた。

 居なくて困っていた治療師の代わりに薬師が出来ると言い出した。

 挙句に不作で困っていた畑は最近何の問題もなく順調に育っている。

 まさかと思うことはあったが、そんな事が一個人の力で出来るはずないと考えるのをやめた。しかし、クラウドが来てから村の生活は格段に良くなっている。



 家族に問題を抱える友人に話を振ったのは自分からであった。

 薬師として村で働いている男がきてから、驚くほど村の生活は順調だと。この男が携われば何故か上手くいく。運頼みではあるが、験担ぎにでも見てもらえばどうか?と。

 神にでも何でも縋りたかったその友人は一も二もなく頷いた。

 神頼みでも何でもいい。あいつが少しでも良くなるならなんでもすると。


「(まさか私とあいつの関係に気づいた者が送り込んできた諜報員?)」

 邪推を始めたロデリックに向けクラウドは苦笑いで返す。

「心配すんなってロデリックさん。

 まさか偶然見れたとは思ってないだろ?

 俺からも話があったんだよ。リストを見せたのは少しばかり話が早くなるかと思っただけさ。

 ちょっと待っててくれ。マーサさんを呼んでくる。

 3人で話そう。」

 そう言ってクラウドはマーサ婆さんを呼びに行くのだった。

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