スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも

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第8話 商業ギルドに登録

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 部屋を出て宮殿内をぶらぶらと歩いた。
 俺の着ている服は宮殿の使用人のそれなので、特に目立つこともない。だからなのか、特に何も言われない。

 いや、「救世主様だ。でもここは知らんぷりをしてさしあげよう」とか、ポンコツなら、「知らない顔だな。新米か?」――くらいのことは、心の中で思っているかもしれない。

 廊下ですれ違う人たちは皆、何かしら仕事をしている。
 洗濯物を運んでいたり、拭き掃除をしていたり。同じ制服を着ている身からすれば、ちょっとした疎外感を感じて、何だかきまりが悪い。


 宮殿の外に出てみると、日差しの清々しさ加減が午前中という感じだ。恥ずかしくて、「皆さんはもう朝食を取られましたか?」なんてことは聞けない。

 どうして一人で大丈夫なんて言っちゃったんだろう。
 まあ今更悔やんでも仕方がないので、ちょっと町をぶらぶらしてみよう――と思っていたところに、「よしつね様ー!」と、聞き慣れた声に呼び止められた。

「アドルフ! それにテオドールも!」

 ナイスタイミング! 
 俺は嬉しさのあまり、二人に向かって大きく手を振っていた。女の子かよ。

「よしつね様。よかった。行き違いにならなくて。お部屋に伺ったらいらっしゃらなかったので」

 昨日の今日なので、二人は、俺がレベル上げのために森へ向かったと考えて、急いで追いかけて来たらしい。

 アドルフは、「はい、どうぞ」と、丸めた紙を差し出した。
 なんだろ? 何かの通知か?

「身分証です。テオドールが珍しく隊長を急かして作ってもらったものです」
「別に、急かしてなんか――ないけど」

 ……テオドール! そこで頬を赤らめちゃダメだぞ! こっちが恥ずかしくなるから!

「ありがとうございます。いやあ、助かります」

 それにしても、勝手に名刺サイズのIDカードを想像していたせいか、くるくると巻いた紙を麻紐で縛ったものを渡されると、ものすごく仰々しく感じる。

「早速、商業ギルドに登録に行かれますか?」
「そうですね。せっかくテオドールが急いでくれたんだし。今から行ってみます――って。もう開いていますよね?」
「ええ。商業ギルドも割と早くから開いていますよ。冒険者ギルドほどではないですけど」

 へえー? 冒険者って夜通しなんかやってんの?

「そうなんですね。じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ!」

 アドルフの「行ってらっしゃいませ」をもらうと、元気が出るな。
 あと、テオドールのコクリってやつも。ほんと、無自覚イケメンが、いい顔するんだよね。



 商業ギルドはすぐに分かった。
 街の中央の十字路の角に大きな看板を掲げている。そして真向かいには冒険者ギルドが。ギルドをはしごする人がいるのか?

「こんにちは」

 そう言って自分を勇気づけながら中に入る。
 たはっ。なんていうか――せまっ! なんかイメージと違う。ビジネスホテルのフロントみたい……。
 申し訳程度の四角いテーブルが二つ。椅子はなし。立ちトークね。

 うわあ。カウンターの奥から女の子に睨まれているんですけど。

「初めてですね?」

 そこで睨むかね? ギルドって、客商売じゃないの? まあ、違うっちゃ違うか。

「あ、はい。そうなんです。登録をお願いしたいのですが」
「……」

 若いな。十代、いや中学生くらいにしか見えない。まあこの世界じゃ普通なのかもしれないけど。
 うーん? 「カウンターまで来てから話せ」ってことかな? いいけど。

 カウンターといっても、極小コンビニのレジみたいな感じ。まあ書類が置ければいいのか。
 とりあえずカウンターまで行き、愛想よく笑顔を作ってみた。

「商業ギルドに登録してもらえますか」
「身分証を確認させてください」

 ほいほい。アドルフからもらったまんまの状態で差し出す。女の子は慣れた手つきで広げると、ふーんと一通り目を通してから、俺を見た。
 身分証に書いてある通りの人物かどうか確認してんのね。

「よしつね?」

 女の子が俺を下から睨みあげた。ああ、この世界だと、ちょっと変わった名前になるのかな。

「はい」
「平民。現在の職業は宮殿の使用人」

 たはーっ! 平民! なんだか屈辱的な響き。
 いやでもまあ普通か。普通が一番だな。逆に「救世主」とか書かれた日には、きっと追い出されるだろうな。
 女の子は手順に従って、「では、ここにサインをしてください」と、事務的に言った。
 まるで役所の窓口だな。

「はい」

 サインして紙をくるりと回し、女の子の方に向きを合わせて差し出す。紳士的でしょ?
 女の子は俺のサインを見ながら、身分証の半分ほどの大きさの紙に俺の名前を書き込んでいる。なるほど。申し込み用紙を見ながら会員証に名前を書き込んでいるような感じかな。

「ではこちらが登録証になります。お店を出す時や、他の登録者と取引をする際に必要になりますから、大切に持っていてください」
「はい。ありがとうございます」

 女の子は、登録証をくるくると丸めると、青い紐で結んでくれた。青が商業ギルドのイメージカラーなのかな。
 この世界では何かあると、こうして筒状に丸めた紙を渡したり渡されたりする訳ね。

 まあ、でも。俺がこれを使って商売するのは先のことだし。ってか、商売なんてしないかもしれないし。
 一応、異世界あるあるだから、将来に備えての保険として登録したまでだし。

「それじゃあ、失礼します」

 見送りの言葉はなし。お辞儀もなし。ま、別にいいけど。



 さて。一日は始まったばっかだし。何をしようかな。
 俺は面倒臭いレベル上げはいったん忘れて、あてもなく街をぶらつくことにした。
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