Let's鬼退治!

岡智 みみか

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第17章

第2話

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「もも! 来たか、こっちだ」

 職員室でそんな大げさに手を振らなくっても、先生の席くらい知ってるってば。

「廃部の書類は揃った。これで大丈夫だ。問題ない。校長の許可もばっちり取れたぞ」

「凄いじゃん。頑張ったね」

 細木はあたしを見上げる。

フンと鼻息を鳴らした。

「まぁこれは、事前に決まってたからな。で、こっちが新しい書類」

 それを受け取って、目を通す。

びっしりと書き込まれた書類には、一カ所だけ空欄が残っていた。

細木は一つ、咳払いをする。

「そこを決めるのは、お前だと思って」

 細木は顔を真っ赤にした。

自分でその顔をクラス日誌で隠す。

「俺はお前たちが仲良くしてくれているのもうれしいし、こうやって色々やらしてくれるのもうれしいし、ちゃんと頼ってくれるのもうれしい」

 隠しきれていない耳とこめかみから顎にかけての部分が、本当に赤くて笑う。

「俺はずっと嫌われてると思ってたし、実際そうだったし、色々あったけど本当はずっと一緒に色々したかったし、これからもしたい」

 日誌の横からちらりとのぞき込む。

「……お前が、それでもいいって言ってくれるなら……」

 あたしは細木を見下ろす。

きっとこれまでのあたしだったら、何かもっと別の言葉を投げかけていたんだろうな。

「そうしてくれると、あたしもうれしい」

 細木の座っている椅子が、ガタリと大きな音を立てた。

一瞬立ち上がった細木は、またすぐ腰を下ろす。

「あ、もも。お昼ご飯はもうちゃんと食べたか? 時間大丈夫? ちょっとこれを見てほしいんだけどさ、あとで他のみんなとも相談しておいてほしいんだけど、体育科の倉庫に残ってる残りの備品と使えるかなんだけど、調べてみたら……」

 止まらないおしゃべりに、今度はあたしの方がどうしていいのか分からなくなってしまった。

「でね、俺はこっちもいいと思うんだけど、ももはどう思う? いや、もものしたいようにやってもらって全然いいんだけど。例えばね、こんなのもあって……」

「細木先生。もうその辺にしといたら」

 職員室で美顔器をコロコロ顔に当てている堀川が、割り込んできた。

「ふふ。全く。小田っち2号の完成だ」

「小田っち2号?」

 堀川はコロコロで細木を指さす。

「ずっと我慢してたのは知ってるけど、あんまり構い過ぎるとまた嫌がられるよ」

「えっ」

 そう言われた細木の顔は、みるみる青ざめてゆく。

「そ、そ……。んなことは……。あ、イヤ、何でもない」

 途端に大人しくなって横を向いた細木に、あたしはため息をつく。

「別にもう嫌いになんかならないよ。この書類は持っていくね。学校の掲示板、あれでよかった?」

 スマホを操作する。

事前に細木にチェックしてもらっていた、電子掲示板の画面を開いた。

「あぁ、いいよ。とってもよく出来てた。ももはこういうのも上手だったんだね。びっくりした。凄いよ」

「ならアップしとくね」

 あたしは細木と堀川を振り返る。

「じゃ、放課後ね。時間があったら来て」

 教室に戻って、一応は書類に目を通す。

グループメッセージで細木ともやりとりしてたから、まぁそのまんまだ。

何度も修正を加えたそれを、「公開」に設定した。

放課後になって、待ち構えていた桃たちと合流する。

「さっそくアップしてたね。見たよ」

 桃が笑った。

「細木からもらったか? ももがやると後で直すのが面倒くさいから、俺がやる」

 浦島はあたしから書類を奪いとる。

「お疲れさま。ようやくこれからが、本当の本番だね」

 金太郎の優雅に微笑む仕草に、あたしはニッと笑顔で返す。

「そうだよ。忙しくなると思うけど、みんなよろしくね」

 新しく借りた教室に、あたしたちは集まっていた。

「で、どうするの?」

 いっちーは頭を悩ませている。

「『鬼退治』ってのを、他の表現に変えるってことでしょ。鬼退治って、そもそもなに?」

 『鬼退治部』は廃部になったけど、あたしたちは廃部にはしなかった。

『鬼退治』という名称を変更して、新しい部を作ることにしたのだ。

それを皆で考えてる。

「じゃ、これでいいね」

 あたしは細木の残した最後の空欄に、その名前を書いた。

まだ正式認定されたわけじゃないから、(仮)だけど。

教室の扉が開いた。

「三年でも入部出来るって、本当?」

 中くらいのだ。

その後ろには丸いのと細いのもいる。

「俺たちさ、前の学校で部活入ってたんだけど、転校したからね。このまま卒業するのもさみしいなーと思ってて」

 その後ろからも、数人の女の子たちの姿が見えた。

「私たちもいいのかな」

「もちろん! 大歓迎だよ!」

 よかった。本当によかった。

気がつけば、入部希望者は一年だけじゃない。

あふれかえったにぎやかな教室の中で、あたしはうれしくなる。

中くらいのが近づいてきた。

「花田……な、ところでさ。お前、俺たちの名前ちゃんと覚えてる?」

「え? えぇっと……」

 ちらりと横を見る。

助けを求めたいっちーは、ただただ呆れた顔をした。

さーちゃんはニヤニヤとこっちを見ていて、キジは桃たちのところへ逃げ去る。

「わ、分かってるよ。同じクラスなんだもん」

 その中くらいのと目を合わせるけど、次の言葉なんて出てこない。

数少ない男子生徒だ。

もちろん覚えて……。

「俺は門馬」

 中くらいのが言った。

「で、こっちが五島で、こいつは石川」

「あはは、もちろん知ってたさ! 覚えてるっつーの」

 丸っこい五島くんはにこにこ笑って、細っこい石川くんはぺこりと頭を下げた。

「これからよろしく」

 プイと横を向いた中くらいの横顔は、少し赤らんでいるようにも見えた。

「学祭のときに、お前らを見たんだ。模擬戦してるとこ」

 中くらいの門馬が言った。

「俺たちも一緒に来てたんだよ」

「かっこよかった」

 丸い五島と細い石川も、そんなことを言う。

「おーい、もも! 入部届追加でもらってきて」

「了解!」

 あたしは教室を飛び出した。

階段を駆け下りる。

放課後の学校ほど、楽しい場所なんてない。

生徒会室では、はーちゃんとしーちゃんも引き継ぎの真っ最中だった。

入部届を受け取る。

「そんないっぱい入部希望者が来たんだ。よかったね」

「うん。あ、そうだ……」

 あたしは抱えていた小袋を差し出した。

「コレ、差し入れ。うちのママが焼いたクッキー」

「え? ももんちのケーキ屋さんの? いいの?」

「これから教室で、歓迎会するの。たくさん持って来てるから、大丈夫」

「ありがとう。みんなで食べるね」

 生徒会室を出て、急いで教室に戻る。

渡り廊下の向こう、フェンス越しにあの女の子の姿が見えた。

彼女はグッと親指を突き立てる。

『グッドラック。幸運を。君の歩む先に幸あれ』

あたしはそれに、同じように親指を突き出す。

もう少ししたら、細木と堀川、小田っちも教室に来るんだ。

あたしはもう、自分の気持ちに嘘をつかなくていい。

「みんなー! クッキー食べよう!」

 一緒に食べたそのクッキーは、甘い香りを辺りいっぱいに漂わせていた。




【完】
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