Let's鬼退治!

岡智 みみか

文字の大きさ
61 / 71
第14章

第5話

しおりを挟む
「そんなんじゃないよ」

 キジはうつむいたまま小さくため息をつき、お茶を口にした。

生理前なのかなって思ったけど、そんなことをここでは聞けない。

金太郎は紙皿に乗せた卵焼きをキジに差し出した。

「はい。食べて」

 彼女はそれを受け取ると、すぐにあたしに向かって突き出す。

「私、いま卵焼きって気分じゃない」

 あたしだってそんな気分じゃないけど、出されたものは何だって食べるよ。

桃とさーちゃんは先を争うようにガッついていて、競争してんのかケンカしてんのか分かんない。

いっちーと浦島は、ちゃんとしっかり自分の分は確保している。

キジはすました顔でお茶だけすすって飲んでいて、あたしは仕方なくキジを素通りして金太郎から渡される、てんこ盛りのシイタケの肉詰めとかフキの煮物を口に詰め込んでいる。

むせたあたしに、キジはお茶を差し出した。

「ありがと」

 あたしはそれを素直に受け取り、飲み干した。

「いいなー。俺も誰かにお茶いれてほしい……」

 金太郎がボソリとつぶやいたその瞬間、サッとあたしとキジは2リットルのペットボトルを指さし、それを見た浦島は紙コップを手に取る。

「ほら」

「はい」

 金太郎は、浦島から受け取ったそれに口をつけた。

弁当の中身が空っぽになったタイミングで、キジは立ち上がる。

「消しゴムないから、購買に行って買ってくる」

「あ、あたしも行く」

 立ち上がったあたしとキジに、金太郎と浦島は手を振った。

「2人とも、放課後も来てくれるとうれしいな」

「部活の紹介動画撮るから」

 ふと見下ろしたあたしは、いっちーと目が合う。

横を向いたら、今度はキジと目が合った。

桃が「じゃ!」と手を振ったから、あたしとキジは校庭の芝生を抜け、校舎の陰に入る。

「どうしてついてきたの」

 キジは怒っているみたいだ。あたしの目の前で、長く真っ直ぐな黒髪が揺れている。

「ねぇ、お腹空かない?」

 あたしはこっそり持ってきていた、ママのクッキーを取り出す。

「一緒に食べよう」

 ずっと早足で歩いていた彼女の足が止まった。

「……それは、本当は、今日みんなで食べるために持ってきてたんじゃないの?」

 キジがこんなにも苦しそうにしているのを、あたしは初めて見たような気がする。

「ううん。そんなことないよ」

 あたしたちは誰にも見つからないように、非常階段踊り場という透け透け見え見えの秘密基地に潜り込む。

キジと同じ甘い紅茶を買って、並んで食べた。

「美味しぃ~!」

 いつもさーちゃんと負けないくらい、いっぱい食べるキジを知っている。

あたしの方はもう、本当にお腹いっぱいだった。

「全部食べちゃっていいの?」

「うん」

 非常階段から見える遙か足の下に、まだレジャーシートを広げているいっちーとさーちゃん、桃たちの姿が見えた。

どうしてあたしたちは、こんなところに追いやられているんだろう。

「それは……鬼のせい?」

 あたしは隣のキジに、そっと声をかける。

キジの横顔は、ふっと笑った。

「別に何かされたとか、嫌な事があったとかってわけじゃないんだけど、どうしても見たり聞いたりしちゃうことってあるじゃない? それに対して、何にも出来ない自分が嫌だし、かといってどうしていいのかも分からないし、自分が嫌な思いをするかもって分かってるところに、わざわざ行く気にならないだけなんだよね。分かる?」

「分かるよ」

 あたしはキジの長い黒髪の、風に吹かれているのを見ている。

「キライなのよ。何となくでしかないんだけど。自分とは全く違う生き物のような気がして。怖いっていうか、わかり合えない、混じり合えないっていうか、なんかそういうの……。とにかく嫌なの」

 サクッと乾いた音がして、キジの口の端から見えないくらい細かなクッキーの欠片がこぼれる。

「知らない人に対して、どう思うかってのがあるじゃない? 少しでも同じところとか、似たような部分があると安心できるけど、生物としての共通点が何にも思いつかないのよ。分かる? この感じ」

 あたしはそっとうなずいた。

足元ではいっちーとさーちゃんが、桃たちと普通にランチしてる。

「単純にね、もう動きとか動作とか、しゃべってる内容とか全く理解不能なのよ。全部意味不明。同じ空間にすらいたくないし、自分の世界に入ってこられるのも嫌なの。全てが悪人ってわけじゃないって、もちろん頭では分かってるんだけど、そんなのは簡単に感情が否定してくる。『本当に大丈夫?』『信用していいの?』『関わったら、後で面倒なことにならない?』って、そんなことを考えてたら、もう近寄りたくもない」

 崩れた学校の城壁は、もう何にもなくなっていて、見通しはすっかりよくなったけど、もうあたしたちを守ってくれるものは、何にもない。

「あの人たちは違うって、ちゃんと頭では分かってるんだけどね」

 あたしはキジの肩に頭を寄せた。

彼女の温かな体温が、じんわりと伝わってくる。

「分かるよ。あたしも基本的に嫌いだもん」

「私はまだ……。あの人たちには、さーちゃんがいていっちーがいて、もももいるから大丈夫なだけで……」

 いつの間にかママのクッキーは、残り少なくなっていた。

「……ねぇ。あたし、鬼退治続けてていいと思う?」

 吹き上げる上昇気流は、スカートを巻き上げた。

「いいと思う」

 キジの髪からは、いっちーとはまた違ういい匂いがする。

「私も……頑張る。負けないように……」

 キジと目が合って、あたしが笑ったら、彼女も笑った。

「あたしもクッキー食べていい?」

「もともと、もものじゃない」

 キジは笑った。

お腹はいっぱいだったけど、一緒に食べたクッキーはとても美味しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...