はじまりのうた

岡智 みみか

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第13話

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それから毎日少しずつ、時間をとってルーシーの特訓に励んだ。

競技場の隅や、スクール構内の屋外広場など、機体を運べるところへ運んでいって、そこで訓練を重ねる。

ルーシーは、ライドロボの練習が、特に嫌いというわけではなさそうだった。

誘えば素直に付いてきたし、言われたことはちゃんとする。

ただし、それが上達に繋がるかどうかと言われれば、それはまた別の話だった。

自動水平装置がついているので、そう簡単にひっくり返って、振り落とされるようなことはない。

しかし、激しいバトルを繰り広げる試合会場で、彼女のような楽しいお散歩感覚でのライドでは、チームの一員というよりも、場内に浮遊する障害物でしかないような飛び方だった。

カズコと話し合って、練習のメニューもあれこれ考えた。

ルーシーには、試合のルールがよく飲み込めていないのか、それとも、誰かに勝つとか、勝負とか、そういったことが理解出来ないのか、彼女には闘争心というものが乏しい。

まぁ、この試合に勝とうが負けようが、何らかの問題が発生するわけではないから、かまわないんだけど。

カズコがため息をつく。

「ニールには見せられないわね」

「別に、ニールに見せるために、やってるんじゃないさ」

スクールの屋外で、ライドロボから樹上の鳥の巣をのぞいたりしているルーシーは、とても楽しそうだ。

俺のキャンビーが鳴った。

「ルーシーの調整はどうだ」

ニールからの通信だ。

「別に。上手くいってるよ」

「そうか、じゃあ今日の午後から、競技場で仕上がりを見せてくれ」

カズコは俺と目を合わせ、ふうと息を吐いた。

予想通り、競技場で彼女が見せた演技は、とうていニールの納得がいくものではなかった。

「まぁいいよ。どうせこんなもんだろうと思ってたしな」

ルーシーの、競技場上空を移動するゴールエリアを追いかけるだけで精一杯のライドに、ニールは特に落胆もしていないようだった。

彼は自分のパソコンを開くと、彼女の機体に搭載する新たなプログラムを転送し始めた。

「最初はカズコの子機の一部にしてやろうかと思ったんだけど、それでも負担が大きいかなーと思ってさ。だから、ヘラルドとのミラープログラムにしたんだ」

「俺と?」

「そう」

「精度はどれくらい?」

「それはお前に任す。上手く使えよ」

ニールはパソコンを閉じると、自分の機体に乗り込む。

「15分後には、全体練習な」

俺は渋々、自分の機体に乗り込んだ。

機体の整備や調整も、この大会の楽しみの一つではある。

だけど、もう何年もかけて培ってきた、俺のクセを学習し尽くした、愛機とも言えるこのライドロボを、ルーシーのために改造し直そうなんて、そんな気はさすがに起こらない。

「いいや、それはそれで、また考えよう」

俺は彼女の機体の支配率を、とりあえず30%に設定した。

後はやってみてからだ。

もうずっと、俺たちは長いあいだ組んできたチームだ。作戦なんて、言われなくても分かる。

俺はこの、ニールの作ったミラープログラムを使って、ルーシーの機体を操ればいい。

「ルーシー!」

俺は自分のハンドリングロボにまたがると、ふわふわと飛んでいた彼女の元に向かった。

「今から俺と君はコンビだ。フォーメーションの練習をしよう」

彼女はまず、スピードに慣れないといけない。

俺はルーシーの機体の位置と、自分の機体との位置の、バランスをとりながら飛んだ。

「ついてきて」

スピードを上げる。ミラープログラムになっているから、彼女が自分で操作しなくても、30%のシンクロ率で、俺の動きと一致する。

ルーシーは突然、引っ張られるような動きをした自分の機体に、驚いたようだった。

「落ち着いて。俺がちょっとだけ、君のライドロボを操ってるんだ。アームのボタンは分かるよね、ロボットの、アームを出して」

まずは自分の機体から、アームを出して見せる。

ぐるぐると空中を不規則に旋回しながら、ルーシーもアームを出した。

「じゃあ、ボールを投げるよ。それを受け取ったら、すぐにこっちにパスして」

ゆっくり、少しずつ。

それから徐々に、機体の間隔を広げ、スピードも上げていく。

このクラッシュボール専用のハンドリングロボには、キャッチセンサーがついているので、本戦並の、よほど乱暴なパスでもないかぎり、ロボットがボールを取り損なうことはない。

だいぶ操作に慣れてきたルーシーに、俺は声をかけた。

「じゃあ、今度はそのボールを俺にぶつけてみて、キャッチされずに、うまくぶつけられたら、今日の練習はそこでお終いだ」

彼女に身振り手振りと、動画を送って説明をする。

ルーシーが、気合いの入った顔で大きくうなずいた。

「じゃ、スタート!」

強めに投げたボールを、それでも彼女は上手くキャッチした。

俺は少し考えて、シンクロ率を15%にまで下げる。

これならほぼ、彼女の操作が主体の動きになるだろう。

飛んでくるボールを受け取って、ワザと乱暴に返す。

上手く受け取れないこともあったけど、動きはほぼ完璧だ。

「そろそろ本気出すよ」

機体のスピードをあげる。

投げ返すボールのコースを、ワザと外す。

操作が、より煩雑になった。

急上昇からの急降下、ポイントセンサーの性能を生かして、どれだけ正確にボールを発射できるか、腕の見せどころだ。

彼女の投げたボールが、俺の機体をかすめた。

「はは、危ない。もうちょっとだね」

機体をぐるりと一回転させて、真横に飛んだ。

「ほら、もうちょっとだ!」

彼女の機体も速度を上げる。

とたんに、ルーシーの機体は速度を落とした。

コントロールを失い、安全装置が作動したのか、ふらふらと下降し、ついには着地してしまった。

「どうした?」

俺はすぐに、彼女の横に降りた。

それが悔しくてたまらないらしいルーシーは、半泣きで動かなくなった機体の操作を、ガチャガチャと繰り返している。

「おかしいな、故障?」

異変に気づいたニールたちも、駆け寄ってくる。

「機体の整備は、完璧なはずなんだけど」

その場で簡易検査をしてみたけれども、特に機体にもプログラムにも、問題は見つからなかった。

「ルーシー、何かへんなとこ触った?」

ニールの問いかけに、彼女は首を横に振る。

「そんなちょっとやそっとじゃ、壊れるもんじゃないんだけどな」

「まぁ、仕方ないよ。機体の整備はニールとレオンに任せた。俺はルーシーと一緒に、フォーメーションの確認をしておくよ」

俺はフィールドのサイドにルーシーと並んで座ると、彼女にきちんとしたルールの説明と、俺たちの攻撃パターンの説明を始めた。

その後、改めて調整された彼女の機体は、問題なく再起動し、俺たちは試合当日まで練習を続けた。
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