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第6章
第2話
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「悪いけど、とって」
俺は奥川のスカートに、コツンと手の甲をぶつける。
そうすると奥川は、何のためらいもなく俺の腰の横に手をあてると、絡んだ金属のチェーンと糸をほどき始めた。
鍵束を持つ俺の手と彼女の指先が触れあう。
なんだが1年のみんなが見ている前で、こんなことをするのはちょっと恥ずかしい。
俺は耳まで赤くなりそうなのに、こいつは平気なのかな?
ここから見える前髪と鼻先は、白いままだ。
「なにをこんなにジャラジャラつけてんのよ」
「え? 家の鍵とか、ロッカーの鍵とか」
「どれ?」
「あ、その猫のやつ。前にお前がくれたストラップ」
小学校の時の、何かのお土産だった。
すっかり色も落ち黒ずんでいるそれを、俺は自分の自転車の鍵から、理科室の鍵に付け替えた。
「そうだったっけ」
彼女はその鍵を外すと、それを鹿島に向かって差し出した。
鈍い銀色の鍵と小さな子猫が、彼女の手から鹿島に移る。
「後で私か、部長に返して」
「はい」
その時の鹿島の頬は、俺よりも赤いような気がした。
照れたように恥ずかしげに、奥川の手から受け取ったそれを握りしめると、彼はくるりと背を向ける。
仲間たちと立ち去る鹿島は、廊下の角に消えるまで一言も発しないままだった。
その背中がなぜかやたらと縮こまって見えたのは、なんでだろう。
「あーあ、誤解されたかも」
「なにが?」
奥川のキュッとした目が、俺を見上げる。
「別に」
彼女の足が速まる。
「なんの誤解? ねぇ、誤解ってなに?」
「てゆーか、話しってなに? もう話すこと何にもないよね。最初から特に何もなかったけど!」
俺は何も間違ったことはしていないし、怒らせるようなことも、何もしていないはずだ。
最近の彼女はとても怒りっぽい。
すぐに不機嫌になったり、黙ったりして、俺を混乱させる。
何がダメだった?
今のでダメなところがあるとしたら、ポケットの絡んだ糸くずだけだ。
彼女は階段の角を曲がると、上に向かって上り始めた。
入部するとか言ってたくせに、やっぱり生徒会室に向かうのか。
まぁ、今日は委員会の日だし、そこは理解するけど。
生徒会室は、俺が向かうべき理科室より上の階にある。
ついていっても仕方ないのは分かっているけど、だけどこのまま彼女を放っておくわけにもいかないし、すぐに鹿島たちのいる理科室に戻るのもしゃくに障る。
「鹿島って1年も、案外気が利かないっていうか、空気読めないタイプだよな」
そう言って軽く笑ってみたけど、先を急ぐ彼女からの反応は、何もない。
くそ、俺にどうしろっていうんだ。
そうでなくてもイラついているのに、生徒会室のドアを開けたら、真っ先に庭木の顔が目について、余計にイラついた。
「部外者は入室禁止!」
ここへ来ると、いつも庭木はそうやって怒鳴っている。
別にそれは俺だけじゃなくって、他の誰かに対しても、だ。
何様のつもりなんだか知らないが、とにかくうっとうしい。
俺は奥川のスカートに、コツンと手の甲をぶつける。
そうすると奥川は、何のためらいもなく俺の腰の横に手をあてると、絡んだ金属のチェーンと糸をほどき始めた。
鍵束を持つ俺の手と彼女の指先が触れあう。
なんだが1年のみんなが見ている前で、こんなことをするのはちょっと恥ずかしい。
俺は耳まで赤くなりそうなのに、こいつは平気なのかな?
ここから見える前髪と鼻先は、白いままだ。
「なにをこんなにジャラジャラつけてんのよ」
「え? 家の鍵とか、ロッカーの鍵とか」
「どれ?」
「あ、その猫のやつ。前にお前がくれたストラップ」
小学校の時の、何かのお土産だった。
すっかり色も落ち黒ずんでいるそれを、俺は自分の自転車の鍵から、理科室の鍵に付け替えた。
「そうだったっけ」
彼女はその鍵を外すと、それを鹿島に向かって差し出した。
鈍い銀色の鍵と小さな子猫が、彼女の手から鹿島に移る。
「後で私か、部長に返して」
「はい」
その時の鹿島の頬は、俺よりも赤いような気がした。
照れたように恥ずかしげに、奥川の手から受け取ったそれを握りしめると、彼はくるりと背を向ける。
仲間たちと立ち去る鹿島は、廊下の角に消えるまで一言も発しないままだった。
その背中がなぜかやたらと縮こまって見えたのは、なんでだろう。
「あーあ、誤解されたかも」
「なにが?」
奥川のキュッとした目が、俺を見上げる。
「別に」
彼女の足が速まる。
「なんの誤解? ねぇ、誤解ってなに?」
「てゆーか、話しってなに? もう話すこと何にもないよね。最初から特に何もなかったけど!」
俺は何も間違ったことはしていないし、怒らせるようなことも、何もしていないはずだ。
最近の彼女はとても怒りっぽい。
すぐに不機嫌になったり、黙ったりして、俺を混乱させる。
何がダメだった?
今のでダメなところがあるとしたら、ポケットの絡んだ糸くずだけだ。
彼女は階段の角を曲がると、上に向かって上り始めた。
入部するとか言ってたくせに、やっぱり生徒会室に向かうのか。
まぁ、今日は委員会の日だし、そこは理解するけど。
生徒会室は、俺が向かうべき理科室より上の階にある。
ついていっても仕方ないのは分かっているけど、だけどこのまま彼女を放っておくわけにもいかないし、すぐに鹿島たちのいる理科室に戻るのもしゃくに障る。
「鹿島って1年も、案外気が利かないっていうか、空気読めないタイプだよな」
そう言って軽く笑ってみたけど、先を急ぐ彼女からの反応は、何もない。
くそ、俺にどうしろっていうんだ。
そうでなくてもイラついているのに、生徒会室のドアを開けたら、真っ先に庭木の顔が目について、余計にイラついた。
「部外者は入室禁止!」
ここへ来ると、いつも庭木はそうやって怒鳴っている。
別にそれは俺だけじゃなくって、他の誰かに対しても、だ。
何様のつもりなんだか知らないが、とにかくうっとうしい。
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