10 / 71
第3章
第2話
しおりを挟む
昼休みの終わりを告げるチャイムの音が響く。
教室に戻らなくてはならない。
あたしはやっぱりいっちーの後を追いかけて教室に戻った。
よく分からない色んなモノが詰め込まれたロッカーに、彼女の突っ込んだこん棒が突き刺さったままだった。
それをまた落っこちないように、もう一度押し込む。
彼女はそんなあたしを見て、フンと鼻で笑った。
そんな挑発的な態度に、あたしはますます確信する。
放課後になるのを待って、振り上げたこん棒の先をいっちーに向けた。
「あたしに教えてほしい」
「は? なに?」
「空手」
「こん棒じゃん」
「うん」
「こん棒だよね」
もう一度うなずく。
いっちーはガタンと立ち上がった。
「こん棒って鬼退治の見習いクラスだし、空手でもないし」
「そうなの?」
いっちーはあたしを見下ろす。
「ま、なんでもいいから、一緒にやろ」
彼女の眉間のしわは、より一層深くなった。
「バカにしてんの? それともあんたが本気のバカ?」
「あー、もしかしたらそうなのかも」
いっちーは無言で通学用のリュックを背負った。
わざとらしく肩をぶつけてくる。
そうやってあたしを押しのけると、廊下へ出て行ってしまった。
「だって、鬼退治用の刀くれそうな人、知らないんだもん。いっちーなら知ってるんじゃないかと思って」
その声が彼女に届いたのかどうかは分からない。
鬼退治協会はその役目を終えたとして、公式には活動を停止している。
新たな刀が鬼退治用として認定されることはない。
残された刀を受け継いだものだけが、鬼退治をする者として認められる。
「私だって、そんな人知らないから」
それだけを言い残して、いっちーは姿を消してしまった。
一人取り残されたあたしは、ざわつく放課後の教室でついため息をつく。
「なにあの態度」
「もも。いっちーなんか誘うのやめなよ」
はーちゃんとしーちゃんは呆れたような表情を見せた。
「ううん。あたしはいっちーがいいの。きっといっちーなら最後まであたしに付き合って、やってくれる」
いっちーの頑なな行動に、あたしはますますそれを確信する。
「なんでいっちー? どうして?」
「ん?」
そう尋ねた2人をあたしはみつめた。
「いっちーはさ……。なんか、あたしに似てる気がするんだよね」
「全然違うよ」
「いっちーはああ見えて真面目だしちゃんとしてるし優等生だよ」
「ももは違うじゃん」
あぁ、うん。まぁね。
いっちーがオカタイ優等生なのは知ってる。
「ねぇ、ももにとって鬼退治ってさ……」
あたしは二人の心配に、首を横に振った。
「ううん、信じて。大丈夫よ。つーかマジで護身術みたいなのも習いたいし」
こん棒を肩に担ぎ直す。
「それに、いっちーを説得出来ないようじゃ、どっちにしろこの先ムリだって思ってるから」
あたしは教室を出る。
速攻でフラれたのは、ちょっとショックだったけど、きっと彼女には届く。
必ず来てくれる。
作戦は考えた。
校庭の隅のこん棒振っても大丈夫そうな場所を見つけると、そこにリュックを置いた。
ネットの動画で見つけた素振りをマネしてみる。
縦に振って、横に振って、斜めに構えて気合いを入れる。
遠くで野球部の集団がランニングをしている。
吹奏楽部の楽器の音と、絶え間ないかけ声が聞こえてくる。
ちょっとこん棒を振り回しただけで、もう腕がだるい。
この軽やかな笑い声は、どこから聞こえてくるんだろう。
お日さまはいつまでも暖かくて、あたしは芝生の上に寝転がった。
やっぱ基礎体力からだな。
それもスマホで検索。
「やっぱやる気ないじゃん」
校舎の陰から顔を半分だけのぞかせていたのは、いっちーだ。
「なに? なんか用?」
返事はない。
「だって疲れたんだもん」
「そういうとこ!」
あたしはニッと微笑む。
やっぱり来た。
何だかんだで、気にはなってるんだよね。
面倒見はいいんだから。
「心配して見に来てくれたんだ」
「……。忘れ物を取りに来ただけ」
いっちーの顔は真っ赤になっている。
あたしは笑いそうになるのを我慢しているのが辛い。
照れているのを隠すために向けた彼女の背は、校舎の陰に消えた。
すぐに後を追いかける。
放課後の誰もいない廊下に、あたしたちの足音だけが響いている。
「あたしね、鬼を見たことがあるの!」
どこまでも続く長い廊下の真ん中で叫んだ。
いっちーの足が止まる。
彼女の背を見つめながら、あたしは疼きはじめた腕を押さえた。
教室に戻らなくてはならない。
あたしはやっぱりいっちーの後を追いかけて教室に戻った。
よく分からない色んなモノが詰め込まれたロッカーに、彼女の突っ込んだこん棒が突き刺さったままだった。
それをまた落っこちないように、もう一度押し込む。
彼女はそんなあたしを見て、フンと鼻で笑った。
そんな挑発的な態度に、あたしはますます確信する。
放課後になるのを待って、振り上げたこん棒の先をいっちーに向けた。
「あたしに教えてほしい」
「は? なに?」
「空手」
「こん棒じゃん」
「うん」
「こん棒だよね」
もう一度うなずく。
いっちーはガタンと立ち上がった。
「こん棒って鬼退治の見習いクラスだし、空手でもないし」
「そうなの?」
いっちーはあたしを見下ろす。
「ま、なんでもいいから、一緒にやろ」
彼女の眉間のしわは、より一層深くなった。
「バカにしてんの? それともあんたが本気のバカ?」
「あー、もしかしたらそうなのかも」
いっちーは無言で通学用のリュックを背負った。
わざとらしく肩をぶつけてくる。
そうやってあたしを押しのけると、廊下へ出て行ってしまった。
「だって、鬼退治用の刀くれそうな人、知らないんだもん。いっちーなら知ってるんじゃないかと思って」
その声が彼女に届いたのかどうかは分からない。
鬼退治協会はその役目を終えたとして、公式には活動を停止している。
新たな刀が鬼退治用として認定されることはない。
残された刀を受け継いだものだけが、鬼退治をする者として認められる。
「私だって、そんな人知らないから」
それだけを言い残して、いっちーは姿を消してしまった。
一人取り残されたあたしは、ざわつく放課後の教室でついため息をつく。
「なにあの態度」
「もも。いっちーなんか誘うのやめなよ」
はーちゃんとしーちゃんは呆れたような表情を見せた。
「ううん。あたしはいっちーがいいの。きっといっちーなら最後まであたしに付き合って、やってくれる」
いっちーの頑なな行動に、あたしはますますそれを確信する。
「なんでいっちー? どうして?」
「ん?」
そう尋ねた2人をあたしはみつめた。
「いっちーはさ……。なんか、あたしに似てる気がするんだよね」
「全然違うよ」
「いっちーはああ見えて真面目だしちゃんとしてるし優等生だよ」
「ももは違うじゃん」
あぁ、うん。まぁね。
いっちーがオカタイ優等生なのは知ってる。
「ねぇ、ももにとって鬼退治ってさ……」
あたしは二人の心配に、首を横に振った。
「ううん、信じて。大丈夫よ。つーかマジで護身術みたいなのも習いたいし」
こん棒を肩に担ぎ直す。
「それに、いっちーを説得出来ないようじゃ、どっちにしろこの先ムリだって思ってるから」
あたしは教室を出る。
速攻でフラれたのは、ちょっとショックだったけど、きっと彼女には届く。
必ず来てくれる。
作戦は考えた。
校庭の隅のこん棒振っても大丈夫そうな場所を見つけると、そこにリュックを置いた。
ネットの動画で見つけた素振りをマネしてみる。
縦に振って、横に振って、斜めに構えて気合いを入れる。
遠くで野球部の集団がランニングをしている。
吹奏楽部の楽器の音と、絶え間ないかけ声が聞こえてくる。
ちょっとこん棒を振り回しただけで、もう腕がだるい。
この軽やかな笑い声は、どこから聞こえてくるんだろう。
お日さまはいつまでも暖かくて、あたしは芝生の上に寝転がった。
やっぱ基礎体力からだな。
それもスマホで検索。
「やっぱやる気ないじゃん」
校舎の陰から顔を半分だけのぞかせていたのは、いっちーだ。
「なに? なんか用?」
返事はない。
「だって疲れたんだもん」
「そういうとこ!」
あたしはニッと微笑む。
やっぱり来た。
何だかんだで、気にはなってるんだよね。
面倒見はいいんだから。
「心配して見に来てくれたんだ」
「……。忘れ物を取りに来ただけ」
いっちーの顔は真っ赤になっている。
あたしは笑いそうになるのを我慢しているのが辛い。
照れているのを隠すために向けた彼女の背は、校舎の陰に消えた。
すぐに後を追いかける。
放課後の誰もいない廊下に、あたしたちの足音だけが響いている。
「あたしね、鬼を見たことがあるの!」
どこまでも続く長い廊下の真ん中で叫んだ。
いっちーの足が止まる。
彼女の背を見つめながら、あたしは疼きはじめた腕を押さえた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる