もう演じなくて結構です

梨丸

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6 マジかよ

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 マジかよ。
 
 マルクは廊下を急いで走っていた。

 ルーカスが魔獣に襲われるなんて。
 
 しかし、マルクは若干の高揚感を覚えていた。
 手を口にあて、ぼそりと呟いた。
 

 「あ~あ、このままセリーヌちゃんと破局してくれないかなあ」


 マルクは少し、ほんの少しだが、




 ルーカス様、起きて。

 セリーヌの願いも虚しく、ルーカスが起きる気配はなかった。
 ルーカスは乗馬大会中、魔獣に襲われて重い怪我を負ったのだ。
 セリーヌを庇って。

 セリーヌは泣きそうだった。
 ルーカスと話したいことがあるのに、と。


 「バーンっ!」

 大きな効果音を自分で演出しながらマルクが入ってきた。
 
 「マルク、さん……?」
 「セリーヌちゃん、大丈夫?」

 二人はルーカスの紹介で何度か会ったことがある。

 マルクはすかさずセリーヌの手を掴み、ブンブンと振る。

 テンションがとても高い人なんだよなあ。
 嫌いではないけれど。

 「元気、出た?」とマルクが尋ねる。
 どうやら先ほどの奇行はセリーヌを元気づけるためのものだったようだ。

 「はい。マルクさんのおかげで元気、出ました」
 「良かったあ。てかマジでセリーヌちゃん可愛いねえ」

 そしてセリーヌの髪を撫でようとする。
 
 無駄にチャラい……。

 しかし、今はそんな明るさがセリーヌには必要だった。

 マルクが少し茶化すようにこう言った。

 「ルーカスが昏睡中なんだって?あいつ、めっちゃ頑丈だから大丈夫だよ。すぐ起きるって」
 「そうだと、いいんですけど……」

 セリーヌが耐えきれず泣き出した。

 このままルーカス様が起きなかったらどうしよう。

 「ほんとにルーカスの事が好きなんだね」

 マルクがセリーヌの背中を撫でる。

 「よしよ~し。大丈夫だよ~」

 大粒の涙がセリーヌの瞳から次々と溢れてくる。

 「ルーカス、様……」

 私はもう何をすればいいのかわからない。
 ルーカス様は私を庇ってくれた。
 一体どうして……?
 貴方は私のことを愛していないはずだ。
 なのに、どうして庇いなんかしたの。

 未練なんてないと思っていた。
 けれどルーカス様の顔を見ていると離れたくない、そう思ってしまった。


 このままいなくならないで。


 「ねえ。セリーヌちゃん、提案があるんだけど」
 
 セリーヌが俯いているとマルクが目線を合わせてこう言った。


 「このままルーカスが起きなかったら俺ら、婚約しようよ。ルーカスの代わりに守ってあげる」


 セリーヌは目を見開いた。






 
 
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