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第14章
第3話
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「なに?」
あたしは、ひっくり返した机を元に戻す。
そうやってうつむいていないと、誰かと目があってしまいそう。
「あっちゃー。コレ、くーちゃんの机だったか。謝っとくわ」
スマホを取り出す。
高速タップで謝罪文を打つ。
顔をあげたら、さーちゃんと目があった。
相変わらずの伸ばしかけツンツンライオン頭で、座った机の上に片膝を立て、そこに頬杖をついている。
キジは最初から位置も姿勢も全く変わっていない。
いっちーは集めた書類を片手に、じっとあたしを見ている。
誰も何も言わないから、あたしはどうしていいのか分からない。
分からないものは分からないから、どうしようもない。
「もも」
いっちーの足が一歩前に出る。
その分だけ、あたしとの距離が縮まる。
今はそんなことにすら耐えられない。
「あー分かった! 分かったよ、分かってるって!」
あたしは生徒で、細木は先生で、部活には顧問が必要で、桃たちがここに入学してきたのも入部してくるのも、自分じゃどうしようも出来ないことで、そんなことに腹を立てていたってしかたがなくて、誰もがこんな些細なことを些細なこととして処理しているのを知っているし分かってる。
「謝ってくる」
足取りは重い。
行きたくない。
なんであたしが謝らないといけない?
教室をゆっくりと歩いて、入り口のドアにかじりつく。
だけどあたしがしないといけないのは、こういうこと。
「クソダサジャージに謝って来らぁ!」
そっからの廊下全力ダッシュ。
そんなことしたって、全然意味なんかないのに。
階段を飛び降り廊下を駆け抜け、校舎を飛び出した。
アイツはどこにいる?
職員室へ向かおうとした中庭の柱の陰に、うずくまる人影を見つけて立ち止まる。
細木が泣いている。
そのボロボロに泣いてる細木を、桃と金太郎と浦島が必死で慰めている。
なんだアレ。
細木はやっぱ、頭おかしいんだな。
なんで教師が生徒の前で泣いてんだ。
じっとみていたあたしに、浦島は気がついた。
「もも」
いっちーと同じようなトーンで、あたしの名前を呼ぶのがムカつく。
「いつから見てた?」
ため息をついた浦島に、あたしはあえて返事をしない。
柱の陰に隠れたままじっとしている。
「先生はそれなりに、みんなのことをちゃんと考えてくれている」
金太郎は、その金色の髪をかき上げながら浦島に続いた。
「ももちゃんにとっては、気に入らないことが多いかもしれないけど、先生の協力がないとどうにもならないことはあるって、分かるよね」
桃はあたしをじっとみつめたまま、一歩近づく。
「ももは、どうしたいの?」
あたしは桃を見上げた。
どうしたいかって?
そんな本音を、正直に言えるとでも思ってるんだろうか。
びっくりする。
「いいんだ、ありがとう」
答えずにいたら、細木は立ち上がり、桃の肩に手を置いた。
「先生」
「どうせ俺は、なにやったって嫌われるんだから。こいつにとっては、そんなこと、どうだっていいんだよ」
細木はいつもの顔で、遠くからあたしを見下ろした。
「な、お前はどうしたって、俺が嫌いだもんな? いいよ別に、無理しなくたって」
あたしはなんにも言っていないのに、やっぱり勝手に進行してゆく。
「別に、そんなこと思ってないよ」
「じゃあどう思ってんの?」
あたしは桃を見つめる。
そんなこと、あんたたちに言ってどうすんの?
どうしようもないことだって、あたしが一番知ってるのに。
「ほら、結局何にも考えてないし、無駄なんだよ」
細木はいかにもめんどくさいというように、手をひらひらさせた。
「あー、もういいよ。帰れ帰れ」
ほら、ね。
「結局我慢するのは、いつもこっち側だからさ。もう慣れたよ」
「……。じゃ、帰ります」
「はーい。お疲れー」
どうしてコイツらは、いつもこうなんだろう。
あたしたちとは、見えているものと見えていないものの世界が、全く違うとしか考えようがない。
コイツらにとってあたしがどうでもいい存在なんだったら、結局あたしにとっても、どうだっていい存在だったってことだろ。
話しがかみ合わないのは、どうしようもないことで、そんなことまであたしのせいにしないでほしい。
あんたたちがあたしに何も期待せず意識しないように、あたしもまた期待してないしアテにはしない。
あたしは、ひっくり返した机を元に戻す。
そうやってうつむいていないと、誰かと目があってしまいそう。
「あっちゃー。コレ、くーちゃんの机だったか。謝っとくわ」
スマホを取り出す。
高速タップで謝罪文を打つ。
顔をあげたら、さーちゃんと目があった。
相変わらずの伸ばしかけツンツンライオン頭で、座った机の上に片膝を立て、そこに頬杖をついている。
キジは最初から位置も姿勢も全く変わっていない。
いっちーは集めた書類を片手に、じっとあたしを見ている。
誰も何も言わないから、あたしはどうしていいのか分からない。
分からないものは分からないから、どうしようもない。
「もも」
いっちーの足が一歩前に出る。
その分だけ、あたしとの距離が縮まる。
今はそんなことにすら耐えられない。
「あー分かった! 分かったよ、分かってるって!」
あたしは生徒で、細木は先生で、部活には顧問が必要で、桃たちがここに入学してきたのも入部してくるのも、自分じゃどうしようも出来ないことで、そんなことに腹を立てていたってしかたがなくて、誰もがこんな些細なことを些細なこととして処理しているのを知っているし分かってる。
「謝ってくる」
足取りは重い。
行きたくない。
なんであたしが謝らないといけない?
教室をゆっくりと歩いて、入り口のドアにかじりつく。
だけどあたしがしないといけないのは、こういうこと。
「クソダサジャージに謝って来らぁ!」
そっからの廊下全力ダッシュ。
そんなことしたって、全然意味なんかないのに。
階段を飛び降り廊下を駆け抜け、校舎を飛び出した。
アイツはどこにいる?
職員室へ向かおうとした中庭の柱の陰に、うずくまる人影を見つけて立ち止まる。
細木が泣いている。
そのボロボロに泣いてる細木を、桃と金太郎と浦島が必死で慰めている。
なんだアレ。
細木はやっぱ、頭おかしいんだな。
なんで教師が生徒の前で泣いてんだ。
じっとみていたあたしに、浦島は気がついた。
「もも」
いっちーと同じようなトーンで、あたしの名前を呼ぶのがムカつく。
「いつから見てた?」
ため息をついた浦島に、あたしはあえて返事をしない。
柱の陰に隠れたままじっとしている。
「先生はそれなりに、みんなのことをちゃんと考えてくれている」
金太郎は、その金色の髪をかき上げながら浦島に続いた。
「ももちゃんにとっては、気に入らないことが多いかもしれないけど、先生の協力がないとどうにもならないことはあるって、分かるよね」
桃はあたしをじっとみつめたまま、一歩近づく。
「ももは、どうしたいの?」
あたしは桃を見上げた。
どうしたいかって?
そんな本音を、正直に言えるとでも思ってるんだろうか。
びっくりする。
「いいんだ、ありがとう」
答えずにいたら、細木は立ち上がり、桃の肩に手を置いた。
「先生」
「どうせ俺は、なにやったって嫌われるんだから。こいつにとっては、そんなこと、どうだっていいんだよ」
細木はいつもの顔で、遠くからあたしを見下ろした。
「な、お前はどうしたって、俺が嫌いだもんな? いいよ別に、無理しなくたって」
あたしはなんにも言っていないのに、やっぱり勝手に進行してゆく。
「別に、そんなこと思ってないよ」
「じゃあどう思ってんの?」
あたしは桃を見つめる。
そんなこと、あんたたちに言ってどうすんの?
どうしようもないことだって、あたしが一番知ってるのに。
「ほら、結局何にも考えてないし、無駄なんだよ」
細木はいかにもめんどくさいというように、手をひらひらさせた。
「あー、もういいよ。帰れ帰れ」
ほら、ね。
「結局我慢するのは、いつもこっち側だからさ。もう慣れたよ」
「……。じゃ、帰ります」
「はーい。お疲れー」
どうしてコイツらは、いつもこうなんだろう。
あたしたちとは、見えているものと見えていないものの世界が、全く違うとしか考えようがない。
コイツらにとってあたしがどうでもいい存在なんだったら、結局あたしにとっても、どうだっていい存在だったってことだろ。
話しがかみ合わないのは、どうしようもないことで、そんなことまであたしのせいにしないでほしい。
あんたたちがあたしに何も期待せず意識しないように、あたしもまた期待してないしアテにはしない。
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