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第19話
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1800ポイント交流会も終わって気の抜けた私は、またPPが1600代落ちしていた。
思わず出てしまうため息と一緒に、職場のデスクに額を乗せる。
「あら、どうしたの?」
いつだって2000越えの芹奈さんは、もはや敵とかライバルなんていう存在の人じゃない。
正直に自分の気持ちを告白しても、全く問題のない相手だ。
「もう、PPの上がったり下がったりに一喜一憂するの、面倒くさくなってきました」
「どうして? それが楽しくて、市山くんと一緒にハイジアでプログラムを受けてたんじゃないの?」
「PPのためじゃないですよ、1800の会に行くためです」
「同じことじゃない」
彼女は笑う。
「違います! 私が1800の会に行きたいのは、平和でのどかな人たちの間で、のんびり過ごしてリフレッシュしたいからなんです」
「あら、それはずいぶんと苦しいいいわけね。あなたの過去のことは別にしても、出会いは求めてないの?」
そう言われると、返事に困る。
「まぁ、ある意味、出会いは求めてますけど」
「少子化対策の意味もあるからね、交流会に出席してないと、あからさまにPP下げてくる政府の計算方法も、どうかとは思うけど」
彼女はため息をついた。
「既婚者、子持ちの方が優遇されてるなんて、PPの真価を疑われても、仕方ないわよね。アルゴリズム制作者側の正義が反映されているって、反対論者や不安論者、危機感を煽る人間に、つけ込まれる最たる由縁だわ」
そういえばこの人は、交流会のとき横田さんと話しこんでたな。
「だから芹奈さんは交流会に参加してるんですか? PP維持のため?」
「PPを上げることなんて、簡単なことよ」
彼女はパソコン画面を見ながら、業務を続けている。
「そうなんですか?」
「もちろん、下げるのも簡単だけど」
私は芹奈さんを見上げた。
くるりと椅子を反転させて、彼女はにっとした笑顔を見せる。
「よかったら、コツを教えてあげましょうか」
日々変動するPP値に翻弄される毎日だ。
合法的に数値が維持できるのならば、そんなありがたいことは他にない。
ゴクリとつばを飲み込んだ私がうなずくと、芹奈さんは早速、自分のタブレットを取り出した。
「PPの計算に、必要な要素ってのがあるじゃない?」
「はい……」
PPの算出方法は多岐にわたり、その計算式と計算方法は、極秘分野とされている。
一部は公開されているが、本当のところは、私たちですら知らされていない。
「身体的分野は、まぁ毎日の測定値の、平均、変動の幅を見ながら算出されているし、医学的に正解である検査項目の基準値があるから、それだけでPPを上げることは難しいわ」
芹奈さんは、にこっと笑った。
「あなたに健康上の問題があるのなら、話しは別だけど」
「体は健康です」
「なら大丈夫ね。その日の測定値が、そのまま反映値よ」
芹奈さんの、血圧、脈拍、血糖値、ホルモンバランス、CRP等々は、全て正常値だ。
「だけど、PPって、それだけじゃないじゃない?」
購入履歴、行動範囲、ネットの検索履歴……。
「いわゆる、質的データってやつよね、量的データと違って、足したり引いたりすることに、意味のないデータ」
膨大に集められたそのデータは、たとえば本の購入履歴であれば、購入した本のジャンルことにカテゴライズされて、度数分布表として管理されている。
「それってさ、どうやってPP計算の数値に反映されているの?」
芹奈さんは、オンラインのブックサイトを開いた。
そこに表示される今週のオススメ、売れ行きランキングのトップに上がっている上位十冊の電子書籍を、順番にタップしていく。
購入された本は、そのまま度数として加算された。
「これで、知識欲に分類される外的志向性の項目が上がったわ。でも、それだけじゃないわよね」
「流行に敏感かどうかの、感度もあがりますね」
「そう。だけど、それだと流行だけを追いかけてる人間のようにみえるから……」
芹奈さんは、人気ランキングのページをめくり、20~30代の書籍売り上げランキングの一冊をタップ、50~60位でまたタップ、90~99位までの書籍を、数回タップした。
「これで、データにばらつきのない、平均的な人間のできあがりよ」
彼女は次に、マッチングのページを開く。
「この度数分布表のなかの、最頻値を元にマッチングが行われる」
読書傾向に関する彼女との相性は、私と58%、横田さんとは、67%。
「平均的な人間であることは、よほど相手が特異的な傾向を示す人間でないかぎり、誰とマッチングしても、ほぼ50%に近い値を示すように出来ているわ」
彼女の対人関係項目、コミュニケーションの能力を示す基本係数が、『4』になっている。
これは、コミュニケーション能力の偏差値、50~60の人間につけられる係数だ。
その係数にカテゴライズされる数値が、計算値として加算される。
「データの数が多ければ多いほど、より正規分布に近づくとすれば、平均的な人間であることが、よりオールマイティで有利な状態になるってことは、理解できるわよね」
芹奈さんは淡々と続ける。
思わず出てしまうため息と一緒に、職場のデスクに額を乗せる。
「あら、どうしたの?」
いつだって2000越えの芹奈さんは、もはや敵とかライバルなんていう存在の人じゃない。
正直に自分の気持ちを告白しても、全く問題のない相手だ。
「もう、PPの上がったり下がったりに一喜一憂するの、面倒くさくなってきました」
「どうして? それが楽しくて、市山くんと一緒にハイジアでプログラムを受けてたんじゃないの?」
「PPのためじゃないですよ、1800の会に行くためです」
「同じことじゃない」
彼女は笑う。
「違います! 私が1800の会に行きたいのは、平和でのどかな人たちの間で、のんびり過ごしてリフレッシュしたいからなんです」
「あら、それはずいぶんと苦しいいいわけね。あなたの過去のことは別にしても、出会いは求めてないの?」
そう言われると、返事に困る。
「まぁ、ある意味、出会いは求めてますけど」
「少子化対策の意味もあるからね、交流会に出席してないと、あからさまにPP下げてくる政府の計算方法も、どうかとは思うけど」
彼女はため息をついた。
「既婚者、子持ちの方が優遇されてるなんて、PPの真価を疑われても、仕方ないわよね。アルゴリズム制作者側の正義が反映されているって、反対論者や不安論者、危機感を煽る人間に、つけ込まれる最たる由縁だわ」
そういえばこの人は、交流会のとき横田さんと話しこんでたな。
「だから芹奈さんは交流会に参加してるんですか? PP維持のため?」
「PPを上げることなんて、簡単なことよ」
彼女はパソコン画面を見ながら、業務を続けている。
「そうなんですか?」
「もちろん、下げるのも簡単だけど」
私は芹奈さんを見上げた。
くるりと椅子を反転させて、彼女はにっとした笑顔を見せる。
「よかったら、コツを教えてあげましょうか」
日々変動するPP値に翻弄される毎日だ。
合法的に数値が維持できるのならば、そんなありがたいことは他にない。
ゴクリとつばを飲み込んだ私がうなずくと、芹奈さんは早速、自分のタブレットを取り出した。
「PPの計算に、必要な要素ってのがあるじゃない?」
「はい……」
PPの算出方法は多岐にわたり、その計算式と計算方法は、極秘分野とされている。
一部は公開されているが、本当のところは、私たちですら知らされていない。
「身体的分野は、まぁ毎日の測定値の、平均、変動の幅を見ながら算出されているし、医学的に正解である検査項目の基準値があるから、それだけでPPを上げることは難しいわ」
芹奈さんは、にこっと笑った。
「あなたに健康上の問題があるのなら、話しは別だけど」
「体は健康です」
「なら大丈夫ね。その日の測定値が、そのまま反映値よ」
芹奈さんの、血圧、脈拍、血糖値、ホルモンバランス、CRP等々は、全て正常値だ。
「だけど、PPって、それだけじゃないじゃない?」
購入履歴、行動範囲、ネットの検索履歴……。
「いわゆる、質的データってやつよね、量的データと違って、足したり引いたりすることに、意味のないデータ」
膨大に集められたそのデータは、たとえば本の購入履歴であれば、購入した本のジャンルことにカテゴライズされて、度数分布表として管理されている。
「それってさ、どうやってPP計算の数値に反映されているの?」
芹奈さんは、オンラインのブックサイトを開いた。
そこに表示される今週のオススメ、売れ行きランキングのトップに上がっている上位十冊の電子書籍を、順番にタップしていく。
購入された本は、そのまま度数として加算された。
「これで、知識欲に分類される外的志向性の項目が上がったわ。でも、それだけじゃないわよね」
「流行に敏感かどうかの、感度もあがりますね」
「そう。だけど、それだと流行だけを追いかけてる人間のようにみえるから……」
芹奈さんは、人気ランキングのページをめくり、20~30代の書籍売り上げランキングの一冊をタップ、50~60位でまたタップ、90~99位までの書籍を、数回タップした。
「これで、データにばらつきのない、平均的な人間のできあがりよ」
彼女は次に、マッチングのページを開く。
「この度数分布表のなかの、最頻値を元にマッチングが行われる」
読書傾向に関する彼女との相性は、私と58%、横田さんとは、67%。
「平均的な人間であることは、よほど相手が特異的な傾向を示す人間でないかぎり、誰とマッチングしても、ほぼ50%に近い値を示すように出来ているわ」
彼女の対人関係項目、コミュニケーションの能力を示す基本係数が、『4』になっている。
これは、コミュニケーション能力の偏差値、50~60の人間につけられる係数だ。
その係数にカテゴライズされる数値が、計算値として加算される。
「データの数が多ければ多いほど、より正規分布に近づくとすれば、平均的な人間であることが、よりオールマイティで有利な状態になるってことは、理解できるわよね」
芹奈さんは淡々と続ける。
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