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第9章
第3話
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「ねぇイバン。悪夢が割れたら、エルグリムはどうなるの?」
「魔力を失う。今度こそ、本当に滅びるだろう。その力の根源を、失うことになるからな」
「それが本当の最期だってことか」
ディータの緑に強く輝く目が、チラリと俺を見た。
「ナバロはどう思う?」
「割ればいいじゃないか。少しくらい、分け前をもらってもいいだろ」
俺の本体。俺の魂。
数百年の時を生かし続けた、その力の源。
「きっと、キレイに割れて砕け散るだろうな……」
「だといいだろうな」
立ち並ぶ列柱の先の、行き止まりについた。
その広間には、巨大な扉が立ち塞がる。
この扉の全てが、悪夢を守る魔法石だ。
一面に敷かれた魔法陣は、なに一つ欠けてはいない。
俺の描いた結界が、無傷のまま残っている。
「す……、すごい……。ついに来たのね……。ちょ、鳥肌たってるんだけど!」
「俺もだ。こんなビリビリするのは、初めてだよ。エルグリムの力を、この扉の向こうから全身に感じるね。怖いくらいだ」
俺はぼんやりと緑に光るその魔方陣の中心に、真っ直ぐに左手を差し出す。
その意志を、悪夢へ向けた。
『さぁ。悪夢よ、その姿を見せよ。永い眠りの時は、いま終わりを迎えた!』
光りが走る。
轟音が鳴り響いた。
扉に描かれた模様が、ゆっくりと動き出す。
その光りは歯車のように回転し、中心に集約されてゆく。
やがでそれは、扉中央を貫く真っ直ぐな線となり、静かに開き始めた。
「これが……悪夢への扉なのか!」
走り出そうとしたディータの前に、剣が振り下ろされる。
「フィノーラ……。お前……」
彼女は勇者スアレスの剣を、ディータの前に構えた。
「悪いけど、これから先は、誰にも邪魔させない。私が一人で行く」
「どういうことだ」
イバンはハンマーを構えた。
支給品とはいえ、賢者ユファの呪いがかかった聖槌だ。
「あんたたちには渡さない。私が一人で壊す」
「なぜそれをお前が判断する。悪夢は誰のものでもない。この世から消えてなくなるべきものだ」
ハンマーを持つイバンは、ジリジリとフィノーラとの間合いを詰める。
くだらない。
「おい、ちょっと待てよ。貴様ら、あの悪夢が誰のものだか、忘れてないか?」
魔力解放。
もはやコイツらに、用はない。
緑の炎が全身を包む。
この地域一帯に眠った力が、死んだ魔物たちに与えた残余が、俺の元に戻ってくる。
「ナバロ!」
フィノーラの聖剣が、俺に向かった。
「あんたには、話しがある!」
「そうか。だが俺にはない」
ここで殺しておいた方が、この先、俺がラクだろうな。
フィノーラの振る勇者の剣が、胸のすぐ手前を横切った。
「その力を制御出来ないのなら、あんたは悪夢を持つべきじゃないわ!」
振り下ろされる勇者の剣を、イバンのハンマーが受け止めた。
「なぜそんなことを、お前が決める!」
「言ったでしょ。私は聖騎士団なんて、大っ嫌いだって!」
フィノーラの聖剣は、イバンに向かう。
「あんたたち聖騎士団の連中が、エルグリム狩りにかこつけて魔道士の子供たちにしたことを、私は一生忘れない!」
火花を散らし、聖剣と聖槌が交差する。
「そんな連中に悪夢を渡すくらいなら、私がもらう!」
くだらない。
ふわりと体を宙に浮かせる。
先へ急ごう。
コイツらを黙らせるためにも、俺には悪夢が必要だ。
扉の奥へと飛ぶ。
フィノーラの言う通りだ。
そもそも俺に、こんなものを作らせたあいつらが悪い。
遠い記憶が蘇る。
魔道士の子供が忌み嫌われ、悪魔の子として葬られていた時代の話しだ。
逃げることを覚え、自分の身を自らの力で守ることを教えたのは、何だったのか。
「そこから抜けだしたいのなら、圧倒的な力をつければいい!」
悪夢とは、皆が言うような魔法石の結晶でも、力の残余でもない。
あれは装置だ。
有り余る魔力を蓄積し増幅させ、エルグリムの元へと送り続ける、供給機だ。
悪夢がある限り、いくら倒されても俺は死なない。
必ずこの悪夢が、俺の元へ魔力を送り続ける。
最後の扉が見えた。
その前に舞い降りる。
見上げるほどの高く頑丈な扉の前で、俺は呪文を唱えた。
『王の帰還だ。いまここに作り主は帰った。その力を解放し、我に全てを与えよ。そなたの役は目的を果たした。新たに生まれ変わり、次の使命を果たせ!』
大地が揺らぐ。
最後の扉が、静かに開き始めた。
乳白色に濁った淡い琥珀色の、縦に長い双角錐の物体が光る。
ゆっくりと回転しているそれに、俺は一歩を踏み出す。
パン!
薬莢の弾ける音と、火薬の臭い。
俺はサッと身をかわした。
「チッ。さすがに避けやがるぜ」
ディータの構えた銃口から、煙が上がった。
「おい、イバン。聖騎士団の弾丸じゃあ、悪夢は壊せないってよ」
振り返る。
悪夢の表面に、わずかなヒビが入っていた。
「貴様ら……」
俺のこの体が、全身が、怒りに震える。
ここまでやってきた道のりを、なんだと思っている。
お前らは何のために、俺をここまで連れてきた!
「悪夢に手を出すことは、この俺が許さん!」
その瞬間、フィノーラの持つ聖剣が左肩に落ちた。
ギリギリと肉に食い込むそれを押しのけようとするも、力が及ばない。
「今よ、イバン。ナバロはここまでに、もう随分魔法を使っている。そろそろ体力が切れるころだわ。この強い聖騎士団の結界のなかで、よくバレないと思ったわね。あんたはあんたの意識と体を保っているだけでも、精一杯だったはずよ」
「お前……。それを待っていたのか……」
「あら、どれだけ一緒にいたと思ってるの? グレティウス入りしてから、ほとんど魔力の補給はしていないし、休めもしなかったはずよ。溶け出しそうな体を、守るのに必死だったもの。聖騎士団の中枢本部じゃ、さすがに大人しかったものね」
ディータの銃口は、俺に向けられたままだ。
イバンはハンマーを片手に、悪夢へ近づく。
「これで本当に、ナバロの呪いは解けるのか?」
「どっちにしろ、一石二鳥でしかないだろ。さっさとやれ」
ユファの聖槌が、悪夢の前で振り上げられる。
「やめろ!」
風起こし。
爆風が吹き荒れる。
吹き飛ばされたフィノーラの前に、ディータが立ちはだかった。
「目を覚ませ、ナバロ!」
撃たれた弾丸は、聖騎士団の魔法弾だ。
それはわずかな黒煙を上げ、周囲に飛散する。
魔力を封じる、吸魔の粉だ。
「クソが! これくらいのことで、俺がくたばると思うなよ!」
呪文を、呪文を唱えなければ!
『魔力解放! 悪夢よ、力を!』
三人は、手に持った武器を同時に掲げた。
『聖剣よ、力なきものを守りたまえ!』
三人の声が重なる。
イバンの槌とフィノーラの剣、ディータのライフルが、正三角形のバリアを作る。
聖騎士団の紋章が光った。
聖騎士団の特有の、黄色みを帯びた緑の正三角形が、頭上を覆う。
抵抗しようにも、悪夢捜索用に支給された武器だけのことはある。
魔法攻撃に対する耐性がハンパない。
「あ……、悪夢に何をした……」
悪夢からの返事が、返ってこない。
この忌々しいバリアに、弾かれた様子もない。
「何もしてない。大人しくするんだ」
黄緑のバリアが、頭上に近づいてくる。
この殻を破ろうにも、この体に残った力だけでは、それも叶わない。
「ユファどもめ……」
聖騎士団の結界は、この世界の全てを包み込んでいたんだ。
俺は知らぬ間に、その呪いに冒されていたのかもしれない。
「ナバロ! お前が死んでも死なない体なら、もう一度やり直せ!」
ディータの言葉に、勇者の剣を持つフィノーラが動いた。
結界が落とされる。
「これでお終いよ!」
スアレスの剣が頭上に振り下ろされた。
それを避けようとする体に、ディータの投げた双剣が突き刺さる。
聖なる呪いを受けたの剣だ。
終末の叫びが、腹を突いてほとばしる。
三人の創り出した結界が、俺の体を包み込んだ。
「ぐあああ!」
俺を守っていた結界が、力によって破られる。
その力は全身を縛り上げ、圧迫する。
その圧力に、俺はなんの身動きも取れなくなる。
イバンは悪夢を振り返った。
その聖槌が、クリーム色の双角錐に振り下ろされる。
「もう悪夢など、ここに必要ない!」
その瞬間、俺の中で何かが砕け散った。
それはいま俺の目の前にある、悪夢なんかじゃない。
ガクリと膝をつく。
体から全ての体力が奪われてゆくのは、いつものアレか?
鉛のように重たくなった体が、ずしりと地面に倒れる。
「ナバロ!」
フィノーラの手が、俺を抱き上げた。
あぁ、そういえば出会った時から、俺はこの手に助けられていたっけ。
イバンの顔が、ディータの顔が、順番にのぞき込む。
伸ばしたその小さな少年の手は、本当に自分の手か?
力なく震えるそれは、ぱたりと落ちた。
俺は大魔道士エルグリムだ。
巨悪をなし、誰からも忌み嫌われ、いつまでも憎み恨まれ罵倒され続け、決して愛されることはない。
だとしたら俺は、もう一度魔王として、復活するよりなかったじゃないか。
どうすれば、いつになったら、俺はこの世から認めらる?
死んでもなお生き返る呪いをかけたのは、俺自身だったのか?
それともこれが、罪にたいする罰だとでもいうのだろうか。
何に対する罰だ? 生まれたせい? やったこと?
悪だもんな。
当然の報いだ。
だから人に蔑まれ、殺されるのは、当たり前なんだ。
それを受け入れろ。
大魔道士エルグリムだ。
俺はまた復活するだろう。
それは永遠に繰り返される、果てしない呪いだ。
誰よりも最悪で、最も許されない、汚く下劣で醜い、浅ましく卑しい下等なこの世のゴミとして……。
「魔力を失う。今度こそ、本当に滅びるだろう。その力の根源を、失うことになるからな」
「それが本当の最期だってことか」
ディータの緑に強く輝く目が、チラリと俺を見た。
「ナバロはどう思う?」
「割ればいいじゃないか。少しくらい、分け前をもらってもいいだろ」
俺の本体。俺の魂。
数百年の時を生かし続けた、その力の源。
「きっと、キレイに割れて砕け散るだろうな……」
「だといいだろうな」
立ち並ぶ列柱の先の、行き止まりについた。
その広間には、巨大な扉が立ち塞がる。
この扉の全てが、悪夢を守る魔法石だ。
一面に敷かれた魔法陣は、なに一つ欠けてはいない。
俺の描いた結界が、無傷のまま残っている。
「す……、すごい……。ついに来たのね……。ちょ、鳥肌たってるんだけど!」
「俺もだ。こんなビリビリするのは、初めてだよ。エルグリムの力を、この扉の向こうから全身に感じるね。怖いくらいだ」
俺はぼんやりと緑に光るその魔方陣の中心に、真っ直ぐに左手を差し出す。
その意志を、悪夢へ向けた。
『さぁ。悪夢よ、その姿を見せよ。永い眠りの時は、いま終わりを迎えた!』
光りが走る。
轟音が鳴り響いた。
扉に描かれた模様が、ゆっくりと動き出す。
その光りは歯車のように回転し、中心に集約されてゆく。
やがでそれは、扉中央を貫く真っ直ぐな線となり、静かに開き始めた。
「これが……悪夢への扉なのか!」
走り出そうとしたディータの前に、剣が振り下ろされる。
「フィノーラ……。お前……」
彼女は勇者スアレスの剣を、ディータの前に構えた。
「悪いけど、これから先は、誰にも邪魔させない。私が一人で行く」
「どういうことだ」
イバンはハンマーを構えた。
支給品とはいえ、賢者ユファの呪いがかかった聖槌だ。
「あんたたちには渡さない。私が一人で壊す」
「なぜそれをお前が判断する。悪夢は誰のものでもない。この世から消えてなくなるべきものだ」
ハンマーを持つイバンは、ジリジリとフィノーラとの間合いを詰める。
くだらない。
「おい、ちょっと待てよ。貴様ら、あの悪夢が誰のものだか、忘れてないか?」
魔力解放。
もはやコイツらに、用はない。
緑の炎が全身を包む。
この地域一帯に眠った力が、死んだ魔物たちに与えた残余が、俺の元に戻ってくる。
「ナバロ!」
フィノーラの聖剣が、俺に向かった。
「あんたには、話しがある!」
「そうか。だが俺にはない」
ここで殺しておいた方が、この先、俺がラクだろうな。
フィノーラの振る勇者の剣が、胸のすぐ手前を横切った。
「その力を制御出来ないのなら、あんたは悪夢を持つべきじゃないわ!」
振り下ろされる勇者の剣を、イバンのハンマーが受け止めた。
「なぜそんなことを、お前が決める!」
「言ったでしょ。私は聖騎士団なんて、大っ嫌いだって!」
フィノーラの聖剣は、イバンに向かう。
「あんたたち聖騎士団の連中が、エルグリム狩りにかこつけて魔道士の子供たちにしたことを、私は一生忘れない!」
火花を散らし、聖剣と聖槌が交差する。
「そんな連中に悪夢を渡すくらいなら、私がもらう!」
くだらない。
ふわりと体を宙に浮かせる。
先へ急ごう。
コイツらを黙らせるためにも、俺には悪夢が必要だ。
扉の奥へと飛ぶ。
フィノーラの言う通りだ。
そもそも俺に、こんなものを作らせたあいつらが悪い。
遠い記憶が蘇る。
魔道士の子供が忌み嫌われ、悪魔の子として葬られていた時代の話しだ。
逃げることを覚え、自分の身を自らの力で守ることを教えたのは、何だったのか。
「そこから抜けだしたいのなら、圧倒的な力をつければいい!」
悪夢とは、皆が言うような魔法石の結晶でも、力の残余でもない。
あれは装置だ。
有り余る魔力を蓄積し増幅させ、エルグリムの元へと送り続ける、供給機だ。
悪夢がある限り、いくら倒されても俺は死なない。
必ずこの悪夢が、俺の元へ魔力を送り続ける。
最後の扉が見えた。
その前に舞い降りる。
見上げるほどの高く頑丈な扉の前で、俺は呪文を唱えた。
『王の帰還だ。いまここに作り主は帰った。その力を解放し、我に全てを与えよ。そなたの役は目的を果たした。新たに生まれ変わり、次の使命を果たせ!』
大地が揺らぐ。
最後の扉が、静かに開き始めた。
乳白色に濁った淡い琥珀色の、縦に長い双角錐の物体が光る。
ゆっくりと回転しているそれに、俺は一歩を踏み出す。
パン!
薬莢の弾ける音と、火薬の臭い。
俺はサッと身をかわした。
「チッ。さすがに避けやがるぜ」
ディータの構えた銃口から、煙が上がった。
「おい、イバン。聖騎士団の弾丸じゃあ、悪夢は壊せないってよ」
振り返る。
悪夢の表面に、わずかなヒビが入っていた。
「貴様ら……」
俺のこの体が、全身が、怒りに震える。
ここまでやってきた道のりを、なんだと思っている。
お前らは何のために、俺をここまで連れてきた!
「悪夢に手を出すことは、この俺が許さん!」
その瞬間、フィノーラの持つ聖剣が左肩に落ちた。
ギリギリと肉に食い込むそれを押しのけようとするも、力が及ばない。
「今よ、イバン。ナバロはここまでに、もう随分魔法を使っている。そろそろ体力が切れるころだわ。この強い聖騎士団の結界のなかで、よくバレないと思ったわね。あんたはあんたの意識と体を保っているだけでも、精一杯だったはずよ」
「お前……。それを待っていたのか……」
「あら、どれだけ一緒にいたと思ってるの? グレティウス入りしてから、ほとんど魔力の補給はしていないし、休めもしなかったはずよ。溶け出しそうな体を、守るのに必死だったもの。聖騎士団の中枢本部じゃ、さすがに大人しかったものね」
ディータの銃口は、俺に向けられたままだ。
イバンはハンマーを片手に、悪夢へ近づく。
「これで本当に、ナバロの呪いは解けるのか?」
「どっちにしろ、一石二鳥でしかないだろ。さっさとやれ」
ユファの聖槌が、悪夢の前で振り上げられる。
「やめろ!」
風起こし。
爆風が吹き荒れる。
吹き飛ばされたフィノーラの前に、ディータが立ちはだかった。
「目を覚ませ、ナバロ!」
撃たれた弾丸は、聖騎士団の魔法弾だ。
それはわずかな黒煙を上げ、周囲に飛散する。
魔力を封じる、吸魔の粉だ。
「クソが! これくらいのことで、俺がくたばると思うなよ!」
呪文を、呪文を唱えなければ!
『魔力解放! 悪夢よ、力を!』
三人は、手に持った武器を同時に掲げた。
『聖剣よ、力なきものを守りたまえ!』
三人の声が重なる。
イバンの槌とフィノーラの剣、ディータのライフルが、正三角形のバリアを作る。
聖騎士団の紋章が光った。
聖騎士団の特有の、黄色みを帯びた緑の正三角形が、頭上を覆う。
抵抗しようにも、悪夢捜索用に支給された武器だけのことはある。
魔法攻撃に対する耐性がハンパない。
「あ……、悪夢に何をした……」
悪夢からの返事が、返ってこない。
この忌々しいバリアに、弾かれた様子もない。
「何もしてない。大人しくするんだ」
黄緑のバリアが、頭上に近づいてくる。
この殻を破ろうにも、この体に残った力だけでは、それも叶わない。
「ユファどもめ……」
聖騎士団の結界は、この世界の全てを包み込んでいたんだ。
俺は知らぬ間に、その呪いに冒されていたのかもしれない。
「ナバロ! お前が死んでも死なない体なら、もう一度やり直せ!」
ディータの言葉に、勇者の剣を持つフィノーラが動いた。
結界が落とされる。
「これでお終いよ!」
スアレスの剣が頭上に振り下ろされた。
それを避けようとする体に、ディータの投げた双剣が突き刺さる。
聖なる呪いを受けたの剣だ。
終末の叫びが、腹を突いてほとばしる。
三人の創り出した結界が、俺の体を包み込んだ。
「ぐあああ!」
俺を守っていた結界が、力によって破られる。
その力は全身を縛り上げ、圧迫する。
その圧力に、俺はなんの身動きも取れなくなる。
イバンは悪夢を振り返った。
その聖槌が、クリーム色の双角錐に振り下ろされる。
「もう悪夢など、ここに必要ない!」
その瞬間、俺の中で何かが砕け散った。
それはいま俺の目の前にある、悪夢なんかじゃない。
ガクリと膝をつく。
体から全ての体力が奪われてゆくのは、いつものアレか?
鉛のように重たくなった体が、ずしりと地面に倒れる。
「ナバロ!」
フィノーラの手が、俺を抱き上げた。
あぁ、そういえば出会った時から、俺はこの手に助けられていたっけ。
イバンの顔が、ディータの顔が、順番にのぞき込む。
伸ばしたその小さな少年の手は、本当に自分の手か?
力なく震えるそれは、ぱたりと落ちた。
俺は大魔道士エルグリムだ。
巨悪をなし、誰からも忌み嫌われ、いつまでも憎み恨まれ罵倒され続け、決して愛されることはない。
だとしたら俺は、もう一度魔王として、復活するよりなかったじゃないか。
どうすれば、いつになったら、俺はこの世から認めらる?
死んでもなお生き返る呪いをかけたのは、俺自身だったのか?
それともこれが、罪にたいする罰だとでもいうのだろうか。
何に対する罰だ? 生まれたせい? やったこと?
悪だもんな。
当然の報いだ。
だから人に蔑まれ、殺されるのは、当たり前なんだ。
それを受け入れろ。
大魔道士エルグリムだ。
俺はまた復活するだろう。
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