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その11
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すさまじい倦怠感で、目が覚める前から地獄だった。
「ぐは……なんだこれ……しぬ」
体中痛いし、だるい。とくに下腹部がずきずきする。
目を開ける。見覚えがある天井。施術所の私の事務室――じゃない、似てるけれど、ここは違う。
黒を基調にしたルクスの事務室だ。
身を起こす。彼が仮眠用にと買った大きなソファに私は寝かされていた。上に掛けられていた毛布をどかすと、下には施術着に包まれた自分の身体があった。なんだかごわごわする……。下着、つけてないみたい。
そこで自分の身に起きたことを思い出した。
はっと外を見ると、すっかり日は昇っている。時計はとっくに昼だった。
恐る恐る、服をめくる。
私のお腹はガーゼがあてられていた。それをさらにめくると、真っ赤に腫れて熱を持った患部が見える。
ただし、あの不格好な刻印はもうない。
「起きたか。今日午前中来ていたあんたの分の患者は、俺が担当して全部片付けたからな」
「うわっびっくりした」
ノックなしに部屋に入ってきたのは、白衣を着たルクスだ。その疲れた顔を見るなり、昨晩の自分の痴態を思い出して頭を抱えたくなった。不可抗力とはいえ、なんとも気まずい。あれだ。記憶なくなったフリしたらいけるかな。
いや、だめだ。どう考えても私が悪い、かくなる上は土下座を……。
「あ、の……ルクス」
「調子は? 痛み止め持ってきたから飲んでおけ」
「あ、ああ、ありがと。だるいけれど、まあ、なんとか」
ぽいと放られた薬を受け取る。
ルクスはずんずん大股でソファまでやってきて、私の隣に座った。
「患部の状態は?」
「悪くないと思う。腫れてるけれど、変な出血はないし、インクの残りもなさそう。ルクスが抜去してくれたの?」
「そうだ。ちょっと診せてみろ」
促され、施術着の裾をめくった。気恥ずかしさはあったものの、ルクスの目が完全に仕事のそれだったので、決心するのはすぐだった。
ルクスはガーゼを慎重に剥がした。もうちょっとパンツをさげたら、下着を履いていないから恥毛丸見えになってしまう。困る。そわそわして、膝をぎゅっと閉じた。
緊張する私のことなんか気付かず、彼は長い指でお腹に触れた。
冷たい。びくっと震えてしまった。それが恥ずかしい。
気にした様子もなく、ルクスはそうっと患部の調子を指で触れて確認している。指は細くて長く、手自体が大きい。今はシャツの下に隠れている腕も、しっかりしていることを知ってしまった。
熱を持った目でこちらを見つめるルクスを思い出してしまう。長い指が私の胸を掴んだり、腰を掴んで――。
いやいやいや、あれは彼からしたら不幸な事故。完全に被害者なんだから、加害者の私が思い返してそわそわしている場合じゃない。近くから伏し目がちになって患部を見下ろしている顔が気になるのは、気まずいからであって。この手で背中を撫でてくれたときほっとしたなあとか妄想している場合でもない。
というか、だ。あんたとの共同経営は終わりだと言われてもおかしくない立場なのだ。
ああ、ここまで頑張って築いてきた関係も職場環境も全部だめになっちゃった。いっぱい迷惑かけて、これからもかけることになる。そう思うと、昨晩使い果たしたはずの涙がじわっと目頭にたまる気がした。泣く権利なんてないし泣いてる場合でもない。頭を振って気持ちをしゃんとさせる。
「今は熱を持って腫れてるが、落ち着けばほとんど痕は残らないはずだ。安心しろ」
「ええと……ありがとう、ございます。……それと、ごめんなさい。いろいろ迷惑かけて」
「まったくだ。おかげで昨夜から不眠不休で作業続きだぞ」
ルクスは立ち上がり、窓際の机の上にあった紙の束を私に向けて放った。
「あんたが巻き込まれたの、これだろ」
「ぐは……なんだこれ……しぬ」
体中痛いし、だるい。とくに下腹部がずきずきする。
目を開ける。見覚えがある天井。施術所の私の事務室――じゃない、似てるけれど、ここは違う。
黒を基調にしたルクスの事務室だ。
身を起こす。彼が仮眠用にと買った大きなソファに私は寝かされていた。上に掛けられていた毛布をどかすと、下には施術着に包まれた自分の身体があった。なんだかごわごわする……。下着、つけてないみたい。
そこで自分の身に起きたことを思い出した。
はっと外を見ると、すっかり日は昇っている。時計はとっくに昼だった。
恐る恐る、服をめくる。
私のお腹はガーゼがあてられていた。それをさらにめくると、真っ赤に腫れて熱を持った患部が見える。
ただし、あの不格好な刻印はもうない。
「起きたか。今日午前中来ていたあんたの分の患者は、俺が担当して全部片付けたからな」
「うわっびっくりした」
ノックなしに部屋に入ってきたのは、白衣を着たルクスだ。その疲れた顔を見るなり、昨晩の自分の痴態を思い出して頭を抱えたくなった。不可抗力とはいえ、なんとも気まずい。あれだ。記憶なくなったフリしたらいけるかな。
いや、だめだ。どう考えても私が悪い、かくなる上は土下座を……。
「あ、の……ルクス」
「調子は? 痛み止め持ってきたから飲んでおけ」
「あ、ああ、ありがと。だるいけれど、まあ、なんとか」
ぽいと放られた薬を受け取る。
ルクスはずんずん大股でソファまでやってきて、私の隣に座った。
「患部の状態は?」
「悪くないと思う。腫れてるけれど、変な出血はないし、インクの残りもなさそう。ルクスが抜去してくれたの?」
「そうだ。ちょっと診せてみろ」
促され、施術着の裾をめくった。気恥ずかしさはあったものの、ルクスの目が完全に仕事のそれだったので、決心するのはすぐだった。
ルクスはガーゼを慎重に剥がした。もうちょっとパンツをさげたら、下着を履いていないから恥毛丸見えになってしまう。困る。そわそわして、膝をぎゅっと閉じた。
緊張する私のことなんか気付かず、彼は長い指でお腹に触れた。
冷たい。びくっと震えてしまった。それが恥ずかしい。
気にした様子もなく、ルクスはそうっと患部の調子を指で触れて確認している。指は細くて長く、手自体が大きい。今はシャツの下に隠れている腕も、しっかりしていることを知ってしまった。
熱を持った目でこちらを見つめるルクスを思い出してしまう。長い指が私の胸を掴んだり、腰を掴んで――。
いやいやいや、あれは彼からしたら不幸な事故。完全に被害者なんだから、加害者の私が思い返してそわそわしている場合じゃない。近くから伏し目がちになって患部を見下ろしている顔が気になるのは、気まずいからであって。この手で背中を撫でてくれたときほっとしたなあとか妄想している場合でもない。
というか、だ。あんたとの共同経営は終わりだと言われてもおかしくない立場なのだ。
ああ、ここまで頑張って築いてきた関係も職場環境も全部だめになっちゃった。いっぱい迷惑かけて、これからもかけることになる。そう思うと、昨晩使い果たしたはずの涙がじわっと目頭にたまる気がした。泣く権利なんてないし泣いてる場合でもない。頭を振って気持ちをしゃんとさせる。
「今は熱を持って腫れてるが、落ち着けばほとんど痕は残らないはずだ。安心しろ」
「ええと……ありがとう、ございます。……それと、ごめんなさい。いろいろ迷惑かけて」
「まったくだ。おかげで昨夜から不眠不休で作業続きだぞ」
ルクスは立ち上がり、窓際の机の上にあった紙の束を私に向けて放った。
「あんたが巻き込まれたの、これだろ」
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