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第3話
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実際に仕事をするフロアは、地下と言っても現実の外光と連動させた、季節感重視、時間経過も天候も考慮に入れた照明設備が設置されているため、いわゆる地下感は全くない。
バーチャルな窓もついている。
私はたけるをマナーモードに切り替えてから、デスクの定位置に置いた。
前日までの作業内容を確認しながら、今日の仕事内容をチェックする。
個人の人格、健康、経歴、財産、趣味趣向など、人生のありとあらゆる全ての情報が、記録されている部署なのだ。
その人の全てが、ここにあると言っても過言ではない。
そのために、日々激しいハッキングの対象となり、かつ誤記入や、意図的な不正が後を絶たない。
これだけPP制度が世間に浸透した現在でも、いまだに根強い反対論者もいて、物理攻撃の爆破予告も後を絶たない。
私たちの仕事は、コンピューターがはじき出した不正疑惑の対象や、異常値を示すアカウントの可否を判断し、その原因を調査、解明することを主な業務としている。
毎日上がってくる何百という事案を、一つ一つ確認していくだけでも、気が滅入る。
AIが処理した報告事案に、ただただエンターキーを押し続けて、承認していればいいというだけの仕事ではないのだ。
「せんぱ~い、今日のお洋服、かわいいですぅ!」
後輩の萩野七海、二十二歳、独身、女性。
市川くんと同様、この年代の入社局員は、とても可愛らしくて素直でよい。
「ありがとう、七海ちゃんもかわいいね」
「うふふ、先輩の女子力も、今日は上がり気味じゃないんですか?」
職員専用のアプリをスマホで開けば、そんな情報も簡単に手に入る。
「あ、今日の明穂さん、ストレス値日常平均よりやや高めですけど、ファッションと睡眠係数良好で、全体1756ポイントですよ」
「1800切ってるじゃない」
「でも、1700越えてるから、上位三十%には入ってるじゃないですか」
「あんまりうれしくないな」
「私もチェックしてみよー、あ、なによこれ1600代じゃない、やだなんで?」
七海ちゃんは、スマホをいじりながらどこかへ立ち去ってしまった。
いつも思うんだけど、あの子、ここへ何しに来てるんだろう。
今日は仕事する気ないのかな。
純粋に天然っぽい市山くんと比べて、七海には養殖疑惑がある。
つまり、可愛さを演技しているのではないかということだ。
ぼんやりしているようで、シメるところは、しっかりシメる。
小柄な体格に、肩までのやわらかな印象のふんわりとした茶色い髪と巨乳、抜け目のない、ある意味完璧な女子だ。
しっかりと作り込まれた外見に、全くのスキがない。
まさに女子の鏡。
女子オブ女子だ。
まぁいいや。
彼女はそれでも自分のやるべき仕事はいつもしっかりこなしている。
私は自分のやるべきことをちゃんとしよう。
淹れたてのコーヒーをすすりながら、メインコンピューターによって振り分けられた、本日のチェックリストを淡々と処理してゆく。
仕事の割り振りは、与えられた日課と長期目標を、スケジュール通りにこなしていけばいいので、出退勤時間も休憩も、基本自由に設定できる仕組みだ。
「今日もはりきってるね、そんなに仕事急いで、午後から何すんの?」
私の肩にがっつり腕をのっけて、のぞきこんできたのは、米坂さくら、二十七歳、独身、女性。
私の唯一の同僚女性だ。
「うーん、最近肌の張りがちょっと気になって。パーソナルメンテに行って、アドバイスとエステ受けてこようかなと思って」
「あんたさぁ、まだ見栄張って食事プログラム続けてんの?」
「努力は必要でしょ」
肩にのった手を払いのけ、振り向きざまにキッとにらむ。
だが、そんなことくらいで、ひるむ彼女ではない。
「早めに身分相応にしておかないと、パーソナルポイントの回復力が衰えちゃうよー」
さくらは笑いながら自分の席についた。
素知らぬ顔で、でも自分はしっかりとフルーツジュースを飲みながら、仕事を始めている。
口は悪いが、根は優しい親友。
とにかくアグレッシブで、外のことにしか興味がない。
さくらなんかに言われなくても、分かってるよ!
その栄養管理の変更とポイント回復のための診断プログラムに、今日は参加しに行くんだもんね。
予約も入れたし、今日は何があっても、早く仕事を終わらせないと。
昼食は社内食堂のAIが作成した、管理システムお勧めのランチ。
設定してある目標体重がやや厳しめのせいか、提供される食事の総カロリーが控えめなので、ついつい間食をしてしまう。
それが原因でさらにカロリー減の食事内容を提示され、文句の一つも言いたくなるけど、言ったところで相手は機械。
『設定を変更しますか?』
『保健省の提案するBMIの、上限を超える可能性がありますが、よろしいですか?』
なんて、お決まりのセリフで返ってくるだけ。
ため息をついて、出された食事と同じカロリーくらいのおやつを食べている。
プログラムに内緒にしておきたくても、購入履歴と血糖値でバレるから、不可能なんだよね。
てゆーか、自分の今の仕事が、そんなどうしようもない毎日の管理から逃れたかったり、誤魔化そうとしてるアカウントとの戦いなんだから、それこそどうしようもない。
そう、これは、人類の平和と繁栄と美容と健康のためでもあるのだ。
冗談抜きで。
バーチャルな窓もついている。
私はたけるをマナーモードに切り替えてから、デスクの定位置に置いた。
前日までの作業内容を確認しながら、今日の仕事内容をチェックする。
個人の人格、健康、経歴、財産、趣味趣向など、人生のありとあらゆる全ての情報が、記録されている部署なのだ。
その人の全てが、ここにあると言っても過言ではない。
そのために、日々激しいハッキングの対象となり、かつ誤記入や、意図的な不正が後を絶たない。
これだけPP制度が世間に浸透した現在でも、いまだに根強い反対論者もいて、物理攻撃の爆破予告も後を絶たない。
私たちの仕事は、コンピューターがはじき出した不正疑惑の対象や、異常値を示すアカウントの可否を判断し、その原因を調査、解明することを主な業務としている。
毎日上がってくる何百という事案を、一つ一つ確認していくだけでも、気が滅入る。
AIが処理した報告事案に、ただただエンターキーを押し続けて、承認していればいいというだけの仕事ではないのだ。
「せんぱ~い、今日のお洋服、かわいいですぅ!」
後輩の萩野七海、二十二歳、独身、女性。
市川くんと同様、この年代の入社局員は、とても可愛らしくて素直でよい。
「ありがとう、七海ちゃんもかわいいね」
「うふふ、先輩の女子力も、今日は上がり気味じゃないんですか?」
職員専用のアプリをスマホで開けば、そんな情報も簡単に手に入る。
「あ、今日の明穂さん、ストレス値日常平均よりやや高めですけど、ファッションと睡眠係数良好で、全体1756ポイントですよ」
「1800切ってるじゃない」
「でも、1700越えてるから、上位三十%には入ってるじゃないですか」
「あんまりうれしくないな」
「私もチェックしてみよー、あ、なによこれ1600代じゃない、やだなんで?」
七海ちゃんは、スマホをいじりながらどこかへ立ち去ってしまった。
いつも思うんだけど、あの子、ここへ何しに来てるんだろう。
今日は仕事する気ないのかな。
純粋に天然っぽい市山くんと比べて、七海には養殖疑惑がある。
つまり、可愛さを演技しているのではないかということだ。
ぼんやりしているようで、シメるところは、しっかりシメる。
小柄な体格に、肩までのやわらかな印象のふんわりとした茶色い髪と巨乳、抜け目のない、ある意味完璧な女子だ。
しっかりと作り込まれた外見に、全くのスキがない。
まさに女子の鏡。
女子オブ女子だ。
まぁいいや。
彼女はそれでも自分のやるべき仕事はいつもしっかりこなしている。
私は自分のやるべきことをちゃんとしよう。
淹れたてのコーヒーをすすりながら、メインコンピューターによって振り分けられた、本日のチェックリストを淡々と処理してゆく。
仕事の割り振りは、与えられた日課と長期目標を、スケジュール通りにこなしていけばいいので、出退勤時間も休憩も、基本自由に設定できる仕組みだ。
「今日もはりきってるね、そんなに仕事急いで、午後から何すんの?」
私の肩にがっつり腕をのっけて、のぞきこんできたのは、米坂さくら、二十七歳、独身、女性。
私の唯一の同僚女性だ。
「うーん、最近肌の張りがちょっと気になって。パーソナルメンテに行って、アドバイスとエステ受けてこようかなと思って」
「あんたさぁ、まだ見栄張って食事プログラム続けてんの?」
「努力は必要でしょ」
肩にのった手を払いのけ、振り向きざまにキッとにらむ。
だが、そんなことくらいで、ひるむ彼女ではない。
「早めに身分相応にしておかないと、パーソナルポイントの回復力が衰えちゃうよー」
さくらは笑いながら自分の席についた。
素知らぬ顔で、でも自分はしっかりとフルーツジュースを飲みながら、仕事を始めている。
口は悪いが、根は優しい親友。
とにかくアグレッシブで、外のことにしか興味がない。
さくらなんかに言われなくても、分かってるよ!
その栄養管理の変更とポイント回復のための診断プログラムに、今日は参加しに行くんだもんね。
予約も入れたし、今日は何があっても、早く仕事を終わらせないと。
昼食は社内食堂のAIが作成した、管理システムお勧めのランチ。
設定してある目標体重がやや厳しめのせいか、提供される食事の総カロリーが控えめなので、ついつい間食をしてしまう。
それが原因でさらにカロリー減の食事内容を提示され、文句の一つも言いたくなるけど、言ったところで相手は機械。
『設定を変更しますか?』
『保健省の提案するBMIの、上限を超える可能性がありますが、よろしいですか?』
なんて、お決まりのセリフで返ってくるだけ。
ため息をついて、出された食事と同じカロリーくらいのおやつを食べている。
プログラムに内緒にしておきたくても、購入履歴と血糖値でバレるから、不可能なんだよね。
てゆーか、自分の今の仕事が、そんなどうしようもない毎日の管理から逃れたかったり、誤魔化そうとしてるアカウントとの戦いなんだから、それこそどうしようもない。
そう、これは、人類の平和と繁栄と美容と健康のためでもあるのだ。
冗談抜きで。
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