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第2章
第3話
しおりを挟む『みんなが待ってる』と言ったわりには、もう食べ終わった食器が並んでいるだけだった。
俺がそこに腰を下ろすと、父は遠慮がちに「おはよう」と声をかけてくる。
仕事に出かける姉の洗面所で使うドライヤーの音が、茶の間にまで聞こえてきた。
「全く、カネかけて大学院にまで行ったって、なんの意味もないじゃない、引きこもりなんかされちゃったらさぁ。どんな大企業に就職するのか、楽しみだったのにぃー。ね、母さん!」
「美希、そんなこと言わないの!」
「聞こえるようにワザと言ってるに決まってるじゃない。ね、重人!」
ひょこっりと姉貴が顔をのぞかせる。
ここで文句を言うと話しが長くなるので、黙っておく。
慌ただしく仕事に出かけていく父と姉を見送る頃には、俺は用意されたみそ汁と白ご飯のほとんどを胃に流し込んでいた。
「ごちそうさま」
「今日もどこか出かけるの?」
「いや」
「そう。母さんはこれからパートに行くから」
「知ってるよ」
いつも何か言いたげな母と、遠慮がちな父と、一切の妥協なく自由奔放に生きている姉に、俺はいつも振り回されている。
「じゃ、出かけてくるわね。お留守番、よろしくね」
時折母の見せるその淋しそうな横顔だけが、唯一俺の決意を砕きにかかってくる。
「いってらっしゃい」
そんな母を玄関まで見送った。
「ニートか……」
しかしここで折れてしまえば、この数年の努力が無駄となり、姉の言葉は本当になってしまう。
警視庁公安部総務課から独立機関となったサイバー攻撃特別捜査隊。
そこに数年前から秘密裏に設置された極秘部隊、それが警視庁サイバー攻撃特別捜査対応専門機動部隊だ。
入隊希望者本人の身辺調査は厳密に行われ、家族にもその職務を知られてはならない。
だからこそニートとして社会的空白期間が必要なのであり、その間の言動も問われているのだ。
俺はニートだ。
だが、ただのニートではない。
これは世を忍ぶ仮の姿なのだ。
家族全員が出払ったのを見届けると、俺は自室に戻った。
届いたばかりのグロテスクな人形を手に取る。
その青い目をじっと見つめた。
この人形は、渡されたアニメに登場するキャラクターアイテムだ。
主人公を陰から支える案内役を務める。
アニメでは左目が赤のオッドアイだが、この人形の両眼は紺碧だ。
深紅であるはずの眼に指を押し当てる。
案の定、それはカチリと音を立てると、フッと浮き上がった。
引き抜かれた眼球の先には、USBが装着されている。
ウイルスチェック用に独立させてある検査用PCに接続する。
問題はない。
これはやはり、部隊から送られて来た何かのシステムなんだろうな。
だけど俺にはまだ、これが何の役割を果たすものなのかは分からなかった。
そのUSBを再び人形の眼に戻す。
改めて、2枚目のディスクから取り出したプログラムコードの設定に取りかかった。
脳が沸きだすほどの労力を費やしているうちに、ふいに画面上にマップが表示された。
これはプログラムが正常に作動し始めたという証だ。
「なんだ? ここに行けってことか」
写し出された画面に目をこらす。
家から歩いて数分の地点が、そこに示されていた。
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