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第2章 異世界勇者
忘れ得ぬ仕打ち
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エリック達がドラン連邦国領内に入ってからはレムリア皇国領土の時のように多数の魔物に襲われることは無かった。
ドラン連邦国に入ってから10日後、彼らは王都サン・ミゲルに到着していた。
「ようやく着いたか。気を引き締めねば。」
エリックはこれからが自分の仕事であると気合を入れ直している。
王城の前まで進むとドラン連邦国の軍務総長ロンガ・アムリウス公爵と事務総長アルバ・ウェルギリウス伯爵と名乗る2人が待っていた。先触れを出していたので到着を見計らって出迎えてくれたようだ。
「出迎え痛み入る。」
あくまでも自分はユーテリア王国の宰相。旅の疲れなど見せる訳にはいかないと毅然とした態度で挑むエリックであったが、ロンガはそれが気に入らなかったようだ。
「ふん、随分と偉そうなものだ。こちらの戦力は分かっているのだろう?」
「やめんかロンガ。」
威圧するロンガを抑えるアルバ。どうやら2人は知己のようだ。
「失礼した。何せ我らは小国の出。三大国の一つ、ユーテリア王国の宰相殿とは違う田舎者ゆえにどうぞご容赦を。」
「気にもしておらんよ。それよりも案内を頼む。」
臆する風でもなく、ロンガの挑発に侮辱するのかと怒る事もないエリック。
「(ふむ、流石はユーテリアの宰相か。)」
最初に会った時、態と挑発してみてくれと友人に頼んでその反応を見ていたアルバはエリックの立ち居振る舞いに警戒レベルを一つ上げた。
その後案内されたのは謁見室であった。荘厳な雰囲気のその場所に入るとそこにはドラン連邦国国王レムス・ヌミトルが居た。
「ようこそドランへ。」
国王の挨拶から始まった謁見は定例文のようなやり取りを終え直ぐに幕引きとなる。そして別室に通された一行はロンガとアルバを相手取り王子と王女の誘拐へと話題を進める。
「それで、一体どのような了見なのですかな?」
「小国ならではの辛さというものです。レムリアを討伐したものの、我らの国からその領土を統治する人手を出すのは難しい。しかし、そうとなれば周りの者達がこれ幸いにと横から手を出すは必定。我らは周囲の国々に我らの力を示すと同時に我らと敵対すればどうなるかを知ってもらう必要がありました。」
「ものは言いようよな。で、アルバ殿。エドワード殿下達はご無事なんでしょうな。」
「無論です。怪我一つされてはおりません。」
「それは重畳・・「飽きた。」」
腹の探り合いは始まったばかりだが、早くもギブアップした者がいた。
「ク、クラウド殿・・・」
同席しているファンクが困った顔を向けるが、クラウドからしてみればどうでも良い話である。元々が国の交渉のためやって来たエリック達の護衛の為の同行であったため、到着した後は付き合う気が無かったようだ。
「悪いがエリックさんはここで話しててくれ。俺は俺でやる事があるから。」
「ほぅ、これは驚いた。まさか我ら田舎者よりも酷い野蛮人が「黙れ。」」
アルバの嫌味を遮ってクラウドが睨みつけた。
「・・・いい加減にしろよ。こちらは話し合いなど受けてやらんでも良いんだぞ?」
ロンガが怒りに顔を歪ませている。
「悪いねエリックさん。」
そんなロンガを無視して、この場の雰囲気を壊した事をエリックに詫びる。
「いや、それは構わないが。一体どうしたのだ、クラウド殿らしくもない。」
いきなりの礼を逸した態度を咎めもしないエリック。
「おいっ、構わないとはどういう事だ!お前らドランを舐めるにも程があるだろう!」
激昂したロンガであるが、エリックの態度は仕方がない事である。馬車の中でお互いのスタンスについて話し合っていたクラウドとエリック。その結果、エリックはクラウドが起こすであろう行動の全てを了承していた。それは余りにユーテリア王国にとって助けとなる上にクラウド以外では不可能なこと。それを理解するファンクがフォローを入れた。
「待ってくれロンガ殿。クラウド殿は私達が知る限りでも屈指の実力者。異世界人達を招いた貴殿達なら分かって貰えるばず。」
つまりドラン連邦国に異世界人がいるようにユーテリア王国にはこの男がいると暗に言ったのである。言うことを聞かないが実力がある所為で処罰が難しいことを伝えたのである。最もドランの異世界人とは違い国に仕えてないクラウドは国からの命令を受ける必要は無いが、それを態々教えてやる気はなさそうだ。エリックとファンクはこの場にいる以上はユーテリア王国の代表だろうと捉えている相手の勘違いを指摘しない。
「(エリックさんはともかくファンクさんも腹芸が出来るとは意外だったな・・・)」
言葉上のやり取りで意外な一面を見たクラウド。くるりと向き直しロンガへ言葉をかける。
「おい、ロンガといったな。異世界人がいるところへ案内してくれ。」
「何だと・・・?一体どう言うつもりだ?」
クラウドはユーテリア王国にいる異世界人から手紙を預かっているのでそれを渡したいと伝えた。
「手紙を?それならばこちらで渡しておくが。」
「いや、直接渡したい。案内を頼む。」
「すまないが渡して貰おう。彼らは気分屋だ。貴方が行った事で何らかの気分を害した時、貴方の身が危なくなる。」
横から口を挟んだのはアルバ。しかし、エリックがした返答はアルバ、ロンガ両名の予想を遥かに上回ったものであった。
「クラウド殿なら何の問題も無い。ユーテリアに侵入しリリー殿下を狙った異世界人達を捕らえたのはクラウド殿なのだからな。」
「な、何っ!?」
「まさかっ!?」
ドラン連邦国の者達はユーテリア王国南部に侵入したナオキ達が戻らない事で彼らがユーテリア王国に捕まった事は察していた。
しかしそれは北部や東部での出来事が発覚し、何かしらの手を打たれた後でナオキ達が王族に仕掛けた為と考えていた。つまりは罠を張られていたと考えていたのであるが、今目の前にいるユーテリア王国の宰相はクラウドという男が1人で捕まえたという。
「こちらを担ごうとしてもそうはいかんぞ。いくら何でもたった1人でどうこう出来る相手では無いわっ!」
「ロンガ殿、この世には我ら凡人では及びもつかぬ世界がある。ここに来るまでに我らはそれを嫌という程知ったのだ。」
ファンクの言葉にまさにその通りだとエリックが頷いている。エリック達が思い出しているのはもちろん旧レムリア皇国領内で起こったクラウドの戦闘である。
見た事もない程の巨大なゴーレム達を自在に操り5000体近いアンデッドを僅か10分で粉砕。残り1000体のアンデッド達を引き寄せた上で浄化の力を帯びた地面でサンドイッチにして一撃で粉砕したあの戦闘を彼らは生涯忘れる事が無いだろう。
しかし、ドラン連邦国としてはそれだけは認める事が出来ない話しである。彼らが持つ絶対にして唯一の切り札である異世界人達が敵わないなどという事があればドラン連邦国の敗北は決定したも同然。
だが、ユーテリア王国もクラウドを囲いこんでいる訳では無い。トント村に手を出さなければ、異世界人達は問題無く王都を陥落させることは可能である。
だが、それを知らないロンガとアルバは混乱していた。その時部屋にノックの音が響いた。
「入るぜ~。」
部屋に入ってきたのは参戦派リーダーのタケヒコであった。彼はナオキ達の身柄を確保していると思われるユーテリア王国からの使者に興味があったようだ。自分が同席することで、交渉が有利に進むと思いやって来たようだ。しかし、それは結果として裏目に出る。
「何だこの小汚いのは。お呼びじゃあないぜ、下がってろ三下。」
クラウドらしくない態度であるがそれは仕方がないというものである。
「おい、てめぇ!今何て言った!」
「ま、待て、タケヒコ殿!少し落ち着いて・・・」
止めに入るアルバなど気にもせずタケヒコはクラウドの胸ぐらを掴み上げた。その腕力にものを言わせ、片腕だけでクラウドを持ち上げるタケヒコ。
「お呼びじゃ無いと言ったんだよ。今度こそ聞こえたか?それが分かれば手を離せ、ぶち殺すぞ。」
「て、てめぇ・・・」
召喚されてからこんな態度は取られた覚えがない。人を見下すのが常だったタケヒコは今、怒りに我を忘れてしまいそうになっている。
「貴殿らも何をしている?さっさとそいつに謝らせてくれ!」
アルバがエリック達にクラウドに謝罪させろと言う。
「いいやっ、その必要は無いぜ!こいつは借りていく。文句は無いだろうな!」
が、既に怒りが沸点に達しかけているタケヒコはクラウドを逃す気は無いようだ。
しかし、それを見てもエリック達が驚くことは無い。なぜなら彼らは馬車の中でクラウドに聞いていたのだ。
クラウドは言っていた。ドランに行くのは本当にリリーちゃんの兄弟を助けに行く為だったと。マーサさんと交わした約束は絶対だ、必ず助け出すと。
しかし、万が一、奴らに会ったら正気を保てる自信は無いと。怒りにまかせて人を殺す。それはとてもでないがルークとタニアの2人に向かって胸をはれる行為では無いからと。
出発前にナオキ達から聞いたこと。それはユーテリア王国侵入時の作戦について。その中の聞き取りでナオキ達全員の証言が一致した。
それは発案が参戦派と言われる者達だったこと。そして、その参戦派のメンバーの名前は全て聞き出している。
つまり、部屋に入ってきたのはトント村へ魔物を送り込んだ人物の1人。クラウドが切れかけている理由である。
「汚い手で俺に触るな。」
その言葉の直後、タケヒコは意識を失い昏倒する。
「なっ!?」
「何だとっ!」
アルバとロンガが驚く中で、クラウドはその場を離れると告げた。
「んじゃ、ちょっと行ってくるわ。」
その手には勇者タケヒコの足が握られている。かつて三大国の一つをうち破った原動力となりドラン連邦国で強大な権力を持つまでになった男は、足を引っ張られ地面を引きずられながら部屋から姿を消した。
その光景を見ながら未だ固まるアルバ達を見ながらエリック達は出されたお茶をすするのであった。
ドラン連邦国に入ってから10日後、彼らは王都サン・ミゲルに到着していた。
「ようやく着いたか。気を引き締めねば。」
エリックはこれからが自分の仕事であると気合を入れ直している。
王城の前まで進むとドラン連邦国の軍務総長ロンガ・アムリウス公爵と事務総長アルバ・ウェルギリウス伯爵と名乗る2人が待っていた。先触れを出していたので到着を見計らって出迎えてくれたようだ。
「出迎え痛み入る。」
あくまでも自分はユーテリア王国の宰相。旅の疲れなど見せる訳にはいかないと毅然とした態度で挑むエリックであったが、ロンガはそれが気に入らなかったようだ。
「ふん、随分と偉そうなものだ。こちらの戦力は分かっているのだろう?」
「やめんかロンガ。」
威圧するロンガを抑えるアルバ。どうやら2人は知己のようだ。
「失礼した。何せ我らは小国の出。三大国の一つ、ユーテリア王国の宰相殿とは違う田舎者ゆえにどうぞご容赦を。」
「気にもしておらんよ。それよりも案内を頼む。」
臆する風でもなく、ロンガの挑発に侮辱するのかと怒る事もないエリック。
「(ふむ、流石はユーテリアの宰相か。)」
最初に会った時、態と挑発してみてくれと友人に頼んでその反応を見ていたアルバはエリックの立ち居振る舞いに警戒レベルを一つ上げた。
その後案内されたのは謁見室であった。荘厳な雰囲気のその場所に入るとそこにはドラン連邦国国王レムス・ヌミトルが居た。
「ようこそドランへ。」
国王の挨拶から始まった謁見は定例文のようなやり取りを終え直ぐに幕引きとなる。そして別室に通された一行はロンガとアルバを相手取り王子と王女の誘拐へと話題を進める。
「それで、一体どのような了見なのですかな?」
「小国ならではの辛さというものです。レムリアを討伐したものの、我らの国からその領土を統治する人手を出すのは難しい。しかし、そうとなれば周りの者達がこれ幸いにと横から手を出すは必定。我らは周囲の国々に我らの力を示すと同時に我らと敵対すればどうなるかを知ってもらう必要がありました。」
「ものは言いようよな。で、アルバ殿。エドワード殿下達はご無事なんでしょうな。」
「無論です。怪我一つされてはおりません。」
「それは重畳・・「飽きた。」」
腹の探り合いは始まったばかりだが、早くもギブアップした者がいた。
「ク、クラウド殿・・・」
同席しているファンクが困った顔を向けるが、クラウドからしてみればどうでも良い話である。元々が国の交渉のためやって来たエリック達の護衛の為の同行であったため、到着した後は付き合う気が無かったようだ。
「悪いがエリックさんはここで話しててくれ。俺は俺でやる事があるから。」
「ほぅ、これは驚いた。まさか我ら田舎者よりも酷い野蛮人が「黙れ。」」
アルバの嫌味を遮ってクラウドが睨みつけた。
「・・・いい加減にしろよ。こちらは話し合いなど受けてやらんでも良いんだぞ?」
ロンガが怒りに顔を歪ませている。
「悪いねエリックさん。」
そんなロンガを無視して、この場の雰囲気を壊した事をエリックに詫びる。
「いや、それは構わないが。一体どうしたのだ、クラウド殿らしくもない。」
いきなりの礼を逸した態度を咎めもしないエリック。
「おいっ、構わないとはどういう事だ!お前らドランを舐めるにも程があるだろう!」
激昂したロンガであるが、エリックの態度は仕方がない事である。馬車の中でお互いのスタンスについて話し合っていたクラウドとエリック。その結果、エリックはクラウドが起こすであろう行動の全てを了承していた。それは余りにユーテリア王国にとって助けとなる上にクラウド以外では不可能なこと。それを理解するファンクがフォローを入れた。
「待ってくれロンガ殿。クラウド殿は私達が知る限りでも屈指の実力者。異世界人達を招いた貴殿達なら分かって貰えるばず。」
つまりドラン連邦国に異世界人がいるようにユーテリア王国にはこの男がいると暗に言ったのである。言うことを聞かないが実力がある所為で処罰が難しいことを伝えたのである。最もドランの異世界人とは違い国に仕えてないクラウドは国からの命令を受ける必要は無いが、それを態々教えてやる気はなさそうだ。エリックとファンクはこの場にいる以上はユーテリア王国の代表だろうと捉えている相手の勘違いを指摘しない。
「(エリックさんはともかくファンクさんも腹芸が出来るとは意外だったな・・・)」
言葉上のやり取りで意外な一面を見たクラウド。くるりと向き直しロンガへ言葉をかける。
「おい、ロンガといったな。異世界人がいるところへ案内してくれ。」
「何だと・・・?一体どう言うつもりだ?」
クラウドはユーテリア王国にいる異世界人から手紙を預かっているのでそれを渡したいと伝えた。
「手紙を?それならばこちらで渡しておくが。」
「いや、直接渡したい。案内を頼む。」
「すまないが渡して貰おう。彼らは気分屋だ。貴方が行った事で何らかの気分を害した時、貴方の身が危なくなる。」
横から口を挟んだのはアルバ。しかし、エリックがした返答はアルバ、ロンガ両名の予想を遥かに上回ったものであった。
「クラウド殿なら何の問題も無い。ユーテリアに侵入しリリー殿下を狙った異世界人達を捕らえたのはクラウド殿なのだからな。」
「な、何っ!?」
「まさかっ!?」
ドラン連邦国の者達はユーテリア王国南部に侵入したナオキ達が戻らない事で彼らがユーテリア王国に捕まった事は察していた。
しかしそれは北部や東部での出来事が発覚し、何かしらの手を打たれた後でナオキ達が王族に仕掛けた為と考えていた。つまりは罠を張られていたと考えていたのであるが、今目の前にいるユーテリア王国の宰相はクラウドという男が1人で捕まえたという。
「こちらを担ごうとしてもそうはいかんぞ。いくら何でもたった1人でどうこう出来る相手では無いわっ!」
「ロンガ殿、この世には我ら凡人では及びもつかぬ世界がある。ここに来るまでに我らはそれを嫌という程知ったのだ。」
ファンクの言葉にまさにその通りだとエリックが頷いている。エリック達が思い出しているのはもちろん旧レムリア皇国領内で起こったクラウドの戦闘である。
見た事もない程の巨大なゴーレム達を自在に操り5000体近いアンデッドを僅か10分で粉砕。残り1000体のアンデッド達を引き寄せた上で浄化の力を帯びた地面でサンドイッチにして一撃で粉砕したあの戦闘を彼らは生涯忘れる事が無いだろう。
しかし、ドラン連邦国としてはそれだけは認める事が出来ない話しである。彼らが持つ絶対にして唯一の切り札である異世界人達が敵わないなどという事があればドラン連邦国の敗北は決定したも同然。
だが、ユーテリア王国もクラウドを囲いこんでいる訳では無い。トント村に手を出さなければ、異世界人達は問題無く王都を陥落させることは可能である。
だが、それを知らないロンガとアルバは混乱していた。その時部屋にノックの音が響いた。
「入るぜ~。」
部屋に入ってきたのは参戦派リーダーのタケヒコであった。彼はナオキ達の身柄を確保していると思われるユーテリア王国からの使者に興味があったようだ。自分が同席することで、交渉が有利に進むと思いやって来たようだ。しかし、それは結果として裏目に出る。
「何だこの小汚いのは。お呼びじゃあないぜ、下がってろ三下。」
クラウドらしくない態度であるがそれは仕方がないというものである。
「おい、てめぇ!今何て言った!」
「ま、待て、タケヒコ殿!少し落ち着いて・・・」
止めに入るアルバなど気にもせずタケヒコはクラウドの胸ぐらを掴み上げた。その腕力にものを言わせ、片腕だけでクラウドを持ち上げるタケヒコ。
「お呼びじゃ無いと言ったんだよ。今度こそ聞こえたか?それが分かれば手を離せ、ぶち殺すぞ。」
「て、てめぇ・・・」
召喚されてからこんな態度は取られた覚えがない。人を見下すのが常だったタケヒコは今、怒りに我を忘れてしまいそうになっている。
「貴殿らも何をしている?さっさとそいつに謝らせてくれ!」
アルバがエリック達にクラウドに謝罪させろと言う。
「いいやっ、その必要は無いぜ!こいつは借りていく。文句は無いだろうな!」
が、既に怒りが沸点に達しかけているタケヒコはクラウドを逃す気は無いようだ。
しかし、それを見てもエリック達が驚くことは無い。なぜなら彼らは馬車の中でクラウドに聞いていたのだ。
クラウドは言っていた。ドランに行くのは本当にリリーちゃんの兄弟を助けに行く為だったと。マーサさんと交わした約束は絶対だ、必ず助け出すと。
しかし、万が一、奴らに会ったら正気を保てる自信は無いと。怒りにまかせて人を殺す。それはとてもでないがルークとタニアの2人に向かって胸をはれる行為では無いからと。
出発前にナオキ達から聞いたこと。それはユーテリア王国侵入時の作戦について。その中の聞き取りでナオキ達全員の証言が一致した。
それは発案が参戦派と言われる者達だったこと。そして、その参戦派のメンバーの名前は全て聞き出している。
つまり、部屋に入ってきたのはトント村へ魔物を送り込んだ人物の1人。クラウドが切れかけている理由である。
「汚い手で俺に触るな。」
その言葉の直後、タケヒコは意識を失い昏倒する。
「なっ!?」
「何だとっ!」
アルバとロンガが驚く中で、クラウドはその場を離れると告げた。
「んじゃ、ちょっと行ってくるわ。」
その手には勇者タケヒコの足が握られている。かつて三大国の一つをうち破った原動力となりドラン連邦国で強大な権力を持つまでになった男は、足を引っ張られ地面を引きずられながら部屋から姿を消した。
その光景を見ながら未だ固まるアルバ達を見ながらエリック達は出されたお茶をすするのであった。
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