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第3章 1000年前の遺産

打たれた先手

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 話しの腰をへし折ったリリーの登場もあり一度休憩して話しを纏めたいとエリックが言い出した。加えてここから先は国王にも話しを聞いて貰おうと考えているようだ。

 1時間程の小休止を挟みアンドリューの私室にはアンドリュー、エリック、リリーの他、軍事を担うガルド軍務卿、長男エドワード、次男ヘンリー、長女ソフィア、次女オリヴィアが揃っている。


「クラウド殿、まずは今回わざわざ呼び出してしまい誠に申し訳無かった。そして、来てくれたこと本当に感謝する。」


 アンドリューが感謝を告げて話しが再開する。尚、同席しているエドワード、ヘンリー、オリヴィアの3人はクラウドが来ていると知りドランでの礼を改めて言いたいとやって来たのであるが、感謝を伝え終わった後で帰ろうとするのをアンドリューが引き止めたのであった。曰く、「何が起きているかを知ることも勉強になるだろう」と。勿論クラウドからの了承も得ている。
 その後やって来たのが長女ソフィア。自分だけ仲間外れにするのかと言い部屋に居座っている。


「それではクラウド殿、先程私が聞いた事については私の方から説明をさせて頂きます。何か補足があればお願い致します。」


 エリックにより先ほどまで聞いていた話しがされていく。もしこれが街の酒場でされているのなら聞いている人間は物語でしか聞いた事の無い吸血鬼の話しなど誰が信じるかと笑ったであろう。しかし、今王城でされている話しを聞いて笑っている者はいない。


「・・・と、聞いた話しはこのようなところでございます。最もクラウド殿からはあくまで吸血鬼の可能性が高いとのことであり別の妖魔の可能性も捨てきれないかと思いますが。」


「うむ、ご苦労であったエリックよ。俄かには信じがたいが・・・」


 話しを聞き終わりアンドリューがふぅと息を吐く。自身が治める街に未知の魔物が巣くっているなどとは思ってもいなかったようだ。


「そ、それで一体どうすれば良いのでしょうか・・・?」


 エドワードが不安げにクラウドに聞いている。


「ここまで完全に街を掌握されている以上真正面から挑むしか無いな。奇襲や不意打ちなんかはまず無理だと思うよ。」


 それを聞いたガルド軍務卿が呟くように話す。


「しかし我々が持つ戦力で相手が出来るかどうか。話しによるとかなりの強敵のようですが・・・」


「うむ、何もかも任せて申し訳ないがクラウド殿に助力を・・・」


 エリックが討伐協力を依頼しようとした時であった。


「皆様いい加減にして下さい!!一体何の話しをしていますの!?」


 声を荒げたのはソフィアであった。


「黙って聞いていればいけしゃあしゃあとっ!お父様一体これはどうなっていますの!まるで荒唐無稽な絵空事、お話しにもなりませんわ!ドラン連邦国での活躍を聞き話しをするのを楽しみにしていましたのに、話しはまるで三流の詐欺師です。クラウドとやら、貴方はこちらが分からないのを良いことに詭弁を弄して煙に巻こうとしているのでしょう!?目的は報奨金かしら!」


 まくし立てるようにソフィアが話す。どうやら彼女はクラウドが騙そうとしていると判断したようだ。最も今まで生きて来た中で聞いたことも無い話しをされていきなり信じろという方がどうかしているとも言える。むしろアンドリューやエリックの順応性が高すぎるのだ。

 そしてもう一つの要因は彼女の性格に原因があるといえる。

 一つのことにハマりやすい性格である彼女は今まで様々なことに没頭してきた。学んだことを僅かな時間でマスターしていく天才肌のソフィアは剣の腕前もすでに王国騎士の中で上位クラスに匹敵するほどである。加えて王選魔術師団に籍を置き魔法の研究も欠かさない。
 更には国を経営する為政者としての教育も受けている彼女は国の脅威である魔物についての知識もかなりのものである。一国の王族が受ける教育は最高峰のレベル水準であることは疑いようが無い。

 そんな彼女が聞いたことも無い魔物が居ると聞かされ、しかもそれを知る人間は田舎に住んでいる薬師であるという。それを彼女が疑問に思ったことは仕方が無いことと言えた。

 ちなみに彼女は第一王妃の子供であり現在22歳になる。金髪の髪はゆるくウェーブしており肩の下あたりまで伸びている。整った顔は非常に美しく引き締まった身体はスラリとしていた。しかし美人の上に王族という好条件にも関わらず彼女には婚約者が未だに決まっていない。

 そこらの男などでは剣の腕前も魔法の実力も敵わない。しかも様々な知識を持つ彼女は自分に釣り合う相手が居ないと考えているようだが、現実はおてんばな彼女に振り回された結果婚約者候補たちが白旗を上げたのであるが。


「ク、クラウドは詐欺師じゃ、無い!」


 そんなソフィアに反論したのはリリーである。人見知りで我を出さなかった妹の反論に戸惑いながらもソフィアが考えを変える様子は無い。アンドリューからも控えるように言われるがそれが彼女を更に煽ったようだ。

 遂には王都に潜む魔物が本当にいるならば自分で騎士団と魔術師団を率いて討伐に行くとまで言い出した。剣の腕前ではバダックに若干劣るが火と風属性を持ち攻撃魔法も使える彼女は総合的な戦力なら自分が一番だと考えている。
 女性であるソフィアが戦場に立つ事が無かったため日の目を浴びていないが、彼女の戦闘力は実際王国随一である。(ただし、現在はライトニングソードを使いこなすバダックが頭一つ抜け出しており、目下契約魔法を使いこなすため猛特訓中のファンクが次点に付けているのであるが、彼女は2人がそんな力を得ていることなど知らなかったようだ)

 また王女という立場から魔術師団長ランドルフや騎士団長のファンクと言った王国最大戦力と言える者達でも彼女には強く言えないため更にソフィアが増長する結果となっている。


「ふんっ、本当に魔物がこの王都にいるというのならお前はそれを見つけるだけでいいわ。後は私がやりますわ。」


「いい加減にせんかソフィアッ!!」


アンドリューのかみなりが落ちても彼女はプイと横を見て視線を逸らしてしまう。それを見たアンドリューの顔が青くなっていた。長年彼女を見て来た経験からソフィアが本当に自分で討伐に行くつもりなのが分かったのだ。クラウドをして「危険」と言わせる魔物の相手などさせられる筈が無い。結果はあまりに明白である。


「それ以上言うならば牢に・・・」


牢に入れてでも止める、そう言おうとしたアンドリューより早く部屋の中に声が響いた。







「くふふふ。先ほどから面白い話しをしているようだなぁ・・・」


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