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第5話
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「奇跡じゃない、必然だ。だからこそ俺は反対したんだ。こうなることが分かっていたから」
そんな浜岡さんを前にしても、横田さんは決して変わらない。
ホルモンバランス、食事内容、著しい筋力と気力の低下。
行動パターンと思考の劇的な変調と、感情コントロール不全。
「彼女には大きな欠点があった。病歴だ。彼女の持つ遺伝子には、重大な欠陥があった。発症率も高く、予後も悪い」
「それでも、俺は構わないと思ったんだ。医療技術にかけたんじゃない、彼女との、幸せな人生を、ただ送りたかっただけなんだ」
「希望通りの人生を、送ったじゃないか」
「あぁ、そうだよ」
浜岡さんの声色が、涙でにじむ。
彼はとても優しくて、あたたかい人だった。
「俺は、彼女に生きていてよかったと、思ってほしかった。遺伝子に問題があっても、生まれてくる価値を教えたかった。そして何よりも、彼女と過ごした日々が、俺にとって人生最良の日々だった」
「君は、彼女を幸せに看取った」
これら、すべての数値が低下していることと、欠勤状態が長く続いたため、局員同士との関わりが低下。
一日のうちで、その人がある人物と交流した時間割る二十四時間で計算する交流率から計算される親密度が下がったために、組織内でのチームワーク指数を著しく低下させてしまった。
もう、局内には残れない。
「事前に予測出来た、当然の結果だ」
「そうだな、彼女を幸せに看取ることが、俺にとっての幸せだった。人生の目的を失った今、仕事に身が入らないのも事実だ」
「以上の結果から、解雇を宣言しなくてはならないが……、分かってくれるか」
「あぁ」
本来の労働者保護基準監督新法の基準から判断すると、最後の横田さんのセリフは規定外となり、裁判になれば正式な解雇は認められないだろう。
普段ならば、彼には絶対にしないミスだ。
そこを問いただせば、今回の面談は無効だと、浜岡さんにも分かっているはず。
だけど、彼は笑った。
かつての同僚の気持ちを推し量った言葉に、素直にうなずいた。
「今までありがとう。ここで働けて、楽しかったよ」
「退職の手続きと残りの給与に関しては、後日人事部から連絡がある」
「分かった」
最後に、二人が固く握手をする姿が見られてよかった。
横田さんはずっと、この人のことを気にかけていた。
「カウンセリングと、更正プログラムに参加しているみたいだな」
「更正って言うなよ、俺にとっては、生まれ変わるみたいなもんだ」
「生まれ変わりは、ない」
そう言い放った横田さんに、浜岡さんはまた笑った。
「俺は、自分のような境遇の人間をサポートする事業に回るよ。今の、そしてこれからの俺の人生にとって、最良の選択をするつもりだ」
「確かに、お前なら向いているし、それが出来るだろう」
「挨拶はしない、みんなによろしく伝えておいてくれ」
「分かった」
笑顔で社屋を後にした浜岡さんを見送って、この問題は終了した。
そうか。
横田さんは、ここを去る浜岡さんに、最後に会いたかったんだ。
「いい世の中になったな」
「そうですね」
私たちは、彼を見送りに出た。
日の当たる、緑の芝生に続く小道を、ゆっくりと下っていく彼の後ろ姿は、確かに輝きを取り戻していた。
「生存に必要な福祉は全てまかなわれ、生活に必要不可欠な生産工程は、産業ロボットによって、調整されている」
「ヒトは生まれてきたら……」
「自分の生きる目的のために、生きればいいんだ」
横田さんと目が合った。
この人と、何のわだかまりもなく笑顔を交わせるのも、珍しいことかも。
「さぁ、戻って仕事だ。俺たちは、そんな生活を守るための、基礎情報を守っているんだ」
「はい!」
緑豊かな敷地と、白く輝く社屋。
その地下には、私たちの人生を決定する大切な情報が、今もうごめいている。
そんな浜岡さんを前にしても、横田さんは決して変わらない。
ホルモンバランス、食事内容、著しい筋力と気力の低下。
行動パターンと思考の劇的な変調と、感情コントロール不全。
「彼女には大きな欠点があった。病歴だ。彼女の持つ遺伝子には、重大な欠陥があった。発症率も高く、予後も悪い」
「それでも、俺は構わないと思ったんだ。医療技術にかけたんじゃない、彼女との、幸せな人生を、ただ送りたかっただけなんだ」
「希望通りの人生を、送ったじゃないか」
「あぁ、そうだよ」
浜岡さんの声色が、涙でにじむ。
彼はとても優しくて、あたたかい人だった。
「俺は、彼女に生きていてよかったと、思ってほしかった。遺伝子に問題があっても、生まれてくる価値を教えたかった。そして何よりも、彼女と過ごした日々が、俺にとって人生最良の日々だった」
「君は、彼女を幸せに看取った」
これら、すべての数値が低下していることと、欠勤状態が長く続いたため、局員同士との関わりが低下。
一日のうちで、その人がある人物と交流した時間割る二十四時間で計算する交流率から計算される親密度が下がったために、組織内でのチームワーク指数を著しく低下させてしまった。
もう、局内には残れない。
「事前に予測出来た、当然の結果だ」
「そうだな、彼女を幸せに看取ることが、俺にとっての幸せだった。人生の目的を失った今、仕事に身が入らないのも事実だ」
「以上の結果から、解雇を宣言しなくてはならないが……、分かってくれるか」
「あぁ」
本来の労働者保護基準監督新法の基準から判断すると、最後の横田さんのセリフは規定外となり、裁判になれば正式な解雇は認められないだろう。
普段ならば、彼には絶対にしないミスだ。
そこを問いただせば、今回の面談は無効だと、浜岡さんにも分かっているはず。
だけど、彼は笑った。
かつての同僚の気持ちを推し量った言葉に、素直にうなずいた。
「今までありがとう。ここで働けて、楽しかったよ」
「退職の手続きと残りの給与に関しては、後日人事部から連絡がある」
「分かった」
最後に、二人が固く握手をする姿が見られてよかった。
横田さんはずっと、この人のことを気にかけていた。
「カウンセリングと、更正プログラムに参加しているみたいだな」
「更正って言うなよ、俺にとっては、生まれ変わるみたいなもんだ」
「生まれ変わりは、ない」
そう言い放った横田さんに、浜岡さんはまた笑った。
「俺は、自分のような境遇の人間をサポートする事業に回るよ。今の、そしてこれからの俺の人生にとって、最良の選択をするつもりだ」
「確かに、お前なら向いているし、それが出来るだろう」
「挨拶はしない、みんなによろしく伝えておいてくれ」
「分かった」
笑顔で社屋を後にした浜岡さんを見送って、この問題は終了した。
そうか。
横田さんは、ここを去る浜岡さんに、最後に会いたかったんだ。
「いい世の中になったな」
「そうですね」
私たちは、彼を見送りに出た。
日の当たる、緑の芝生に続く小道を、ゆっくりと下っていく彼の後ろ姿は、確かに輝きを取り戻していた。
「生存に必要な福祉は全てまかなわれ、生活に必要不可欠な生産工程は、産業ロボットによって、調整されている」
「ヒトは生まれてきたら……」
「自分の生きる目的のために、生きればいいんだ」
横田さんと目が合った。
この人と、何のわだかまりもなく笑顔を交わせるのも、珍しいことかも。
「さぁ、戻って仕事だ。俺たちは、そんな生活を守るための、基礎情報を守っているんだ」
「はい!」
緑豊かな敷地と、白く輝く社屋。
その地下には、私たちの人生を決定する大切な情報が、今もうごめいている。
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