Ut. Cold Heart -ユートピア コールドハート-

猫宮助六

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第一章 眩き光の銃刀

第11話 はじめて

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 シルバークロウ市の駅を目指して走る二人がいる。一人は一定の間隔で息を吸っては吐きを繰り返し足取りが軽い。もう一人は呼吸が乱れ足取りが重く、歩いているのと変わらない速度で走っている。二人の距離は大股で十歩くらい離れていた。
「ねーレオン、休憩しようよ」
「もう少しで駅ですよ。駅に着いたら少し休みましょう? 」
「駅着いたら事務所までまた走んなきゃいけないじゃん。 あたしもう疲れたー 」
案の定というべきか、今まで体力作りをしてこなかったであろう弊害が出ているのだ。ついには汗をダラダラと流し両膝に手を置いて止まってしまう始末だ。レオンはエリスから離れ過ぎない間隔で定期的に後ろの様子を伺いつつ走っていたが、エリスが足を止めたことによって中断せざるを得なくなった。
「無理をするのも良くないですし、今日はここまでにして戻りますか? 」
「うん、そうする。初日にこんな長距離走れる訳無いのよ 」
戻ると決めたエリスは疲れていながらもぶつくさと文句を垂れる。疲労でフニャフニャとした声では愚痴ももはやただのぼやきにしか聞こえない。エリスが事務所に戻るという事で、レオンもエリスについて行く事にした。
 通って来た道を戻って約三分、聞き覚えのある声に止められた。顔を上げるとそこには緑のミリタリージャケットを羽織った紫髪の青年が立っている。そう、ジャックだ。
「レオンくん奇遇っすね。そこの小娘は汗で滝が出来てやすが、散歩ではしゃぎ過ぎじゃねーすか? レオンくんから離れないとは言え、リードは着けた方が良いと思いやすよ、首輪と一緒に」
「誰が犬よ! 」
ジャックの言葉にキャンキャン吠える。今にも飛び掛かる勢いのエリスを横目に「ほらね」と鼻で嗤う。このジャックのいけ好かない態度に更に憤慨し殴り掛かろうとするが、レオンに後襟を掴まれ静止させられる。
「俺たちは体力作りの一環で走っていまして、今から事務所に帰るところなんです」
ジャックの発言には触れず簡単に状況を説明する。ジャックはレオンたちの状況には興味が無いらしく気の抜けた空返事で返す。
「なぁ小娘、お前の兄貴は今日はこっちに来てないのか? 」
「はぁ? なんでアンタに教えなきゃいけないのよ。それに兄妹だからって何でも把握してると思わないで。一人っ子に兄妹をいても分からないだろうけどね」
先程の仕返しか、厭味いやみったらしく答えるとジャックはクリスが付近にいないと察して残念そうに頭の後ろで手を組む。最初のエリスに対する発言はクリスを誘き出す為のものだったのだろうが、クリスがいないとなれば無意味な行為だ。
 レオンはふと近くにコブラが居ない事に気が付きジャックに傍にいなくていいのか訊く。その言葉を聞いてエリスも見渡すが、確かにコブラの姿は無い。つまり護衛役が単独行動を取っている状態なのだ。
「コブラさんは書類仕事で今日はずっと事務所なんでさぁ。事務所なら人の目はありやすし比較的安全なんで護衛も不要かと思いやして」
「いや職務怠慢しょくむたいまんじゃないですか。コブラさんが良いって言ってるならいいんですけど」
そんなレオンの指摘を待ってましたと言わんばかりに懐から一枚の紙を取り出しヒラヒラと見せびらかす。その紙には「中抜け申請書」と書かれている。ペン書きされた上司らしき人物のサインは不透明度八十パーセントくらいに薄くなっている。更に飛び散ったインクの跡が紙のあちこちにあることから、これがコピー機で印刷された写しであることが分かる。そもそも会社内の申請書類を原本で持ち歩く人はそうそういないだろう。
 三人で歩きながら話をしているとエリスが突然声を上げる。なんだなんだとエリスの方に顔を向けるのとほぼ同時に走り出して行く。その先にはレザールが居た。おもちゃ屋「Crowクロウ Toysトイズ」の前に立っている。レザールがそこにいるのは決まって武具関連で店主のブレインに用事がある時だ。エリスは嬉々としてレザールに飛びつく。汗だくの顔をコートになすり付ける様にグリグリと顔を押し付ける。
「あっ!? くっつくなエリス! つーか俺のコートで汗を拭くな! 」
突然の出来事に驚きながらも、レザールは右手で的確にエリスの頭を捉え、引き剥がそうと突っぱねる。ジャックはレオンに向けて「やっぱ犬じゃん」と再びエリスを鼻で嗤う。そんなジャックにレオンは呆れた様子で肩を竦める。
 レオンはエリスの両脇を抱えてレザールから引き剥がすと何事も無かったかのように訊ねる。
「ここで何をしていたんですか? 」
「お前らが練習で使うものを何かあつらえないかと思ってな。先に戻ってろと言いたいところだが、丁度いいか」
そう言ってレオンたちに中に入る様に促すと、ジャックと目が合う。
「……何してんだお前。コブラはどうした? 」
「やだなーダンナ、流石のオレも四六時中コブラさんにベッタリじゃありやせんよ」
「そうかよ。ま、早く持ち場に戻るこったな」
レザールは事情を深く聞かずそのまま店に入っていく。なぜ此処にジャックがいるのか聞いたところでレザールには関係が無いからだ。仮にレザールに対して用があったのなら言い出していた筈だ。ジャックののらりくらりとした態度から、はなからクリスにしか用が無いと伺える。
 店の奥へ進んで行くとブレインが作業をしていた。レザールたちの気配に気付いた様で、作業の手を止めてこちらへ向く。疲労が滲む顔色で首後ろを掻きながら用件を聞く。
「……そこの二人の武器ねぇ。訓練用の剣と銃を誂えるってのは良いが、そもそもお前らは何を使いたいんだ? トカゲは自分が使ってる武器種を使わせたいんだろうが」
そう言われてレオンもエリスも首を傾げる。急に何を使うのかと聞かれても素人では返答に困るだろう。
「勝手が分かってる刀の方が指導しやすいってだけだ。斬撃武器、所謂剣の類なら教えられん事は無い」
レザールの言い分に理解した表情を見せる。そんな中、水を差す様に突然話に割って入ってきたのは先程入り口で放置していたジャックだ。
「武器ってならチェーンソーって選択肢もありやすぜ」
チェーンソーは本来丸太を切るのに使う機械だ。悪魔を狩る為のものではない。当然武器屋に置いてある筈もない代物だ。
「お前は黙ってろ」
今後付き合っていくであろう武器を選ぶという時に、武器という用途で使わないものを推すのだ。黙れと言われて当然と言える。レザールにそう言われても本気にしていない様子で「またまたー」と冗談として受け取られる。
「真剣な話しに水を差すなら帰りなさいよ! アンタあたしたち師弟の邪魔になってるのが分かって無い訳? 」
エリスが頬を膨らませてプリプリと怒っている。それもジャックは真面目に取り合わず揶揄からかって遊んでいる。
「……アイツ、何でジャックに当たりが強いんだ? 」
「犬扱いされたからですね」
レオンがレザールと合流する前の事を簡潔に説明すると「下らねぇ」と一蹴してエリスたちを放置してブレインに向き直る。
 エリスとジャックが小競り合っている間にレオンが使う武器について話を進める。
「俺はレザールが使っているのと同じ武器がいいです。かたな? が使いたいです」
自分と同じ武器なら指導しやすいという先の発言に影響された選択なのかと確認をするが、レオンはそれが良いと首を振る。
「刀だな、準備しておいてやるよ。鍛刀たんとうに時間がかかるから完成したらトカゲの事務所に郵送する」
レオンの身長を控えて、刀身の長さをレザールとレオン、ブレインの三人で打ち合わせをする。レオンの武器に関しては順調に事は進む。そして思い出したかのようにブレインがあるものを取り出した。それは三本の木刀とエアガンだ。木刀は三本とも沢山使われたであろう細かい傷が所々に付いており年季が入っている。エアガンはピカピカに磨かれているものの、フレームの塗装が薄くなっている箇所がある。どちらも新品ではないことは明らかだ。
「こいつは昔トカゲたちが使っていた木刀とエアガンだ。実家に置いてあったんで持ってきたんだ」
いずれも古い物だが、まだ全然使えるだろう代物だ。懐かしいそれを見て感慨深かんがいぶかげに目を細める。
「助かる。当分はこれを使う事になるな」
 それで、と振り返ってエリスを見やる。まだ睨み合っている様子で、呆れながらもエリスに声をかける。そしてレザールが呼んでいることに気付くとそそくさと明るい表情で駆け寄ってくる。
「あたしは銃を使いたい! 今の体力と筋力的にそっちの方がいいと思って。レザールが使ってるような片手で持つやつ! 」
「銃を舐めんなよ。銃ってのは見た目よりもずっと重くて筋力は案外必要になってくる。中距離武器だからって必ず敵の攻撃が来ないとも限らんしな。だから体力もつけておかなきゃいかん」
銃を語るレザールに気圧される。レザールはエリスが着けているチャームを見ながら戦術について考え始める。エリスが持っているチャームは、「毒針の射出能力」「風の斬撃波能力」「傷の治癒能力」の特異能力が籠められた物だ。治癒以外は中距離戦闘向けの能力であり、それに加えてハンドガンという中距離戦闘の武器だ。これでは目前まで迫った敵の対処は難しくなり、恐らく被弾はまぬがれないだろう。そしてどちらも消耗する武器である為、大量の敵をほふる場合には残弾数や能力使用可能回数を計算しておかなくてはならない。計算を誤ると身を守る術が無くなるという事になる。
「エリス、お前はナイフも扱えるようになった方が良い」
エリスの楽をして強くなろうという意図は明白だったが、結果的にレオン以上に大変な思いをすることになる。
「ナイフなら直ぐ用意してやれるがどうする? 」
そう言って指を差した先にはショーケースがあった。そこに大量のナイフが飾られている。
「比較的軽いものを頼む」
「はいよ」とブレインは要望に沿うナイフを探しに行く。レザールたちはそれを待つことになる。

 ナイフを待って数秒も経たない時だった。急に外から不穏な気配を感じ取る。店の奥に居てもそれは顕著だった。しかし、これを感じたのは普段から戦っているレザールとジャックの二人のみ。レオンとエリスとブレインは変わらぬ態度で過ごしている。
「ダンナ、オレ外見てきやす」
「頼むーーと言いたいとこだがお前、武器はどうした」
「流石にあんなデカいもんオフの時に担いで街には出れやせんよ。今は第二武器サブウェポン があるんで問題ありやせん」
そう言ってジャケットの内側から二本のコンバットナイフを取り出した。クルクルと回して逆手に持つ。チェーンソーより使い慣れた感じを漂わせている。「じゃ、行ってきやす」と言い残し裏口の扉から外に出る。その様子を全員で見守った。
 建物の陰に隠れて様子を伺うとそこにはトカゲの見た目をした爬虫類型の中級悪魔が佇んでいた。観察をしていると負傷の跡があり、誰かが手傷を負わせた形跡が残っていた。足下は濡れている。その場だけということもあり、雨が降っていたわけではないことが伺える。
「ま、考えてもしゃーねーや。とりま先手必勝。やりやすかね」
ジャックは逆手に持ったナイフを構える。その瞬間口端が吊り上がり瞳孔が開く。
影移動一回行かげいどういっかいこう
ぼそりと呟き影に潜り込む。そして次に地上へ出てきたのは爬虫類型の真後ろだった。両手に握られたナイフを勢い良く振る。そして爬虫類型の尻尾を斬り落とした。ジャック自身は首を狙っていたが、尻尾が丁度間に入り首を落とすのに至らなかったのだ。
影身四引えいしんしいん
そう発するとジャックの足下の影は真っ直ぐ長く伸びていく。爬虫類型は好きにはさせんと右手の爪で引っ掻こうとするもその爪はジャックの身体すり抜ける。すかさず左手の爪でも振り下ろすがジャックに当たらない。ジャックは見下すかの様に嗤いナイフを構える。爬虫類型は手を身体の前で交差させて防御の構えを取った。だが、そんなものはお構い無しにジャックのナイフが爬虫類型を斬り裂く。一度斬り裂いた後通り過ぎて行ったかと思えばその先から再び途轍とてつも無い速さで爬虫類型を斬り裂いて通り抜けていく。三回とそれが続いたことでこの技が対角線状で行われていることに気づいたのか、爬虫類型は尻尾を使って飛び上がる。斬れてはいるものの残った部分を使ってバネにしたのだ。しかし何処からか物凄いスピードで飛んできた一本のナイフに腹部を刺された。それを追う形でジャックもまた左手のナイフを順手で刺し穿つ。ジャックの身体は爬虫類型の身体をすり抜け、ナイフの大きさの穴が腹部にポッカリと空いた。大量に血を噴き出したそれを、能力の解けた身体を使って力強く蹴り落とし周囲に地面を割る程の衝撃が走る。身軽に着地したジャックは笑い声を漏らしながら爬虫類型の頭に二本のナイフを突き刺した。中級悪魔との戦いにも関わらずあまりにも呆気ない終わりに拍子抜けしながらもジャックの戦闘スイッチは切れた。

 戦いが終わり、レザールたちも用事が済んだ様で店の外に出てくる。外は快楽殺人現場の様な凄惨せいさんな光景にはなっておらず、ジャックにしては珍しく狩り現場くらいの大人しい仕上がりだ。ジャックは何やら落ち着かない様子で先程の敵の情報をレザールと共有する。手傷を負った状態であったこと、水に濡れた跡があったことを含めて。ジャックはその情報を伝えるとすぐに姿を消した。鬱陶しい程にソワソワしていた為、本来の用事の関連でそちらへ行ったのだろうとレザールは察した。
 ジャックが去った後もレザールはその場に突っ立って、右手で顎を触り考え込んでいた。中級悪魔について思うところがあったのだ。そして数秒間考えに耽って憶測ではあるがその答えを導き出した。
 先の情報を整理すると、「手傷を負っていた」そして「水に濡れていた」となると水の能力を扱うアズマが元々狙っていた敵だった可能性が高い。氷の能力であるルイの可能性もあるが、ルイなら追っていた悪魔を逃がしてもすぐにレザールに連絡を入れるだろう。共に戦ってはいないが、そういった信頼があるのがルイだ。そういった部分からアズマに絞って考えると一つの疑問点が出てくる。アズマ程の実力者が果たして敵をみすみす逃がすのかという点。「うっかりしていた」という初歩的な凡ミスはベテランのアズマからはまず考えられないだろう。倒しきれず撤退した線も考えられるが、経験が豊富な上にレザールと互角くらいの実力だ。レザールに倒せてアズマに倒せないなんてことは無い。ならば「手を抜いていた」と考える方が合理的だ。
 手を抜く理由として考えられるのは、「魔力の温存」「生け捕り」或いは何らかの理由で「万全ではなかった」くらいだろう。魔力を温存させたところで斧で叩き斬れば良いだけだ。手を抜く理由にはなり得ないだろう。場数を踏んでいるのであれば当然相応の対策を講じているであろうことは考えられる為、万全ではないという理由も考えられない。そうすると生け捕りにする為に手を抜いたというのが一番自然だ。
 では何故生け捕りにする必要があったのか。アズマが使命を全うする上で動けているのはルイの能力のおかげだ。ルイが示した場所に悪魔が存在しているということは、その悪魔の等級は現地に行くまでは恐らくルイにしか分からない。その為生け捕りにする際の悪魔の等級は関係なかったと考えられる。だが、そもそもアズマに雑魚散らしの仕事を回すとは考え難い。レザールとアズマの初対面時の出来事を思い出せば、これだけのお膳立てをした理由が見えてくる。
「……実力を測るため」
思わずボソッと口から零れる。レザールとの初対面時でもそうだったが、アズマは神の落とし子の実力を把握しようと動いている節がある。
「大方、偶然通り掛かった時にジャックが単独行動してるのを見て急いで得物を用意したんだろ。で、街中に放ってジャックをおびき寄せた。二分の一を当てたって訳か」
「何を一人で語っているんですか? 」
「なんでも。ただ、神の落とし子は変な奴が多いなと思っただけだ」
「ふーん、自分含めて? 」
辛辣に言葉を付け加えてきたエリスに軽いチョップを食らわせる。頭に手を乗せる感覚でしたチョップに大袈裟に痛がるのを呆れ半分で横目に見ながら無視していく。レオンは気を遣ってか「ジャックさんと比べれば全然常人ですよ! 」と謎のフォローを入れたが、かえって気に障った様でレオンもチョップを食らわせられた。


 シルバークロウ市のとあるビルの屋上に、紫の髪の青年ジャックが現れた。ジャックの視線の先には白髪の青年が背を向けて立っており、一つに纏められた髪や尻尾が風に揺れている。
「こんなとこに居やしたか。能力で高く飛び上がんなきゃ見つけられやせんでしたよ、クリスくん」
名前を呼ばれて心底迷惑そうに振り向いた。案の定顔は仮面に覆われて表情は読み取れない。
「もう一人赤っぽい男が居た気がしやすが、そいつはもう居ねぇみたいっすね」
「……俺に何の用だ」
本題を急ぐクリスの反応にやれやれと肩を竦める。ジャックから笑顔は消えクリスの目を見据えて口を開く。
「アンタ、その力を誰から貰った? 」
「『その力』とは何のことだ」
神の落とし子であることを知られているのは分かっている筈だが、これをはぐらかそうとする。
「はぐらかそうったって無駄っすよ。選ばれた奴とさせられた奴では全く違いやすから」
「何故そう言い切れる? 俺と他の奴と何が違うと言いたい? 」
クリスからの質問に口端が上がる。
「自分を律せなくなる。アンタも身に覚えはあるんじゃないすか? 頭では分かっているのに抑えられない感情があるってのを」
クリスは静かに佇んでいる。ジャックの言葉に覚えがあるのか右手の拳を握り締め、僅かに身体が強張っているのが分かる。
「初めて会った時にオレとアンタは『同じ』だと分かりやした。アンタは『妹を助ける』ことに執着していて、怒りを抑えられなーー……」
言い切る前にジャックの首元に鎌の刃が突きつけられた。反応からして図星だったのは考えるまでもない。クリスからの殺意に怯む事なく淡々と話し続ける。
「アンタがどう思おうとこれは事実なんすわ。魔力炉心っつーのは、元々そいつの形に合わせてできる物なんでさぁ。それを血縁とは言え他人の身体に移植なんてしたところで、そいつの身体にピッタリ当て嵌まるもんじゃありやせん。遺伝子情報が全く同じ他人なんていないっしょ? その歪みが執着心に異常を起こすって事っす。臓器移植で嗜好しこうが変わるなんて聞きやすが、要はそれに似た感じっすね」
「……貴様は何故それを知っている? 」
「オレの家は三代に渡って魔力炉心を受け継いで来たからっす。魔力炉心が抜かれた後は執着心が落ち着いて生来の人間性に戻りやす。これはオレが見て経験した純然たる事実っす」
クリスは鎌を下ろしジャックに背を向ける。これまでの自分に少なくとも疑問を抱いていた部分があったのだろう。そしてその理由を知る事になったのだ。
「それで、クリスくんは誰から受け継いだんすか?親? 従兄弟? それとも兄妹?  」
「煩い。貴様に言う義理は無い」
クリスは再び鎌の刃先をジャックへ向ける。仮面で表情が見えなくてもこれは威嚇しているのだと分かる。「もー短気っすねぇ」と質問に答えないクリスにため息を吐きながら両手を上げる。ジャックは空を見上げてどこか遠い目をしている。思い出したくもない過去に耽っている、そんな目だ。
「……オレは継ぐ事を強制されてやした。それ自体はいいんす。家の役に立てる、父さんと母さんそれに爺さん婆さんに褒めて貰えると思ってやしたから。ま、そんな日は来やせんでしたが」
空を映していた瞳はクリスへ視線を落とす。楽しそうでもない、苦しそうでもないそんな薄ら笑みをしていた。
「この執着心は魔力炉心を移す時に何を思っていたか、なんだと思いやす。オレは『褒められたい』一心だった。悪魔を狩ったら褒めて貰えると思ってたから笑いが止まらないんす。狩りが『楽しい』と思ってる自分もいるから尚更たちが悪い」
一通り話し終えると髪をクシャッと乱す。ジャックの境遇にクリスは何も言わなかった。決してクリスの方から目を合わせようとはしなかったが、ジャックの話を聞いてから鎌を向けることもなかった。
「……貴様の名は? 俺にそれを話して何がしたい?  」
「ジャックっす。オレは継いだ神の落とし子同士、協力関係でいたいっすね」
「フン。あのサングラスの男は気に入らんが、お前個人となら協力関係でいてやってもいい」
そう言って手を取り合う。堅い握手を交わして互いの意思を確かめ合う。
「ーーオレもクリスくんの妹はちょっと勘弁して欲しいや」
「……殺すぞ 」
空気の読めないジャックの一言にクリスの手を握る力が強くなる。仮面を着けていようが態度に表れる為、案外クリスは分かり易いのかもしれない。
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