呪われ姫と悪い魔法使い

岡智 みみか

文字の大きさ
5 / 31
第1章

第5話

しおりを挟む
「カイルが、グレグの使いっていうのは、本当なの?」

「あぁ、本当だ。呪いを受けたウィンフレッドが、どんな姫なのか様子を見てこいと言われて、やってきた」

 彼はこちらを警戒しながらも、赤い琥珀色の髪と目をした私を、まっすぐにじっと見ている。

「あなたもグレグに捕まっているの?」

「は? どういうことだ」

「使いって、あなたもどこかの国でグレグにさらわれて、カラスにされちゃったとか?」

「え? ちょっと話が見えない。どういうこと?」

「だから、カイルも私のようにグレグに魔法をかけられて、逃げられないまま使われてるとか?」

 彼は一瞬、きょとんとした顔を見せたかと思ったとたん、お腹を抱えて笑い始めた。

「あはははは! 誰がそんなヘマするかよ。俺は奴に直接頼み込んで弟子にしてもらったんだ。なにせグレグさまは、世界一の魔法使いだからな」

 彼はその美しい顔に、ニヤリと得意気な笑みを浮かべる。

「弟子をとったの? あのグレグが? それでカイルは、彼と一緒にいるってこと?」

「あぁ、そうだ」

 カイルは上機嫌で、フンと鼻を鳴らした。
グレグの呪いのことを知ってから、その大魔法使いについて書かれたありとあらゆる書物をかき集め、徹底的に調べあげた。
遙か昔から生きていて、いまいくつなのか誰も知らないこと。
あらゆる魔法に長けていて、変幻自在に姿かたちを変え、どこへでも自由に飛んで行けること。
人嫌いで、権力や支配に興味がなく、常にどこかに身を隠し、誰も彼の居場所を知らない等々……。

「グレグはいま、どこにいるの?」

「フッ。そんなこと、教えられるワケないだろう」

「弟子がいるだなんて、聞いたことなかったわ」

「そうだろうな。俺だってまだ、そうと認められてはないんだから」

「ちょっと待って。じゃあカイルが、勝手に弟子を名乗ってるってこと?」

「それは違う。そうじゃない」

 彼の身分を疑い始めた私に、カイルは一生懸命次の言葉を探していた。

「そ、そうじゃなくて……。その、なんて言うか、弟子として認めてもらうための初仕事が、お前の偵察だったってこと」

「それなら、もう失敗してるじゃない」

「失敗ではない! これからお前のことを探って報告すれば、仕事をしたことになるだろう」

「それじゃあ、私に何のメリットもないわ」

「お前のメリットってなんだよ」

「呪いを解いてもらうこと」

 私はソファーに腰掛けたまま、グレグの使いだという窓枠に腰掛けた幼い少年を見上げた。

「グレグに伝えて。あなたの元へは行かない。ここに残って、父も母も兄たちも、この城にいるみんなのことも守る。どうしても私が欲しいのなら、直接顔を見せなさいって」

「お前なんかが、グレグに敵うわけないだろう」

「呪いを解くための条件を出せって言ってるのよ。問題解決のためには、交渉が必要でしょ」

「言いたいことはそれだけか?」

 私はもう一度、彼の蒼い目をしっかりと見据えた。

「私はグレグのものにはならない。ラドゥーヌ王家にかけられた呪いを解くための、条件を教えて」

「分かった。ではお前の言葉を、そのまま伝えておこう」

 彼は座っていた窓枠を掴むと、そのままそこに立ち上がり背を向けた。

「じゃあな、姫さま。またいつか会えるといいな」

 パッと大きなカラスに姿を変えると、彼は滑るように夜の闇の中へ飛び去ってゆく。
慌てて駆け寄った窓から身を乗り出すと、私はありったけの声で叫んだ。

「カイル! さっきの返事、ちゃんと持ってきなさいよ! 『またね』じゃなくて、ここで待ってるから! じゃないと絶対、許さないんだからね!」

 カラスは空高く舞い上がると、夜空に大きな円を描く。
彼はそのまま、明かりの消えた街の向こうへゆっくりと飛び去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...