16 / 16
16
しおりを挟む
全ての授業が終わると、俺は廊下を歩き下駄箱へ向かっていた。今日は今井と一緒に捜査することになっていた。メールで連絡を取り、ここから十分ほど歩いたところにあるコンビニの前で待ち合わせることになった。
廊下を歩いていると、青野が前から歩いてきた。相変わらず丈の長い白衣を来て、手には教科書と教員用の大きな三角定規を持っていた。
青野は俺に気がついたらしく、首を少し持ち上げた。
「やあ、夢野くん。さくらはどんな調子だ?」
「なんとも言えない状況です」と俺は答えた。
「そうか。まあ、無理のないようにな」
「ええ、そうします。では」
俺はそう言うと歩き出した。青野は、じゃあと言った。
下駄箱で靴を履き替えると、俺は外へ出ていった。
待ち合わせ場所にすでに今井はいた。俺を見つけると笑顔を見せ、手を振った。
「お久しぶりです」と俺は言った。「今日はお願いします」
「うん、よろしくね」今井はそう言うと、ポケットに手を突っ込み、はいと俺に出した。その手には缶コーヒーが握られていた。「この前、ご馳走してくれたお礼。好きでしょ、コーヒー」
「ええ、ありがとうございます」
俺は感謝を言い受け取った。今井は照れたように、ふふっと笑った。缶コーヒーはほんのりと暖かった。
「よし。で、これからどうするの」と今井は言った。
「とりあえず、時間はかかりそうですが、猫が殺されたという噂がないか聞き回りたいと思います。猫殺しがあれば、近所で有名になっているはずですから。なければ、別の場所に移動してまた同じことをしていきます。まずは学校の近くからやっていきましょう」
「うん、わかったよ。根気よくやっていこう」
「では、手分けして始めましょうか」
「え!?」と今井は声を大きくした。
「どうしました」
「え、あいや。一緒に行かないのかなあって……」
「それだと意味がないでしょう。手分けしてやるのが効率的です」
「そ、そうだね……」今井はがっかりしたように言った。
「では、六時まで行いましょうか」と俺は気にせず言った。「それ以降は日も落ち暗くなりますから、聞き込みも捗らないでしょう」
「うん、わかった。わたしも門限が八時までだから、帰らないとだし」
「では六時にここで」
「うん、じゃあ」
今井は少し手を挙げると、後ろを向き歩き出した。俺も彼女とは逆方向へ足を進めた。
一人目声をかけたのは、買い物帰りらしき大荷物を持った主婦だった。突然、猫が殺されたという話は聞きませんでしたかと訊けば、怪しまれてしまうだろう。俺は、春風高校の動物愛護研のものですがと嘘偽りであるが名乗り、警戒を解くことにした。
すると、一応納得してくれたみたいで答えてくれた。だが返答は、「そんな話は聞いたことがない」というものだった。
俺が礼を言うと、買い物帰りの主婦は、大変そうだけど頑張ってね、私もペットを飼ってるからと言ってくれた。俺はもう一度礼を言った。だが大荷物を持った姿を見ていると、その労いの言葉は自分自身に言ってやるべきだと思った。
次に声をかけたのは、二人組の男子中学生だった。一人は自転車を手で押し、ニキビ面を眩しいくらいの笑顔にして、楽しそうにお喋りしながら歩いていた。
同様のやり方で声をかけ、話を訊いてみると、二人は顔を見合わせ首を傾げた。聞いたことないよな? うん、俺もないなあ。
俺は礼を言った。二人はぺこりと頭を下げ、俺の横を通り過ぎていった。また楽しそうに喋り始めた。
やはり、そう簡単には解決の糸口は見つからないらしい。俺は缶コーヒーを飲み、一息ついた。
場所を移し、同じやり方で声をかけては、また別の人に声をかけるということを繰り返した。
道路で猫が轢死しているのは見た、という話は何度も聞いたが、確証を得るものはなにもなかった。
今井に連絡を取ってみても、同じようなものだった。
気がつけば、六時に迫っていた。日も落ちかけ、街灯もつき始めた。羽虫は嬉しそうに飛び回っていた。
待ち合わせ場所に戻ってみると、今井はすでにいた。
「成果は得られなかったね。まあ、そう簡単にはいかないか……」と今井は言った。
「そうですね、地道な作業にはなりますが。……そもそも、犯人は他の場所では猫を殺していないのかも知れませんし」
「それだとどうするの?」と今井は心配そうに言った。
「別の手を考えます」と俺は言った。「今は、可能性が少しでもあれば確かめていきたいんです。解らないことが多いので」
「なるほどね……。まあ、今日は帰ろうか」
「はい、そうしましょう」
俺たちは駅に向かって歩き出した。今井は疲れたと呟き、ぐっと伸びをした。
ストレス発散による犯行だとすれば、他の場所でも殺しをしていても可笑しくないという考えは、悪くはないはずだ。初犯が学校というのは、考えにくいだろう。
ならば、動機はストレス発散ではないのだろうか──?
廊下を歩いていると、青野が前から歩いてきた。相変わらず丈の長い白衣を来て、手には教科書と教員用の大きな三角定規を持っていた。
青野は俺に気がついたらしく、首を少し持ち上げた。
「やあ、夢野くん。さくらはどんな調子だ?」
「なんとも言えない状況です」と俺は答えた。
「そうか。まあ、無理のないようにな」
「ええ、そうします。では」
俺はそう言うと歩き出した。青野は、じゃあと言った。
下駄箱で靴を履き替えると、俺は外へ出ていった。
待ち合わせ場所にすでに今井はいた。俺を見つけると笑顔を見せ、手を振った。
「お久しぶりです」と俺は言った。「今日はお願いします」
「うん、よろしくね」今井はそう言うと、ポケットに手を突っ込み、はいと俺に出した。その手には缶コーヒーが握られていた。「この前、ご馳走してくれたお礼。好きでしょ、コーヒー」
「ええ、ありがとうございます」
俺は感謝を言い受け取った。今井は照れたように、ふふっと笑った。缶コーヒーはほんのりと暖かった。
「よし。で、これからどうするの」と今井は言った。
「とりあえず、時間はかかりそうですが、猫が殺されたという噂がないか聞き回りたいと思います。猫殺しがあれば、近所で有名になっているはずですから。なければ、別の場所に移動してまた同じことをしていきます。まずは学校の近くからやっていきましょう」
「うん、わかったよ。根気よくやっていこう」
「では、手分けして始めましょうか」
「え!?」と今井は声を大きくした。
「どうしました」
「え、あいや。一緒に行かないのかなあって……」
「それだと意味がないでしょう。手分けしてやるのが効率的です」
「そ、そうだね……」今井はがっかりしたように言った。
「では、六時まで行いましょうか」と俺は気にせず言った。「それ以降は日も落ち暗くなりますから、聞き込みも捗らないでしょう」
「うん、わかった。わたしも門限が八時までだから、帰らないとだし」
「では六時にここで」
「うん、じゃあ」
今井は少し手を挙げると、後ろを向き歩き出した。俺も彼女とは逆方向へ足を進めた。
一人目声をかけたのは、買い物帰りらしき大荷物を持った主婦だった。突然、猫が殺されたという話は聞きませんでしたかと訊けば、怪しまれてしまうだろう。俺は、春風高校の動物愛護研のものですがと嘘偽りであるが名乗り、警戒を解くことにした。
すると、一応納得してくれたみたいで答えてくれた。だが返答は、「そんな話は聞いたことがない」というものだった。
俺が礼を言うと、買い物帰りの主婦は、大変そうだけど頑張ってね、私もペットを飼ってるからと言ってくれた。俺はもう一度礼を言った。だが大荷物を持った姿を見ていると、その労いの言葉は自分自身に言ってやるべきだと思った。
次に声をかけたのは、二人組の男子中学生だった。一人は自転車を手で押し、ニキビ面を眩しいくらいの笑顔にして、楽しそうにお喋りしながら歩いていた。
同様のやり方で声をかけ、話を訊いてみると、二人は顔を見合わせ首を傾げた。聞いたことないよな? うん、俺もないなあ。
俺は礼を言った。二人はぺこりと頭を下げ、俺の横を通り過ぎていった。また楽しそうに喋り始めた。
やはり、そう簡単には解決の糸口は見つからないらしい。俺は缶コーヒーを飲み、一息ついた。
場所を移し、同じやり方で声をかけては、また別の人に声をかけるということを繰り返した。
道路で猫が轢死しているのは見た、という話は何度も聞いたが、確証を得るものはなにもなかった。
今井に連絡を取ってみても、同じようなものだった。
気がつけば、六時に迫っていた。日も落ちかけ、街灯もつき始めた。羽虫は嬉しそうに飛び回っていた。
待ち合わせ場所に戻ってみると、今井はすでにいた。
「成果は得られなかったね。まあ、そう簡単にはいかないか……」と今井は言った。
「そうですね、地道な作業にはなりますが。……そもそも、犯人は他の場所では猫を殺していないのかも知れませんし」
「それだとどうするの?」と今井は心配そうに言った。
「別の手を考えます」と俺は言った。「今は、可能性が少しでもあれば確かめていきたいんです。解らないことが多いので」
「なるほどね……。まあ、今日は帰ろうか」
「はい、そうしましょう」
俺たちは駅に向かって歩き出した。今井は疲れたと呟き、ぐっと伸びをした。
ストレス発散による犯行だとすれば、他の場所でも殺しをしていても可笑しくないという考えは、悪くはないはずだ。初犯が学校というのは、考えにくいだろう。
ならば、動機はストレス発散ではないのだろうか──?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる