暗黒騎士と女奴隷 〜最低身分で見つけた幸せ〜

第三話 ユウレスカ視点

　馬車に揺られること数時間。

「今日からここで暮らしてもらう」

　いや、裕福だとは思っていたけど。まさか、こんなに大きいだなんて。

　そういえば、今は奴隷に身を落とした私にも昔は帰る場所があったんだろうか。思い出せない。……なんだか頭痛がする。

「ユウレスカ」

　クラウス様の声を聞くと、頭がすっきりしてくる。そうだ、私はこの人の奴隷なのだ。切り替えねば。

「俺の命令は絶対で、逃げることは許されない。……ここは死に場所だ。それを肝に銘じておけ」

　首輪がある限り、私のご主人様はクラウス様。つまり一生あなたの奴隷。分かってますよ。
　クラウス様は従順な奴隷をお求めになった。私がそのようにいれば、私はここで必要とされるのだ。大丈夫。私ならやれる。




「中へ入れ」

　言われるままに中へ入って次の命令を待つ。誰かに仕えることが初めてなので、勝手に動いていいものか分からない。……というか奴隷って何をするの？

「クラウス様。いくつか、質問させて頂きたいことがございます」

　説明されるまで待てないから、思い切って尋ねた。怒られるかもしれないけど、聞いておかないと。

「私はここで、何をすればよろしいのでしょうか？」

　意外にも、クラウス様は少し考える様子を見せた。奴隷商に来ておいて、買ったのは気まぐれだとでも言うのだろうか。

「家事は一通りできますが、文字は書けません。計算は得意ですが、教養はありません。そんな私を買ったわけをお聞かせ願えませんか？」

　自身を売り込みはしたけれど、買われるだけの価値が私にあるのだろうか？非常に疑問である。容姿が良いと言われ高待遇を受けていた私だが、それを鑑みても正直不良品ではないかと思う。
　従順な女奴隷であること以外を求めなかったあなたに、私は何をすればいいの？

「君が何かを考える必要はない。その首輪をしている限りは俺に逆らえないのだろう？」

　……ふむふむ。

「つまりは、ご入用の時以外は自由にしていいということですね？」

　私の役割は分からない。だったら、これからされるであろう命令に怯える必要はない。心配するだけ無駄である。
　この立派なお屋敷を見る限り、クラウス様は裕福なんだろう。ならばきっと、ここのご飯はあそこより美味しいはず。とりあえずそれだけはよかった。
　私はクラウス様をよく知らないけれど、悪い人ではない気がする。言葉遣いは冷たいけれど、声を荒らげることはない。ここまでの道のりでいろいろ買ってくれたのも私を気遣ってくれてのことだろうし、奴隷である私の言葉にも丁寧に返してくれる。希望的観測にはなるが、クラウス様はよいご主人様かもしれない。

「クラウス様。どうぞよろしくお願い致します」

　私は微笑んで、できるだけ美しい所作でお辞儀した。