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第2章 異世界勇者
リリー帰還
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現在王都は沸き返って要る。
原因はリリーが無事に帰った事。
一報を聞いたアンドリュー国王が狂喜乱舞する中、更には謎に包まれていたドラン連邦国の内情を知る者達を捕らえたという報告は宰相エリックをも狂喜乱舞させた。
「で、まだか?」
ここ数日エリックが執務室に来て最初に確認を取るのがリリー殿下一行のその後の同行である。無事であったとの報せが王都に到着して以降、次は到着についての報せが来るはずだと心待ちにしているが今日までその報せはまだ届いていなかった。
そもそも到着していればすぐに連絡がくるよう手配しているのではあるのだが・・・
しかしアンドリュー国王から一連のドラン連邦国の動きを解明するよう命じられて以来、何の進展も無かったのだ。それが遂にその中核を成す人間を捕らえたと聞けばその到着が待ちきれないのも仕方がない事だろう。
「はっ、本日早朝にジェフリー様より連絡便が届いております。それによるとリリー殿下の到着は3~4日後になるだろうとのことです。」
現在王国では都市や街との連絡に鳥を利用した連絡便を使っている。
「そうか!待ち遠しいことよな。・・・それにしてもあのジェフリー殿が到着の時間を読みきれないとは珍しいことだな。」
「はっ、どうやら王都近くでゴブリンの集落が発見されたようで、それが進行にどう影響するかが分からないからとジェフリー様の手紙には書いてあったようです。」
王都にいるエリックよりも王都の事情に通じているジェフリーは流石の一言であるが、それを聞いたエリックが声を荒げた。
「ば、馬鹿者ーっ!今回の一件がどれ程重要か分かっておるのか!!ゴブリンなどのせいで1日も余分に時間をかけてたまるかっ!すぐさま騎士を編成し討伐に当たれ!間違ってもリリー殿下の足を止めてはならん!」
「は、ははっ!直ぐにかかります!」
エリックの一声によりゴブリン討伐が言い渡されたのだが、現在王都の冒険者ギルドでは新人や中堅冒険者に依頼を出しゴブリン討伐に力を注いでいたため、ギルドより抗議を受けることになったという。
その後、3日後にリリーが王都に到着しエリック一同が胸を撫で下ろしたのであった。
リリー到着を聞きつけた王城は今蜂の巣を突いたような騒ぎになっている。
王との謁見室にはリリーに連れられたバダックが膝をつき国王と宰相に報告を行っている。
その後ろに控えるのはドラン連邦国の勇者達。
しかし、彼らは自分達を勇者と呼んでいるのがドラン連邦国だけということすら知らなかったようだ。
「報告は以上でございます。道中に報告書も準備しておりますので詳細はそちらに詳しく記しております。」
「うむ、御苦労であったバダックよ。褒美については追って知らせよう。まずは身体を休めてくれ。」
国王よりその言葉を聞き、謁見室での面談は終わるがその後国王の私室に呼ばれたバダック。そこにはエリックとリリー、そしてリリーの母親アイーダも同席していた。
「本当にありがとうバダック。貴方には一度ならず今回もまた助けてもらいました。」
アイーダが深々と頭を下げる。「王妃が頭など下げてはいけません」というバダックに対し「堅苦しい話しは謁見室だけで充分じゃ」と言い出し自分も頭を下げようとするアンドリューにバダックは慌てふためいていた。
「今回の一件はそれ程の手柄ということよバダック。」
本来なら止めなければいけない立場であるエリックも国王の振る舞いに見て見ぬふりのようだ。
「それよりもお前に手を貸してくれたという者はそれ程の使い手なのか?」
エリックが唐突にバダックへ問う。
「はっ。この度の一件、クラウド殿の助力無しではどうにもなりませんでした。」
そう言いながら自分は勇者達と戦った挙句、腕を斬り落とされ身体中を焼かれて瀕死だったこと、また、それをクラウドに助けられた事も伝える。
「なっ、瀕死の状態から全快する程の効果を持つアイテムなど聞いた事もないぞ。」
「ミルトアの街では最近評判の回復アイテムがあると聞くがそれか?」
「いえ、クラウド殿が持つアイテムは九死一生など足下にも及ばぬ程の効果を持っています。」
ミルトアの領主として販売が始まったアイテムの話しは聞いていたが、今回自分に使われたアイテムは比較にならないとバダックは言う。
「それにそのクラウドとかいう者だが・・・」
言いにくそうに話し出したエリック。
ドラン連邦国の勇者達。彼らの実力は北部や東部で腕利きの騎士達があしらわれた事で国中に知れ渡った。レムリア皇国をわずか30人で打ち破った立役者というのは伊達では無いとの評判が飛び交っているらしい。だが「それ程の実力者をたった1人で止めたなど到底信じられない、その男こそドラン連邦国からの回し者。捨て駒役の人員を土産にこの王国に入り込むために来た」のだと言う意見が王都の貴族達から出ているというものであった。
「誰がそのような事を!」
バダックとリリーの顔が怒りに染まるのをアンドリューがなだめる。
「まあ落ち着けバダック。リリーもじゃ。我らはそのような事など思っていない。どうせまた王都の貴族の足の引っ張り合いじゃ。」
「しかし、その勇者と呼ばれる異世界人も大人しいものよな。聞いたほどの実力ならいつでも逃げ出せるもんじゃが。」
そう不思議がる国王にエリックが告げる。
「それは最初から警戒しておりました。しかし直に会って問いただしましたが奴らにその気は無いようです。」
「何故じゃ?」
「奴らには別々の部屋をあてがい個別に聞き取りしましたが、3人共が同じことを言いましたな。ただ一言『あの男は敵に回せない』と。」
「ふ~む、それ程か・・・」
その時、部屋にノックの音が響いた。
「誰であるか?」
国王の問いに答えたのは国王付きの従者。
「はっ、王選魔術師団の団長ランドルフ様より謁見の依頼がきております。」
「あいつか・・・。また厄介な奴が出てきおったわ。」
そう言うと国王はその場にいる皆に引き続きくつろぐよう伝え自分は部屋を出ていった。
そして今謁見室には国王アンドリュー、ドランの勇者達3人(コウジ、ナオキ、モモコ)、ランドルフ、クラウド、数名の貴族が揃っている。
その場において、まずは王都貴族がクラウドをドランからの回し者と責め始める。そしてその証拠として勇者達を引き合いに出す。つまり彼らはこの場にいる自称勇者達は偽者であり、その捨て駒を手柄にこの国に入り込むつもりだと言っている。
その場合、証拠となるのは勇者達本人である。捨て駒ならばその実力はたかが知れたものであるのだから。結果、彼らの化けの皮を剥がして欲しいと王選魔術師団に依頼が回ったようである。
どちらかといえばランドルフもまた乗り気では無かったようだ。彼は自分が名誉ある王選魔術師団の団長であることを誇りとしており、その王選魔術師は騎士よりも遥かに優れた戦力としての自覚がある。彼の中では騎士など使い捨ての盾も同然であった。
彼が乗り気ではない理由、それは勇者達が倒したのが騎士のみであり、こと魔法においては自分達に敵うはずが無いという自信があったからである。が・・・
「ふ~む、この際やって見せた方が話しが早そうであるな。」
五月蝿い周りの者達の口を塞ぐために協力して欲しいとアンドリューが言うと、反応したのはドランの勇者達の一人ナオキであった。
「協力はしても良いが、その前に一つ約束して欲しい。」
「何を捕虜の分際で!厚かましいにも程があるわっ!」
いきり立つ貴族をなだめ、発言を許したアンドリュー。しかしその発言はその場にいる者にとって許しがたいほどに不遜な態度となった。
「そっちのおっさんと戦えばいいんだろう?相手なら俺がやるよ。ただし、それでおっさんがどんな怪我をしてもクラウドさんには関係ないと約束して欲しい。」
彼はよりによって王選魔術師団の団長を相手に戦闘による怪我の心配をした上に、そのことでクラウドが怒らないよう約束して欲しいと言ったのだ。
「き、貴様・・・、どう思い上がればその様な言葉が吐けるのだ・・・」
「別に俺はどうでもいいけど」と答えかけたクラウドをよそにランドルフの顔が真っ赤になっていく。その結果・・・
「いいだろう、貴様は我が魔術師団の副団長が相手をしてやる。」
そう言うとランドルフはおもむろにクラウドを睨みつけ自分の相手となれることを光栄に思えと言い放った。彼にしてみればクラウドと戦い敗れた者などを相手にわざわざ自分が戦う必要などないと感じたのである。加えて大物ぶっている見知らぬ男に現実を見せてやろうという考えもあったようだ。
クラウドの返事を聞くまでも無く全員に訓練所までの移動を伝え自身はさっさと行ってしまったのであった。
「結構好き勝手するんだな・・・」
クラウドが誰に言うでもなく呟いたのであるが一番近くにいたアンドリューには聞こえたようだ。
「すまぬな、クラウド殿。あやつは魔術師である事を誇る余り魔術師以外を見下すところがあってな。」
それはまるで「国王である自分を含め」とでも言いたげであった。
ちなみにその後訓練所で繰り広げられた光景は無惨の一言であった。
ランドルフが副団長のミゲルを呼びに行った間のこと。
クラウドは副団長の命を気にかけた結果、威力が強すぎて死ぬかもしれないから出来るなら魔法を使わず戦うようにとナオキに告げる。
それを聞いた貴族達から非難が噴き出すが、いざ戦いが始まってみればナオキは飛び交う魔法を足さばきのみで全て回避。
強力な魔術師として知られていたドランの勇者との戦闘は魔法の撃ち合いになるであろうと予測した者達により予めお互いが距離を取った形で始まったのであるが、ナオキはその距離をただの一度も攻撃を当てられることなく詰めきった。
その後はすれ違いざまに繰り出したひざ蹴りが鳩尾を痛打。
ミゲルが悶絶する様を見て目の前で起こった事が信じられないランドルフはあまりの事態に膝がガクガクと揺れだす始末であった。
混乱から回復しない内に今度はランドルフとクラウドの対戦が発表されるがクラウドの姿が無い。
自分に恐れを無し逃げたのでは?
その考えが心に浮かび顔に笑顔が戻る頃、アンドリューよりランドルフの不戦勝が告げられる。
沸き立つ王選魔術師団のメンバーが口々に「逃げた」と叫ぶ中、アンドリューによってランドルフに告げられた事は・・・
「ランドルフよ、クラウド殿からの伝言じゃ。『お前の腕を見てみたいとさえ思わない。せめて次に会う時はおしめを外しておいて欲しい』だそうじゃ。お主、相手にすらしてもらえなんだな。」
クラウドはミゲルがやられる様を見て膝を揺らすランドルフを見た時に既に彼を見限っていたようである。
意味が分からなかったアンドリューが「おしめを外す」の意味を聞いたところ、彼はただ『戦場に立つ最低限の覚悟が出来ること』と告げたのだとランドルフに教えた。
王選魔術師団の団長を辞職したいとランドルフが申し出てきたのはそれから3日後だったという。
原因はリリーが無事に帰った事。
一報を聞いたアンドリュー国王が狂喜乱舞する中、更には謎に包まれていたドラン連邦国の内情を知る者達を捕らえたという報告は宰相エリックをも狂喜乱舞させた。
「で、まだか?」
ここ数日エリックが執務室に来て最初に確認を取るのがリリー殿下一行のその後の同行である。無事であったとの報せが王都に到着して以降、次は到着についての報せが来るはずだと心待ちにしているが今日までその報せはまだ届いていなかった。
そもそも到着していればすぐに連絡がくるよう手配しているのではあるのだが・・・
しかしアンドリュー国王から一連のドラン連邦国の動きを解明するよう命じられて以来、何の進展も無かったのだ。それが遂にその中核を成す人間を捕らえたと聞けばその到着が待ちきれないのも仕方がない事だろう。
「はっ、本日早朝にジェフリー様より連絡便が届いております。それによるとリリー殿下の到着は3~4日後になるだろうとのことです。」
現在王国では都市や街との連絡に鳥を利用した連絡便を使っている。
「そうか!待ち遠しいことよな。・・・それにしてもあのジェフリー殿が到着の時間を読みきれないとは珍しいことだな。」
「はっ、どうやら王都近くでゴブリンの集落が発見されたようで、それが進行にどう影響するかが分からないからとジェフリー様の手紙には書いてあったようです。」
王都にいるエリックよりも王都の事情に通じているジェフリーは流石の一言であるが、それを聞いたエリックが声を荒げた。
「ば、馬鹿者ーっ!今回の一件がどれ程重要か分かっておるのか!!ゴブリンなどのせいで1日も余分に時間をかけてたまるかっ!すぐさま騎士を編成し討伐に当たれ!間違ってもリリー殿下の足を止めてはならん!」
「は、ははっ!直ぐにかかります!」
エリックの一声によりゴブリン討伐が言い渡されたのだが、現在王都の冒険者ギルドでは新人や中堅冒険者に依頼を出しゴブリン討伐に力を注いでいたため、ギルドより抗議を受けることになったという。
その後、3日後にリリーが王都に到着しエリック一同が胸を撫で下ろしたのであった。
リリー到着を聞きつけた王城は今蜂の巣を突いたような騒ぎになっている。
王との謁見室にはリリーに連れられたバダックが膝をつき国王と宰相に報告を行っている。
その後ろに控えるのはドラン連邦国の勇者達。
しかし、彼らは自分達を勇者と呼んでいるのがドラン連邦国だけということすら知らなかったようだ。
「報告は以上でございます。道中に報告書も準備しておりますので詳細はそちらに詳しく記しております。」
「うむ、御苦労であったバダックよ。褒美については追って知らせよう。まずは身体を休めてくれ。」
国王よりその言葉を聞き、謁見室での面談は終わるがその後国王の私室に呼ばれたバダック。そこにはエリックとリリー、そしてリリーの母親アイーダも同席していた。
「本当にありがとうバダック。貴方には一度ならず今回もまた助けてもらいました。」
アイーダが深々と頭を下げる。「王妃が頭など下げてはいけません」というバダックに対し「堅苦しい話しは謁見室だけで充分じゃ」と言い出し自分も頭を下げようとするアンドリューにバダックは慌てふためいていた。
「今回の一件はそれ程の手柄ということよバダック。」
本来なら止めなければいけない立場であるエリックも国王の振る舞いに見て見ぬふりのようだ。
「それよりもお前に手を貸してくれたという者はそれ程の使い手なのか?」
エリックが唐突にバダックへ問う。
「はっ。この度の一件、クラウド殿の助力無しではどうにもなりませんでした。」
そう言いながら自分は勇者達と戦った挙句、腕を斬り落とされ身体中を焼かれて瀕死だったこと、また、それをクラウドに助けられた事も伝える。
「なっ、瀕死の状態から全快する程の効果を持つアイテムなど聞いた事もないぞ。」
「ミルトアの街では最近評判の回復アイテムがあると聞くがそれか?」
「いえ、クラウド殿が持つアイテムは九死一生など足下にも及ばぬ程の効果を持っています。」
ミルトアの領主として販売が始まったアイテムの話しは聞いていたが、今回自分に使われたアイテムは比較にならないとバダックは言う。
「それにそのクラウドとかいう者だが・・・」
言いにくそうに話し出したエリック。
ドラン連邦国の勇者達。彼らの実力は北部や東部で腕利きの騎士達があしらわれた事で国中に知れ渡った。レムリア皇国をわずか30人で打ち破った立役者というのは伊達では無いとの評判が飛び交っているらしい。だが「それ程の実力者をたった1人で止めたなど到底信じられない、その男こそドラン連邦国からの回し者。捨て駒役の人員を土産にこの王国に入り込むために来た」のだと言う意見が王都の貴族達から出ているというものであった。
「誰がそのような事を!」
バダックとリリーの顔が怒りに染まるのをアンドリューがなだめる。
「まあ落ち着けバダック。リリーもじゃ。我らはそのような事など思っていない。どうせまた王都の貴族の足の引っ張り合いじゃ。」
「しかし、その勇者と呼ばれる異世界人も大人しいものよな。聞いたほどの実力ならいつでも逃げ出せるもんじゃが。」
そう不思議がる国王にエリックが告げる。
「それは最初から警戒しておりました。しかし直に会って問いただしましたが奴らにその気は無いようです。」
「何故じゃ?」
「奴らには別々の部屋をあてがい個別に聞き取りしましたが、3人共が同じことを言いましたな。ただ一言『あの男は敵に回せない』と。」
「ふ~む、それ程か・・・」
その時、部屋にノックの音が響いた。
「誰であるか?」
国王の問いに答えたのは国王付きの従者。
「はっ、王選魔術師団の団長ランドルフ様より謁見の依頼がきております。」
「あいつか・・・。また厄介な奴が出てきおったわ。」
そう言うと国王はその場にいる皆に引き続きくつろぐよう伝え自分は部屋を出ていった。
そして今謁見室には国王アンドリュー、ドランの勇者達3人(コウジ、ナオキ、モモコ)、ランドルフ、クラウド、数名の貴族が揃っている。
その場において、まずは王都貴族がクラウドをドランからの回し者と責め始める。そしてその証拠として勇者達を引き合いに出す。つまり彼らはこの場にいる自称勇者達は偽者であり、その捨て駒を手柄にこの国に入り込むつもりだと言っている。
その場合、証拠となるのは勇者達本人である。捨て駒ならばその実力はたかが知れたものであるのだから。結果、彼らの化けの皮を剥がして欲しいと王選魔術師団に依頼が回ったようである。
どちらかといえばランドルフもまた乗り気では無かったようだ。彼は自分が名誉ある王選魔術師団の団長であることを誇りとしており、その王選魔術師は騎士よりも遥かに優れた戦力としての自覚がある。彼の中では騎士など使い捨ての盾も同然であった。
彼が乗り気ではない理由、それは勇者達が倒したのが騎士のみであり、こと魔法においては自分達に敵うはずが無いという自信があったからである。が・・・
「ふ~む、この際やって見せた方が話しが早そうであるな。」
五月蝿い周りの者達の口を塞ぐために協力して欲しいとアンドリューが言うと、反応したのはドランの勇者達の一人ナオキであった。
「協力はしても良いが、その前に一つ約束して欲しい。」
「何を捕虜の分際で!厚かましいにも程があるわっ!」
いきり立つ貴族をなだめ、発言を許したアンドリュー。しかしその発言はその場にいる者にとって許しがたいほどに不遜な態度となった。
「そっちのおっさんと戦えばいいんだろう?相手なら俺がやるよ。ただし、それでおっさんがどんな怪我をしてもクラウドさんには関係ないと約束して欲しい。」
彼はよりによって王選魔術師団の団長を相手に戦闘による怪我の心配をした上に、そのことでクラウドが怒らないよう約束して欲しいと言ったのだ。
「き、貴様・・・、どう思い上がればその様な言葉が吐けるのだ・・・」
「別に俺はどうでもいいけど」と答えかけたクラウドをよそにランドルフの顔が真っ赤になっていく。その結果・・・
「いいだろう、貴様は我が魔術師団の副団長が相手をしてやる。」
そう言うとランドルフはおもむろにクラウドを睨みつけ自分の相手となれることを光栄に思えと言い放った。彼にしてみればクラウドと戦い敗れた者などを相手にわざわざ自分が戦う必要などないと感じたのである。加えて大物ぶっている見知らぬ男に現実を見せてやろうという考えもあったようだ。
クラウドの返事を聞くまでも無く全員に訓練所までの移動を伝え自身はさっさと行ってしまったのであった。
「結構好き勝手するんだな・・・」
クラウドが誰に言うでもなく呟いたのであるが一番近くにいたアンドリューには聞こえたようだ。
「すまぬな、クラウド殿。あやつは魔術師である事を誇る余り魔術師以外を見下すところがあってな。」
それはまるで「国王である自分を含め」とでも言いたげであった。
ちなみにその後訓練所で繰り広げられた光景は無惨の一言であった。
ランドルフが副団長のミゲルを呼びに行った間のこと。
クラウドは副団長の命を気にかけた結果、威力が強すぎて死ぬかもしれないから出来るなら魔法を使わず戦うようにとナオキに告げる。
それを聞いた貴族達から非難が噴き出すが、いざ戦いが始まってみればナオキは飛び交う魔法を足さばきのみで全て回避。
強力な魔術師として知られていたドランの勇者との戦闘は魔法の撃ち合いになるであろうと予測した者達により予めお互いが距離を取った形で始まったのであるが、ナオキはその距離をただの一度も攻撃を当てられることなく詰めきった。
その後はすれ違いざまに繰り出したひざ蹴りが鳩尾を痛打。
ミゲルが悶絶する様を見て目の前で起こった事が信じられないランドルフはあまりの事態に膝がガクガクと揺れだす始末であった。
混乱から回復しない内に今度はランドルフとクラウドの対戦が発表されるがクラウドの姿が無い。
自分に恐れを無し逃げたのでは?
その考えが心に浮かび顔に笑顔が戻る頃、アンドリューよりランドルフの不戦勝が告げられる。
沸き立つ王選魔術師団のメンバーが口々に「逃げた」と叫ぶ中、アンドリューによってランドルフに告げられた事は・・・
「ランドルフよ、クラウド殿からの伝言じゃ。『お前の腕を見てみたいとさえ思わない。せめて次に会う時はおしめを外しておいて欲しい』だそうじゃ。お主、相手にすらしてもらえなんだな。」
クラウドはミゲルがやられる様を見て膝を揺らすランドルフを見た時に既に彼を見限っていたようである。
意味が分からなかったアンドリューが「おしめを外す」の意味を聞いたところ、彼はただ『戦場に立つ最低限の覚悟が出来ること』と告げたのだとランドルフに教えた。
王選魔術師団の団長を辞職したいとランドルフが申し出てきたのはそれから3日後だったという。
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